第309回「国内製薬 ヒト・モノ・カネ支援」
官民で連携
2000年代以降、日本の製薬企業が創出した新薬の世界シェアは減少している。医薬品産業は、製薬企業が研究から製品化に至る全ての工程を自前で担う垂直統合型から、アカデミアやスタートアップ(SU)が研究を担い、その成果を製薬企業が製品化する水平分業型に変化している。そのような中、現在も製薬企業の挑戦は続いている。
24年5月、政府の「創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議」は、官民が協力して創薬エコシステムを強化する方針を示した。日本の新薬創出における主な課題として、海外承認新薬の国内導入の障壁、国際競争力の低下、総合的な戦略やその実行体制の欠如が挙げられた。これら課題に対して、アカデミアやSUによる医薬品シーズの継続的な創出、出口志向の研究開発をリードできる人材への支援、投資とイノベーションの循環が持続する社会システムの構築などが進められている。
25年6月に公表された経済産業省の調査報告書によると、アカデミア発SUは24年度に過去最多の5074社となった。業種別にみると、創薬を含むバイオ・ヘルスケア・医療機器業界の企業数はアプリケーションなどIT業界に次いで2番目に多く、医薬品シーズの創出に、成長の兆しが見えてきた。
CVC設立続く
1999年、藤沢薬品工業(現アステラス製薬)が米カリフォルニア州にコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を設立した。その後、国内外で、大手製薬企業によるCVCの設立は続いている。このCVCを通したSUに対する「カネによる支援」は今後も継続するようにみえる。
カネ以外はどうか。2018年に武田薬品工業、23年にアステラス製薬が自社研究所内に起業や研究開発を支援するインキュベーション施設を開設している(モノによる支援)。前者施設からは既に複数のSUが産声を上げており、今後の動向に注目したい。
また24年、大手製薬企業2社とメガバンクの共同出資により、日本発医薬品シーズの創出と国際展開を支援する会社が設立され、創薬研究から起業までの人材育成(ヒトへの支援)も強化され始めた。
医薬品産業が変化し、官民共同での創薬エコシステムの強化が進む中、日本の製薬企業はヒト、モノ、カネと支援の幅を広げている。今後、政府の取り組みと製薬企業の挑戦が相乗効果をもって実を結び、新しい医薬品を必要とする患者に一刻も早くその成果が届くことを期待したい。

※本記事は 日刊工業新聞2025年10月17日号に掲載されたものです。
<執筆者>
柴田 浩孝 CRDSフェロー(ライフサイエンス・臨床医学ユニット)
奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科修士修了。産学官をリボルビングドアで回り、バイオ・ライフサイエンス分野の研究開発の事業推進や動向調査を担当。24年から現職。新潟薬科大学客員教授。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(309)国内製薬、ヒト・モノ・カネ支援(外部リンク)