高分子材料を対象としたマテリアルズインテグレーションでは、長さの単位ではナノメーター(nm)の分子レベルからメートル(m)オーダーの大型バルク材料・大型構造体、時間単位ではピコ秒から数十年使う構造体までのレンジの中で生じた現象や性質を統一的に理解できるようにデータベースの構造を工夫することにより俯瞰します。また、シミュレーションだけに頼るのではなく、解析式や経験式などのありとあらゆる科学技術の知識を駆使して研究開発時の問題解決を助けるための道具を提供します。将来は、高分子材料のハンドブックや教科書にも匹敵するシステムに育てることを目指しています。大きさのスケール(Length Scale)や時間スケール(Time Scale)を超えたデータのやり取りを可能にするために新たに導入した数学的なデータベースを取り入れました。また、やり取りに際しては数々の物理的意味を持つパラメータを用いています。これにより、パフォーマンスからプロセス条件や組織の最適化を考える擬似的な逆問題解決が可能になります。
高分子材料のマテリアルズインテグレーションのチーム編成は、航空機用高分子材料のパフォーマンスという課題をもとに、相互に関係のなかった個別テーマで採択した研究者を 岸PDのもとで編成したという特徴を持つものです。この方法以外では編成できなかったチーム編成になっています。このために、研究課題設定、研究項目の結びつき、研究者の再公募などの過程を経て現在の編成に至りました。「異分野の研究者の方々の持つポテンシャルを一つの目標に向かってテーマ設定と課題を解決する」ためのチームを編成しました。また、具体的な課題設定には企業のニーズを十分に取り入れ、しかも、企業が独自のデータベースを組み込んだり、あたらしい技術分野を導入した際に、今回開発するシステムとの融合が簡単にでき、マテリアルズインテグレーションの成果を多くの企業が利用しやすい形としました。
先ずはエポキシ系構造用高分子材料に着目し、その分子構造と力学特性の関連性を明らかにするために、エポキシ系樹脂のモデル硬化物を作製し、各種の力学特性評価試験、陽電子消滅法による自由体積計測、ナノ触診AFM解析、各種分子動力学法による解析を実施しています。これらの計測・解析結果を、パーシステントホモロジー解析を用い、材料の不均一性を定量化し、それをデータベースとしてまとめ、各種の逆問題への応用を検討しています。各種の力学特性評価試験から、反応率の力学特性に及ぼす影響を確認しています。また陽電子消滅法による計測により、自由体積が反応率とともに増大する傾向が定量的に確認され、全原子分子動力学法による解析結果とも良く一致した結果が得られています。パラメータ化された不均一性は、マクロ特性パラメータに反映させることによって、破壊力学や損傷力学などの構造材料に関連する力学体系に結び付けることになります。これにより、空間や時間のスケールを相互に関連付け得る実用的なモジュール群によって構成される高分子材料MIを開発してゆきます。異なる科学技術分野の知識を持つメンバーの集合により、従来からの高分子アプローチに加えて新たな視点からのアプローチを導入することができるようになりました。このように、オリジナリティのある高分子材料MIの研究開発に発展しています。例えば、高分子材料の材料を規定するために数学の分野からのアプローチにより異なる技術要素を結びつけることに成功しています。
東北大学 原子分子材料学高等研究機構
あらゆる材料は、作られた時から、内部不均一性や環境との相互作用により、劣化・崩壊に向かっていると言えます。劣化の初期のミクロな特徴付けからマクロな破壊につながる一連のカスケードを記述するための言語を用意し、予測を行い、さらにその設計指針プラットフォーム構築に向けて、新たな数理的方法論と最先端計測から得られるデータ同化的手法で解明します。トポロジカルデータ解析は材料のミクロからマクロにわたる様々な計測データから、穴の生成と消滅をそのスケールまで含め記述し、詳細によらないネットワーク構造とそのトポロジー的構造を明らかにします。そこに粗視化シミュレーションやフェーズフィールド法を始めとする数理モデルを合体させることで、劣化の予兆発見とそのダイナミズムを明らかにすることが目標となります。
慶應義塾大学 理工学部
本テーマの背景となる学問領域は、材料の大変形問題を扱う非線形固体力学および高分子の微視的挙動を追求する材料科学です。当グループでは、これまでに分子鎖の絡み点において分子鎖すべり系を導入することで高分子の変形挙動を結晶塑性論的に表現する分子鎖塑性モデルを提案しました。一方、材料応答には自由体積変化に基づくArrhenius形の非弾性応答則を採用するとともに、高分子材料に特有な損傷であるクレーズの発展挙動を変形の活性化エネルギーと関連づけてモデル化しました。これらのモデルに均質化法を適用してマルチスケールFEM解析を実施することで、局所変形の伝ぱ、分子鎖配向、除荷時のひずみ回復、クレーズ集中領域の伝ぱなどを計算力学的に再現してきました(右図)。本プロジェクトでは、このモデルに紫外線劣化の効果を導入してFRP母材の力学的パフォーマンスを予測することを目指しています。
東京大学 先端科学技術センター
計算化学とは、原子・分子のレベルの理論・計算機実験によって、物の性質や変化を理解したり説明したりする学問です。系を構成するすべての原子の動きをシミュレーションする全原子分子動力学計算・原子の性質を規定する電子の動きを解き明かす分子軌道法計算・大きな原子団を1粒子として扱いより大規模な系の解析を可能にする粗視化モデル計算などが主な要素技術として活用されています。これらの技術を複合的に組み合わせて、難しい実験や大変な実験の代用とすることが期待されます。これまでは、生命科学における重要な高分子ポリマーであるタンパク質への応用が大きな挑戦的課題でした。しかし、近年、計算機が進化し状況が変わりつつあります。例えば、全原子分子動力学計算によるタンパク質の機能解明が部分的ならできる時代になりました。本研究では、上記のような計算化学の立場から、高分子材料の性質の理解と設計支援に取り組んでいきます。
分類 | No. | 研究開発課題 | ユニット名 | ユニット代表者 |
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金属MI | D61 | マテリアルズインテグレーションシステムの開発 | 組織予測システムの開発 | ◎○小関敏彦(東京大学) |
D62 | 性能予測システムの開発 | 榎学(東京大学) | ||
D63 | 特性空間分析システムの開発 | 井上純哉(東京大学) | ||
D64 | 統合システムの開発 | 渡邊誠(NIMS) | ||
D65 | 溶接部性能保証のためのシミュレーション技術の開発 | 〇廣瀬明夫(大阪大学) | ||
D67 | 「界面」を通じた、構造材料における未解決課題克服のための技術構築 | 〇津崎兼彰(九州大学) | ||
先端計測 | D66 | 構造材料の未活用情報を取得する先端計測技術開発 | 〇大久保雅隆(AIST) | |
セラミックスコーティングMI | D68 | 高温物質移動および組織の時間依存挙動のシミュレーション技術開発 | 松原秀彰(東北大学) | |
D69 | 計算機を用いた材料支援技術への時間依存特性導入技術 | 毛利哲夫(東北大学) | ||
D73 | 構造材料開発に利用する計算熱力学に関する技術基盤構築 | 菖蒲一久(AIST) | ||
高分子MI | D70 | 高性能高分子材料の長期時間依存特性の予測技術の開発 | 栗山卓(山形大学) | |
D71 | 構造用高分子材料の実用型最適設計・総合評価支援ツールの開発 | 藤元伸悦(新日鉄住金化学) | ||
D72 | マテリアルズインテグレーションヘの数学的アプローチ技術開発 | 西浦廉政(東北大学) | ||
D74 | 非線形解析を用いた高分子材料のパフォーマンス予測技術 | 志澤一之(慶應大学) | ||
D75 | 原子・分子レベルからのアプローチによる高分子材料設計支援技術 | 山下雄史(東京大学) |
◎:領域長 〇: 拠点長