溶接技術は、基盤製造技術であり、溶接継手は製品の一部となるので、構造材料のパフォーマンスを製品において100%発揮させるためには、溶接部の性能確保が不可欠である。溶接による急速な加熱・冷却は溶接部の組織を大きく変化させ、欠陥の発生や力学的特性の劣化をもたらす可能性があるため、溶接部の性能を確保するためには、溶接部における材質変化や特性変化を予測することが必要であるが、溶接熱源のモデリングから継手性能評価までの一貫したシミュレーションは国際的にも確立されていない。本拠点では、アークやレーザなどにより溶融部が形成される過程、凝固プロセスを経て、割れなどの欠陥が発生する現象、急速な熱サイクルによるミクロ組織の形成過程、そして最終的に構造物の一部となる溶接継手の性能を統合的に予測するシミュレーション技術の開発を目的とする。その目標を達成するために、
①溶接熱源のモデル化とそれによる溶融池形成予測技術の開発
②凝固・組織変化を伴う溶接部の特性予測技術の開発
③溶接継手の性能予測技術の開発
をそれぞれターゲットとした個別テーマを設定し、溶接プロセス、溶接部組織、溶接部性能を総合的に予測するための拠点を形成する。
本研究プロジェクトでは、下記の3つの個別テーマを設定し、溶接プロセス、溶接部組織、溶接部性能を統合的に予測するための拠点を形成する。
テーマ①:溶接熱源のモデル化とそれによる溶融池形成予測技術の開発
熱源モデルと溶融池形成モデルを統合し、3次元空間でのダイナミックな変動を伴う溶融池形成の数値シミュレーション予測技術を開発する。併せて、高度先端計測技術である「レーザ超音波in-situ溶融池形状計測システム」を開発し、その場検査技術への適用とシミュレーション技術の精度向上・適用範囲拡大に資することを目的とする。
テーマ②:凝固・組織変化を伴う溶接部の特性予測技術の開発
溶接プロセスに特有の溶融・凝固とその後の冷却過程における組織形成予測、それらに起因する溶接部の特性予測技術を開発するとともに、溶接欠陥(高温割れ)発生に対する予測技術を開発・確立する。
テーマ③:溶接継手の性能予測技術の開発
母材を含む溶接部の機械的特性から、形状不連続や材質不均質を有する多層溶接継手部の性能を予測するシミュレーション技術を構築する。
本研究プロジェクトでは、各個別テーマで確立されたシミュレーション技術を統合化し、まず、第1段階では、溶融池形状、熱サイクル予測から溶接部各部での組織予測を行い、さらにそれに基づいて継手性能予測を行う順方向シミュレーションを完成させる。次いで、第2段階において、逆方向シミュレーションによって、溶接部性能確保のための組織制御指針、熱源・プロセス制御指針の提示を行うことを最終目標とする。
また、本プロジェクトでは、開発したシミュレーション技術の実用化を促進するために、溶接学会にSIP溶接拠点分科会を設置して、溶接技術を必要とする製造業各分野の企業に参画頂き、プロジェクトへのアドバイスを頂く体制を構築している。
従来の経験と勘に頼って課題を解決する手法は、構造材料に常に求められる省エネルギーへの要請に迅速に応えることができない。材料の性能予測、寿命予測、製造プロセス最適化に関して、継続的にイノベーションを創出していくためには、材料物性を把握して科学的予測に基づいた材料開発に変革することが必要である。そのために、既存の計測技術を越える性能の先端計測技術が必要とされている。
つくばイノベーションアリーナ(TIA)において、ナノテクノロジー分野などで使用されている最先端計測機器や技術を、新たな視点で構造材料開発に適用する。従来の計測技術では対応できず、材料開発において活用されていなかった、未活用情報を取得し、構造材料開発期間の一桁短縮に貢献する。
サンプリングモアレ法で機械試験中のせん断歪みを可視化した。き裂発生前の前駆状態を検知できる。通常の画像処理より一桁高い変位計測精度を実現できる。
強ひずみ加工後、時効処理をしたSUS304から得られた3Dアトムマップ。結晶粒界へのSiの偏析とシリサイドの析出が明瞭に観察できる。
炭素繊維強化プラスチックから得られた小角X線散乱像。炭素繊維内部の非等方的ミクロボイドの存在がわかる。
耐熱材料が使用される実際の温度環境において、外力印可状態で原子スケールTEM観察を実現した。
イオン加速器からのマイクロイオンビームを使って、元素マッピングと、核反応による水素検出ができる。
高エネルギー加速器研究機構(KEK)
【目標】構造材料の寿命、破壊、強度の大きな支配因子である残留応力と亀裂を計測し、ボイド生成→亀裂発生・進展→破壊にいたるプロセスの制御につなげる。そのために、放射光(高輝度,高品質のX線)を中心に活用し、マルチスケールでの、組織/亀裂および化学状態の同視野観察を行い、マクロ特性の支配因子解明につなげる。
【特にユニークなアプローチ法:XAFS-CT法】放射光を用いて、組織/亀裂および化学状態の両方を、三次元、高い空間分解能(50nm)で観察可能な手法。H28FYに高エネ研の放射光施設(PF-AR NW2A)に新設。
(a) X線のエネルギーを可変させながらCT撮影を行い、 (b) 3次元イメージングを得る。 さらに、(c) その経時変化の観察から反応起点と進展のメカニズム解明に迫る。
より詳しい情報のリンク先(高エネ研ホームページ内)
http://sip-sm4i.kek.jp/index.html
レーザ超音波伝播のコンピュータシミュレーションを行い、CFRP積層板のはく離付近での超音波の反射、散乱の様子を再現できる。コンピュータシミュレーションでは、材料の計測条件や種類、内部欠陥形状等を、入力パラメータにより変化させ解析を行うことで、従来の装置では計測し得なかった、ミクロサイズのはく離、空孔等の検出や計測を目指している。
本ユニットでは、5つの研究課題を、具体的テーマとして取り上げ研究を行っている。これらは凝固、相変態、変形、再結晶、粒成長を通じた構造材料の組織形成と、疲労、クリープ、水素脆化、破壊という材料の性能支配因子に関連するものである。一方本ユニットは、例題としての個別テーマを単に解決するだけではなく、様々な構造材料に汎用的に適用可能で材料開発を加速できるような基礎基盤ツールと汎用的データを提供し、材質予測理論の構築によって、画期的材料の設計、材料特性・パフォーマンスの予測と開発期間の大幅短縮に資することを目的としている。
2017年度からは、4テーマの対象材料を鍛造チタン合金に絞り込み、D領域(MI開発)およびB領域への貢献に重点を置いた研究開発を推進する。
分類 | No. | 研究開発課題 | ユニット名 | ユニット代表者 |
---|---|---|---|---|
金属MI | D61 | マテリアルズインテグレーションシステムの開発 | 組織予測システムの開発 | ◎○小関敏彦(東京大学) |
D62 | 性能予測システムの開発 | 榎学(東京大学) | ||
D63 | 特性空間分析システムの開発 | 井上純哉(東京大学) | ||
D64 | 統合システムの開発 | 渡邊誠(NIMS) | ||
D65 | 溶接部性能保証のためのシミュレーション技術の開発 | 〇廣瀬明夫(大阪大学) | ||
D67 | 「界面」を通じた、構造材料における未解決課題克服のための技術構築 | 〇津崎兼彰(九州大学) | ||
先端計測 | D66 | 構造材料の未活用情報を取得する先端計測技術開発 | 〇大久保雅隆(AIST) | |
セラミックスコーティングMI | D68 | 高温物質移動および組織の時間依存挙動のシミュレーション技術開発 | 松原秀彰(東北大学) | |
D69 | 計算機を用いた材料支援技術への時間依存特性導入技術 | 毛利哲夫(東北大学) | ||
D73 | 構造材料開発に利用する計算熱力学に関する技術基盤構築 | 菖蒲一久(AIST) | ||
高分子MI | D70 | 高性能高分子材料の長期時間依存特性の予測技術の開発 | 栗山卓(山形大学) | |
D71 | 構造用高分子材料の実用型最適設計・総合評価支援ツールの開発 | 藤元伸悦(新日鉄住金化学) | ||
D72 | マテリアルズインテグレーションヘの数学的アプローチ技術開発 | 西浦廉政(東北大学) | ||
D74 | 非線形解析を用いた高分子材料のパフォーマンス予測技術 | 志澤一之(慶應大学) | ||
D75 | 原子・分子レベルからのアプローチによる高分子材料設計支援技術 | 山下雄史(東京大学) |
◎:領域長 〇: 拠点長