二代目創発PO研究体制
創発研究者(2023年度採択)
あ行
全フッ素化分子の合成と機能開拓
フッ素は特異な原子であり、化合物に導入するとその性質を大きく変えることが知られています。また、含フッ素化合物は熱や光に対する安定性が高く、既に様々な材料に活用されています。研究者は、フッ素ガスを用いて有機化合物にたくさんのフッ素を導入する独自の技術を有しています。本提案研究では、この手法を駆使して前人未到の化合物群を作り、新たな科学・技術のシーズを発見することを目指します。
触媒的臭素化が導く高感度細胞系解析
生体分子同士の相互作用の解析は生命機能の解明や創薬などにつながる重要な技術です。この研究では、分子触媒と光の利点を活かした化学反応ツールを創出し、細胞系の特定の場所に存在しているタンパク質に狙ったタイミングで印をつける反応技術を開発します。印には臭素を利用します。臭素は同位体が豊富、かつ原子が重いため質量分析や光触媒作用にユニークな性能を生み出します。それらを利用して高感度な解析法を開発します。
環境制御技術による表界面ナノ構造評価
金属ナノ粒子触媒は、有害ガスの無害化や化成品合成等に貢献する、産業的にもとりわけ重要な材料です。本研究では、最先端電子顕微鏡を用いつつ、従来の延長線にない反応環境と先端ナノ計測を組み合わせた新たな評価技術を開発します。反応ガスや温度を制御することで触媒反応環境を再現し、電子線照射や電圧印加により電子顕微鏡内で化学反応を直接操作することで、ナノ構造変化と機能発現の相関関係の解明を目指します。
低侵襲操作で切り拓く自律神経を介した疾患軽減手法開発
健康寿命の延伸を目指す上で、高齢者の誤嚥性肺炎対策は喫緊の課題となっています。口腔ケアや嚥下訓練である程度の発症予防はできるものの、知らず知らずに口腔内微生物を飲み込んでしまう不顕性誤嚥があるため、誤嚥してから肺炎発症までの予防対策も考慮する必要があります。本研究では、生体に備わっている免疫力に注目し、低侵襲的な自律神経操作による免疫力向上にて、新しい誤嚥性肺炎の発症予防手法の開発を目指します。
Bottom-up reconstitution of human post-gastrulation development
ボトムアップアプローチによるヒト原腸陥⼊後胚発⽣の再構成
ヒトの初期胚発生は、極めて重要な現象にも関わらず、倫理的問題などからその多くは未解明なままです。本研究では、独自に開発した試験管上で体節の発生過程を再構成するaxioloidモデルに、新たな構成要素を加えていく手法により、倫理的問題を回避しつつ、神経管や脊索、心臓など、より複雑なシステムの発生機序の理解につなげると共に、本モデルでの非ヒト霊長類との種間比較を通じて、我々ヒトを特徴づける原理の解明に貢献します。
補酵素由来新規活性分子の開発
補酵素=ビタミン由来の活性分子はヒトを含む幅広い生物種の生体分子アナログとなる可能性があり、その活性、生合成機構に興味が持たれます。近年私が発見したNAD由来新規天然物の生合成機構をベースに、これまで見逃されていた補酵素や生体分子由来の生合成機構を開拓、利用し、これらを基盤としたヒト、腸内細菌における補酵素関連新規生命現象の発見、解明を行い、ヒトの恒常性維持に関わる制御システムを構築します。
無拡散せん断変態を利用したマルチインターフェイス制御による軽金属の超高強度・超機能化
持続可能な次世代社会の実現には、それらを支える部材の高機能化が必然で、その解決には材料レベルでの技術革新が不可欠です。本研究構想では、鉄鋼材料に技術革新をもたらした無拡散せん断変態をマグネシウムやアルミニウムという軽金属でも発現できる新しい合金設計と、せん断変態で導入された双晶界面や積層欠陥界面と結晶粒界や析出界面との関係やその最適化をする学理『マルチインターフェイス制御』の構築を目指します。
多細胞生物の表現型進化の構成的理解
本研究では、生命進化の方向性を規定する平行進化遺伝子に着目します。離れた系統で収斂的に生じる染色体再編成や塩基置換が、多細胞生物の表現型を特定方向に進化させる分子基盤の解明を目指します。昆虫の色彩の進化を題材に、過去に生じた染色体再編成を現生生物で復元する技術や、体細胞で祖先の遺伝型を復元する技術を開拓し、多細胞生物の進化を実験室で組み上げて理解する「ゲノム再構成進化生物学」を創成します。
14族半導体を用いたスピン論理演算の創成
昨今、電子機器の消費電力の爆発的増大が危惧されています。本問題に対し、私は電子の内部自由度であるスピン角運動量を情報としたデバイスに注目しております。スピン角運動量の流れ(スピン流)は情報輸送自体にエネルギー消費がないため、大幅な電力削減が見込めます。但し、効率よくスピン流を生成・輸送・検出するには高度な技術が必要です。本研究ではそれらの技術を確立し、スピン流を用いた電子機器の創成を目指します。
分子積層骨格を柱とした革新的導電性ナノ多孔体の科学
固体における導電性などの電子機能と分子・イオン吸着機能は、それぞれ現代社会を支える基盤技術となっています。本研究では、これらの機能の融合を目指し、分子性導体骨格を配位結合で繋いだ新しい導電性ナノ多孔体を創製します。この結晶中のπ共役分子の配列や電荷の精密制御により、破壊的イノベーションの源となる新奇な電子状態の探索を可能とし、さらにはナノ細孔への分子・イオン導入に基づく革新的な応答機能の開発を目指します。
アミロイド凝集の生理活性と異常凝集の境界
パーキンソン病(PD)はアミロイド線維(AF)と呼ばれる蛋白質凝集が原因で起こります。これまでAFは「異常な」凝集とのみ捉えられ、その凝集の「意義」「上流」は検討されていませんでした。しかし、原始的生物ではAFは生体防御に活用されており、私はヒトにおいてもAFを作る生理的な意義があると考えています。私はその意義を解明し、PDが起こる根本的な原因を知るとともに、AFの持つ生理活性=アミロイドワールドを解き明かします。
層状液晶相を活用した剛直高分子の垂直配向制御に基づく機能創発
層状液晶相の特性に着目したボトムアップ手法に基づき、従来は困難であった剛直高分子が垂直に配向した大面積フィルムを,液晶性前駆体を経由して作製する手法を確立します。これにより熱物性(熱膨張率,熱拡散率)、誘電物性(誘電率,誘電損失)、電気伝導性などの諸物性を、機能-物性相関の理解に基づいて自在に制御し、技術革新に資する柔軟性,高機械強度,高耐熱性と機能性を兼備えたフィルム材料の創出を目指します。
リポキシデーションによるタンパク質修飾の包括的理解と創薬展開
生体内の脂質は炎症刺激等により酸化・代謝され、その一部は細胞内タンパク質を修飾することが知られています。この現象は「リポキシデーション」と呼ばれる翻訳語修飾の一種ですが、その標的や機能的役割はほとんど未解明です。そこで本研究では、修飾を捉えるケミカルプローブとプロテオーム解析とを組み合わせた「ケミカルプロテオミクス」の手法により、リポキシデーションの標的を網羅的に解明します。さらに、修飾を模倣する化合物の探索により、脂質修飾に立脚した新たな創薬展開を目指します。
中赤外光計測によるラベルフリー細胞生物学の革新
近年のレーザー技術の進展により、赤外領域での高性能光計測技術の研究開発が進められています。本研究では、生体分子の振動状態を計測するための先端赤外分光及び顕微鏡技術を開発し、生きた細胞に対する新しい計測法を創出します。特に、高空間解像度を持つ赤外顕微鏡や超高速赤外分光技術の開発を進め、これまで計測不可能だった細胞内の複雑な生体現象の解明や、大量細胞の統計解析を通じた医療応用への道を拓きます。
極端気象を指向した乱流パラメタリゼ―ション構築
気象モデルは、小スケールの輸送効果を「乱流パラメタリゼーション」を用いて表現します。極端気象の精度良い予測のために、乱流パラメタリゼーションには大幅な改善の余地があります。観測データや高解像度計算(ラージ・エディ・シミュレーション)によるビッグデータを活用し、極端気象下での乱流の特性の理解とともに、開発・検証のプロセスを改善しながら、極端気象の予測のため決定版となるような乱流パラメタリゼ―ションの構築を目指します。
中枢/骨格筋NAD+代謝に着目した健康寿命延伸法の開発
超高齢社会における日本において、加齢に伴う骨格筋量・筋力の低下(サルコペニア)は健康寿命延伸を阻む喫緊の課題となっています。私は老化と密接に関わるNAD+代謝に着目し、1)中枢(脳)NAD+代謝が筋機能を制御する機構、2)骨格筋NAD+代謝が筋機能を制御する機構、そして3)骨格筋NAD+代謝が中枢機能に与える影響に着目し、中枢-骨格筋相互連関の観点から健康寿命延伸法の開発を目指します。
組織線維化をもたらす死細胞貪食機構の統合的理解
組織線維化は種々のストレスによる細胞死を起点として、慢性炎症から臓器機能不全に至る過程であり、不可逆になると生命予後を悪化させることから病態解明と治療法の確立が求められています。慢性炎症性疾患では死細胞貪食の異常が示唆されるため、貪食処理を阻害する死細胞の変化、微小環境における細胞間相互作用、中枢神経系による制御といった複数の階層から、組織線維化を駆動する死細胞貪食機構の統合的な理解を目指します。
ライブ透明化法を用いた大規模イメージング技術基盤の構築
哺乳類のような、複雑な生体システムを理解するためには、組織や器官、そしてゆくゆくは動物個体を、単一細胞レベルの分解能で解析する必要があります。しかし、生体組織は不透明であるため、光学顕微鏡による組織深部を含めた大規模計測は困難です。そこで本研究では、組織や臓器を生きたまま透明化する技術を確立することで、光学顕微鏡を用いた大規模計測技術基盤の構築を目指します。
究極の可視化技術と非再現性を活用した革新的な活性種生成法の創出
本研究では、ランダムな高速変化特性ゆえに従来技術では測ることも数値解析することも困難なプラズマを根本的に理解し制御するために、プラズマの性状発現を司る基礎物理量が高感度かつ高速度で可視化できる連続撮影技術を開発します。そして取得した非再現的な画像データを多変量解析やモデル構築などにフル活用することで、発生頻度は非常に低いが高い活性種生成能力を持つプラズマの再現的生成法を確立します。
微生物群集制御による機能創発の試み
微生物は単細胞生物ですが、自然界では集団を形成し、バイオフィルムという複雑な構造体を作り出します。この構造体は、微生物単独では不可能な多くの機能を発揮しますが、どのように形成され、機能するのかはまだ解明されていません。この研究では、革新的なイメージング技術によりバイオフィルム構造とその機能の秘密を明らかにし、意図的にバイオフィルムをデザインする技術の開発を目指します。
長距離シグナル波が制御する器官形成の新規機構
動物の器官が成長する過程では、細胞レベルのスケールを超えてマクロスケールにはたらく協調作用が必要であると考えられますが、その実体はほとんど不明です。本研究では、極端に長く伸長する器官である腸に注目し、そこで起こる「ぜん動波」と呼ばれる筋収縮の波をマクロスケールのサイズ調整を可能とするシグナルとして捉え、ぜん動波の人為操作とライブイメージングを駆使して、器官形成の新原理を提唱します。
有機化学的アプローチで迫る免疫学フロンティア
免疫システムは様々な免疫細胞が協働し、外来異物や自己成分を検知することで、多様な応答を示します。このような免疫システムを理解して制御するには、応答に関わる鍵分子の見つけ出すことが極めて重要です。本研究では、様々な機能を持つ化合物を精密に作り分けることができる有機化学的手法を用いて、免疫制御に関わる鍵化合物を探索、合成します。そして鍵化合物の未知なる機能を解明し、新たな治療法開発へ繋げます。
ヒストン修飾を基軸とした卵子プログラミング仮説の検証
生物の形質や体質はどのように決まるのか、という根本的な問いに「エピゲノム遺伝学」の観点から迫ります。特に、ゲノム機能を制御するヒストンタンパク質が卵子から胎児へと母性伝承される現象に着目し、「親世代の環境ストレス等が卵子のヒストンの変化を介して胎児の発生や子の形質に長期作用する」という“卵子プログラミング仮説”を検証します。本研究は、ヒストンを基軸に遺伝と環境を繋ぐ初めての挑戦と位置付けられます。
人々が頼りたくなる自己批判的思考力を備えた言語処理機構
言語モデルは、いまや様々なAI分野の基盤となる最重要技術の一つですが、学習データにない事実を平然と生成してしまう等、信頼性に大きな課題があることが知られています。本研究では、こうした問題を根本から解消するために、メタ認知能力、すなわち自己の認知活動をモニタリングし、思考方策をコントロールする力を備えた説明可能な言語モデルの基礎理論を構築します。
不治の病『ドライアイ』の克服に向けた階層横断的研究
ドライアイは本邦で 2,000 万人以上が罹患する最多の眼疾患であり、超高齢社会・デジタル社会において今後も増加します。しかし、ドライアイは未だに点眼による対症療法が主体であり、完治する方法は存在せず、人生の長期に渡り症状に苦しむ患者・市民が多く存在します。私は、臨床・ 基礎・デジタル・ゲノミクスを融合した多階層横断的研究を実施し、『不治の病であるドライアイ』の克服による視覚の質の改善を目指します。
精密分子分光による化学反応の多元的理解
分子は化学反応を介して様々な自然現象を司っています。反応過程で生成される分子種やその量子状態の特定は化学反応の理解につながります。本研究では気相分子の化学反応を観察するために精密に制御されたレーザーを用いた新分光計を開発します。この分光計で得られる精密分子分光ビッグデータを解析することで分子のダイナミクスとカイネティクスの両面から化学反応をより深く理解するとともに、反応の制御方法を探索します。
遷移金属原子からなる環状電子系の芳香族性解明による分子性材料の創発
本研究では十数個の金属原子を環状にならべることで、金属原子のみからなる環状電子系の創出を目指します。ベンゼンが芳香族性により安定なように、芳香族性によって安定化することで、未踏の金属のみからなる環状分子性材料を創出することが本研究の特徴です。芳香族性の発現原理を明らかにする基礎学問と、電子状態の能動的な制御により機能を創出する応用研究の両面から金属のみからなる環状電子系の機能の解明に取り組みます。
RNA interactomeから紐解く免疫制御機構の解明
免疫細胞による適度な免疫応答や活性化は、転写による遺伝子発現制御に加え、転写後に起こるRNA制御を介した仕組みも重要であることが明らかになってきました。しかし、RNA制御の中心的役割を担うRNA結合タンパク質の機能の多くは謎に包まれています。本研究では、さまざまな免疫現象に伴うRNAとタンパク質のダイナミックな相互作用の網羅的解析から、免疫機能を調節するRNA制御の新たな分子機構の解明を目指します。
多元ナノ材料による電子・光機能の創出
ナノサイズの物質は特別な電子状態を示し、それを発光に利用した半導体微粒子「量子ドット」の開発にノーベル賞が贈られました。本研究は、複数の元素で構成されるナノ材料を、その周辺部も含めて化学的にデザインすることで、個々の量子的性質を活かしながらデバイスに利用する新しい技術の開発を目指します。この技術を基盤とした高機能ディスプレイ、高効率太陽電池、さらには量子コンピューターの実現が期待されます。
タンパク質内ラジカルの精密制御に基づく革新的物質変換反応の開発
ラジカル反応は化学選択性に優れ、持続可能な物質生産を実現する潜在力を備えているものの、ラジカル種を有機分子の特定の位置に選択的に発生させ、適切に制御し望みの生成物に導くことは極めて困難です。本研究では天然酵素の機能拡張により、これまで実現困難と考えられていた物質変換を可能とするラジカル生体触媒の開発を目指します。
Elucidating Physical Communication in Bacterial Communities to Direct Self-Assembly
細菌の指向性自己組織化に関わる物理的相互作用の解明
細菌の行動は、環境から人の健康まであらゆるものに影響しています。細菌は、集団を形成し、細胞間の情報伝達によって協調性を示します。しかし、その集団行動の秩序に対する理解は進んでいません。本研究では、集団を支配する「デザインルール」を解明することで、集団の構造および機能を制御することを目指しています。その制御技術は、微生物生態学、バイオレメディエーション、合成生物学、材料科学などへの応用が期待されます。
AMPA受容体シナプス外膜プールに基づく認知予備能の理解
脳のニューロン間の情報伝達を担うシナプスは、幼年だけでなく大人でも可塑性と呼ばれる変化能を備えます。しかし、その生涯にわたる時空間変容の詳細は不明です。本研究では、シナプス可塑性を担うAMPA受容体シナプス外膜プールの脳内時空間定量マッピングを通じて、大人におけるシナプス可塑性の時空間的多様性とそれを生み出すメカニズムを解明し、加齢に伴う認知機能低下を防ぐ認知予備能の生物学的基盤の理解を目指します。
形状記憶が拓く生命システム操作技術
本研究では、形状記憶高分子(SMP)の構造力学的特性をダイナミックに変化できることに着目し、細胞内力学状態を自在に操作可能な細胞操作技術を確立します。SMPが織りなす構造力学機能を極限まで深化させ、「力」を介した細胞/生命システム操作技術の開発を目指します。材料による細胞-組織-臓器の多階層におよぶ生物学的機能操作は、ライフサイエンスの幅広い分野にインパクトをもたらす技術革新を創出できます。
赤外ナノ計測の革新:生命現象をナノ動画撮影する
本研究では、革新的な高時空間分解能を有する新しい赤外ナノ計測技術を開発します。赤外光由来の分子振動情報・化学結合情報を用いて、さまざまな生命現象を超解像でありのままに動画撮影します。大きなインパクトを与える動画を生命科学分野に提供すると共に、当該分野に多くの発見と破壊的イノベーションをもたらすことを目指します。
アルツハイマー病におけるアストロサイトAPOE病理の革新的分子病態解析
アポリポタンパクE(APOE)は、通常アストロサイトで高発現し、脂質輸送など脳の恒常性維持に重要な役割を果たします。本研究では、アルツハイマー病(AD)の強力なリスク因子であるAPOE遺伝子多型のAPOE4に着目し、ADモデルマウスを用いてAPOE4によるアストロサイトの機能障害やAPOE4特異的なタンパク質相互作用の分子基盤を明らかにすることで、ADの病態解明と新たな治療法開発の手がかりを見出します。
筋修復を司る多種細胞間コミュニケーション
骨格筋は常に再生と修復を繰り返しながら恒常性を維持します。サルコペニア(加齢による筋量の低下)は修復プロセスの遷延により生じるとの仮説のもと、本研究では筋修復プロセスを司る細胞間相互作用を新たな筋オルガノイドモデルを用いて明らかにします。具体的には、①損傷から修復までの過程を再現する筋オルガノイドの構築、②筋間質細胞とマクロファージの相互作用機序の同定、③加齢による組織修復の変調機序の解明を目指します。本研究により、サルコペニアや筋ジストロフィーなどの病気の理解と治療に貢献することが期待されます。
金属カルシウムの革新的製造・リサイクルプロセスの開発
「高純度金属カルシウム (Ca) の高エネルギー効率・低環境負荷・低コスト製造」を可能とする新しい技術を開発します。本研究が進展すれば、先端デバイス、クリーンエネルギーデバイスなどに不可欠な希土類金属(レアアース)やチタンなど重要金属の製錬・精錬プロセス、およびリサイクルプロセスに革命を起こし、持続性と科学技術の発展が両立した社会の構築に大きく貢献します。
多様な組合せ最適化手法を統一的に捉える離散凸性の探求と応用
現代情報社会の基盤を支える技術の一つである最適化理論は、解が連続値をとりうる連続最適化と離散値しか取り得ない組合せ最適化に大別されます。離散凸解析は、マトロイドや劣モジュラ関数における最適化理論の一般化であり、効率的に解くことができる組合せ最適化問題を統一的に理解するための枠組みを提供します。本研究は、離散凸解析の理論と応用両面における研究を通し、国産技術・離散凸解析の発展に貢献することを目的とします。
高深度オミクス代謝連関解析によるがん悪性化機構の解明
腫瘍微小環境はがんの転移・浸潤・薬剤耐性などのがん悪性化を促します。本研究では、シングルセルやオルガネラレベルの高深度かつ時空間的な多階層の代謝オミクスデータを統合解析することで、腫瘍微小環境における臓器間―オルガネラ間で鍵となる代謝連関を解明し、腫瘍微小環境で代謝適応して悪性化する膵癌や肝内胆管がんなど難治がん治療法の開発のみならず、代謝性疾患の病態生理解明や治療法開発への応用を目指します。
ナノ粒子の多様性を用いた生体分子の「medium-size data」モニタリング
ある特定の生体分子を狙って検出する場合、従来手法では標識に使えるラベルの種類に限りがあり、これが一度に測定できる項目数を限定していました。これに対し本研究では、ナノ粒子のサイズや表面状態などに無数の多様性があることに着目し、これらを生体分子の標識ラベルとして用いることで、健康状態の指標となる数十~百種程度の生体分子の「medium-size data」を簡便にモニタリングする技術を創製します。
線虫の感染から植物の細胞融合現象を紐解くCell Fusion of Secret in plants
細胞壁に覆われている植物細胞では、細胞融合はほとんど起こらないというのがこれまでの「常識」です。しかし、驚くべきことに、植物に寄生する線虫の一種であるシストセンチュウは、宿主組織内で細胞融合を誘導し、巨大な多核のシンシチウムを形成します。私は、ミヤコグサとクローバーシストセンチュウという独自の材料と、ライブセル解析や感染細胞の単一細胞多元オミクス解析、遺伝子発現イメージングという独自の手法を組み合わせて、線虫の誘導する常識はずれの細胞融合現象の全貌を理解するとともに、謎に包まれていた植物の細胞融合現象の解明に挑みます。
細胞内タンパク質分子の空間ストイキオメトリ解析
本研究は、一分子解像度の蛍光バイオイメージング法により、細胞内の興味領域における全タンパク質分子を同定し、空間マッピングする技術の開発に挑みます。これにより、夾雑環境である細胞内における個々のタンパク質分子の時空間ダイナミクスを網羅的に解析できる新規方法論を樹立します。達成の暁には、対象を細胞中の全タンパク質分子に展開し、新規空間プロテオミクス技術とすることを最終目標とします。
盗葉緑体現象から探る藻類創生の進化原理の解明
盗葉緑体現象とは、もともと葉緑体を持たない生物が、藻類を取り込んで一時的な細胞内共生を結ぶ現象で、藻類になる進化の解明には有用なモデルです。本研究は、盗葉緑体性渦鞭毛虫ヌスットディニウムを用いて、宿主-共生体間の物質輸送に関わる因子、やり取りされる物質を特定し、一時的な細胞内共生における物質輸送機構を解明することで、非光合成生物が藻類になる藻類創生の進化研究に革新的な知見を与えることを目指します。
tRNA工学による細胞機能の発現と制御
転移RNA(tRNA)は遺伝暗号の解読を担う重要な生体分子です。その機能や発現の異常は遺伝子発現の破綻を招き、細胞の生育不良や疾患の原因となる場合があります。本研究は、tRNAの機能発現メカニズムや代謝制御の理解を目指し、その合成から分解までに起こる様々なイベントを詳細に解析します。また、その理解を基盤とし、tRNAの機能や発現量を制御することで細胞の機能や活動を調節するtRNA工学を確立し、医療や工業に貢献する細胞の作成方法や疾患の治療法の開発を目指します。
細胞環境連成力学の創成
原生生物や細菌など、中枢神経を持たない単細胞生物は細胞外界の物理刺激に反応し、その運動を変化させることで様々な物理環境に適応します。それは、細胞周りの複雑な流れの中においてもロバストに生体機能を発揮する機構を生物が有していることを意味します。本研究では、環境に応じた単細胞生物の運動変容を細胞運動と物質輸送の連成問題として定式化することで、生物の環境適応機構を記述する力学理論の構築に挑みます。
新惑星レオロジー学:地球から火星、氷天体への展開
本研究では、最新鋭の高温高圧岩石変形試験機を開発し、マントルから内核までの地球内部を網羅する変形特性(レオロジー)断面図を決定することを目指します。惑星進化の鍵となる惑星表層から内部をつなぐ物質循環や冷却史は惑星内部のレオロジーが支配しています。先端技術を加えることにより、地球惑星全体の物質循環とその進化の解明、そして他の地球型惑星や氷天体の内部進化という基本原理について探求していきます。
分子/格子整合有機-無機界面が織りなす革新的材料
有機材料、無機材料の分野では、物質間に存在する界面の設計・精密制御(原子・分子スケールでの整合)が大きなイノベーションを創出してきました。一方、有機-無機が共存する分野では、その界面は十分に制御できているとは言えません。本研究では、有機-無機界面に分子/格子スケールでの化学結合の「整合」という新しい概念を加えた化学を発展し、有機-無機間での整合界面を基盤とした革新的材料の創出を目指します。
シヌクレイノパチーの未病スクリーニング及び予防法の開発
シヌクレイノパチーはα-シヌクレインの異常蓄積が原因となって神経細胞が死滅していく 神経難病で、パーキンソン病や多系統萎縮症が含まれます。これらの疾患では、発症以前よりα-シヌクレインの蓄積が起こり始め、多くの神経細胞が失われることで発症します。そのため発症前に治療を開始することが重要です。 本研究は、疾患の未病ステージを診断するバイオマーカーの同定、新規予防・治療薬の探索、病態起源の解明を三つの柱とし、早期発見と治療に寄与することを目指します。
生物による炭酸塩固定メカニズムの解明
原始地球ではCO2は大気の主要成分でしたが、生物による石灰化作用によって長い時間をかけて炭酸塩に固定されました。本研究では、生物による炭酸塩固定メカニズムの統一的描像の構築を目指し、有機分子や微量元素といった不純物と無機結晶との間に働く相互作用を明らかにします。これにより、大気中CO2濃度の変遷の理解や予測、生物に倣った低コストで効率的かつ安全な炭酸塩固定技術の創成が期待できます。
微生物が産生する細胞外ナノ粒子の理解と応用
細菌が生産する細胞外ナノ粒子である膜小胞に着目し、生産機構を含めた基本的現象を明らかにすると同時に、バイオテクノロジーツールとしての有用性の実証に取り組みます。特に新しいプロバイオティクスの提案によるライフサイエンス分野への貢献や、複合微生物系の構築による物質生産・分解反応の確立を対象とします。学術的に興味深い膜小胞現象に着目し、バイオプロセスを新たな切り口から見直すことで、合成生物学を基盤とした微生物セルファクトリーの概念にパラダイムシフトをもたらす「微生物ナノファクトリー」の構築に挑戦します。
計測データ解析の新境地を拓く近接分離型DC最適化基盤
計測対象の高度化・複雑化が進む先端科学・工学の現場において、ノイズ・外乱・欠損等を伴う計測データから所望の信号情報を解析する技術―計測データ解析―の重要性が高まっています。本研究では、Difference-of-Convex(DC)と呼ばれる最適化のクラスに着目し、多様な計測データを精密に解析できるモデリング性能と効率的かつ安定した求解性能を兼ね備えた革新的最適化基盤を創出することで、計測データ解析にパラダイムシフトを起こします。
固有栄養感知機構の解明と応用
生命にとって栄養素を適切に摂取し利用することは必須命題です。しかし、構造や特性において多岐にわたる栄養分子をどのような機構で感知し、その増減に応答するかは不明です。本研究提案では、ショウジョウバエを用いて、個々の栄養素に固有の感知機構を遺伝学的に同定し、栄養不良に対する適応機構と栄養代謝ネットワークを統合的に理解することを目指します。これにより、健康寿命を最大化させる精密栄養の実現に貢献します。