支援課題一覧(ACT-JST)

1998年度採択課題(基本型)

物質・材料分野

セラミックス構造物設計のための超大規模確率計算
秋葉 博(株式会社アライドエンジニアリング  社長)
研究期間(年度) 1998~2001
研究概要
高温構造物にセラミックスが従来の金属材料に代って用いられるようになれば、熱効率の向上などを通じて地球環境負荷の軽減への寄与は大きい。本研究開発では、超高温などをも想定したセラミックス構造物の大規模な確率論的設計・健全性評価手法・ソフトウェアを開発し、高温ガス炉の健全性評価に適用する。
研究成果資料
研究開発終了報告書
事後評価コメント
材料変形特性のセルフコンシステントモデルによる定式化、破壊靭性の気孔サイズ統計依存性の検討、セラミックス構造物の大規模構造解析及び確率論的健全性評価コードへの実装など当初の計画をほぼ達成した。計算力学によるセラミックスの健全性評価の枠組みを作成した点で高く評価できる。しかし、異なる手法による解析結果の比較やそれに基づく適応限界の明確化などがなされておらず、結論に曖昧さを残した部分もあったため、より一層の改良が望まれる。  本研究プロジェクトで開発された高速有限要素法ソルバ(CGCG法)は、従来の領域分割CG法に比べて20倍以上のパフォーマンスを示すことが報告されており、並列処理を必要とする様々な分野で利用されうる。現在、特許申請されているが、これが認められれば知的財産となる。その反面、論文発表、口頭発表の件数が非常に少ないので、今後成果の発表を積極的に行っていく必要がある。
総合的な材料プロセス解析システムの開発と半導体製造への適用
小林 金也(株式会社日立製作所  主任研究員)
研究期間(年度) 1998~2001
研究概要
材料プロセスの開発支援を目的とした総合的な解析システムを開発し、これを半導体製造へ適用する。本システムは(1)素過程解析技術(バンド・分子軌道・分子動力学法)(2)気相特性解析技術(プラズマ・ラジカル解析手法)(3)膜形状解析技術(エツチング、CVD、はんだ形状解析手法)で構成される。
研究成果資料
研究開発終了報告書
事後評価コメント
半導体製造の各場面で必要な、ミクロからマクロまでの広い範囲の計算科学技術的手法を開発した。具体的には、Embedded cluster法を密度汎関数によって拡張し、金属表面の反応のシミュレーションを行った。また有機・無機の混合系において縮合反応を半経験的に取り扱う手法を開発し、マクロにはハンダプロセスの液的シミュレーション技法を完成させた。このように、計画が極めて多岐にわたっていたためプロジェクトとしてのまとまりについては疑問が残る点もあるが、個別の項目に関してはほぼ計画通りに進行し、十分な成果をあげたと言える。実用問題についても積極的に取り組み、いくつかの問題解決を果たしたことは計算科学技術の振興に寄与するものと評価したい。  現在、半導体プロセスは世界中で厳しい競争が行われており、これを計算科学技術的手法で補強することは、半導体製造技術を高度化させる上で、大きな意味を持つと言える。今回開発されたソフトウェアは産業への実用化の価値を持つものである。ただし実際に公開する際には、Embedded Cluster法についての妥当性と適応範囲について詳しい分析を行い、プログラムの信頼度を向上させ、使いやすいソフトとして整備していく必要がある。  また、開発した手法を用いて、C60化合物材料の構造・電子状態の解析を行った結果、超伝導転移温度が非常に高い可能性を示し、新規超伝導材料の特許出願を行っていることは特筆すべき成果である。しかし、論文発表・口頭発表のほとんどがC60関係であるため、本来のテーマに関する成果の積極的な公表が望まれる。
グローバルコンピューティング環境による汎用MCSCFソルバーの開発
高田 俊和(日本電気株式会社  主席研究員)
研究期間(年度) 1998~2001
研究概要
生体分子など大型分子のMCSCF計算とグラフィックス表示用データ生成を高速ネットワークで接続されたヘテロジニアスな高性能計算環境で分散処理する新しいステァリングシステムの開発を行う。
研究成果資料
研究開発終了報告書
事後評価コメント
計算科学技術の非経験的分子軌道法のひとつであるMCSCF計算プログラムを開発し、多地点の研究者が共同に解析できるGUIの開発を行った。MCSCF計算プログラムでは、PCクラスタで基底関数として1000軌道を越える高精度な計算を高速で実現した。一方、GUIとしては、異機種の遠隔地の並列分散処理をJava Appletとして実現し、画像操作、ポインタ、音声を含む共同作業基盤を実現した。大型の分子における電子相関を、密度汎関数ではなく軌道法で計算する手法を提案し、ソフトウェアの形でまとめた点が新しく、またそのソフトウェアを多くのプラットフォームで実行可能な形で作成した点が高く評価できる。以上より、当初目標に対して十分な成果を挙げたと評価できる。  本プロジェクトで開発されたアルゴリズムは他の非経験的分子軌道計算プログラムにも取り入れられてゆく可能性があり、波及効果は十分にある。GRID環境と融合したソフトウェアがASP (Application Service Provider)など、新しいビジネスモデルとなる可能性も秘めている。  惜しむべくは、論文発表、口頭発表の数が少なく、十分に成果を公表しているとは言い難い。今後、このソフトウェアそのもの、またこのシステムを用いて得られた成果などを、積極的に公表することを期待する。
高分子会合(秩序)・解離(無秩序)の分子論的研究
樋渡 保秋(金沢大学  教授)
研究期間(年度) 1998~2001
研究概要
医薬分子と標的分子の会合・解離やタンパク質分子間の会合(複合化)・解離、機能材料分子の会合(秩序形成)と解離(無秩序化)について分子シミュレーションを用いて分子論的に考察する。このための専用コンピュータシステムの開発も合わせて行う。
研究成果資料
研究開発終了報告書
事後評価コメント
分子シミュレーションから高分子の会合(秩序)、解離(無秩序)について、分子論的に考察を行った。本プロジェクトの中心である、モデル分子系の分子シミュレーションの高効率化によって、高分子系やタンパク質など分子量の多い系のシミュレーションが可能となった。分子会合・解離の分子理論の考察については、実際の分子系での有用性の検証の点で当初の予定と多少違ったが、概ねその目的を達成したと評価できる。総合的に見た場合に内容が多岐にわたっており、プロジェクトとしてのまとまりという点で若干難点が感じられる。各研究者間での連携が十分とられているかもう一度検討する必要がある。成果の公表については、論文発表、口頭発表ともに活発に行われており、十分に公表されていると評価できる。  計算技法については、専用プロセッサMD Engineを用いたシステムを構築し、高速大規模なシミュレーション技術を確立した。これは、高分子及びタンパク質分子のシミュレーションに大きなインパクトを与える成果である。さらにモデル分子系のシミュレーション技法を専用計算機システムと結合して高速化できれば、医薬分子の設計など、産業に寄与する可能性がある。  今回開発された成果ソフトウェアについては、いずれも産業界での実用化の可能性がある。産業のみならず、理工系の学生の教育用ソフトとしての活用も可能であろう。他分野の研究者を含め一般ユーザの利用を可能にするために、さらなる改良を期待したい。
凝集反応系の非平衡非定常ダイナミクスの研究
長岡 正隆(名古屋大学  助教授)
研究期間(年度) 1998~2001
研究概要
量子化学や分子動力学法などの計算科学的手法や負荷分散技術を基礎に、非線形性、非平衡性、非定常性を加味した疑集系化学反応の新しい標準理論を確立する。さらに環境問題などに現れる現実系で実践的応用をする。
研究成果資料
研究開発終了報告書
事後評価コメント
吸着、解離、触媒などの凝集反応系のシミュレーションを行うための計算科学技術的手法を開発し、いくつかの問題の解決に成功した。非平衡系を取り扱うために部分系的な熱浴(分子熱浴)を導入し、ミクロな視点とマクロな現象とを結びつけるとともに、非平衡、非定常な反応ダイナミックスをモデル化し、新しい概念と理論を提示した。実験研究では見出すことが不可能な新知見を計算科学技術により求めるというアプローチは十分に価値があるものである。個々の課題についてもかなりの成果が得られており、当初計画を十分に達成したと言える。  今回開発した計算科学技術的手法は、非平衡系、不均一系など多くの適応分野があると考えられ、学問的な波及効果が大きい。特にメソ域での現象解明への貢献が考えられ、実用性は高い。公開ソフトウェアである「分子熱浴Kramers-Fokker-Planck方程式」は学生の教育用ソフトウェアとしても利用が可能と思われる。  成果の公表についても、論文発表や口頭発表、公開ソフトウェアなど、3年間のプロジェクトの成果としては、満足すべき水準にある。さらに、研究期間中に公開シンポジウムを1回、勉強会を3回主催しており、成果発表に対して活発な活動状況がうかがえる。

生命・生体分野

生物の最適形状・最適行動
河内 啓二(東京大学  教授)
研究期間(年度) 1998~2001
研究概要
自然淘汰の歴史を通じて獲得された生物の形状や行動を、最適に定めている指標を数値計算により見つけ出し、設計者のひらめきや試行錯誤によって行われてきた設計法に指針を与えようと試みる。この成果は生物学や動物行動学の基礎研究にも貢献する。
研究成果資料
研究開発終了報告書
事後評価コメント
人工物の設計法に指針を与えることを目指して、生物の鰭や翼の最適形状や最適運動を、流体の成分や評価関数、制約条件等に基づいた数値計算により評価した。その結果として、生物の持つ非常に広範囲な種類の翼の断面及び平面形状を統一理論で説明することに成功しており、当初の計画は十分に達成されたと考えられる。  本研究は学術的な貢献度が高く、この分野の国際的なコミュニティにおいても、コア研究グループのひとつとして評価されているため、今後国際的主導権をとることを期待したい。  本研究の成果物である昆虫サイズの翼型の空力データベース、昆虫の翅・外骨格の構造データベースは、視覚的にも理解しやすい形で作られており、教育効果は極めて高い。自然博物館での研究成果の採用、研究代表者によるバーチャル科学館の監修(予定)など、教育分野への普及活動も十分に行われている。本プロジェクトの成果として、論文を多数発表しているほか、新聞、雑誌、テレビ報道など、計13件のプレス発表も行われており、一般市民に対する情報発信も活発に行われている。  この分野は機械学と生物学の学際分野であり、マイクロマシンの開発など産業への応用も期待されるため、今後は、データベースをさらに企業が積極的に利用しやすい形にし、広報活動を行うと良いであろう。
蛋白質の立体構造データベースの構築と利用システムの開発
楠木 正巳(大阪大学  助教授)
研究期間(年度) 1998~2001
研究概要
プロテインデータバンクは生体高分子の原子座標のデータベースであり、データ数が近年急増している。我々はデータベースの構築に国際協力し、また、データベースを利用した自動結晶解析システムの開発を目指している。
研究成果資料
研究開発終了報告書
事後評価コメント
PDB(Protein Data Bank)は蛋白質や核酸など生体高分子の立体構造データバンクであり、ここ数年、エントリー数が急激に増加するに従い、構造生物学、医薬品開発などの分野での重要性が高まっている。本プロジェクトでは蛋白質立体構造データ編集システムを構築し、実際にアジア地区のデータ登録を行った。当初計画の100エントリー/年に対して200エントリー/年の登録数を実現し、関係者の地道な努力のもとに目標値を大きく上回る成果をあげた。  本プロジェクトにより、PDBの構築に当たって米・欧に対して日本が加わった三極構造の体制が確立することができた。PDB Annual Reportにも本計画の貢献が明記されており、国際的にも認知されている。これにより、今後PDBの運用に関して日本の発言権が強まることが期待される。非常に良いタイミングでJSTが本プロジェクトをサポートしたことも、この分野における日本の国際的地位の確立に貢献したと評価できる。  もう一つの研究開発題目である、全自動分子置換解析システムについては、企業を通じて商品化できる可能性が十分にあるため、特許化できる技術を特許申請すべきである。また商品化するにはさらなる精度の向上、及び高速化が必要であり、今後もアルゴリズムの研究・開発を進めることを希望する。
E-CELL:ゲノム情報に基づく細胞の再構築
冨田 勝(慶応義塾大学  教授)
研究期間(年度) 1998~2001
研究概要
代謝経路、遺伝子発現、シグナル伝達、膜輸送など細胞の様々なプロセスを統合的にシミュレーションするための汎用ソフトウェアE-CELLを開発し、ゲノム情報に基づいて細胞全体又は一部を再構築することを目的とする。
研究成果資料
研究開発終了報告書
事後評価コメント
汎用細胞シミュレーションソフトウェアE-CELLを開発し、ヒト赤血球細胞をはじめとする様々な細胞モデルの構築を行った。当初の計画では大腸菌モデルだけであったが、赤血球や心筋細胞等、より高度な細胞シミュレーションに発展させており、計画を上回る成果をあげた。プロジェクト開始前には、ほとんど未開拓の分野であった細胞シミュレーションという分野を世界に先駆けて切り拓き、日本発の新規研究分野を確立した功績は高く評価できる。Science誌やNature誌で本プロジェクトが紹介された他に、Analytical Chemistry誌においてAccelerated Paperとして論文が採用されたり、国際シンポジウムにおける招待講演を行ったり積極的な成果発表が行われ、国際的にも極めて高い関心を集めている。このような研究計画をタイムリーにサポートすることができた、JSTの本事業が極めて顕著な成果を生んだことも高く評価できる。  なお、本プロジェクトの成果物であるE-CELL ver2.1(Windows版)はCD-ROM化して公開・配布されており、Web以外の媒体での成果の普及も積極的に進められている。  本プロジェクトは新規産業の創出の可能性も高く、すでにいくつかの企業とE-CELLを利用した応用研究が進められている。ポストゲノム研究で個々のタンパク質等の生体分子の働きが明らかになれば、この分野の研究が一層重要になると考えられる。今後も実験生物学分野の研究者たちとの連携を深め、生物学の新分野の開拓や、医学への応用へと展開して貰いたい。
3D-1D法を用いた全遺伝子産物同定システムの研究開発
西川 建(国立遺伝学研究所  教授)
研究期間(年度) 1998~2001
研究概要
様々な生物種の全ゲノム配列が次々と決定されるようになり、ゲノム情報の解読、特に遺伝子産物としてのタンパク質の同定(構造/機能の推定)が緊急の課題となっている。本研究ではタンパク質立体構造予測で開発された3D-1D法を中心として強力なゲノム情報解析システムを構築し、インターネット上での実用化を図る。
研究成果資料
研究開発終了報告書
事後評価コメント
大量に算出されるゲノム配列データから、立体構造予測を中心とする網羅的な情報解析を行い、データベースの構築と公開を行った。計画遂行途中で、タンパク質立体構造予測法を「3D-1D法」から「PSI-BLAST法」に変更したが、より良い予測を実現させるためには適切な判断であったと言える。当初計画では、機能予測も解析に盛り込むことが予定されていたが、これに関しては成果として不十分であるため、更に研究開発を行うことが望まれる。総合的には、学問的にもしっかりした裏付けのもとに進められており、ゼロからの出発としてのプロジェクト研究の成果としては良くできていると評価できる。  Web上で公開されたGTOPへのアクセスは4000件/月程度であり、一定の興味を持たれていることが認められ、ポストゲノム研究に向かっての学術的及び教育的波及効果は大きいと考えられる。  本研究で開発された自動解析システムは、商品化の可能性を持つものである。ただし、システムの核となるソフトウェアPSI-BLASTはNIHのフリーソフトウェアであるためライセンス関係に注意する必要がある。構造予測のソフトウェアは競争が激しい分野であるため、有用性をもっとアピールする工夫が必要であろう。今後、立体構造の予測精度を上げ、機能予測部分を追加することができれば、利用者の増加が期待できる。

環境・安全分野

大気環境分子の分光・化学反応データ計算システム
岩田 末廣(大学評価・学位授与機構  教授)
研究期間(年度) 1998~2001
研究概要
対流圏と成層圏の化学素過程をになう分子の分光学的諸量と化学反応過程に関連する諸量を量子化学の手法によって計算するシステムを構築し、かつ重要な系をターゲットに選択して、研究期間中に実験グループや大気シュミレーション研究者に計算結果を提供する。
研究成果資料
研究開発終了報告書
事後評価コメント
大気中の化学素過程を担う比較的簡単な分子の分光学的諸量と化学反応過程に関連する諸量を量子化学の手法に基づいて計算するシステムを構築した。本プロジェクトで開発したプログラムを用いた計算結果は、実験値及び過去の理論計算と一致しており、極めて精度が高いと評価できる。また、水クラスターを含む錯体の系統的研究により、「電子-水素結合」など非常に興味深い新概念を提唱した。このように、第一原理に基づく大気科学を開拓しつつあり、従来の大気環境問題に大きな影響を及ぼす可能性がある研究結果が数多く得られた。プログラムは従前から研究グループにおいて開発が続けられていたもののようであるが、それを考慮しても今回の成果は十分に高い評価に値する。  本プロジェクトの成果として論文を多数発表しているほか、国際会議において招待講演も行っており、成果の公表は十分に行っていると言える。研究代表者が平成12年度に日本化学会学会賞を受賞したことも特筆に値する。  今後は、本プロジェクトで開発したソフトウェアを一般の研究者が利用しやすい形で提供し、利用者からの意見を取り入れてさらに改良を加えていくことが望ましい。そのためには周辺分野の研究者との交流を深めるとよいであろう。
東アジア域の地域気象と物質輸送モデリングの総合化
鵜野 伊津志(九州大学  教授)
研究期間(年度) 1998~2001
研究概要
地域気候・気象モデルによる東アジア域の気候・気象変動解析と対流圏物質輸送モデリングを高速ネットワークを用いて複数の機関が密接にデータ交換しつつ同時に進め、その結果をもとに東アジア域の「化学天気図」の作成・3次元可視化を行い、大気環境の質を中心とした変動を予測する。
研究成果資料
研究開発終了報告書
事後評価コメント
地域気候・気象モデルによる東アジア地域の気候・気象変動解析を行い、対流圏物質輸送モデリングと統合することで、東アジア域の高精度の物質輸送モデルを確立した。またこのモデルに基づいた大気中成分の空間分布・時間変化を示す「化学天気予報システム CFORS」を運用しており、本プロジェクトの目標は十分に達成していると評価できる。  CFORSでは化学天気予報図という具体的な成果を定期的に公表できるようになっており、実用化の程度は大である。また、環境保全への貢献は極めて大きい。ただし、気象予報のデータの作成方法、物理化学プロセスに要する計算時間と使用プログラムなどから見て、大まか且つ高濃度・高範囲の物質輸送の予測に適し、局地的・低濃度の予測は難しいと思われる。また、現実に利用出来る排出源データはまだ不確定性が大きく、特に黄砂の場合では予報適中率は60-70%であるので、今後さらに予測精度を上げていくことが課題である。  以上の点が改良されれば、現在商用化されている局地気象予報と同様に商用化も期待できる。論文発表の数はまだ少ないが、プレスの取材が13回と多く、この種の環境問題に関して社会の関心を引き立てた功績は大きい。また、研究代表者が平成13年に大気環境学会学術賞を受賞したことも特筆に値する。
アジア地域防災情報ネットワーク・システムの開発研究
小川 雄二郎(財団法人都市防災研究所  所長)
研究期間(年度) 1998~2001
研究概要
アジア地域の災害の低減を目的として、アジア地域防災情報ネットワーク・システムの研究開発を行う。システムは災害情報データベース、防災地理情報システム、災害分析・防災性評価システムのサブシステムから構成される。ネットワークはインターネット、IMnet、SINET等で構成される。サブシステムにおいては、このネットワークシステム構築のためのクリアすべき課題の開発研究が実施される。
研究成果資料
研究開発終了報告書
事後評価コメント
災害情報データベース、防災地理情報システム(GIS)の開発、及びこれらを組み合わせて、指定された地域に関する防災情報をインターネットを通じて提供するシステムVENTENの構築を行った。このプロジェクトでGISデータと他のリモートセンシングデータを組み合わせた防災情報の基盤的システムは構築されたが、当初予定されていた、①衛星観測、メディア行政資料などを編集したデータベースの作成、②幾つかの防災地理情報のモデル化と、災害情報データベースを使用した災害発生シミュレーション、及び海外研究者による評価、③実際の災害事例について発生終息の過程の分析、発生原因の推定、発生動向を把握する手法の開発、については実施されていないことから、目標が達成されたとは評価できない。特に災害情報の収集は、本システムを実用化する上で必須であるため、取得方法について詳細に検討する必要がある。  成果の公表については、研究テーマがシステムの構築であるため、成果の公表はかなり限定されるのは致し方ない。しかし、その点を考慮しても論文、口頭発表数は少なく、十分に成果が公表されているとは評価しがたい。  今後は公開システムの機能や災害情報収集の充実に留意して、本来の実用化に向けての一層の努力がなされるべきである。
リモートセンシングとシミュレーションの複合利用による重油回収支援システムの構築とその運用に関する研究
後藤 真太郎(立正大学  助教授)
研究期間(年度) 1998~2001
研究概要
リモートセンシングの時間分解能を補完すべく、リモートセンシングデータを漂流シミュレーションの入力条件にし、連続的な重油の漂流状況を把握できるシステムの開発及び回収支援作業における運用に関して検討する。
研究成果資料
研究開発終了報告書
事後評価コメント
リモートセンシングデータを利用して、重油の漂流シミュレーションを行い、その結果にGIS情報を加えて、インターネット上で情報発信を行った。研究者の活動が重油流出における被害額の算出など社会的関心、行政への支援となっている点は評価できる。  しかし、開発計画書では、①被害分布の予測手法開発では、リモートセンシングデータから物理条件を読み取り重油の漂流シミュレーションを行う、②シミュレーション結果にGIS情報を加えてインターネット上で情報発信する、③対策活動が必要な場所等の優先度決定のための沿岸域脆弱性指標をクライアント側で管理する仕組みを開発する、と記載されていたが、①と②についてはシミュレーションの手法が示されておらず、実事故との検証結果がないことから、本システムの有用性や、用いたモデルの適合性が明らかでない。③については検討に留まっている。モニタリングとその結果の可視化以外は計算科学技術上の評価がしにくい内容である。  学術的な論文発表数が少ないので、成果の公表という点でもやや不十分である。

地球・宇宙観測分野

国立天文台電波天文データ公開利用システムの開発
大石 雅寿(国立天文台  助教授)
研究期間(年度) 1998~2001
研究概要
国立天文台で共同利用されている電波望遠鏡の観測データの二次利用を可能とし、かつ、将来の光赤外望遠鏡のデータも包含可能なデータ公開システムを開発し、また、天文学的成果の社会への還元を目指す。
研究成果資料
研究開発終了報告書
事後評価コメント
国立天文台における電波天文観測データの蓄積・公開システムの開発を行った。この公開システムにより、観測者以外の国内外の研究者も観測データを容易に利用することが可能となり、今後の天文学・宇宙物理学分野の研究推進に大きく貢献するものと確信できる。このように、「データベース天文学」という枠組みの基礎を築いたことは高く評価できる。この研究開発で行われた情報発信や若手研究者の貢献など、今後の科学データベース構築の一つのモデルとなるであろう。研究成果は研究者のみならず、教育・文化への利用も期待でき、波及効果は非常に大きいものと思われる。  本研究で開発されたデータ転送アルゴリズムは他分野でも応用が可能であり、特許の申請を行っている点も評価できる。発表論文数は多いとは言えないが、ソフトウェア、データの公開など、成果の公表は十分に行われている。  当初計画されていたデータ公開システムについては十分達成され、かつ今後の維持体制にも問題がないと思われるが、分散解析システム、データマイニング法の開発については残された課題があり、今後国立天文台を中心として進められる開発での発展を期待したい。このシステムで提供されている巨大データを活用するため、ユーザインターフェースを含む利用者サービスについてもさらなる改善を希望する。
ネットワークによる地球環境衛星データベースの構築と高度利用に関する総合的研究
高木 幹雄(東京理科大学  教授)
研究期間(年度) 1998~2001
研究概要
NOAA、GMSデータで活発に活動を行っている5機関を高速ネットワークで結び、AVHRR、VISSRのデータベースを構築し、陸域、海域、大気域の科学的なデータセットを作成する。高速大量データ処理を行い、植生指標、海面温度、雲分布等を作成し、アジア域の陸域、大気・海洋の長期変動研究を行う。
研究成果資料
研究開発終了報告書
事後評価コメント
5機関を高速ネットワークで結ぶことにより、NOAA、AVHRR等の衛星画像データを統合、データベース化を行った。システムの構築に時間を要したことに起因してか、成果を用いた応用研究に関しては十分なされたとは言えないが、アジア地域の地球環境データベースに関しては当初計画どおり作成しており、高く評価できる。成果の公表については、口頭発表を含め、学術論文が多数発表されており、十分に行われている。  研究開発の中で開発された衛星データを加工するための様々なツールは、様々な分野への波及効果が期待される。データベースは一般ユーザも利用可能な形態で構築されており、今後一般科学者ユーザによるデータの利用促進が期待できる。また、科学者だけでなく、初等中等学校、高等学校、ならびに科学館等での教材としても活用できるものである。本データセットを利用することで、アジア地域の海洋、農作物、土地利用等の現況を知ることが可能であり、農林水産や防災面での応用も期待される。産業面での応用を推進するためには、学術的興味だけでなく、研究者が現場の視点に立って研究を行う必要がある。また商業的利用も期待できるが、そのためには課金システムなどの整備も必要となるだろう。  今後、このデータベースを用いた応用研究が盛んに行われることを期待したい。そのためにも、データベースの維持管理体制を検討する必要があると思われる。
宇宙科学データ解析研究のためのバーチャル・センターの構築
長瀬 文昭(文部科学省宇宙科学研究所  教授)
研究期間(年度) 1998~2001
研究概要
宇宙科学研究所の衛星プロジェクトで取得された科学衛星データを広く全国、さらに世界中の研究者に公開するために、そのデータベース構築、解析ソフト開発を関係大学、研究機関の協力を得て進めるためのネットワークを介した研究組織・連合体を構築することを本研究課題の目標とする。
研究成果資料
研究開発終了報告書
事後評価コメント
世界へ情報発信を行うことは国立研究所の重要な役割の一つである。従って、今回莫大な衛星観測データからアーカイブデータベースを作成し、主要なデータベースを集約・公開するバーチャル・センターを構築したことは非常に大きな意味があり、高く評価できる。成果の公表についても、システムの公開のみならず、本システムを使った研究から多くの学術論文が発表されており、極めて高く評価できる。国際的な貢献を含め、学問的な貢献度は非常に高いものと期待される。  公開システムは一般ユーザも利用可能な形態で構築されており、一般ユーザによるデータの利用促進が期待できる。本研究で開発された可視化ツールは初等中等教育等に役立てることも可能であるため、理科離れの激しい昨今ではぜひ教育分野への普及活動を行ってほしい。  今回、プロジェクトを進める上で、宇宙科学研究所の研究プロジェクトチームの理解と協力を得ながら行ったことは特筆に価し、国費を使った研究成果のデータベース化方法の一つのモデルとして高く評価してよいのではないか。  今後は、セキュリティを含めたシステム開発を行い、「バーチャル・データ解析研究センター」の機能を更に充実させていくことを期待したい。
リアルタイム地球観測衛星データ高速通信・高速演算配信によるアジア太平洋防災ネットワークの開発
沢田 治雄(農林水産省森林総合研究所  海外研究領域長)
研究期間(年度) 1998~2001
研究概要
火災、台風、集中豪雨等災害事象データをアジア太平洋各国に自動高速配信を行うため、APANの高速回線を利用して地球観測衛星データ(DMSP-OLS、TRMM等)を日本の高速演算サーバでリアルタイムアーカイブを行い、高速演算処理後の災害プロダクツをAPANノードからエンドユーザに自動配信を行うネットワーク・アプリケーション技術の開発を行う。
研究成果資料
研究開発終了報告書
事後評価コメント
衛星データをリアルタイムで集積し、火災、乾燥害などの農林災害事象を高速に発見する処理システムの開発を行った。既存の人的システムを十分に活用し、防災ネットワークを実用化させており、計画の達成度は十分高いものとして評価できる。タイ国などでは当該システムの活用も検討されており、国際協力・国際貢献の面でも高く評価できる。  本プロジェクトの成果として、発表論文数が少ないのが残念であるが、ソフトウェアツールに関する論文件数が少ないのは特許を申請する都合上、やむを得ないであろう。システムを利用して得られた研究成果が今後学術論文として発表されることを期待したい。なお、代表研究者は文部科学大臣賞(研究奨励賞)を受賞しており、これは特筆に値する。  本システムは今後様々な分野での波及効果が期待でき、特に特許申請中である雲やノイズの除去のためのフィルタリングの技法は今後の衛星画像の活用に大きく貢献するものと期待される。今後、末端ユーザがデータ加工しやすいように新たなツールの開発や啓蒙活動を行えば、さらにその有用性が高まるであろう。また、システムを用いて得られる衛星データは、地上での直接観測や気候モデル、物質循環モデルなどの研究と組み合わせればさらに意味のあるものとなるため、今後これらの要素を取り入れた研究開発を行うことが望ましい。特に森林火災の防止にかかわる危険度評価等においては、熱帯雨林での複雑な環境要因との関連も含めた更なる研究の発展を期待する。

1998年度採択課題(短期集中型)

物質・材料分野

第一原理計算による電子励起新機能半導体の材料設計
吉田 博(大阪大学 産業科学研究所 教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
磁性イオンをドープしたワイドギャップ半導体の電子励起原子移動機構を解明するため、量子力学第一原理に基づく量子シミュレーション等を開発する。この計算システムを用いて遷移金属等の磁性状態を光や電子の電子励起により制御できる新機能半導体材料を設計する基礎を確立する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
電子励起原子移動を制御する手法や電子励起下での新しい物質創製プロセスの探索と材料設計を目指して、半導体産業に直接結びつく実用研究が、最先端の計算機シミュレーションを用いて行われた。基礎研究としても興味深い成果になっている。計算のみでなく実験グループとの密な連携により、実験との対比も行っており、代表者が産業上の重要なポイントをしっかり掴んでいることがこうした大きな成果につながっている。外部への発表も十分になされており、研究後特許出願もされており、研究開始に際しての予備的な成果が十分にあったことを窺わせる。実用化が進めば新しい展開が期待できるので、今後の研究でプログラム公開を望みたい。
材料機能設計のための励起構造計算システム
田中 功(京都大学 エネルギー科学研究科 助教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
光励起時の酸化物表面上の分子の挙動等の解明のために、擬ポテンシャル法による第一原理分子動力学計算と、分子軌道法バンド計算、及びクラスター計算を用いた定量的な電子論計算システムを開発し、新規光触媒の開発を試みる。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
ZnOについての研究では、30年来続いていたn型伝導性の起源が格子間亜鉛か酸素空孔かという議論に定量的な結着をつける計算結果を得ることに成功している。またパソコンなどの半導体機器のサージフィルタなどに不可欠なバリスタについてその起源となる粒界での2重ショットキィバリアが従来考えられていたような内因的欠陥によるものではなく、不純物に原因を求めるべきであるとの発見も大きな成果であろう。さらに新しいスピネル型窒化物についても、これが現在利用されている窒化ガリウムに代替可能であり、環境にやさしく、またシリコンテクノロジーとの相性の良さが注目される新しい直接遷移型半導体となる可能性を示したことで大きな話題となり、Physical Letter誌に掲載され、新聞にも取りあげられた。2001年の米国での国際シンポジウムの成功を期待したい。また、共同研究者は米国在住であり、国際協力を深めたことにも意味がある。公開できるプログラムがないのが残念である。
高温超伝導体の電子機構モデルの研究
山地 邦彦(電子技術総合研究所  首席研究官)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
変分モンテカルロ法を用いて有限な超伝導ギャップを持つGutzwiller型BCS超伝導波動関数に対して、2次元d-p模型が最低エネルギー状態になることを確認し、超伝導凝縮エネルギーを計算し、超伝導相関関数の増大等の超伝導特性を確認する。既に得ている6x6格子についての結果を20x20格子まで拡張するための、大規模並列計算システムを開発する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
高温超伝導の発現機構を2次元d-p模型及び2次元ハバード模型の超伝導諸量を並列計算機により変分モンテカルロ法で計算してこれらの模型の超伝導発現を確認するとともに、基底状態の相図、ストライプ相出現の確認、その電子的空間的構造も決定した。超伝導凝縮エネルギーの計算値、超伝導の対称性、重要な相図の特徴などが実験と一致することを示した。しかし、有限サイズスケーリングによりバルク極限を導くとの当初計画には達成しておらず、短期間の研究目標としては多少無理があったと思われる。量子系のモンテカルロに取り組んだ点評価できるが、当初目標を達成するまでには至らなかった。
複雑現象のための量子古典ハイブリッド型大規模数値解析手法の開発
大野 隆央(金属材料技術研究所 計算材料研究部 室長)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
多数原子からなる物質系で基本物理法則に基づいて分子の挙動を解明するため、階層的空間構造のミクロ、メソ各領域に量子MD法と古典MD法を統合したハイブリッド型解析手法を開発する。この手法は材料破壊等の機械的特性の解明や生体反応等の複雑現象の研究進展に寄与する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
物質の特性は、電子状態の変化が重要なミクロ領域、原子個々の運動がきくメゾ領域と階層的な空間領域からの複雑な寄与で決まってくる。本研究では階層的な空間構造の各領域に量子MD法及び古典MD法の最適な解析法を適用し、各解析手法を統合した量子力学-古典力学ハイブリッド型の解析手法を開発するとともにTBMD法-古典MD法融合型プログラムを開発している。開発したTBMD法-古典MD法融合型プログラムでSi系を対象にハイブリッド型計算を行い、その有効性を証明して本研究の目的を達成している。短期集中型研究として非常にうまく展開、進展した研究である。しかし現段階では、まだ基礎的なアプローチにとどまっており、実用問題(実プラントの破壊現象)の解決に応用するにはマクロ(FEM)から量子力学までの結合、並列計算並びに、実現象(実験)との比較等の検討も必要であろう。
複雑現象のはじまりとしての表面反応の解明
笠井 秀明(大阪大学 大学院工学研究科 教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
表面構成原子の配列や振動を考慮するマルチディメンジョン量子力学計算と、表面に吸着している水素原子が脱離する反応を解析するマルチリアクションパス対応量子力学計算を開発する。本研究開発で確立された技術シーズは酵素反応を含む広義の触媒反応等への応用が考えられる。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
固体表面で原子・分子の動的現象を生み出している電子系の状態及び原子・分子の量子力学的時間発展を調べる計算手法を開発、金属表面での水素原子・分子の反応過程の検討を行った。並進、伸縮、回転の6次元の量子力学計算手法の完成は評価できる。また、外部発表も精力的に行っており、件数の点でも十分な成果をあげている。井上研究奨励賞、日本物理学会論文賞を受けており学術面での成果は十分である。
機能性高分子設計のための理論的重合法プログラム
青木 百合子(広島大学 大学院理学研究科 助教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
高分子の重合反応を計算機上で行い、各セグメントの反応性を試算しながら高分子の構造を最適化するよう反応経路を決めるシステムを開発する。本システムは高伝導性高分子や有機強磁性高分子体の設計指針に資することが期待される。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
巨大高分子系の電子状態を求めるためにランダム高分子の理論重合法プログラムを開発し、半経験的分子軌道法のレベルでタンパク質などの計算が出来るようにした。独創的な計算手法を、易しく使えるようにMOPACにつなげたこと、データベース”PolyInfo”を利用するためのグラフィックユーザインターフェースの組み込みなど、主要な点での作業は順調に進められた。 しかし、プログラムの完成度は初期の目標に到達していないように思われ、短期集中型の研究課題としては、目標が少し盛り沢山すぎたのかも知れない。とはいえ、”Elongation法”は強力な手法と考えられるので、この成果を足場として今後急速に発展することを期待している。こうした独創的手法が十分なレベルまで追求されることが望ましい。現段階では発表成果がなく評価が難しいが、今後に期待したい。
先進的磁性材料の第一原理計算による設計手法
小口 多美夫(広島大学  教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
金属薄膜と金属人工格子のスピン・軌道磁気モーメント、交換相互作用、磁気異方性の磁気構造、及びカー効果、磁気円二色性の磁気光学効果を第一原理計算により予測するシステムを構築する。本システムは、先進的磁性材料の設計指針構築に貢献する。
研究成果資料
なし
事後評価コメント
人工超格子や化合物などの種々の磁気的性質を適切に理論解析する手法を整備し、実用上も重要と思われる性質の理論的研究の可能性を具体的に提示してきた。そのためのソフト開発も着実に行っている。研究会やワークショップの開催だけでなく、産業界との共同研究を行うことにより外部世界との接触も積極的に進めてきており、磁気材料の実用的側面(異方性、磁気光効果など)の理論研究の可能性を明確にした。継続的に手法開発、ソフトの開発・整備を進める上で重要な役割を果たせるグループである。しかし、プログラムの公開の予定がないということは残念である。
理論状態図の統合的計算システムの研究
松宮 徹(新日本製鐵株式会社 先端技術研究所 部長)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
シリコンの点欠陥、ドーパント及び不純物元素について希薄溶体としての熱力学的性質の予測を与え、シリコン-酸素系について酸素高濃度まで拡張して熱力学的性質を予測し、状態図を記述する。シリコン-酸素系の状態図はギガビット級半導体の開発に寄与する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
シリコン希薄固溶体における溶質元素の熱力学的性質、すなわち無限希薄固溶体における活量係数、相互作用母係数、固溶限界等を、密度範関数法を用いた第一原理計算、モンテカルロ法を適用して求められることを示した点、新規性も高い。また実験のみで多くの材料の熱力学的性質を測定していくことは効率的ではなく、計算科学と計算機性能の進歩を背景にした計算による予測を併用する方法は時宜にかなっている。さらに熱力学的物性値が整ってくれば、あらゆる材料の精製、鋳造、熱処理などのプロセスの熱力学的解析が可能となる波及効果も見逃せない。
単結晶育成過程の仮想実験室システムの開発
宮崎 則幸(九州大学 大学院工学研究科 教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
バルク単結晶育成過程のシミュレーションのうち、熱応力解析、マクロな割れ評価解析、可視化のシステムを開発する。本システムは酸化物単結晶やIIIV族化合物半導体のような臨界剪断応力値が低いため無転位単結晶の育成が困難な単結晶成長制御技術の確立に寄与する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
機能性単結晶材料は高度情報通信社会を支える基盤材料として重要な役割を担うものである。本研究で開発された複雑系統合シミュレーションが今後このような新規機能性材料の開発に関連した産業の創出につながっていくものと期待される。本プロジェクトは、計算科学的に大きな新規性はないが、既存の市販コードPATRANを有効利用してオリジナルソルバCRYSTALを外から見えなくして、ユーザーフレンドリシステムを構築したことは、重要である。これまでに蓄積された多くのソフト資産を活かすことは今後も重要であろう。今後は高品位バルク単結晶の育成条件の絞り込み、適正条件の提案を期待したい。 本研究成果の実用化の可能性は高いが、継続性が必要である。当初計画に対して大略達成しているが、可視化サブシステムの一部を残した感がある。また、外部発表が「正方晶系単結晶CZ育成過程の熱応力解析」(口頭発表)1件なのは寂しい。
仮想現実材料試験装置の先導的開発研究
関根 英樹(東北大学 大学院工学研究科 教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
炭素複合材料等のモデリング技術、数値計算技術、材料設計技術、製作技術、評価技術の各研究者が情報交換しながら仮想現実材料試験システムを開発する。複合材料の極限状況における強度特性や熱特性をモニタ画面上に表示させ、複合材の開発促進に貢献する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
極限状況下での各種複合材料の強度と衝撃後残留強度に関する仮想現実材料試験装置の開発を目指し、独自のアイディアに基づいて微小損傷に対する複合材パッチリペアを考慮した数値シミュレーション技術を開発した点は高く評価できる。 従って、数値計算システムの構築という点に関しては当初の目標をほぼ達成したと考える。しかし、この種の仮想現実材料試験装置の成否の鍵となるデータベースの蓄積がなければ研究の意味は半減する。今後、仮想現実材料試験装置に必要なデータベースの蓄積が望まれる。
スラブ型2次元フォトニック結晶の光波解析
迫田 和彰(北海道大学 電子科学研究所 助教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
スラブ型2次元フォトニック結晶について解析を行うための高度なシミュレーション技術を開発する。具体的には光の分散関係とフォトニックバンドギャップの解析は平面波展開法、光伝播特性の解析はFDTD法、局所不純物モードの解析は双極子輻射の数値シミュレーション法を適用した光波解析システムを開発する。成果は高性能半導体レーザーや光通信用素子の開発に資する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
フォトニック結晶の応用展開にとって正確な光波解析技術の開発は不可欠であり、本研究はスラブ型二次元フォトニック結晶について、シミュレーションとして必要な「次のステップ」である、光の分散関係とフォトニックバンドギャップ、光伝播特性、局在不純物欠陥モードを高精度で計算するためのシミュレーション技術を開発してそれに応えようとしたものである。適時性も高く、新しい材料の出現期待も高く新事業の期待が持てる。ただし、残された課題も多いようであるから今後の一層の努力を期待する。
炭素系材料設計システム
大澤 映二(豊橋技術科学大学 工学部 教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
フラーレン系炭素用経験的分子間ポテンシャルの設定、炭素ポテンシャルパラメータの精密化、フラーレン構造発生プログラムFULLERの改良等によりバッキーオニオン、カーボンナノチューブの自己組織性、気体フラーレン誘導体の可能性についてシミュレーションを試みる。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
フラーレンに対する強力な研究が進められている。このことは継続して欲しい。今後は、フラーレン結晶力場のデータベースを完成させてくれることを期待したい。代表研究者は今回の研究開発で開発したプログラムの公開を前提としており、その点も評価できる。フラーレンそのものがどのように実用化されるのか現段階では不透明であるが、ここで開発された手法やソフトウェアは炭素系材料の研究に有用であろう。 一方、最近の傾向としてはナノチューブ系が応用上も重視されており、その方向への研究の推進も期待したい。また、大規模な問題へのチャレンジが必要であると思われるが、それへの見通しを与えて欲しかった。
大規模分子軌道計算を高速かつ低コストで実現するための研究開発
長嶋 雲兵(工業技術院産業技術融合領域研究所 計算科学グループ グループ長)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
生体酵素反応の解析や材料・医薬分子の開発に必須である分子構造最適化を高速化しかつ低コスト化するため、大規模分子系においてエネルギー一次微分を計算する非経験的分子軌道プログラムを開発する。最も時間のかかる二電子積分計算にはデータ並列性の漸化計算法を用い高速化する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
計算科学的研究としてもふさわしい成果を挙げている。特に分散メモリ型並列機用を意識したアルゴリズムの開発に成功しており、将来性は高い。構造最適化におけるローカルミニマム問題は、難問でありそれの処理法を見出したことは大きい。目標をMOEのコンパイラとツールキットにしぼり、大きな性能向上を得た。 また、終了報告書の記述も具体的でありわかりやすい。化学ソフトウェア学会学会賞を受けており学術面での成果も評価できる。 ただし特定計算機のためのソフトなので公開レベルには至っていないが、今後の発展に期待したい。
液柱マランゴニ対流の大規模数値計算
棚橋 隆彦(慶應義塾大学 理工学部 教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
微小重力下の振動とマランゴニ対流を考慮した液柱の現象を解明するため、自由表面記述手法の選択、表面張力とマランゴニ効果のモデルの開発、及び三次元大規模並列計算法の検討を行い、実験結果と数値解析結果を比較検討する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
数値流体力学分野の重要テーマである自由表面の変形を考慮したマランゴニ対流効果について研究している。研究開発では並列計算(4並列)も試みておりそれなりの効果を得ている。しかし、流体力学の基本手法の開発にとどまっており、国際的にはこの程度の並列では太刀打ちできない。GS40(地球シミュレータ)が2年もすれば完成するのであるから、その程度のマシンに挑戦することも今後検討して欲しい。
多層膜構造を利用した高性能熱電材料の最適化設計
平野 徹(ダイキン工業株式会社 電子技術研究所 所長)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
熱電材料の電子物性の数値解析技術をより発展させ、微視的な立場から多層膜の垂直伝導のモデル化を行い、数値解析システムを開発する。最適化設計を通して、高性能熱電材料の創製を目指す。具体的には、磁性多層膜の巨大磁気抵抗の理論を熱電多層膜へ拡張する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
エネルギー問題として重要な多層構造を利用した熱電材料の性能向上という明確な目的を持って、多層膜構造のモデル化、モンテカルロシミュレーション、製膜シミュレーションモデルの開発など、独自の観点で新しいモデル化手法を提案しており、短期の研究開発期間で一定の成果をあげたと評価できる。しかし、当初目指していた実際のパラメータ計算や最適化などの手法やソフトウェアには改善の余地を残している。本研究開発はバルクの多層膜を実現する製膜技術が前提となり、本研究で提案されている多層構造型ペルチェ素子は広い分野での応用が期待される。今後より高度な研究へと発展することを期待したい。

生命・生体分野

蛋白質の表面形状と物性に基づく機能分類
中村 春木(大阪大学 蛋白質研究所 教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
蛋白質の立体構造と機能との関連を骨格構造ではなく、分子表面の形状とその静電物性や疎水性等から分類整理し、データベース化して、インターネット上で公開し、今後の構造ゲノム科学の発展に寄与する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
当初目標である三つの項目、1)蛋白質の表面形状と静電物性、2)蛋白質のダイナミクスの解析、3)分子表面形状のパターン認識による分類、に関して、1)及び3)については、表面形状と物性に関する新しい計算方法の開発、データベースの開始、など一定の成果が報告されている。2)については報告がなく、未着手と思われる。成果プログラムは蛋白質構造、物性研究者にとっては有用なものであるが、事業終了時点では完成に至っておらず、今後のバージョンアップが必要とされている。目標設定は高いものがあり、1年間での到達は困難であることは理解できるので、今後その目標に向けての展開を期待する
循環器病治療支援計算生体力学シミュレータ
山口 隆美(名古屋工業大学 大学院工学研究科生産システム工学専攻 )
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
循環器病の臨床医療における高精細度診断、高信頼度の予測に基づく治療計画、安全度の高い医療訓練に資する計算生体力学シミュレータを開発中である。本研究開発では心筋梗塞等の診断、予防、治療の基礎となる計算力学応用システムのためのモデリングシステムとそのインターフェイスを開発し、これを可視化するシステムを開発する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
MRIスライス画像から心臓血管系の構造を三次元再構築し、これを高速に表示するモデルを作成した。さらに、血管系のパラメータ表現、データベースの格納・検索・解析を効率的に実施できるシステムの開発、及びPC上で動作する臨床支援のための基本システムの開発により、当初目標の達成度は高いものと評価できる。また、外部発表も極めて精力的であり、評価できる。しかし、完成されたシステムは操作性に関してユーザーインターフェース改善の余地が大きい。
特異点理論に基づく医療用画像処理技術の研究開発
品川 嘉久(東京大学 大学院理学系研究科 講師)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
医療用ボリュームレンダリングに対し位相幾何学的考察に基づく特異点フィルターを用いて、連続断面画像間のマッチングと、二次元画像から三次元物体画像を鮮明に自動再現するシステムを構築する。既存のCT-スキャン画像データから器官や患部の三次元物体画像を正確に再現し、今後のデジタル医療や僻地医療遠隔診断等の推進に寄与する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
二次元的画面の集積である断層写真から、三次元的立像を構築するというプログラム開発の目標は予定通り達成されたと考える。1年という限られた期間であったので、プログラム開発に専念した結果、それ以外の成果については手薄になってしまったようだ。医療用画像処理のコンポーネントとして使い回し出来、広く利用される可能性があると予想はされるが、期間内には今後の実用化への展開に見通しをつけられなかった。今後は医療技術者との連携を深めるなどして実用への有効性を高めてもらいたい。
タンパク質モジュールの機能と属性の研究
郷 通子(名古屋大学 大学院理学研究科 教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
立体構造既知の全てのタンパク質をアミノ酸モジュールに分解して、そのモジュールの機能や属性等の情報を付加し、研究者がアクセスできるデータベースシステムを構築する。タンパク質の構造と機能構築の原理の解明や、ゲノム情報からタンパク質機能構造の予測に資する上、酵素や新薬の創製にも繋がる。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
代表研究者はモジュール説の提案者であり、その説の実証に向けてさまざまな試みをしており、タンパク質科学研究としては大変よい成果を出している。ただ、それは長期的研究の一環として実施されており、この計算科学プロジェクトの研究開発成果物としてのプログラムなり、データベースについて、成果としてのアピールが弱いのが残念である。成果の有効な公開利用に向けた方策を是非とってほしいと考える。
プロテオーム配列空間からの正規構造の抽出
芝 清隆((財)癌研究会癌研究所  主任研究員)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
データベース化された全タンパク質の配列から繰り返し構造を抽出し、この繰り返し単位と、生物活性、立体構造、生物進化との相関を調べるシステムを確立し、インターネットで公開する。繰り返し配列の発現機能を解明するため、アミノアシルtRNA合成酵素の繰り返し構造を検索できるシステムを開発する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
プログラム自体は、ユーザインタフェースもマニュアルも比較的よくまとまったものとして評価できる。ただ、解析結果の利用については、その効用が今ひとつ見えない。アミノアシルtRNA合成酵素の研究者は多いと言うが、ライフサイエンス分野全体から見れば極めて限られている。少なくとも、広く公開して、出来るだけ多くの研究者に利用してもらうとともに、アノテーションをして、核酸や核酸―タンパク質相互作用研究者一般に興味を持ってもらう努力をして欲しい。
大規模並列処理技術を用いたタンパク質の構造解析システムの開発
清水 謙多郎(東京大学 大学院農学生命科学研究科 教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
溶媒の連続体近似を行うPoisson-Boltzmann方程式法を分子動力学法に組込む手法の統合的改良システム、タンパク質の配座空間のエネルギー曲面を解析する手法、ならびに分子動力学法の並列アルゴリズムを開発し、大規模並列計算処理により巨大なタンパク質分子の自由エネルギー的解析が可能なシステムを実現する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
多量の生物情報のデータ処理や、繰り返し計算には並列処理が有効であるので、その並列処理支援のための基盤ソフトウェアParsleyと、その上で動作する分子動力学計算の並列プログラムを開発し、計算機シミュレーションによって、従来法に比較して数倍以上の性能向上を実証したことは評価できる。しかし、既存プログラムをParsleyに移行するのは容易なことではなく、この点が実用上の大きな制約となる可能性がある。また、当初の計画課題である「溶媒効果の計算法」などに関する研究結果の報告がなく、一部テーマが未着手に終わったものと推定される。
金属酵素の機作およびDNA損傷の電子論的研究
吉岡 泰規(大阪大学 大学院理学研究科 助教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
チトクロムc酸化酵素の活性中心である(ヘムa3、CuB)鉄・銅原子2核系での酸素分子の水分子への還元反応機構を量子化学的手法のシミュレーションで解明する。更に、DNAの損傷におけるグアニン核酸塩基の1電子酸化反応機構と塩基間での正孔の移動機構を量子化学的手法のシミュレーションで解明する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究開発課題は、課題名である「金属酵素機作およびDNA損傷の電子論的研究」が示す通り、電子論の基礎研究である。タンパク質の立体構造が次々と決まる時にあたり、精密な精度の構造でも不明な電子の動きのパスを見つけることは意義深い。計算科学としても膨大な計算をするにあたり、計算方法の開拓を測ることは今後も期待できる。今回の研究開発では探索的な要素が多く含まれていたため、当初の具体的な目標の設定が不十分であるという面もあったが、ここで明確になった問題点の解明を継続し、プログラムの公開等を通してこの分野の基礎的研究の進展への貢献を期待したい。
連成有限要素法による人工心臓拍動のシミュレーション技術の開発
久田 俊明(東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
拍動型人工心臓血液ポンプの数値解析における、半球殻に類似した形状の膜の曲率が反転し完全に裏返るまで油圧によって押し込まれるという極限的な座屈後解析と、膜が裏返った時ほぼ全ての血液が押し出され再び血液が流入しポンプ内を満たすという境界領域大変動の流体解析が可能な三次元構造・流体連成有限要素解析プログラムを開発する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
数値計算として難しい問題に対して、プログラム開発、その数値的検証、実験的検証まで行った点は、大変評価できる。また、同種の問題に対する解法を示した点でも重要な貢献である。計算時間の膨大にかかる成果プログラムなので、並列計算機を利用することは不可避であるが、特定の計算機でしか利用できない点、計算効率の工夫の検討ならびに実際の拍動との対応など成果の今後の展開について、かなりの研究開発が必要と判断される。今後の取組みが課題である。
人体変形とそれに伴う心地のシミュレータの開発
前川 佳徳(大阪産業大学 工学部情報システム工学科 教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
乳房、臀部、背中及び手の変形に伴う圧覚、痛覚を示すシミュレータを開発する。乳房等の人体の各部が均質な超弾性体、或いは表層部と内部の2重構造の超弾性体で構成されているモデルについてプログラムを開発する。このプログラムは、乳癌の機械化触診検査ソフト、介護ロボットの作動ソフト、床ずれ防止ベッドや座り心地の良い椅子や動きやすい運動着等の開発に資する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
人体変形とそれに伴う心地のシミュレータの開発を目的とし、その要素技術であり、1)人体各部の変形解析プログラム、2)人体各部の材料特性値データベース、3)人体変形に伴って感じる「心地」のデータベース、の3つの項目に関して、概ね目標を達成する結果を得たものと判断できる。特に、これらの研究内容がSIGGRAPHなどの著名国際会議で評価されたことは、その新規性を裏づけるものである。今後は、多様な分野での具体的な応用対象を絞った研究の発展が望まれる。
機械学習技術によるボクセルファントム作成システムの開発
寺邊 正大(株式会社三菱総合研究所  研究員)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
人体の画像データ(CT画像データ、MRIデータ)を利用して、人体の外形、臓器・組織構造を詳細に模擬した人体ファントムに対してモンテカルロシミュレーションを行い放射線癌治療の被曝線量評価を行う時、ファントム作成作業の大幅な省力化と効率化を図るため、知識情報処理技術を応用した知的支援システムのプロトタイプを開発する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
CT画像データに基づき人体の外形と臓器・組織構造を模擬した人体モデルを自動作成するシステムを開発した。このモデルは、従来は専門家が数ヶ月間の手作業で作成していたものを、約1時間で作成することを可能とし、その精度に関しても実用上十分なものであることが確認されたことは評価できる。しかし、サブソルバーの開発に関しては、肺、皮膚、骨、軟組織の臓器認識は実現したものの、当初から難しいと考えられていた大腸や膀胱の認識は、今後の課題として残されている。
膜タンパク質構造・機能予測のためのプロテオーム情報解析システム
美宅 成樹(東京農工大学 工学部 教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
膜タンパク質構造の各特徴を支配する物理化学的な要因を表現する適切なインデックスを開発し、全プロテオームの30%を占める膜タンパク質の構造・機能情報を抽出するためにプロテオームの情報処理を行い、シグナルペプチド予測、膜タンパク質判別、膜貫通ヘリックス領域予測、膜内外トポロジー決定、膜貫通ヘリックス配置予測、タンパク質機能推定ができるシステムを開発する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
ポストゲノムシークエンスの問題として発現されるタンパク質の高次構造を予測する方法の開発があるが、3割を占める膜タンパク質の構造を、ゲノム配列から高い確率で予測するプログラムの開発を行ったことは、意義深い。ただし代表研究者の長期的研究の一環として実施しており、全体としては着実な成果を出しているが、この短期集中型事業の中で実施した研究開発の成果が、まとまったものとして出て来ていないように見えるのが残念である。短期間での研究開発なので、過去の研究成果やプログラム資産を活用することは避けられないが、プログラムやデータベースの公開利用など計算科学のプロジェクトとしての成果が見える形にしてほしい。
マルチスライスCTの低線量化への技術開発
中村 仁信(大阪大学  教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
スクリーニング用から精密検査用までの多種類の画像が短時間で同時に得られるマルチスライスCTのX線線量を従来の10~50%に低減したスキャン手法を開発する。更に、臨床的な情報は維持しながら画像処理で1枚にする画像フィルターを開発する。被曝による人体健康面の配慮をした上で、疾患部の検出効率の向上を目指す。
研究成果資料
なし
事後評価コメント
目標としては大変重要な開発テーマを設定して進めているが、マルチスライスCTの低線量化というCT技術の面では向上が認められるものの、実用化にはそれとセットになる画像処理技術の方では進展が認められない。計算科学事業としてはこちらが主なので残念であるが、画像処理の専門家の不在や協力がなかったことが、画像処理に関する成果を得られなかった原因と想像される。今後は医療現場側だけでなく、力量のある画像処理工学者のチームと共同して研究開発を進めることを強く勧める。

環境・安全分野

生物多様性データベースのプロテオーム情報による再構築
渡邉 信(国立環境研究所  部長)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
種の命名・記載データと標本・培養系統の生物材料資源データを網羅したデータベース、ゲノム情報の分類学的利用システム、及びタンパク質分子の全発現系解析システム等の開発を行う。塩基情報から得られた結果と不一致な形質発現に関与している分子を特定し、正確な分類学マーカーを系統樹にマップする研究を行う。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
生物多様性に関するデータベースの構築。特にバクテリアのデータベースを利用しやすい形に作ったことは評価される。WWWブラウザを通じて公開される形になっているので、広く誰にでも利用出来る。したがって、これが今後どのように生物学者を中心に一般に利用されていくかが本データベースの価値をきめる鍵となる。なお、特に計算科学上の新しい技術開発を狙ったものではなく、その面での評価は出来ない。
リスク対応型地域環境情報システムの開発
吉川 耕司(名城大学 都市情報学部 助教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
時間情報と空間情報を統合した、平常時と災害時に両用可能な自律分散型のリスク対応システムを開発する。具体的には、時空間情報処理が可能な多次元地理情報システム、時空間記述が可能な高圧縮データ構造、地域環境情報システムに必要な応用プログラムを開発する。本システムは震災時の復旧支援活動等に貢献することが期待できる。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
リスク対応型のハンディなシステムを作ったことは評価できるが、その有効性の検証は今後にかけられている。 開発言語にVC++が使用されているが、これをより一般のマルチメディア用言語に換えて、大勢の人が今後の利用、修正、開発が容易になるよう試みるべきである。その結果、防災対策を実施する行政との協働作業も容易となる。中心となるソフトは既存のもので、無償公開が予定されていないことは本システム利用上の決定的な障害であり、開発者において何らかの対応策の下に早期の公開を図られるようお願いしたい。JSTの成果発表会での例を除けば、論文発表、プレス発表等が1件もないのは問題で、成果の公表によって当該分野の重複した研究開発を避けることが必要である。
ダイオキシン抑制のための計算化学的手法に関する研究
田辺 和俊(物質工学工業技術研究所  首席研究官)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
ダイオキシン生成機構解明のため、廃棄物焼却炉内の燃焼反応をシミュレーションする計算化学的手法として、第一原理分子動力学計算法の高速化プログラムを開発する。約50原子系の反応解析を約100時間で完了させ、ダイオキシンの抑制対策を提言する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究は計算により化学反応の経路を追求しようとするもので、有害物質に関する反応の解析には大きな意味がある。膨大となる計算を限定されたモデルにより減少させて、ダイオキシンの生成ルートを検討し、低い環境負荷を実現するための諸条件を探り、あるいは経験側から知られている条件の根拠を見出している。意義は大きいが、成果のプログラムが公開できないことは問題で、計算科学としては好ましくない。公開が実現するよう要望したい。 なお、現実の焼却炉でのダイオキシンの発生は、飛灰上での触媒反応が主体ではるかに複雑なモデルが必要である。研究の基礎的な部分として考えるべきであろう。
超臨界流体の熱・流体・反応数値解析技術の開発
天野 研(株式会社日立製作所 電力・電機開発研究所 主任研究員)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
超臨界水(圧力22MPa以上、温度370℃以上)を利用した化学反応は、有機性廃棄物の減容・無害化・再資源化、有機溶媒の代替、エネルギー資源の形態転換などに有用な新技術である。自家開発の燃焼数値解析プログラムをベースにこの反応の数値解析プログラムを開発し、超臨界反応装置設計に資する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
研究開発は着実に行われた感じであるが、成果発表が機械学会論文集に1件は寂しい。本研究は、新産業の創出に直接寄与するものではないが、超臨界流体の応用は今後産業界に浸透してゆくものと見られ、成果を公開されれば、他の研究者・技術者が超臨界流体の振る舞いを計算によって予測する手掛かりを得られるので、非常に有用である。開発されたソフトウエアを他の者が利用できるようにすることが重要である。また、研究を継続して、その成果を公表されることを期待する。
CFD解析に基づく室内温熱環境の自動最適設計手法の開発
加藤 信介(東京大学 生産技術研究所 教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
室内環境CFD(Computational Fluid Dynamics)解析に基づく室内温熱環境の自動最適設計手法を開発する。室内の環境性状を設計目標値に最大限近似させるための室内の物理的な境界条件を求める手法、すなわち逆問題解析による環境設計の最適化を行う。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
室内環境モデルはこれまでいろいろな例があるが、人体の生理モデルを考え、それを室内環境と結び付けたモデルは殆どなく、その意味で興味深い。このモデル結果を設計にフィードバックする考え方をとっているのも好ましいが、実際にこれがどこまで実用的であるかを見極めるにはもう少し時間が必要だろう。しかし、短い研究期間にしてはかなりの努力が認められる。
地質構造の3D自動モデリング・メッシングツールの開発
向上 拡美(株式会社間組技術研究所  主任研究員)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
面積座標を用いて3Dモデルのデータ量を従来の1/100に留め、トポロジーCADで互いに切断関係にある地質構造部品を自動的に組み立てるツール、及び隣接地質ブロック間で粗密情報を継承しながら自動的に3Dメッシュを作るツールを開発し、土石流等の災害解析等に資する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
3次元自動メッシュ生成への要請は今後飛躍的に高まるものと考えられ、時宜を得た研究であり、米国との研究協力態勢を有効に活用したことなど、今後の発展の方向付けに関する知見が蓄積されたことの意義も高いと考えられる。むしろ、それらの成果を公表して社会的インパクトを与える努力が行われていないことが大きな問題として指摘される。成果の意義を裏付ける論文等の外部への発表等が一切無く、このままでは自己満足に終わりかねない。短期集中型であるので時間が足りないことはわかるが、特許、学会発表、プレス発表など何らかの努力はあるべき。申込書では社会的波及効果が記載されているが、それらと成果との関係もはっきりしない。成果の公表に努め、広く技術的インセンティブを高めてほしい。
波の影響を考慮した干潟水質予測モデルの構築と運用システムの研究開発
山田 満男(株式会社海洋工学研究所  取締役)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
波浪による砂泥の浮上及び輸送を予測する数値モデルと、干潟の水質と底質予測モデルを結合したシステムを開発し、干潟の水質浄化機能の解明、環境保全、修復技術の研究開発に寄与する。また、干潟生物環境情報データベースもあわせて開発する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究は現実的な条件下での干潟水質の予測モデルに関するものである。干潟は大変複雑な領域であり、その水質も予測は難しい。一方、生態系への影響は極めて大きく、信頼できる予測が待望されている。本研究では波の影響を入れたモデルと計測可能なモデルパラメータの両者を検討し、実用上有効なシステムを開発しようとしたものである。アセスメントの実施者からの期待は大きく、成果はあったと考えられるが、プログラムの相当部分が公開を考えていない点が問題であろう。
画像ベクトル表示による材料欠陥目視検査の自動化技術の開発
兼本 茂(株式会社東芝  主幹)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
大型発電プラントの経年劣化、放射線損傷による亀裂の目視検査を遠隔自動化するため、3波長による検査画像を3次元ベクトル表示し、欠陥の特徴を顕在化させるシステムを開発する。更に、この画像の復元処理で視認性を高める。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
画像から材料欠陥を検出するプログラムを対象としているが、基本の考え方は比較的簡単なので、目的が一応達成された、という研究代表者の言い分は一応正しいと思われる。ただ、この場合、どのような欠陥が、どのような精度と確度で検出出来るのかは必ずしも明確とはいえず、やはり実用性の高低は今後の応用を待つべきだろう。また、内容の学会発表等についても、もう少し積極的に各方面に行うことが望まれる。
プランクトン蛍光の画像解析自動処理システム
熊谷 道夫(滋賀県琵琶湖研究所  総括研究員)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
特定波長光に蛍光を出すプランクトンのクロロフィルやDNAを蛍光画像として取り込むシステム及び微生物の画像データベースを用いて、塵や泥などの様々な夾雑物を含む試料からプランクトン等の同定と計数を行うシステムを開発する。本システムにより赤潮等の環境異変に迅速対応が可能となる。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究は環境科学、生態学で重要なプランクトンの自動計測に関するものである。基礎的な計測技術の開発を目指したもので、研究者の負担を軽減する重要な技術開発である。研究途上、プランクトンの運動による測定上の困難が発生したようであるが、これは技術的に解決の可能性はある。また形態に関する判断は高度で目視のレベルに達するのは容易ではないが、実現できれば利用価値は大きい。実用化のため他の類似の方法との比較検討も十分に行う必要がある。
リモート制御による大規模構造解析システムの開発
渡邊 英一(京都大学  教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
実験装置とオンライン化したコンピュータを連携させるハイブリッド実験手法の開発と高度化を達成し、構造物の耐震解析システムの検証を行う。このために、制御用コンピュータの遠隔操作技術の開発、並列ハイブリッド解析アルゴリズムの開発を行う。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
最近米国では実験施設の全国ネットワーク化構想が進み始めているが、日本はこの分野では全体的取り組みが後れをとっている。いずれにしても、本研究のテーマは構造工学における次世代のintelligent experimentationの中核をなすと考えられる。本研究で開発したプログラムを実際に運用して有用性を検証したことが評価される。このように、大規模実験系を階層化・分散化する努力は評価できるが、精度検証や、こうした実験の存在意義を決定づける非線形領域への展開など、今後の課題も多い。また、この種のソフトは装置依存性が強いので、汎用性を獲得するためには産業界での個別装置のIT標準化も必要と考えられる。この研究で得られた成果を十分に公表して、この分野に関する関心を高め、その中で競争的な発展が行われるよう努力を望む。また、特許が申請されているのはよいことである。
都市温熱環境シミュレータの開発
森川 泰成(大成建設株式会社 技術研究所 課長)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
大気環境を予測するために熱流体解析システム、マルチグリッド分割した解析領域を個々のCPUで並列処理するシステム、解析結果を3次元グラフィックス可視化するシステムから成る環境シミュレータを開発し、都市の緑化計画や温熱環境改善に資する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
都市の環境シミュレータは今後の重要なテーマで、その大規模複雑性を解決するために階層化、可視化などのさまざまな工夫を取り込んでいる点は評価出来る。ただ、現状ではシミュレータのプログラムが出来たという段階なので、その妥当性等については今後に任せるしかない。
固体力学諸問題の新しい離散化解析法(TK法)の開発・検証
川井 忠彦(富士総合研究所  非常勤技術顧問)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
メッシュ分割技術の抜本的簡略化と、計算精度の保証と、粒度の問題の起こらない大規模計算法の開発を目指す。有限要素法に、修正された胡-鷲津の原理を用いて隣接要素間の未定係数の関係式を導き、直接法で解く。この非弾性解析は極限荷重の決定に資する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究は構造解析の理論性の強い研究で、まだプログラムが出来た程度であり、応用と検証は今後になる。研究のレベルは高いが、評価には時期尚早といえる。固体力学系の計算を根本から見直して大規模計算、特に並列計算に適した計算法を見出そうとする姿勢は高く評価されるべきである。学会、国際会議での発表は積極的に行われているが、本研究の手法を産業分野で一般化するには更なる研究開発が必要であろう。
ダイオキシンの定量的リスク(毒性)評価システムの研究開発
藤井 敏博(国立環境研究所  上席研究官)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
ダイオキシン異性体の分子構造や電子状態から分子の平面性、イオン化ポテンシャル、電気陰性度の算出及び定量的構造活性相関用ニューラルネットワーク法の実用化を通じて、定量的リスク(毒性)評価システムを開発する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究では有害な物質あるいは危険な物質の諸物性、特性などを構造から推定しようとするもので、計算科学にはふさわしいテーマである。しかし、一方では構造から性質が決定できるほどに理論は進歩していない。そのため基礎物性であるいくつかの指標と構造について、毒性などとの相関を調査検討し、実用に耐える構造活性相関を見出そうとしている。ダイオキシンを対象としているが、構造とイオン化ポテンシャル・電子親和力が毒性と関連していることを明らかにしている。但し、毒性には多くの側面があることに留意する必要あり。
ソフトコンピューティングによる耐震性能評価システムの研究
堤 和敏(株式会社フジタ 構造設計部 担当課長)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
顧客が性能を選択できることによって、より満足度の高い耐震構造物を設計するため、地震による被害レベルと構造物の性能を多様な顧客の満足度で表現し、構造物の地震応答予測と制御シミュレーションを行う構造物設計評価システムを開発する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
建築設計は、固定的基準による仕様設計から、選択的基準による性能設計の時代へと移りつつあるが、その実現のためには、設計の内容と構造性能の間を結ぶ信頼性が高い性能評価法が必要となる。本研究ではそのための有用な性能評価プログラムの開発が行われている。性能設計自体は本研究の新しい概念ではないが、その実現のための具体的方法論とそのためのひとつのツールを開発したところに意義がある。また、短期間の研究の中で実験的検証も行われている点が評価される。今後は、より多様な性能項目の評価へ拡張して総合的な性能設計ツールとしての完成度を高めることが望まれる。さらに、性能設計の概念は、業界の受注方式、発注者の姿勢が多様化・透明化されることを目指すものであり、それは社会におけるリスクとコストのバランスについての考えを変革する契機となりうる。この観点からも、成果物を業界の利用に供しうるよう、何らかのフォローアップが望まれる。
地域環境騒音の計測・心理評価システム
安藤 四一(神戸大学 大学院自然科学研究科 教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
不快感のような人間の心理評価に結びつく聴覚-大脳機能モデルに立脚した環境騒音評価システムを開発する。計測システムは時系列に騒音の音圧振幅を取り込むバイノーラル騒音計とコンピュータから構成される。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
騒音は評価が容易ではないが、人間の心理まで考慮した検討が必要である。本研究では聴覚-大脳機能に立脚した計測システムを作ることを試みている。バイノーラル(両耳聴)の騒音計及びそれらの相関解析システムを構築している。このシステムを用いて様々な騒音源の特性の把握を行いつつあるが、さらに心理評価あるいは脳神経的評価と結合させていく必要があろう。

地球・宇宙観測分野

人工衛星画像による3次元GISプラットフォームの開発
野口 正一(会津大学  学長)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
人工衛星画像からウォークスルーが可能な3次元地図(VRML)を作成するプラットフォームソフトを開発する。森林基本図等のアナログ地図からelevationデータを取得し、得られた座標データを基に人工衛星画像を3次元イメージDEM(Digital Elevation Model)化し、高速VRMLレンダリングで作成する3次元地図は地球温暖化、環境・災害調査等に活用が期待される。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
既存の技術を活用し、実用化の高い3次元GISプラットフォームを実現したことは高く評価できる。難易度が相当程度であるものを、具体化したことは、計画が妥当であり、会津大学の体制が適当であったことによるものと判断できる。 今後は、この成果の上に3次元地図情報にもとづいたソフトウェアの開発が期待できるが、それらとのインタフェースがとり易いかどうかが決め手となる。しかし、その点に関しては判断することはできない。 なお、3次元地図情報を利用したソフトウェア・コンテンツの開発が期待されている分野が少なくないことから新産業の創出に資する可能性は高いが、この成果物の存在、有効性をいかに世間に知らしめるかに依存する。研究開発者とJSTの、この面での役割をどうするかを早急に検討する必要があるものと思われる。類似技術が他にないわけではない(NASA)ので、本研究の特徴を生かして、早期に応用が広がるように期待している。
地球惑星流体現象を念頭においた多次元数値データの構造化
林 祥介(北海道大学 大学院理学研究科 教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
地球惑星科学で扱っている流体現象の多次元データのうち、主として時空間データとその解析手法を吟味し、可能な構造化手法を探り、データの形式を定め、オブジェクト指向型言語を用いてデータ解析アプリケーションへ実装する。本研究開発の中で提案されるデータ記述の共通仕様は、データ流通・解析の効率化に役立つことが期待される。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
ユーザの立場である地球物理の研究者が、理論データ解析に必要なデータ構造やライブラリーなどを自ら開発することの意義は高く評価できる。従来、データ構造やライブラリーの研究開発は、情報科学の分野で行われるのが常であったが、このような研究開発自身が研究と密接に関連していることから、データ構造やライブラリーの開発も本来の研究の側面があるからである。 オブジェクト指向でのデータ構造化、ライブラリー開発などが目標どおり開発されているように見受けられることから、今後更に発展させ、国際標準化に向けた開発が期待される。 また、成果公開のWWWページ(http://www.gfd-dennou.org/arch/davis)が用意されており、成果普及への意気込みも感じられる。しかし、より広い成果普及を狙うためには、使い易いデモの採用やページ構成に工夫が必要である。そういった予算やマンパワーの支援も考慮すべきだろう。
地理画像変化域抽出の自動化
小杉 幸夫(東京工業大学 フロンティア創造研究センター 助教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
異なった時点で撮影された2画像をCoincidence Enhancementという脳型情報処理機構に基づいた独自の非線形写像によって照合し、そのマッチングスコアの分布から地理画像上の変化域を自動抽出するシステムの実用化を図る。本システムは、へリコプター等からの映像をもとに短時間に被災情報を収集でき、災害救援活動に寄与する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
自己評価の点数が低いようだが、全体としてみれば、よく遂行されている。また、提案されている方法の新規性は評価できる。今後の展開、特に建物の影の影響の補正について、早期に解決されることが期待される。 この種の研究は、おそらく軍事目的でなされたものがあると思われるが、この研究のような民生用の開発研究では、大掛かりなものは少ない。したがって、資金提供側としては、特許で権利を保護するよりも、広く世界的に普及させることを、エンカレッジすべきであろう。 公表された成果は少ないが、短期集中型であるため、これから成果が発表されるものと期待している。ただし、成果プログラムの権利関係(技術要素の特許、東工大TLOとの関係)、DiMSIS-EXとの関係などに注意する必要がある。
人工衛星による大気中CO2濃度測定手法の開発
今須 良一(資源環境技術総合研究所  主任研究官)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
人工衛星が測定した地球大気の赤外線スペクトルデータから、CO2の全球濃度分布を求めるデータ解析手法を開発する。高分解能大気放射伝達シミュレーターを用いた観測シミュレーションにより、開発した手法の精度評価を行うと同時に、1996年に打ち上げられたADEOS衛星搭載IMGセンサーのデータを解析し、実測値と比較評価を行う。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
着眼はすぐれ、社会的な関心・貢献も大きい。常時、衛星でCO2濃度が測定できるようになれば、地球環境のCO2循環のメカニズムを解明することができ、その社会的貢献は非常に高いといえる。本研究ではシミュレーションが重要であり、主たる部分であろうが、そもそもどこまでシミュレートできるのかの判断をどのように行なうのか困難が予想される。これは衛星データと同時に観測による実測データを取得することが容易でないことによるのであろう。 本研究は開発のきっかけとして重要な成果を出したと認められるが、今後さらに、観測による実測データとの比較を繰り返すことにより研究を進める必要がある。最終的な目標と思われるものは、短期プロジェクトとしては多少無理が感じられるが、うまく計画を立て、実行したと判断できる。今回の成果を元に今後の研究の発展を期待する。また、困難が予想されるが、今後の研究により実用化されることを期待する。 短期集中型であるため、現時点での外部発表などが少ないが、これから成果が現れることを期待している。
次世代型汎用計測・制御カーネルの研究開発
黒川 眞一(文部省高エネルギー加速器研究機構 加速器研究施設 教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
大型実験系から小規模測定系まで共有できる、既に構築している汎用化可能な計測・制御モデルのオブジェクト分析再検討を行い、汎用化計測・制御カーネルの実用化研究を行う。市販パッケージ計測ソフトとの融合、最新ネットワーク技術による各種計測・制御ソフトの融合とグローバル分散運用を試み、データやアプリケーション・プッシュ技術の導入を図り、実用化試験を行う。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
難易度は相当なものであるが、準備が着実に行われていたこともあり、当初目標を達成している。ソフトウェア外注先等の選定に手間取ったようだが、全体的には、体制、計画等は妥当な線に落ち着いたようである。 センサーネットワークが今後ますます重要になることが予想されることから、オブジェクト指向でコンパクトな計測制御向きカーネルの実用化は喫緊の課題である。本成果は、そのための貴重なプロトタイプと考えることができる。計測制御あるいはリアルタイム系のシステムに貢献すると考えられ、計測制御分野の共通基盤を汎用カーネルとして実現した点は高く評価できる。本プロジェクトはまさに計算科学技術活用型で推進すべきひとつの典型と言える。 しかし、このプロジェクトはこれが完成ではなく、できたシステムが他でも使われて完成するものと考えられる。この点に関しては、プロジェクトグループの今後の努力に期待するのは言うまでもないが、JSTとしてもできたシステムを「使う」プロジェクトを公募し、必要な援助を開発者と使用者におこなっても良いのではないか。その場合、ソフトウエアの開発が外注されていることは後々のメンテナンスを容易にするのではないかと期待される。 また、今後いかに他の人が使えるよう支援するかが課題である。優れた成果であるからそれで普及するわけではなく、新たなユーザーを引き付けるためにはJSTの支援も含めた努力が必要である。 なお、研究成果は計測制御関連の学会だけでなく、計算機科学関連の学会に投稿する必要もあると思われる。
天体回転プラズマシミュレータの開発
松元 亮治(千葉大学 理学部 教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
X線天文衛星で観測されたX線放射を伴う天体活動現象を、重力まで含めた3次元磁気流体として数値解析し、実験してきた。このプラットフォームに自己重力、放射冷却、熱伝導等のモジュールをプラグイン形式で接続したシミュレータを開発し、数値実験によってX線スペクトルの時間変動等を求めて観測と比較する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
数値シミュレーションによる研究では、今後スーパコンピュータの技術革新にともない更に大規模・大容量化が進み、高精度の計算が可能になることが予想される。また、大規模構造から局所的構造まで様々なスケールで相互に競合する物理過程を解くためには、更なるシミュレーション技術の発展も必要とされている。本研究は、そういった中で、従来の電磁流体コードを発展させ、自己重力・熱伝導・放射冷却を組み入れたコードを開発した点で評価できるだけでなく、Web画面からの初期値入力などフレンドリーなユーザ・インターフェースを開発した点も、将来のプログラム標準化を目指す上で評価できる。 また、実用化よりも基礎研究としての側面が高い研究課題であるが、天文学だけでなく核融合などの高温プラズマ、ダイナモ問題、惑星磁気圏などとの関連は深く、物理学研究における波及効果が期待される。 国際学会での招待講演、一流ジャーナルへの論文投稿がされており、成果がでているが、電磁流体という高温プラズマ中での計算コードであるので、産業への期待度よりも未だ研究的側面が強いように思われる。また、標準化も重要な課題となるであろう。 しかし、残念なことに、代表研究者のホームページ(http://www.c.chiba-u.ac.jp/~matumoto/research/index.html)には、本研究プロジェクトの名前がリストされているものの、そこから成果公開等へのリンクが貼られていないため、プログラムやデータを閲覧できず、実物については評価できなかった。
衛星データを利用した列島応力分布の逆解析手法の開発
堀 宗朗(東京大学 地震研究所 助教授)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
衛星データから得られる歪み分布を利用して、日本列島全体を対象に、各地域の応力分布を逆解析する数値計算手法を開発する。主にGPSデータを24時間365日間逆解析し、刻々と変化する応力分布をモニタすることを試みる。本手法は、地震等の異常現象の発生推定に貢献することが期待できる。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
報告書の記述からは具体的な成果が読み取れないことから、評価が割れた。報告書の書き方に問題があるものと思われる。 具体的には、本研究では、プレートなどの境界条件の取り方にこそ工夫があるのだと考えるが、その辺りの記述がないこと、また、日本列島全体を一挙に解くように書かれているが、精度を上げるにはもっと狭い範囲で解かなければならないと想像するにもかかわらず、この辺りの工夫が明らかにされていないこと、などがある。しかし、外部発表等については、高く評価できることから、期待していた点の記述がないことは極めて残念である。 また、代表研究者のホームページ(http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/HORI-LAB/index.html)には、本研究プロジェクトの名前がリストされているものの、そこから成果等へのリンクが張られていないため、プログラムやデータを閲覧できず、実物については評価できなかった。ネットワークによる成果の公開を期待したい。
X線CCDの新しいイベント検出方法の確立とそのシミュレーション
宮田 恵美(大阪大学  助手)
研究期間(年度) 1999~1999
研究概要
天体からの微弱X線検出のため、CCDの1画素より小さい穴のメッシュをCCDの前に配置し、CCD内部で生成される電子雲の形状を測定できるようにした。この結果を元にX線イベントのパターンを調べてX線入射位置とエネルギーを決定する手法を確立するための基礎開発として、大規模計算システムを作成し、実データに基づいたシミュレーションを行う。
研究成果資料
なし
事後評価コメント
非常にタイムリーにプロジェクトをまとめており、新しいアイデアに基づいた本実験は評価できる。CCD素子を使った画像解析における位置精度の向上は重要な応用性のある問題であり、今回のX線領域における研究の意義は非常に高く、X線撮像技術に対し大きな貢献が期待される。 本研究で評価されるべき事の一つは、小さな電子雲の位置を精度良く決め、シミュレーションと比較することで、開発した手法の有効性を示すことができたことにある。X線撮像の高分解能化は、X線光源や反射鏡の高性能化に伴い応用範囲も広く、社会的貢献は大きいと認められる。 まだ基礎開発的な側面が強い。しかし、リアルタイムでの処理が可能になって始めて言えることであるが、CCDにおいてピクセル数の増加が困難になった場合、分解能をあげる方法として注目されるだけでなく、積極的に電子雲の広がりを利用したX線撮像用検出器の開発も期待される。さらに、将来衛星搭載可能なオンボード処理できるようなシステムに向けて更に開発が進むことも期待される。 また、国内外学会での発表や一流ジャーナルへの論文投稿がされており、順調に成果がでている点も大いに評価できる。

1999年度採択課題(基本型)

フォトクロミック動作系の理論計算による徹底解剖
中村 振一郎(三菱化学株式会社 計算科学研究所 所長)
研究期間(年度) 1999~2002
研究概要
多様で厖大な可能性を秘めた独自のフォトクロミック系材料を対象に、計算科学技術なるが故に提示できる知見と実験のフィードバックを合わせ、高度ネットワーク利用型の共同研究方式で、フォトクロミック動作系を理論的に徹底解剖する。自然な形で新規機能材料のコンセプト提示を目指し、新たな方法論の具現を志す。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究では、所期の目標を100%達成したわけではないが、フォトクロミック材料開発にとって重要な材料の励起状態における量子的計算とその知見に基づき、機能性材料の設計及び検証を実施しており、その目標に対して大きな成果をあげたと評価できる。但し、ネットワークの高度利用という点では、必ずしも充分ではなかった。  論文発表については質、量ともに充分であると考える。特許については出願が2件あるが、研究成果の割には少ないように思われる。  主たるソフトウェアについては、公開して社会に還元している点は評価できる。今後とも改良・維持に留意頂きたい。  成果の実用化という観点から言えば、CD-RやDVDなどの大容量記憶素子の材料には多くの特性が要求されており、これらの材料設計に大きな役割を果たすことが期待される。材料の光応答や、光励起による反応制御はこれからの大変重要な課題であり、特定の系とはいえ、励起状態の詳しい解析から反応機構を解明したことは、この分野において重要な貢献を果たすと思われる。  この分野は、日本が最先端を行っており、国際協力のもと、新しい情報技術の基盤となることが期待される。  企業において、このような目的基礎研究を行うことが難しい状況下で画期的な成果をあげたことには大きな意義がある。
完全長cDNA間の共通ドメイン検索システムの開発
松田 秀雄(大阪大学 大学院情報科学研究所 教授)
研究期間(年度) 1999~2002
研究概要
高等動物の生体メカニズムを知る上で極めて重要である完全長cDNA配列の解析を目指し、完全長cDNA配列相互の類似度に基づいて、複数の列間で共通するドメインを体系的に検索できるシステムを開発する。配列相互の類似度判定には,従来の方法とは全く異なるオリジナルな手法であるグラフ理論に基づく配列類似性判定尺度を用いる。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
高等動物の遺伝子が持つ複雑なドメイン構造の解明を目的とし、具体的にはマウスの完全長cDNA配列から共通ドメインを検索する手法の開発を課題に設定した当初計画は、本研究開発課題期間における遺伝子解析分野の急速な進展に鑑みて非常に時宜を得たものであったといえる。  完全長cDNA配列間の共通ドメイン検索システムの開発に関しては、当初の規模を上回る約6万個のcDNA配列の解析を行い、充分な成果を達成するとともに、データ生産者としての理化学研究所との緊密な共同研究により、計算科学的アプローチの生物学への有用性を示したことは高く評価されてよい。また、国際共同研究プロジェクトに参加・貢献することによって、我が国の存在価値を示すことができた点も評価できる。しかしながら、分散コンピューティング等のネットワーク利用技術に関しては、顕著な成果は認められない。  成果として得られたソフトウェアは、タンパク質アミノ酸などの配列集合から配列間に共通したドメインを検出し、その結果を表示するツールとして、ヒト等のより複雑な生物のゲノム配列やcDNA配列に対しても適用されることを期待したい。また、このシステムにおける可視化技術は様々な分野で波及効果があると考えられる。  なお、検出された共通ドメインは、遺伝子解析にとって有効なデータとなり、これに基づく研究成果が、将来的には新しい医療や創薬に結びつく可能性はあるものの、ただちに新産業や新事業の創出が期待できるものではない。  論文発表等に関しては、満足できる成果と考えられる。特に、本研究開発課題は情報科学と生物学という異分野の融合テーマとして計画実施されているため、双方の分野に渡る幅広い情報発信が可能となっただけでなく、国際共同研究プロジェクトの一員としての活動が、論文発表に対して良い効果をもたらしたものと考えられる。特に、理研の林崎チームのFANTOMIとIIのNature論文の出版にもこのシステムが寄与したと思われる。ただし、知的所有権に関して、特許出願が皆無であることには不満が残る。
大気海洋相互作用研究データベース共有システムの構築
功刀 資彰(京都大学 大学院工学研究科 助教授)
研究期間(年度) 1999~2002
研究概要
二酸化炭素ガスの海洋への吸収機構の解明を目指し、大気海洋シミュレーションによる数値データベースと衛星観測データベースを同時にネットワーク可視化し、両者の付き合わせがリアルタイムに可能な遠隔地間の共同研究プラットフォームを構築する。これにより地球環境モデリングの高精度化に資する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究の目的は、二酸化炭素の吸収機構の解明を目指し、大気海洋シミュレーションを核とした数値データベースと衛星観測データベースとを同時にネットワーク可視化する遠隔地間の共同研究プラットフォームを構築することであった。データベースとプラットフォームの開発については所期の目標が達成されており、乱流風波条件下における気液二相流シミュレーション等が実施され、特に、波のCO2吸収に関する基本的知見が得られている。また、シミュレーション結果などの大規模データ、可視化データなど高速WEBを介して共有するシステムを開発したことには意義があると評価できる。  なお、今後は、地球環境変動メカニズムの解明で大きな課題となっているCO2のミッシングシンクの解明、特に大気-海洋間の炭素循環の研究に今回の成果をいかに活かしていくかについて取り組んで頂きたい。  また、将来的に本成果を折り込んだ大気海洋間の炭素循環モデルが完成すれば、世界中の多くの人が利用する可能性が高いと考えられる。  研究成果の公表等の観点から言えば、シミュレーションに関する論文はかなり多く、一応充分であると評価できるが、知的所有権での達成度はあまり高くない。これは環境研究において、成果は人類全体に貢献するべきものであるという観点から、知的所有権に関しては他分野とは異なった見方が必要であるかもしれない。
高速通信網と次世代衛星通信システムを利用した大気リモートセンシングの研究
西尾 正則(鹿児島大学 理学部 助教授)
研究期間(年度) 1999~2002
研究概要
低軌道地球周回衛星などから送信される電波資源(特に,センチ波の資源)を利用した地球大気状態の計測法の確立を目指す。高速データ通信網と高速の計算機により多地点観測したデータから上層大気中の水蒸気の分布とその流れを短時間で推測し、リアルタイムに大気状態を計測する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
衛星からの電波を利用した干渉システムの構築およびそれを用いた大気揺らぎの測定は、当初の計画どおりに行われている。特に公衆回線を利用したVLBIシステムと高速移動する低軌道衛星の追尾システムを完成させ、高精度での実時間大気揺らぎ測定を行ったことは高く評価できる。但し、今後の課題として、①今回開発したシステムが他のシステム(GPSによる方法等)と比較してどの程度の優位性を持つのかの定量的な検討、②本研究の目標であった測定結果に基づく大気モデルの確立が残る。  実用化の観点から言えば、測定地点の増加とそれらのデータを集約する技術が整えば、本研究のアイディアを生かした実用的な大気中水蒸気観測が可能になるものと期待される。大気の詳細な観測が可能となれば、環境問題の解決等へ向けたデータ作成や、大気揺らぎデータの取得による宇宙観測等の高精度化に役立つことが期待される。  また、本研究で得た電波干渉計に必要な基礎実験データは、例えば国立天文台ALMA計画のような電波干渉計研究などへの波及効果が期待できる。  将来的には、本計画で達成された成果が一般の商用衛星などに使われる可能性もあり、また、地球環境予測の補完的データとして意味を持つようになることも考えられるが、それに至るまでには、更に他の分野と連携しつつ基礎的研究開発が必要である。  研究開発の成果の公表、知的所有権等に関して言えば、原著論文16件、口頭・ポスター発表48件、特許出願2件および成果プログラム3本ということで、数的には評価できるが、今回のプロジェクトの成果に基づく発表が国内に限られており、海外への論文の公表はない。これからの論文発表に期待したい。

2000年度採択課題(基本型)

ナノスケールデバイス設計に向けたデジタルファクトリの構築
丸泉 琢也(株式会社日立製作所 基礎研究所)
研究期間(年度) 2000~2003
研究概要
第一原理材料解析、メゾ力学弾塑性解析、粒子ベースデバイス解析、そしてこれら技術を複合する連成解析技術からなるデジタルファクトリを産・官・学の連携により開発、ナノスケールデバイスの先行基礎研究加速と支援を目指す。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究開発課題では、マルチスケールシミュレーションを骨格とした「ナノスケールデバイス設計のためのデジタルファクトリ」を構築することを目標としており、この目標はほぼ達成したといえる。  本研究開発の成果は、現在の産業界のみならず、近い将来実現されると思われる超微細MOSデバイスの開発における新材料探索、プロセス評価、デバイス構造最適化などへの利用も期待される。  この分野のプロセス技術の進歩は目覚ましいので、継続的な研究を続けていくことが重要である。特に、本ソフトウェアを構成する「材料設計」「デバイス構造設計」「デバイス動作設計」の各システムの性能(信頼性、効率、機能)を向上することに加え、本ソフトウェアを利用して設計されたデバイスを実際に作製・評価し、その結果をソフトウェアにフィードバックし、改良を行えば、非常に有用なものと成り得る。なお、研究成果の発表や知的所有権の取得に関しては、研究成果から考えると少ないように思われるため、今後も学会等を通じて発表を行うことを期待する。
バーチャル・ハート:突然死予防のための心臓電気現象の包括的シミュレータの開発
杉町 勝(国立循環器病センター研究所)
研究期間(年度) 2000~2003
研究概要
遺伝子・イオンチャンネル情報から心臓全体の電気・機械的活動を再構築する包括的大規模シミュレータ(バーチャル・ハート)を開発し、先進国の主たる死因となっている致死的不整脈の機序解明や診断治療戦略の作成に役立てる。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究課題では、多様な心臓電気現象を統合的にシミュレートする「バーチャル・ハート」により、致死的不整脈の発生機構の解明および新しい診断法の開発、さらにはネットワークを介した治療情報提供システムの開発を目標としていた。バーチャル・ハートの開発、特にシミュレーションの高速化技法など計算科学的な面に関しては、概ね当初目標を達成したと考えられる。また、論文発表等も積極的に行い、可視化技術シンポジウム2001にて優秀賞を受賞するなど外部からの評価も高く、計算科学の有用性を一般に認知させたことも評価できる。  現時点では、成果が直接的に事業や産業に結びつく段階ではないが、将来、本研究課題の発展が新しい診断法に結びついていく可能性も十分にある。今後も長期的かつ継続的な基盤的・応用的研究の取り組みを期待したい。
海洋環境保全技術としての海氷変動予測の実用化
山口 一(東京大学 大学院工学系研究科)
研究期間(年度) 2000~2003
研究概要
大気・海氷・海洋の干渉機構を明らかにし、これまで20~30%程度であった海氷変動予測計算の精度を10%程度にまで高め、1)氷海生物環境の機構解明と保全、2)構造物・船舶への氷荷重推定と崩壊予測、3)氷海流出油の拡散予測、4)数値気象・海象予報の高精度化、への実用化を行う。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究開発課題では、大気・海氷・海洋の干渉機構を明らかにし、これまで20~30%程度であった海氷変動予測計算の誤差を10%程度まで改善するとともに、氷海流出油の拡散予測を行うことを目標としていた。  海氷変動については、高精度な予測が可能なモデルを開発し、従来の基準を一歩抜け出したものと評価出来る。一方、油流出については、実データが少なく検証が難しいため、今後何らかの方法でそのモデルの適合性をチェックすることが必要である。  本研究において開発されたシステムは気象・海洋・環境・水産等、様々な分野で利用されることが期待されるが、そのためには、環境リスク評価や経済評価に関わるモジュールも付け加え、海洋環境マネジメント支援システムとして社会との迅速かつ効率的な情報交換を行えるようにする必要がある。今後も継続的な研究・開発を行い、精度を高めつつ、社会への貢献を期待したい。
宇宙シミュレーション・ネットラボラトリーシステムの開発
松元 亮治(千葉大学 理学部 )
研究期間(年度) 2000~2003
研究概要
これまで別々に用いられてきた天体シミュレーション用とスペースプラズマシミュレーション用のコードをネットワーク上で統一的に扱い、シミュレーションの実施を支援するとともに、シミュレーション結果をデータベース化して研究者の共有資産とするネットラボラトリーシステムを開発する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究開発課題では、宇宙天文分野のシミュレーションプラットフォームを構築し、研究者に広く公開することを目標としていた。この分野の開発・普及は米国等に比べて日本が非常に遅れている分野であったが、本研究開発で開発されたシステム「CANS」は、国内外の多くの研究者にとって利用価値の高いものであり、諸外国でも例をみないものである。単なるプログラム開発にとどまらず、構築後のシステムを教材とする研究教育セミナーも開催されていて、初期の目標は十分に達成された。  また、原著論文31、学会発表172と非常に多く、成果の公開という点でも十分な成果をあげた。国内のみならず、本システムの英語化を行いInternational Simulation Schoolの開催を計画しているが、今後は英語化も含めたマニュアル化を一層進め、国際的に見ても大きな資産となることを期待したい。

2001年度採択課題(基本型)

物質・材料分野

ナノスケール触媒創成シミュレータの開発
大野 隆央(物質・材料研究機構 計算材料科学研究センター 副センター長)
研究期間(年度) 2001~2004
研究概要
本研究課題では、ナノスケールで制御された触媒系における触媒反応を解析するための第一原理に基づく大規模シミュレーション手法を開発し、新奇な機能をもつナノスケール触媒の設計システムを構築することを目標とする。具体的には、ナノスケール構造という多数原子系を解析する量子力学的な超大規模シミュレーションの実現と、可能な触媒活性点と反応経路の中から最適な機能を理論計算によって探索する方法を確立する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究開発課題では、ナノスケールで制御された触媒系における触媒反応を解析するために第一原理に基づく大規模シミュレーション手法を開発することを当初目標とした。これに対し、第一原理オーダーN法の開発、超並列計算機の適用等による量子力学的な超大規模シミュレーション(数千原子のオーダー)、マルチタスクな機能解析あるいは実験解析ツールの開発等を行い当初の目標はほぼ達成したといえる。  本研究開発の成果である第一原理オーダーN法は、様々な超大規模シミュレーションの実現に対する基礎コードとして、有力な手法を提供するものと期待され、燃料電池、排気ガス浄化、光合成などにおける触媒の創成研究に寄与できると考えられる。  また、計算科学領域での寄与という観点からも、大規模計算が可能なオーダーN法第一原理計算手法と高精度な解析を可能とする擬ポテンシャル第一原理計算手法を併用して、触媒系を第一原理的に解析するシステムを構築したことは評価できる。  なお、研究成果の発表については質、量とも満足すべきものである。知的財産権の取得についてはもう少し力を入れるべきであった。
並列計算グリッドを用いたハイブリッド量子/古典数値解析法の開発
尾形 修司(名古屋工業大学 しくみ領域 助教授)
研究期間(年度) 2001~2004
研究概要
複数の並列計算機をネットワーク接続した計算グリッドを効率良く利用し、精度の異なる幾つかの量子及び古典的計算手法を適切に動的に組み合わせることで、様々なナノ材料の実際的シミュレーションを高精度に行うコードを開発する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究課題では、連続体的シミュレーション手法から原子論的シミュレーション手法まで材料研究分野で必要となる様々なシミュレーションモジュールを結合、ハイブリッド化し大規模グリッド上で運用できるようにすることを当初目標にした。これに対し、原子論的領域でのハイブリッド化のために、バッファクラスター法の考案を行い、この部分については大規模クラスター群上での運用テストに成功した。一方、連続体的手法については、原子論的手法とのハイブリッド化につながる粗視化粒子法を開発するなどの成果をあげた。  本研究開発の成果を用いて、実用的規模のグリッド(日本、アジア、アメリカ)上でシミュレーションを実行したことは高く評価でき、今後の発展が期待される。また、異なるスケールのシミュレーションモジュールを結合するハイブリッドシミュレーション技術の開発、グリッド並列化は新しいタイプの手法として、様々な分野で重要性を増すと考えられる。  なお、研究成果の発表については、数が多いとは言えないが著名な論文誌に掲載され、またワークショップの主催など積極性も見られる。更に積極的な発表が望まれる。
ナノ物質・量子シミュレーターの開発
押山 淳(筑波大学 物理学系 教授)
研究期間(年度) 2001~2004
研究概要
量子力学の第一原理に立脚した計算科学のアプローチと、より多数の原子群を扱える経験的アプローチを有効的に結合したシミュレーションにより、ナノメートルのスケールでの物質創成の制御の指針を得、さらにそのナノ物質の機能予測を行う。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究開発課題では、「第一原理量子論分子動力学」、「強結合量子論分子動力学」、「古典分子動力学」及び「弾性論」の手法間をスムーズにつなぐブリッジング技術により、ナノ物質の構造決定、機能予測が可能なシミュレータの開発を当初目標とした。第一原理計算、強結合計算、分子力学計算をハイブリッド化した量子シミュレーターの開発し、さらに原子ワイヤコンダクタンスなどマスターピース的な面白い計算を行うなど達成度は高いといえる。  本研究開発成果である「ナノ物質・量子シミュレーター」はナノカーボンや半導体など産業上重要なナノ材料への適用を目標としており、今後、大規模、高速化を行うことにより実用的なレベルでのシミュレーションが可能になり産業への応用が見込める。  また、従来シミュレーション技術の普及していないナノサイズの量子多分子系のダイナミックスという学問分野への寄与も期待できる。  なお、研究成果の発表については積極的に行っており満足すべき結果であった。知的財産権の取得についてはもう少し力を入れるべきであった。
第一原理計算によるハイブリッド分子動力学シミュレーション
蕪木 英雄(日本原子力研究所 東海研究所 主任研究員)
研究期間(年度) 2001~2004
研究概要
電子、原子レベルの数値シミュレーションを統合する3つのハイブリッド分子動力学手法を相互の関連をつけながら開発し、脆性、延性破壊現象の大規模数値シミュレーションを行う。また、これら具体的課題を実現するため高速ネットワークを利用する数値実験環境を構築し、実証する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究開発課題では、第一原理計算に基づくハイブリッド分子動力学法の開発を行い、大規模破壊シミュレーション行うこと、さらに、高速ネットワークを利用した数値実験環境を構築してこれらの数値シミュレーションの実証をすることを当初目標とした。これに対し、オーダーN分子動力学法、多体ポテンシャル分子動力学法および領域ハイブリッド分子動力学法に基づき、大規模な破壊シミュレーションを実施するなど、ほぼ目標を達成したといえる。  本研究開発成果である、分子動力学と可視化プログラムの融合、並列化を行って大量データから有益な情報を抽出して可視化する技術は広い分野で適用できる。将来的には、半導体から金属までの材料の強度評価、新たな材料設計への貢献が期待される。  なお、研究成果の発表については、論文数は多くはないものの、S-S間の反発力によるNi金属の脆化機構の論文(Science)など質の高いものが含まれる。今後、VPN上での広域分散処理による領域ハイブリッド分子動力学シミュレーションの実証結果なども含めて積極的に成果を公表していくことが望まれる。
量子多分子系ダイナミクス・シミュレーションの確立と応用
衣川 健一(奈良女子大学 理学部 助教授)
研究期間(年度) 2001~2004
研究概要
従来の物質・材料系シミュレーションではアプローチできなかった、低温物質、超流体、プロトンのような、核が量子化された「量子多分子系」のダイナミクスに対するシミュレーション技術を発展させ、その確立と未踏の物性・現象の解明への応用を進める。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究開発課題では、ナノ量子多分子系(分子数102~103)のフェムト秒からナノ秒オーダーの核のダイナミックス計算が出来る量子多分子系ダイナミックスシミュレーション技術の確立することを当初目標とした。これに対し、経路積分セントロイド分子動力学をベースとした高速ソフトウェアの発展、実在物質・材料の量子物性、量子現象をミクロレベルで解明、新規ナノ材料開発に向けての先験的スキームの確立を行い、ほぼ目標を達成したといえる。  本研究開発成果は、他には例を見ない量子多分子系のダイナミックスシミュレーションを、並列化することにより分散負荷、高速処理のもとで達成したものであり、高く評価できる。現状では、量子効果が直接入る系は少ないが、本手法でなければ解析できないような系を選びブレークスルーとなる新現象を予測して欲しい。産業に結びつくというより、ナノサイズ量子多分子系ダイナミクスという学問分野での寄与が期待される。  なお、研究成果の発表については著名な論文誌での掲載など満足すべき結果といえる。知的財産権の取得についてはもう少し力を入れるべきであった。
DNAのナノ領域ダイナミクスの第一原理的解析
田中 成典(神戸大学 大学院自然科学研究科 教授)
研究期間(年度) 2001~2004
研究概要
ナノ領域におけるDNAの電荷移動と転写制御のダイナミクスを高速・高精度分子軌道法及びその動的拡張に基づき専用並列計算エンジン等を援用して第一原理的に解析し、分子デバイスやポストゲノム研究の基盤となる技術・知見を提供する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究開発課題では、DNAの電荷移動と転写制御のダイナミクスを解析するために並列計算エンジン等を援用して第一原理的に解析する手法を開発することを当初目標とした。フラグメント分子軌道法や電荷平衡法といった計算化学的ツールを開発し、それらを用いてDNAの転写や電子移動などのメカニズム解明で成果を挙げたことなど、大筋ではその目標を達成したといえる。  本研究開発の成果物として、フラグメント分子軌道法、電荷平衡法、DNA解析等に関連した5件のソフトウェアの公開を予定しており、分子生物学やナノテクノロジーの諸問題の解決に寄与できると考えられる。  本研究開発の成果は、直ぐに事業化が見込める種類のものではない。むしろ、DNAのダイナミクスを第一原理計算で解析したことの意義は大きく、生命現象を分子レベルから計算機により解析していく際の礎を築いたものとして、今後の発展を期待したい。  なお、研究成果の公表としては、論文発表が39件、国際会議等での発表が135件など精力的に行われたといえる。知的財産権の取得に関してはもう少し力を入れるべきであった。

生命・生体分野

自己組織化地図によるゲノム情報の包括的視覚化
池村 淑道(総合研究大学院大学 葉山高等研究センター 教授) 教授)
研究期間(年度) 2001~2004
研究概要
自己組織化マップ(SOM)の高いクラスタ分離能を基盤に、2-5連の塩基及びアミノ酸の頻度解析を行い、機能未知の遺伝子の機能推定法の確立と高速ネットワークを介した統合データベースの構築を行う。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究開発課題では、自己組織化地図(SOM)を用いて大量なゲノム情報の統合的な理解をはかるとともに、SOM解析で得られた結果を基盤とした統合データベースを構築すること、機能未知の遺伝子の機能推定法を確立することを当初目標とした。地球シミュレータ等を活用して当初目標を大規模・高精度に達成するとともに、ゲノム解析に留まることなく、ポストゲノム解析も実施し、その可能性を示している。  データの入力順に依存しない「BLSOMプログラム」などの本課題での開発成果は、他分野でも適用可能と考えられる。しかし、ソフトウェアを地球シミュレータ用にチューニングしたことによって、普及が限定的なものに留まる可能性がある。  本研究開発の成果が、直ちに事業や産業に応用されるとは考えにくいが、様々なゲノム解析に適用され、未知のゲノム配列の解釈を行うための基盤技術として利用される可能性がある。また、新しく開発されたBLSOMの原理は、他分野への応用も期待できる。  なお、研究成果については、論文数としては標準的であるが著名な国際学術会議での発表など質の高いものが含まれている。
配列から機能への蛋白質ダイナミカルモデリング
笹井 理生(名古屋大学 大学院人間情報学研究科 教授)
研究期間(年度) 2001~2004
研究概要
アミノ酸配列から立体構造へ、そして機能へ向かう情報の流れを包括的に理解する新手法の研究開発を行う。階層的ダイナミクスの新概念を創出し、統計力学と分子動力学の研究者からなる研究ネットワーク上に、知識を構造化・データ化して新予測法、解析法を構築する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究開発課題では、アミノ酸配列から蛋白質立体構造、そして機能へ向かう情報の流れをダイナミクスの観点から理解する計算科学の新手法の研究開発を行うことを当初目標とした。新しい発想に基づく計算法の開発、複数のソフトウェアを統合した自動構造予測サーバーの構築と公開など、ほぼその目標を達成したといえる。  2004年国際構造予測コンテストで高い評価を得た自動構造予測サーバーROKKYをすでに公開しており、教育をはじめとするダイナミカルモデリングへの広範囲な展開が期待される。   また、本研究開発をさらに進めて、より複雑で大型の蛋白質にも適用することができれば、細胞内の全蛋白質を対象とした網羅的な構造予測へと展開することができる。この分野は国際的に競争の激しい分野であり、今後も国際的リーダシップを維持するための努力が求められる。  なお、論文発表については質、量とも非常に高いレベルを達成したといえる。知的財産権の取得についてはもう少し力を入れるべきであった。
心臓血管臨床リスク評価生体力学シミュレータ
山口 隆美(東北大学 大学院工学研究科 教授)
研究期間(年度) 2001~2004
研究概要
高速ネットワーク上の系統的計算生体力学シミュレ-ションにより、血流と血管壁の力学的・病態生理学的な相互作用を解析し、心臓血管病発生のリスクと、予防的治療手段のリスクを定量的に比較する予測に基づくリスク管理システムを開発する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究開発課題では、心臓血管系の臨床医療に対する計算生態力学を応用した「診断・治療支援システム」の開発と実証試験およびデータ蓄積のための運用開始を当初目標とした。この目標に対して、個々の要素技術の開発にとどまり、全てを統合する段階には至らなかったが、血管のモデリングにおける新しい研究手法の提案はタイムリーであり、独自性も高い。  本研究開発により得られたシステムCREAMは、動脈構造の抽出、細線化、トポロジー認識などを半自動的に対話型で実行できるシステムだが、これを医療現場での実用に供するにはユーザインターフェースの改良および医療従事者への教育などが不可欠であり、今後さらなる努力が必要である。医療においては心臓血管病への対策が社会的・国際的にも重要度をますます増しており、血管モデルから診断・予測を行う手法は独創的なものであり、今後は臨床応用と計算科学の緊密な連携をはかることによって、社会的貢献にまでつながることを期待する。  なお、研究成果の発表については、論文数としては標準的であり、今後も積極的に公表することが望まれる。
GRIDテクノロジーを用いた創薬プラットフォームの構築
中馬 寛(徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 教授)
研究期間(年度) 2001~2004
研究概要
ポストゲノム時代の新しい合理的薬物設計法として、大規模分子計算と分子構造データベース処理が必須となる。このために、新しい広域分散技術であるGRIDテクノロジーを活用して、各種の大規模分子計算と分子の大規模な3次元構造構造データベースを統合した「創薬プラットフォーム」を構築する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究開発課題では、グリッド技術を活用して大規模計算と3次元構造データベースを統合した「創薬プラットフォーム」を構築し、生体分子構造と活性相関解析および創薬へ適用することを当初目標とした。要素技術のグリッド対応化とデータベースの構築、それらを統合したシステムの構築および稼動検証など、ほぼ目標を達成したといえる。  本研究開発により得られたデータベースDrug-MLは、化学分野で既に広く利用されているCML(Chemical Markup Language)に準拠し、さらに創薬の研究・開発に必要な配座情報や構造記述子等を追加したもので、標準化を含めた今後の発展が注目される。今後は、計算のための資源共有だけでなく、データの共有化も重要と考えられる。  また、本研究開発成果は、共同研究者からリリースされることも検討中であり、今後ベンチャー企業創出などにつながる可能性がある。但し、製薬企業における創薬で利用されるには、今後どのように展開するべきか道筋を明確にする必要がある。  なお、研究成果の発表については、論文数としては標準的であり、今後も積極的に公表することが望まれる。

地球・環境分野

マルチスケール海洋環境シミュレータの開発と実用化
経塚 雄策(九州大学 大学院総合理工学研究院 教授)
研究期間(年度) 2001~2004
研究概要
海洋環境改善装置や人工構造物などで重要な数メートル程度のスケールの流動と拡散問題から海洋における数10km以上の広域スケール問題を一貫して解析するための数値モデルを共同開発し、インターネットによって一般に公開する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究開発課題では、海洋における流れや水温・塩分の分布及び物質循環について、数メートルから数十キロメートルまで取り扱うことのできる「マルチスケール海洋環境シミュレータ」を開発することを当初目標とした。「MEC MODEL ONLINE」の公開や「有限要素法モデル」の開発など目標以上の成果があるものもあり、ほぼ達成したといえる。  本研究開発の成果であるMECモデルシステムは既に実用の域に達しているが、有明海以外のデータを充実させて解析精度の信頼性を上げること、さらにシステムの公開を通してユーザーを増やしニーズを集めることが必要だと考えられる。それにより、海洋環境アセスメント事業、海洋産業発展に寄与すると期待できる。   なお、研究成果の発表については、口頭発表は十分なされているが、本システムを用いた応用の論文が少ないため、積極的に応用事例を増やし論文としてまとめることを期待する。
地震災害予測のための大都市圏強震動シミュレータの開発
纐纈 一起(東京大学 地震研究所 教授)
研究期間(年度) 2001~2004
研究概要
地震が起こす強い揺れ(強震動)を正確に予測するために、(1)大都市圏の複雑な三次元地下構造を高精度でモデル化し、(2)モデルにおける地震動伝播を高精度かつ現実的な計算規模の数値シミュレーションで再現し、さらに(3)シミュレーション結果をわかりやすい形で提示するソフトウエアを開発して、大都市圏強振動シミュレータを構築する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究開発課題では、地震が起こす強震動を複雑な三次元地下構造を加味して正確に予測する「大都市圏強震動シミュレータ」を構築することを目標とした。実際の計算をweb上で公開するには至らなかったものの、ほぼ目標を達成できたといえる。  本研究開発により大都市圏の地下構造モデルの整備および地震波伝播シミュレータというソフトウェアの開発が達成されており、実用化の可能性が高く、土木建築業、コンサルタント業への波及が期待される。また、本システムに建築構造物まで計算モデルに取り込む改良を加えて、地震発生から建物被害まで統一的にシミュレーションすることにより災害予防など社会的な意義は非常に高い。  なお、研究成果の発表については、口頭発表は十分なされているが、本システムを用いた応用の論文が少ない。積極的に応用事例を増やし論文としてまとめるとともに、webで公開することにより一般の方の防災意識の向上に貢献することを期待したい。
火山熱流体シミュレーションと環境影響予測手法の開発
藤田 英輔(防災科学技術研究所 固体地球研究部門 主任研究員)
研究期間(年度) 2001~2004
研究概要
火山活動の原因であるマグマ・熱水・火山ガスなどの火山熱流体の挙動を把握するため混相流シミュレ-ションを行い、観測データとの比較を通して生活環境へ与える影響をリアルタイムで予測する手法を開発する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究開発課題では、溶岩流、火山性地震・地殻変動、噴火機構のモデル化に基づく混相流シミュレーションを行い、観測データとの比較から生活環境へ与える影響をリアルタイムで予測する手法の開発を目標とした。リアルタイム予測手法の開発までは達成できなかったが、その他の目標はほぼ達成できたといえる。  本研究開発の成果である溶岩流シミュレーションプログラムLavaSIMは、御殿場市作成の「富士山火山防災マップ」にも応用され、その有用性を示した。 火山防災分野において、本研究開発の成果により新産業を創出する可能性は極めて低いが、地方自治体の防災行政への貢献などその社会的意義は大きい。今後は観測データとの比較を行うなどにより予測の精度を上げることを期待したい。  なお、研究成果の発表や知的所有権の取得に関しては標準的である。今後も学会等を通じて積極的に発表を行うことを期待する。
環境・災害監視のためのアジア衛星観測ネットワークの構築
安岡 善文(東京大学 生産技術研究所 教授)
研究期間(年度) 2001~2004
研究概要
本研究では、アジア地域を対象として、環境・災害に関する広域監視システムを実現するために、衛星データ(TERRA/MODIS,NOAA/AVHRR等)を準実時間で収集、転送、処理・解析、アーカイブする衛星観測ネットワークを構築し、さらに衛星データに基づく基盤データセットを整備する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究開発課題では、アジア地域における環境・災害監視のための準実時間衛星観測ネットワークと、データ蓄積システムの構築を目標とした。衛星データ受信の翌日には処理データをWebにより世界に公開することが可能となるなど、ほぼ目標を達成したといえる。  本研究開発の成果を公開したWebページは月3万件を超えるアクセスがあり、アジア諸国のみならず欧米を含め20カ国以上の専門家、および一般人・学生などが利用している。その意味で国際的意義は高く、環境保全や災害防止への効果があると考えられる。今後、ユーザーを増やすとともに、共同研究などにより応用事例を増やし、アジア地区の牽引役として研究開発を推進することを期待する。  本システムは当面は産業にはつながらないが、データ蓄積、精度向上、頻度増加が進み、さらに地上データ、予測モデルとの連携により、災害対策・環境改善、資源の効果的利用などの事業化に発展する可能性がある。  なお、研究成果は数多くの論文および口頭発表により公表されており十分といえる。知的所有権については、事業化へ発展する過程で特許等を取得する必要があると考えられる。

情報通信分野

ソフトウェアプロダクトの収集・解析・検索システム
井上 克郎(大阪大学 大学院情報科学研究科 教授)
研究期間(年度) 2001~2004
研究概要
本システムは、ネット空間上に存在する種々のソフトウェアプロダクトを収集・分類・解析し、保存する。そしてキーワードやコード片等のキーで、効率よく検索できるようにする。本研究によりソフトウェア開発の生産性が飛躍的に向上することが期待される。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究開発課題では、インターネット上に存在する種々のソフトウェアプロダクトを収集・分類・解析し、データベースとして蓄積することを当初目標とした。この一例として、Java言語のプログラムに限定したSPARS-Jシステムを構築したことは、目標からみると道半ばといえる。但し、各項目に関するデータベース及び関連度のランク付け機能は学術的にも意味があり、今後の発展が期待される。  本研究開発成果は、増加する一方であるJava利用者にとって有用なシステムであり、実際に企業での試験的運用も行っている。今後、数多くのプログラム資産があるFORTRANなどについても同様のことを目指すことで、産学官の広い分野で利用価値が高いものができるのではないかと期待される。  なお、研究成果の発表、知的財産権の取得については、著名な論文誌への論文掲載、国内特許2件、海外特許1件などを出願するなど満足すべき結果といえる。さらにSPRAS-Jを用いたソフトウェア開発効率なども公表することが望まれる。
4次元デジタル宇宙データの構築とその応用
海部 宣男(国立天文台  台長)
研究期間(年度) 2001~2004
研究概要
最新の観測データと大規模シミュレーション計算のデータを結びつけ、太陽系から膨張宇宙までの空間構造と時間発展を含む4次元宇宙の大規模デジタルデータを構築する。またこれを用い、ネットワーキングによる研究、教育、商用、美術など広い分野での応用に提供を図る。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究開発課題では、最新の観測データと大規模シミュレーション計算を結びつけ、太陽系から膨張宇宙まで、空間構造と時間発展を含む4次元宇宙デジタルデータの構築を当初目標とした。これに対し、可視化ソフトウェアを用いた立体画像の高速投影システム(立体プラネタリウム)の開発、コンテンツの蓄積など、目標を十分に達成したといえる。  本研究開発成果は、時間軸の入ったシミュレーションで学術的にも価値があるとともに、宇宙の神秘、人間の矮小さなどの文化的教育普及への意義が大きい。現在、ドーム型球面投影の開発、コンテンツの充実などを目指して開発が継続されており、将来的には全国の科学館やプラネタリウムなどでの公開が見込まれる。  なお、研究成果の発表としては、論文数は少ないものの、立体プラネタリウムの一般公開やコンテンツのインターネット公開など、社会への発信を積極的に行っている。
コモディティグリッド技術によるテラスケール大規模数理最適化
松岡 聡(東京工業大学 学術国際情報センター 教授)
研究期間(年度) 2001~2004
研究概要
PC技術と高速ネットワークによるコモディティグリッド技術により、テラスケールの数理最適化を行うミドルウェア。テストベッドを開発し、蛋白質の構造決定問題など種々の大規模最適化問題で世界記録を達成、並びに合算で数テラフロップスを1週間以上維持する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究開発課題では、テラスケールの数理最適化を行うミドルウエアならびに実証システムを従来の1/100のコストで開発すること、広範囲のベンチマークテスト、大規模最適化問題に適用して世界記録を達成するということを当初目標としていた。これに対し、5サイトの1千以上のプロセッサを結ぶ5テラフフロップス以上のテストベッドを構築し、ミドルウェアについては大規模クラスタ向け機能の開発や耐故障性を持たせたシステムの設計・実装を行うなど、ほぼ目標を達成したといえる。  特に、数理最適化問題においては、代表的なベンチマーク問題でアルゴリズムを並列化・高速化し、構築したテストベット上で、cyclic n-roots problemを対象として世界記録(n=13,14)の更新を達成した。このように、個々の研究室のクラスタを繋いでテラフロップス級の環境を構築し、単独では解けない数理最適化の大規模並列計算を、短時間かつ高い安定性で実現したことは、グリッドを利用した計算の拡張性・発展性を高めたと評価でき、産官学の広い分野での利用が期待される。  なお、研究成果の発表については、数理最適化グループ、ミドルウェアグループともに適切に発表が行われている。本手法の有効性を広めるためにも、今後も積極的に発表を行うべきである。
広域ビジュアルコンピューティング技術
栗田 多喜夫(村木 茂)(産業技術総合研究所 脳神経情報研究部門)
研究期間(年度) 2001~2004
研究概要
我々が開発中の高並列計算可視化システム(VGクラスタ)を広域ネットワーク上で結合し、一研究機関では実現困難な可視化を伴う大規模シミュレーションを可能にする広域ビジュアルコンピューティング技術を研究する。 ※本研究課題は、代表研究者(村木茂)のご逝去のため、平成16年7月1日付けで代表研究者を変更しています。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究開発課題では、高並列計算可視化システム(VGクラスタ)を広域ネットワーク上で結合するための高速計算方法、高効率通信方法、可視化方法などを開発し、広域ネットワークを介した大規模シミュレーションを行うことを当初目標とした。これに対し、フレーム重畳装置の多段接続による大規模VGクラスタの構築、VGクラスタのアプリケーションとして新手法の開発を行うなど成果をあげた。但し、広域ネットワークへの応用については、十分な成果が出ていないが、代表研究者の急逝に伴い代表研究者の変更があったことを加味するとやむを得ない。  本研究開発の要素技術のうち、内部の見える3次元可視化技術など興味深いものがあり、医用画像処理、数値流体力学、数理生物学などの分野で利用される可能性がある。当初から商品開発を目指した計画であり、産学官連携研究として、基礎研究から製品化までを視野に入れた実施体制が取られたことは評価できる。諸外国メーカに比べて、日本の可視化技術はやや出遅れているため、今後の展開に期待したい。  なお、研究成果の発表については標準をやや下回ると考えられるが、知的財産権については特許2件など、商品化を考慮して取得されたといえる。

スーパーコンピュータネットワーク型

計算機ナノマテリアルデザイン手法の開発
赤井 久純(大阪大学 大学院理学研究科 教授)
研究期間(年度) 2001~2004
研究概要
第一原理電子状態計算に基づいて、ナノスピントロニクス材料、ナノフォトニクス材料をデザインする。このようなデザインのための仮想実験室システム「ナノマテリアルデザイン・エンジン」を開発し、応用ソフトとして公開する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究開発課題では、第一原理電子状態計算に基づくナノ機能性材料を設計するための「ナノマテリアルデザイン・エンジン」の開発および公開と、実際にナノスピントロニクス材料、ナノフォトニクス材料などをデザインすることを当初目標とした。これに対し、希薄磁性半導体、ナノスピントロニクス材料、機能性材料のデザインなどが行われ、目標を十分に達成したといえる。  本研究開発は、目的とする機能をもつ材料を、第一原理計算を主体に設計するものであり学術的にも実用的にも有意義である。また、本手法によって設計された機能性材料は、予測された性能を持つことを実験的に検証しており、その有効性を示している。今後、本手法のさらなる普及と実証データの蓄積がなされればナノテク・材料分野の主要なツールとなることが期待できる。  なお、研究成果の発表、知的財産権の取得については、学術論文124件、国際会議・学会発表241件、特許出願14件、ワークショップ開催5回と、積極的に行われており十分満足すべきものといえる。今後も、引き続きワークショップなどを開催し、学生、企業技術者の習熟を促進し、強力なコミュニティの育成を図ることが重要である。
蛋白質の量子化学反応解析システムの開発
小池 秀耀(アドバンスソフト株式会社  代表取締役社長)
研究期間(年度) 2001~2004
研究概要
量子化学に基づく蛋白質の機能・構造解析を実現することを目的とし、スーパーコンピュータ・ネットワーク上で分散、並列処理可能な、大規模蛋白質の量子化学計算システムを開発する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究開発課題では、密度汎関数法に基づく分子軌道法プログラムProteinDFを核とした、スーパーコンピュータ・ネットワーク上で分散・並列処理が可能な大規模タンパク質の量子化学計算システムを開発することを当初目標とした。システムの開発、構造最適化の高速化など、ほぼ目標を達成したといえる。  本研究開発の成果は、本格的量子化学計算ソフトウェアとして研究者が利用できる状態にまで達しているが、さらに、文部科学省ITプログラム「戦略的基盤ソフトウェアの開発」プロジェクトに引き継がれ、機能の拡大、実用例の集積などが図られている。今後、医薬品、食品等バイオ関連事業に大きな貢献をすることが期待される。  なお、研究成果の発表、知的財産権の取得については、口頭発表7件、書籍発行1件などはあるものの、実用に耐えるソフトウェアの公開に力が注がれていることは仕方がないが、もう少し学術論文としての発表にも力を入れるべきであった。
仮想スーパーコンピュータセンタ利用環境GridLibの構築
関口 智嗣(産業技術総合研究所 グリッド研究センター センター長)
研究期間(年度) 2001~2004
研究概要
GridLibは高速ネットワークで接続された複数のスーパーコンピュータによる仮想スーパーコンピュータセンタを簡便に、効果的に、かつ安全に利用させるための環境であり、その基盤技術の研究開発と整備を行い実用的な利用に供する。
研究成果資料
成果報告会予稿集
事後評価コメント
本研究開発課題では、高速ネットワーク上に接続されたスーパーコンピュータ群を、ユーザが意識することなく簡便かつ効率的かつ安全に利用できる「仮想スーパーコンピュータセンター」に必要な基盤技術の研究開発を行うことを当初目標とした。これに対し、商用のライブラリなどにおいては、GridLibが機能する技術を確立することができたが、コンピュータセンター毎にポリシーが異なる課金メカニズムの動作においては基本機能の開発に留まった。総合的には、ほぼ狙い通りの成果が得られたと評価できる。  GridLibにおける基礎開発項目は概ね成功を収めたと評価するが、実用的な仮想スーパーコンピュータを利用できるようにするにはいくつかの課題が残された。今後も継続的な研究開発を行い、適切なアプリケーションで、有効性を示す必要がある。  なお、研究成果の発表、知的財産権の取得については標準的であるといえる。今後は、一般研究者や社会への発信を積極的に行うべきである。

クイックアクセス

終了した事業についてのご意見やお問い合わせは、下記リンクよりwebフォームをご利用ください。

お問い合わせ・ご意見・ご要望

本ページの目次

プログラム

  • CREST
  • さきがけ
  • ACT-I
  • ERATO
  • ACT-X
  • ACCEL
  • ALCA
  • RISTEX
  • AI時代と科学研究の今
  • AIPネットワークラボ
  • JSTプロジェクトDB
  • 終了事業アーカイブズ
  • ご意見・ご要望