第324回「海洋プラ、知の結集で解決」
世界的な課題
海洋プラスチックは、単なるゴミ問題を超え、生態系や人体に影響を及ぼす存在となっている。発生源から分解、分布、影響、回収・再利用まで幅広く研究が進んでいるが、統合的理解を基盤に、流出防止・回収・代替素材開発を組み合わせた包括的対策の加速は世界的な課題である。
プラスチックの海洋ゴミ問題は1970年代から認識され始めていたが、2015年に年間800万トンが海に流出しているとする推計が示されて以降、国際的な関心が急速に高まった。16年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)では「50年には魚よりプラスチックの重量が上回る」と警鐘が鳴らされた。こうした背景を受け、海洋科学の分野では、海洋プラスチックの分布や分解過程、影響評価に関する研究が盛んに進められている。
近年の研究により、河川、都市、漁業などが海洋へのプラスチック流出の主要な経路として注目され、紫外線や波の力によってプラスチックが微細化し、5ミリメートル以下の「マイクロプラスチック」と呼ばれる粒子になる分解機構も明らかになっている。さらに、沈降や堆積の解析も進み、現象を数式で計算再現する数値モデル化によって全洋域での分布や汚染状況の可視化が進展している。マイクロプラスチックによる環境やヒトの健康への影響に関する科学的解明はまだ途上であり、結論は出ていない。22年にはヒト血液中からプラスチック粒子が検出されたとの報告もあるが、影響の程度やメカニズムには不確実性が残る。こうした状況を踏まえ、環境リスク評価に基づく適正な管理が必要である。
再利用の循環へ
もともとプラスチックは、軽量で耐久性に優れ、生活を支える便利な素材として誕生した。しかし、その利便性の裏で、海洋汚染という深刻な代償を払っている。この現実を踏まえ、人間はプラスチックの有用性を理解し、その生涯に責任を持たなければならない。
現在、流出経路や分解挙動、生態系・人体への影響、回収・リサイクル技術など、各分野で研究は進展しているが、断片的な知見を統合し、総合的に進めることが不可欠だ。ヒト血液中からプラスチック粒子が検出された事実は、こうした対策の必要性を裏付けている。流出防止の決定打がない今、国際規制強化や技術革新を加速し、研究成果を社会実装へつなげ、使い捨てを減らし、再利用を進め、循環型社会を築くことが未来の海と私たちを守るカギとなる。

※本記事は 日刊工業新聞2026年2月6日号に掲載されたものです。
<執筆者>
𠮷井 政之 CRDSフェロー(環境・エネルギーユニット)
千葉大学大学院工学研究科修士課程修了。総合化学会社にて石油化学品の製造・循環に関する研究開発などに従事。25年8月から現職。環境・エネルギー関連分野の俯瞰調査と戦略立案を担当。修士(工学)。
<日刊工業新聞 電子版>
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