2025年8月8日

第300回「政策指標にウェルビーイング」

幸福度に注目
各種政策の遂行に当たって、経済的な指標だけでは測れない各人の生活の質、満足度などについて把握すべきとの議論が高まっている。

こうした動きを受け、近年人々の幸福度に関する包括的な概念として「ウェルビーイング」の考え方が注目されている。古くは、世界保健機関(WHO)憲章(1946年採択)に基づく「身体的・精神的・社会的に良好な状態」と定義されることが多いが、国際機関などでは国連の持続可能な開発目標(SDGs)からさらなる発展の可能性を持つ重要な概念の一つとして、多方面からの検討や数値化の試みがなされている。

例えば2012年より毎年、国際連合が公表する「世界幸福度報告書(World Happiness Report)」では、「あなたは自分の人生にどの程度満足しているか」という質問に対し、0から10までの11段階で国・地域ごとに回答を測定、過去3年間の平均値をランク付けしている。25年版は例年通り他の欧米諸国などが上位を占めた一方で、日本は147カ国・地域中55位と、他の先進国と比較して低位で推移しているとの指摘がある。ただしこれには、欧米などと比較して東アジアなど集団主義的社会では、低めに答える傾向があるとの批判もある。また、11年からは経済協力開発機構(OECD)が単一の主観指標のみでなく、複数の主観指標と客観指標を組み合わせた指標の検討と整備を進めている。

KPI設定推進
翻ってわが国では、「well-beingの高い社会の実現に向け、(中略)生活のwell-being改善につながる実効的なKPIの設定を進めるとともに、well-beingの把握を継続・強化する」(経済財政運営と改革の基本方針2025)として、指標を取り込んだ政策の立案や評価が加速化している。

具体的には、教育振興基本計画や環境基本計画などをはじめ、現在の第6期科学技術・イノベーション基本計画でも、わが国が目指すべきSociety5.0の未来社会像を「持続可能性と強靭性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」と表現し、政策の方向性が示されている。

次期7期の計画策定に向けても、ウェルビーイングの実現は目指すべき社会と捉えられており、現下の総合科学技術・イノベーション会議基本計画専門調査会においても議論がなされている模様である。引き続きその行方に注目したい。

※本記事は 日刊工業新聞2025年8月8日号に掲載されたものです。

<執筆者>
丸山 達也 CRDS上席フェロー

東京大学経済学部を卒業後、経済企画庁(現内閣府)に入庁。その後、内閣府経済社会総合研究所総務部長や同総括政策研究官を経て、24年7月より現職。

<日刊工業新聞 電子版>
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