2025年7月18日

第297回「台湾、重要技術の保護強化」

近年、台湾積体電路製造(TSMC)に代表されるハイテク企業の躍進により、台湾の先端科学技術が世界から注目されるようになっている。その一方で、企業の投資や生産活動における有形・無形の技術の海外への流出や、サイバー攻撃への対応も極めて重要な課題となっている。

法制面を拡充
ハイテク産業による社会と経済の発展を進める台湾当局は、企業が所有する技術を含めた重要科学技術の保護を法制面から強化している。さらに、公的資金で重要技術の研究開発を行う機関にその安全管理の指導もしている。法制面では2013年に「営業機密法」を改正し、技術、製造工程、プログラム、設計など機密情報の不正な取得や使用などに対する刑事責任が強化された。

また、「国家安全法」は、海外に流出することで台湾の安全保障や産業競争力、経済発展が大いに損なわれる技術を国家核心重要技術(コア技術)と定義し、その不正な取得や使用などを22年の改正で禁じた。違反した場合には厳しい罰則が定められている。併せて改正された「両岸人民関係条例」では、公的資金を投じたコア技術の研究に携わる研究者が中国大陸へ渡航する際には、当局の許可が必要となった。また、23年12月、行政院(日本の内閣に相当)で科学技術政策を統括する国家科学技術委員会は、半導体、防衛、航空・宇宙、農業、情報セキュリティーの分野で22のコア技術を認定し、25年はさらに10のコア技術を追加した。

研究機関に指針
公的資金で行う「コア技術研究プログラム」には、国家科学技術委員会が関連法制にのっとった「安全管理マニュアル」を発行している。このマニュアルによると、同委員会が設ける専門家委員会が研究プログラムに対する重要度の分類、採択、機密保持方法、成果の公開、技術移転などを審議し承認することとされている。また各手続きにおける省庁、資金配分機関、研究機関の役割が明記され各種申請および報告様式も添付されている。なお24年12月の改訂版で、各分野における具体的な研究項目が記されている。各研究機関や大学はこのマニュアルおよび法制を基に、研究プログラムに関する管理規定を設けている。

このように、活発な経済活動と重要技術保護の両立や、重要技術の研究活動に対する安全管理に関する海外での取り組みは、わが国においても注視していく必要があると考える。

※本記事は 日刊工業新聞2025年7月18日号に掲載されたものです。

<執筆者>
田子 智久 CRDSフェロー(安全安心グループ)

同志社大学経済学部卒業後、総合化学メーカーに入社。感光性樹脂のマーケティング、電子材料の台湾・中国での製造販売会社の設立・経営を経て、電子材料の営業部長・事業部長(理事)などを務め、21年より現職。

<日刊工業新聞 電子版>
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