2025年1月31日

第274回「医療機器新展開 AI搭載 改良継続」

6,500億ドルに
医療関連産業は巨大な市場を形成しており、医薬品の世界市場は1.1兆ドル(2021年)から1.7兆ドル(28年)と急成長が見込まれる。医療機器はそれに次ぐ規模であり、約5,000億ドル(23年)、約6,500億ドル(27年)と着実な成長が見込まれる。

診断機器の新潮流として、ベッドサイドなどで迅速な診断を可能とするポイントオブケア機器が急速な進展を見せている。例えば、安価な携帯型デバイスによる超音波診断や皮膚がん評価、眼底画像からの糖尿病網膜症の診断装置などが製品化している。

治療機器の新潮流としては、腹腔鏡手術や人工関節置換手術などの手術ロボットが広がりを見せる。製品化では欧米が先行するが、国産の製品も登場し今後の展開が期待される。

診断と治療の一体化における新潮流として、自動制御型インスリンポンプが挙げられる。糖尿病患者の腹部に装着すると血糖値を数分ごとに自動測定し、適量のインスリンを自動投与する携帯型医療機器である。

エコシステム
近年、新たに登場する医療機器の多くは、デバイスに搭載されるソフトウエアも重要な役割を担う。特に、人工知能(AI)を搭載した医療機器の開発が極めて活発であり、米国では過去5年間で規制当局の承認件数が急増し、23年は200件を超える。わが国においてもこれまで約30件が承認され、製品化が進む。

AIを搭載した医療機器は、市販後も日常の実臨床の中で得られるリアルワールドデータに基づいて学習し改良し続けることが可能という点が、従来型の医療機器と異なる。各国で法規制の議論が進んでおり、20年前後より日米欧で研究開発のガイドラインが次々と公開されている。

医療機器の臨床開発の担い手として、スタートアップの存在感が高まっている。わが国で過去10年間に承認された医療機器の50%以上にスタートアップが関与している。しかし、わが国は欧米と比してスタートアップが少ないことが、医療機器の研究開発エコシステムのボトルネックとなりつつある。

アカデミアにおける医療機器の新規コンセプトの開拓、スタートアップにおける改良と臨床開発、医療機器メーカーにおける製品化と普及展開という、一連の研究開発エコシステムの構築が急務である。

※本記事は 日刊工業新聞2025年1月31日号に掲載されたものです。

<執筆者>
辻󠄀 真博 CRDSフェロー(ライフサイエンス・臨床医学ユニット)

東京大学農学部卒。ライフサイエンスおよびメディカル関連の基礎研究(生命科学、生命工学、疾患科学)、医療技術開発(医薬品、再生医療・細胞医療・遺伝子治療、モダリティー全般)、医療データ、研究環境整備などのテーマを対象に調査・提言を実施。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(274)医療機器の新展開、AI搭載し改良継続(外部リンク)