ポスコロSIPとは

西村訓弘プログラムディレクター(PD)御挨拶

私たちが取り組む課題と背景

 SIP第3期では、Society 5.0の実現に向けてバックキャストで重要な課題を設定し、府省連携が不可欠な分野横断的な取組を、社会実装までを見据えて一気通貫で実施します。私たちが取り組む課題「ポストコロナ時代の学び方・働き方を実現するプラットフォームの構築(以下、「ポスコロSIP」という)」は、従来の最先端技術の開発を行うSIP課題とは異なる新たな試みであり、あらゆる知識と考え方を結集した総合知をもって取り組む必要があると考えています。
 人口増加を伴う経済成長期に創り上げた社会の仕組みが、人口が減少し始めた今の日本には適さなくなり、社会の隅々で様々な歪みが生まれていることを実感しています。未来社会をひらくには未来社会で機能する新しい仕組みを真っ新な状態から構築することが求められており、ポスコロSIPでは、このような「人口減少をきっかけとして社会が転換する重要な時期」に実施する意義のあるプロジェクトであることを私は、強く意識しています。

地域イノベーションという考え方

 私は、三重大学と宇都宮大学で地域企業の経営者へのリカレント教育に取り組み、経営者が学びを通して覚醒し、自らの働く場で改革を行い、地域全体が変容していく仕組みを生み出してきました。経済学者のシュンペーターは、イノベーションとは「創造的破壊と新結合による変革」であり、経済が停滞した時に従来の仕組みを前向きに壊し、新しい技術などと結合させて変革を起こすことだと説明しています。三重大学や宇都宮大学での経験を通して、疲弊したと思われてきた地方社会でも、時代の変化に適応した創造的破壊を伴う新結合を生み出すことで新たな価値を創造できること、また、その連鎖を促すことで爆発的に変化する企業、事業が創出されることを確認しました。人々の意識が変わり、それぞれが新たな可能性を見出し、自らの場で実行する、このことを地域の中で連鎖させることで、地方から「新たな日本の姿(Society 5.0が実現した社会)」を創造することができると確信しています。

ポスコロSIPが目指すもの

 ポスコロSIPでは、Society 5.0における将来像を、先端技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れ、イノベーションから新たな価値が創造されることにより、一人ひとりの多様な幸せ(well-being)が実現される社会と捉えています。同時に、一人ひとりの持つ多様な力が発揮され、新しい価値が創造されることによって社会が発展し、それが個人の幸せにもつながる社会です。また、Society 5.0を生きる人材とは、生涯にわたって自らの生き方を主体的に考えて学び続け、伸ばした能力を基に実現する個人の価値観にあわせた多様な働き方を通して、生涯にわたり生き生きと社会参画し続ける人であると考えています。
 ポスコロSIPでは、「人口減少を機にひらく未来社会:個々の輝きが共鳴し、進化し続ける幸福な社会」の実現に向けて、人口減少による社会崩壊への危機感をテコとして、閉塞感が漂い膠着している社会を一気に変えていく、社会変革型のイノベーション(トランスフォーマティブ・イノベーション)の実現に向けた研究開発を実施します。
 今後Society 5.0へと社会全体が移行する過程では、これまでの知識、技術、手法などが通用しないことが予想されるため、その初期段階では、現在社会で働いている人々がまず「新しい社会に適応する人材」へと変容することが鍵となります。即ち、最初に変容(覚醒)した人々が自らの場(働く場)で新しい社会に適した変革を行い、その行動に触発された人々が学び、覚醒し、自らの行動と活動する場を変革するといった変革の連鎖を生むことが重要です。このような社会を構成する場の変革の連鎖を生じさせることで、Society 5.0のショーケースを地方の末端から実現していき、最終的には、日本全体をSociety 5.0の目指すべき未来社会に導いていきたいと考えています。

西村訓弘PDのプロフィール

西村 訓弘

三重大学大学院 地域イノベーション学研究科 教授、宇都宮大学 特命副学長
1965年、三重県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業後、企業の研究員となり博士号取得(農学)。渡米し、米国企業の研究員、ベンチャー企業経営を経て2006年、三重大学医学系研究科教授に就任し、地域イノベーション学研究科の創設に関わる。自治体、企業、高校など大学の枠を越えて地域イノベーション活動を展開中。主な著書に『社長100人博士化計画』(月兎舎)。