CMOSに代表される半導体集積回路(LSI)で使うシリコンは、電子情報社会の今日の発展に欠かせない材料であり、国民の生活を支える基盤材料とも言える。半導体製造技術は日々高度化され、CMOSの微細加工精度がナノ領域に及ぶなど、ナノテクノロジー技術と不可分な関係にある。ところが、このシリコンCMOSの生産ラインにおける微細化が極めて困難になるhp(ハーフピッチ)32nmが目前に迫っており、従来のシリコンCMOSとは異なる新概念・新原理に基づいたデバイスの開発が求められている。
我が国では、1980年代以降、ポストシリコン材料の探索とデバイス開発のために積極的な研究投資がなされ、世界的に見ても優れた数多くの萌芽的研究成果を持つこととなった。JST戦略的創造研究推進事業においても、ナノテクノロジー分野別バーチャルラボとして、平成14年度より「情報処理・通信における集積・機能限界の克服実現のためのナノデバイス・材料・システムの創製」の戦略目標の下、「非シリコン系半導体材料を用いた次世代デバイス用材料の開拓」、「新概念の論理回路・情報ストレージ等の構築のための強相関材料の開拓」、「分子エレクトロニクスに関連する材料の開拓」等のプロジェクトにおいて、優れた研究シーズを創出してきた。
一方、諸外国、特に米国は、NSF(National Science Foundation)が中心となって、複数の産学連携組織*)による「ハイリスク・ハイリターン」な研究開発を進めている。なぜ基礎サイエンスを担当するNSFがイニシアチブを取っているかと言えば、シリコンCMOSの延長では対応できない「次世代エレクトロニクス(Beyond CMOS)への壁」を突破できた国こそが、10〜15年後のエレクトロニクスの覇権を握ると認識しているからに他ならない。
シリコンCMOSでの微細化に限界が見えた今こそ、我が国が持つこれらの優れた研究資産を活用し、イノベーションとして生かす重要な時期であり、本戦略目標は喫緊に取り組むべき最重要課題である。
*)Nanoelectronics Research Initiative (NRI)、Western Institute of Nanoelectronics (WIN)、Nano Electronics Research Corp (NERC)、 Institute for Nanoelectronics Discovery and Exploration (INDEX)、South West Academy for Nanoelectronics (SWAN) 等