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はじめに 概要 研究実施報告 関連データ 研究代表者索引


精神・神経疾患の診断・治療法開発に向けた高次脳機能解明によるイノベーション創出
高信頼・高安全を保証する大規模集積システムの基盤技術の構築
新原理・新機能・新構造デバイス実現のための材料開拓とナノプロセス開発
生命システムの動作原理の解明と活用のための基盤技術の創出
高セキュリティ・高信頼性・高性能を実現する組込みシステム用の次世代基盤技術の創出
異種材料・異種物質状態間の高機能接合界面を実現する革新的ナノ界面技術の創出とその応用
ナノデバイスやナノ材料の高効率製造及びナノスケール科学による製造技術の革新に関する基盤の構築
安全・安心な社会を実現するための先進的統合センシング技術の創出
通信・演算情報量の爆発的増大に備える超低消費電力技術の創出
次世代高精度・高分解能シミュレーション技術の開発
代謝調節機構解析に基づく細胞機能制御に関する基盤技術の創出
光の究極的及び局所的制御とその応用


新たな手法の開発等を通じた先端的な計測・分析機器の実現に向けた基盤技術の創出
メディア芸術の創造の高度化を支える先進的科学技術の創出
情報通信技術に革新をもたらす量子情報処理の実現に向けた技術基盤の構築
教育における課題を踏まえた、人の生涯に亘る学習メカニズムの脳科学等による解明
がんやウィルス感染症に対して有効な革新的医薬品開発の実現のための糖鎖機能の解明と利用技術の確立
個人の遺伝情報に基づく副作用のないテーラーメイド医療実現のためのゲノム情報活用基盤技術の確立
医療・情報産業における原子・分子レベルの現象に基づく精密製品設計・高度治療実現のための次世代統合シミュレーション技術の確立
遺伝子情報に基づくたんぱく質解析を通した技術革新
先進医療の実現を目指した先端的基盤技術の探索・創出
新しい原理による高速大容量情報処理技術の構築
水の循環予測及び利用システムの構築
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戦略目標
高信頼・高安全を保証する大規模集積システムの基盤技術の構築

1.戦略目標名

高信頼・高安全を保証する大規模集積システムの基盤技術の構築
2.該当する戦略重点科学技術との関係

 次世代半導体の国際競争を勝ち抜く超微細化・低消費電力及び設計・製造技術
3.他の戦略重点科学技術に比して優先して実施しなければならない理由、緊急性、専門家や産業界のニーズ

1) 優先性
 大規模集積システムは情報通信、コンピュータをはじめ、自動車、医療機器など様々な機器に組み込まれ社会生活の基盤となっている。また、人間が意識的にエレクトロニクスを使用する時代を経て、今やその存在が意識されなくなるほどエレクトロニクスは生活に溶け込んでいる。しかしながら、このような傾向が一層強まるのに伴い、偶然によるものか故意によるものかを問わず、一旦大規模集積システムのどこかに不具合が発生した場合、社会的に甚大な被害が引き起こされることとなる。
 現在の集積システムはトランジスタの発明以来、微細化、大規模化、高機能化を目指し開発が進められてきたが、集積の微細化が進むにつれ、半導体の特性である本質的なばらつきや宇宙線によって引き起こされるソフトエラー等の物理的エラー、回路の設計、製造、検査における人為的ミス等によって引き起こされる人為的エラー、情報セキュリティを脅かす人為的攻撃、単独では正しく動作するシステムを相互接続したときに生じるエラー、工程数増加による生産上のトラブル等今まで経験したことのない課題が生じ、信頼性・安全性の低下による我が国のエレクトロニクス機器をはじめとするあらゆるITが組み込まれた機器の国際競争力の喪失や社会基盤そのものの脆弱性が露呈することになると予想される。

2) 緊急性
 欧州では、欧州委員会において策定される「第7次研究・技術フレームワークプログラム(FP7:2007年〜2013年)」に向け、特に情報通信分野の高信頼・高安全性を求める研究の促進を図るための、“SecureIST(Information Society Technology)”プロジェクトが推進されている。
 また、2006年11月には米国NSF(National Science Foundation)とEU共催による、第一回目のEU-USSummit Series: Workshop on System Dependability & Securityがダブリンで開催され、欧米主導で情報システムの信頼性・安全性に関する議論が進められている。我が国としても世界最先端のIT国家を国是としている立場から、本件議論に積極的に参画していかなければ取り残されかねない。

3) 専門家や産業界のニーズ
 近年、情報システム開発は高性能化等の追求以上に信頼性・安全性の保証を求められようになり、情報システムの価値は第一義的に信頼性・安全性の保証にあるとの認識が広がりつつある。欧米においても情報システムの信頼性・安全性の保証に関わるプロジェクトが多く採択されるなど、信頼性・安全性への関心は高まる傾向にある。しかし、人為的エラー、相互作用に対するアプローチの難しさから、一般的には物理的エラーへの対応が主体であり、人為的エラー等に対しては部分的な対応に留まっている。こうした状況下、我が国の大学・研究機関では、人為的エラーや相互作用に対応するアプローチが意識されつつある。これらを有機的に結び付けた総合的なアプローチを提案・実施することにより、欧米よりも先行して大規模集積システムの信頼性・安全性を保証する基盤技術を構築することが可能となる。
 また、その結果、大規模集積システムのイノベーションが我が国のイニシアチブによって生み出されることとなり、あらゆる産業の基礎である半導体産業から求められている国際競争力強化を下支えすることができる(※1)。また、あらゆるシステムの信頼性・安全性が向上することで、膨大な経済損失を未然に防ぎ実質的な付加価値増加をもたらすことが期待できる。
4.この目標の下、将来実現しうる革新的な成果のイメージ及びその背景、社会・経済上の要請

1) 将来実現しうる革新的な成果のイメージ
 大規模集積システムの信頼性・安全性を保証する基盤技術を確立することで、物理的エラー、人為的エラー等の課題を克服してあらゆるシステムの信頼性・安全性が向上し、金融取引や行政などの電子化が促進される等利便性が高く、快適なIT社会をより低コストで実現することで広範な産業や生活への波及効果(イノベーション)が期待できる。

2) 社会経済上の要請
 日本の半導体産業は、世界でトップレベルの技術を維持しているものの、産業としては、必ずしも世界的な競争には勝ち抜くことができていない。信頼性・安全性を保証する次世代の大規模集積システム技術を我が国が先駆けて開発し、新たな付加価値を加えることで、半導体産業から求められている国際競争力の強化が達成される。
5.戦略事業実施期間中に達成を目指す研究開発目標

 大規模集積システム開発においては性能、実装技術、省電力が要件とされているが、本戦略目標では、新たに「ディペンダビリティ(※2)」という概念を導入し、大規模集積回路のライフサイクル(企画・設計・製造・検査・流通・運用・廃棄)を考慮した総合的なアプローチを行う。具体的には、大規模集積システムに対する物理的エラー、人為的エラー、人為的攻撃、相互作用によるディペンダビリティ阻害要因の克服を目指し、例えば、
大規模集積システムの極限微細化におけるディペンダビリティに与える物理的要因の解明とそれを突破する対処法の明確化
大規模集積回路の大規模化・複雑化に伴う人為的エラーや物理的エラー、それらの相互作用を防止する設計技術・実装技術の構築や検証
大規模集積システムに内蔵されている情報を保護するための方法論の提案
情報システムのネットワーク化・オープン化に伴う異種システム間不整合や人間系・機械系相互作用などのディペンダビリティ阻害を防止する情報システム設計方法論の提案
等の研究を行う。
6.戦略事業実施期間中に達成を目指す研究開発目標の科学的裏付け

1) 物理的エラーへの対応
 大規模集積システムの微細化が進むにつれて、プロセスパラメータ変動や電源電圧変動等から受ける影響が非常に大きくなるためトランジスタやコンポーネントの特性が本質的にばらつき、信頼性が低下する。また宇宙線が大気と反応して生成される中性子線などによってメモリビット反転や論理誤動作等のソフトエラーが頻発しシステム信頼性が低下してくる。従来の完全動作を前提にした回路設計およびプロセス技術ではだけではこのような状況を克服するのは困難であるため、自己修復、自己調整機能導入を目指した新しいトランジスタ構造、新アーキテクチャー等の開発が必要とされている。

2) 人為的エラーへの対応
 システムの大規模化、複雑化によって回路の設計がますます複雑化している。現在の設計手法を踏襲した場合、設計プロセスにおいて長時間を要するだけでなく人為的エラーが増加して、テストでも発見されない可能性が高まる。このような大規模集積回路がシステムに組み込まれると重大な障害発生の原因となるため、このような状況を克服するための人為的エラーを想定した新設計ツールの研究が必要とされている。

3) 人為的攻撃への対応
 大規模集積システムに搭載されている機密情報や個人情報の抜き取りなど意図的な攻撃によるディペンダビリティへの脅威が増大している。将来、電子マネーや電子カルテ等の利用が進展し、攻撃に対する対策のない大規模集積回路により大規模集積システムに内蔵される銀行口座やプライバシーに関する情報が漏洩し、社会的な混乱を引き起こす可能性がある。この問題への対策として、情報の防御システムをチップ上で構成する研究や、時間限定で情報が自動的に消去される研究などが必要とされている。

4) 相互作用への対応
 大規模集積システム内部では、物理的エラーや人為的エラー等の種々の故障やバグが存在し、それらが複雑に絡み合って異常な動作や致命的な障害を引き起こす。個々の故障が独立に存在する場合に対しては十分な対策が施され致命的な障害に繋がらなくても、複数の故障、バグや人為的攻撃が絡み合うことにより障害に繋がるケースは多い。このような相互作用による障害を防ぐため技術として、チップ内に温度センサや電圧センサを配置し故障につながりそうな情報を検知する技術や、故障に繋がりそうなモジュールを切り離したり休止させたりする技術の確立等が必要とされている。
7.この目標の下での研究実施にあたり、特に研究開発目標を達成するために解決が必要となる研究上の課題、留意点、既存の施策・事業等との重複

 信頼性・安全性が保証されたシステムを構築するためには、使用環境が厳密に定義された閉じたシステムではなく、環境の変動にも対応できる開いたシステムの構築技法が求められる。基本計画→設計→構築→使用というウォーターフォールモデルは大規模システムの開発に向いているとされるが、最初に使用条件が固定されるため使用条件の変動に柔軟に対応できない。このため、設計→構築→使用→評価→再設計を有機的に繰り返し信頼性・安全性の完成度を高めるスパイラルモデルの採用も含めて、効果的な研究の推進が行われるよう配慮する。

※1 WSTS(世界半導体市場統計)の報告によると、半導体国際シェアは日本を除く東アジアが25.1%→45.4%、日本は22.9%→19.4%(2000年→2005年)となっており、東アジアの半導体産業の躍進及び日本の競争力低下が示されている。

※2 対象とするものが良質で信頼でき、安心してそれに依拠できる状態のこと。


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研究領域 研究総括
「ディペンダブルVLSIシステムの基盤技術」 浅井 彰二郎
((株)リガク 取締役副社長)

 本研究領域は、VLSIシステムの高信頼・高安全性を保証するための基盤技術の研究開発を対象とします。人類の諸活動が情報システムに依存する度合いは増す一方であり、その信頼性・安全性の確保はきわめて重要な社会的課題です。そのエンジンであるVLSIも、それ自身が膨大な数の回路素子を含む巨大システムであり、その信頼性・安全性は情報システムの信頼性・安全性のコアとなるものです。VLSIシステムを、信頼性・安全性に配慮しつつさらに大規模化するため、横たわる多くの課題を解決することが本研究領域の目的です。
 具体的には次のような研究課題が含まれます。まず素子寸法の極限的な微細化にともなう物理的な揺らぎ、一過性雑音事象、使用にともなう劣化などが問題です。こうした不安定要因は、直接誤動作の原因となるのみならず、VLSIの大規模化にとっての阻害要因であり、その影響を緩和する素子レベル、回路レベル、システムレベルの新技術の研究開発が必要です。一方、微細化による大規模化が限界に近づいているため、多数のチップを3次元的に実装することによる大規模化と、それにともなう信頼性・安心性の確保も大きな課題であり、研究開発が必要です。規模の拡大と複雑化にともなう設計上のミスを排除し、設計・検証・製造・検査を容易化する設計の方法も研究開発課題です。信頼性・安全性へのVLSIシステム内外からの脅威を動作中に検出し、封じ込め、緩和するアーキテクチャー、回路の研究開発も必要となります。VLSIシステムへの要求事項は、用いられる情報システムの特性から決まりますが、新しく信頼性・安全性の仕様規定、評価尺度を作り上げて行くことも本研究領域の研究開発課題です。

(所属・役職は、平成20年3月時点のものです。)

小野寺 秀俊 (京都大学大学院情報学研究科 教授)
「ロバストファブリックを用いたディペンダブルVLSIプラットフォーム」  (495kb)

坂井 修一 (東京大学大学院情報理工学系研究科 教授)
「アーキテクチャと形式的検証の協調による超ディペンダブルVLSI」  (2,177kb)

坪内 和夫 (東北大学電気通信研究所 教授)
「ディペンダブルワイヤレスシステム・デバイスの開発」  (1,133kb)

安浦 寛人 (九州大学大学院システム情報科学研究院 教授)
「統合的高信頼化設計のためのモデル化と検出・訂正・回復技術」  (694kb)

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