ERATO

国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業
戦略的創造研究推進事業

深津共生進化機構プロジェクト

プロジェクトホームページ

Fukatsu_portrait

研究総括 深津 武馬
(産業技術総合研究所 生命工学領域 モレキュラーバイオシステム研究部門 首席研究員)
研究期間:2019年10月~2026年3月
※本プロジェクトは、追加支援期間(ノーコストエクステンション型)の枠組みにより当初研究期間を(1年)延長し、2026年3月までJSTが支援を行うことになりました。
グラント番号:JPMJER1902

 

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副研究総括 福田 真嗣
(慶應義塾大学 先端生命科学研究所 特任教授)

 

 

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副研究総括 古澤 力
(理化学研究所 生命機能科学研究センター チームリーダー)

 

 

 

生物界において微生物との共生関係は普遍的で重要な生物機能を担うものの、その成立過程や機能の解明にアプローチすることが難しく、未探索の研究分野となっています。

本プロジェクトでは、遺伝子操作や機能解析を行うにあたっての共生微生物の難培養性を克服するとともに、「共生進化の現場を人工的に創出し、その進化過程および機構を解明」することを目指します。

具体的には、昆虫-大腸菌人工共生系を用いた大規模進化実験、および難培養性の共生細菌の遺伝子操作や全ゲノムクローニングを可能にする新規技術開発を突破口として、共生進化に関する理解を飛躍的に進展させます。さらに無菌マウス腸内に昆虫共生進化大腸菌を移植した相互進化実験系へ展開することで、腸内共生機構の共通性を見いだし、共生という生命現象に関する本質的な理解を提示します。

共生システムの解明につながる他、昆虫から哺乳類に至る腸内共生機構の共通性を同定できれば、腸内細菌叢の制御を通じて医療や健康維持といった広範囲な応用が見込まれます。また、新規技術を基盤に微生物遺伝子資源の利用範囲拡大に貢献でき、物質生産、創薬、微生物機能利用など多分野への展開が期待されます。

 

研究グループ

・共生進化実験/ゲノム解析グループ
・共生進化解析/評価/制御グループ
・共生細菌ゲノム改変/操作グループ
・共生相互作用/情報伝達グループ
・共生システム解析/再構築グループ
・異種間共生構築/進化解析グループ

 

研究成果の概要

生物界において微生物との共生関係は普遍的にみられ、重要な生物機能を担っており、基礎のみならず応用、医学的にも近年大きな注目を集めている。しかし高度な共生関係の大部分は非モデル生物間の密接な相互作用および共進化の帰結であり、その成立過程や機能解明へのアプローチは容易でなく、未探索の研究領野であった。

本プロジェクトでは、私たちが独自に開発した昆虫―大腸菌人工共生進化系を駆使した大規模進化実験、および培養困難な共生細菌の遺伝子操作や全ゲノムクローニングを可能にする新規技術開発を突破口として、共生進化のリアルタイムの過程観察および具体的な機構解明を実現した。さらに無菌マウス腸内での相互進化系に展開し、昆虫から哺乳類までを俯瞰した共生関係の進化と機構の解析から、無脊椎動物から脊椎動物にわたる共生機構の共通性と多様性の理解に取り組んだ。

例えば、たった1遺伝子の突然変異で自由生活性細菌である大腸菌が昆虫の生存を支持する必須共生細菌に進化しうること、そのような遺伝子が複数存在し、しばしば広域転写制御系の構成要素であること、多くは必須アミノ酸の産生を促進する効果を持つことなどを解明した。これらの発見は、従来の常識を覆し、共生進化がきわめて容易かつ迅速に起こりうることを実証した画期的な研究成果である。

 

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研究成果

昆虫―大腸菌人工共生進化系の開発および共生進化機構の解明

共生細菌が生存に必須なチャバネアオカメムシから共生細菌を除去し、かわりに高速進化大腸菌を感染させて実験室で継続的に飼育維持することにより、数ヶ月から1年ほどの短期間のうちに、炭素カタボライト抑制(CCR)系に生じた単一突然変異により、大腸菌が宿主カメムシの生存を支える必須共生細菌に進化することを示した。モデル細菌である大腸菌を実験室で共生細菌に進化させることに成功し、共生進化がきわめて容易かつ迅速に起こりうることを実証した。さらにCCRの制御下にあるトリプトファン分解酵素の機能喪失や抑制が、大腸菌の共生細菌化の主要因であることを解明し、その具体的な機構が必須アミノ酸であるトリプトファンの濃度上昇および毒性のあるインドールの産生抑制であることを明らかにした。そのほかにもメチオニン合成経路のリプレッサーの機能喪失による必須アミノ酸メチオニンの濃度上昇や、他の広域転写制御系の突然変異による分岐鎖アミノ酸の濃度上昇などが大腸菌のカメムシ共生細菌化に関わることを見出すなど、多様な共生進化経路の存在を実証した。

代表論文

  1. Wang Y, Moriyama M, Koga R, Oguchi K, Hosokawa T, Takai H, Shigenobu S, Nikoh N, Fukatsu T (2026) Tryptophanase disruption promotes insect-bacterium mutualism. Nat Microbiol 11: 759-769.
    https://doi.org/10.1038/s41564-026-02264-z
  2. Wang Y, Koga R, Moriyama M, Fukatsu T (2026) Disruption of methionine synthesis repressor makes Escherichia coli mutualistic to host stinkbug. mBio 17: e03883-25.
    https://doi.org/10.1128/mbio.03883-25
  3. Sugiyama R, Moriyama M, Koga R, Fukatsu T (2024) Host range of naturally and artificially evolved symbiotic bacteria for a specific host insect. mBio 15: e01342-24.
    https://doi.org/10.1128/mbio.01342-24
  4. Koga R, Moriyama M, Onodera-Tanifuji N, Ishii Y, Takai H, Mizutani M, Oguchi K, Okura R, Suzuki S, Gotoh Y, Hayashi T, Seki M, Suzuki Y, Nishide Y, Hosokawa T, Wakamoto Y, Furusawa C, Fukatsu T (2022) Single mutation makes Escherichia coli an insect mutualist. Nat Microbiol 7: 1141-1150.
    https://doi.org/10.1038/s41564-022-01179-9

新規な昆虫―微生物共生系の制御機構および新規機能の解明

昆虫の変態における腸内共生制御機構の解明、共生細菌の垂直伝達に必須な新規宿主分泌タンパク質の発見、共生細菌毒素の自己安定化機構の解明、後脚で培養した菌で寄生蜂から卵を守る防衛共生の発見など、高度な昆虫―微生物共生系の制御や機能に関する新知見を次々と明らかにした。生物の進化および多様化に微生物共生が巧妙な形で大きな役割を果たしている実態を解明し、学術界のみならず一般社会にも広く情報発信をおこなった。

 

代表論文

  1. Nishino T, Moriyama M, Mukai H, Tanahashi M, Hosokawa T, Chang HY, Tachikawa S, Nikoh N, Koga R, Kuo CH, Fukatsu T (2025) Defensive fungal symbiosis on insect hindlegs. Science 390: 279-283.
    https://doi.org/10.1126/science.adp6699
  2. Oishi S, Moriyama M, Mizutani M, Futahashi R, Fukatsu T (2023) Regulation and remodeling of microbial symbiosis in insect metamorphosis. Proc Natl Acad Sci USA 120: e2304879120.
    https://doi.org/10.1073/pnas.2304879120
  3. Harumoto T (2023) Self-stabilization mechanism encoded by a bacterial toxin facilitates reproductive parasitism. Curr Biol 33: 4021-4029.
    https://doi.org/10.1016/j.cub.2023.08.032
  4. Koga R, Tanahashi M, Nikoh N, Hosokawa T, Meng XY, Moriyama M, Fukatsu T (2021) Host’s guardian protein counters degenerative symbiont evolution. Proc Natl Acad Sci USA 118: e2103957118.
    https://doi.org/10.1073/pnas.2103957118

ハイスループット・高分解能な培養、計測、実験進化技術の新展開

独自に開発した進化実験ロボットを駆使することにより、微生物を長期に培養して薬剤耐性進化の過程をハイスループットに解析できるシステムを構築し、大腸菌の薬剤耐性進化の予測、大腸菌の進化を特徴づける状態量の機械学習による抽出、発現量が変化しやすい細菌遺伝子の網羅的同定及び予測などに成功した。独自に開発したマイクロ流体デバイスを用いた数百万個の細菌細胞の個別追跡により、抗生物質パーシスタンスの多様な生存モードの解明、致死的遺伝子変異に対する細胞の適応現象の検出などを実現した。ラマン分光法を利用して、1細胞レベルで細菌の細胞内状態を解析し、共生進化状態の識別が可能であることを示した。反復配列集積大腸菌を人工的に構築し、ダイナミックなゲノム進化を実証的に解析することを可能にした。これらの高度かつ高分解能の微生物培養、計測、実験進化技術の適用により、共生進化研究に新境地を切り拓いた。

 

代表論文

  1. Furusawa C (2025) Rethinking life through digital evolution. Nat Rev Genet 26: 740.
    https://doi.org/10.1038/s41576-025-00886-3
  2. Kanai Y, Shibai A, Yokoi N, Tsuru S, Furusawa C (2025) Laboratory evolution of the bacterial genome structure through insertion sequence activation. Nucleic Acids Res 53: gkaf331.
    https://doi.org/10.1093/nar/gkaf331
  3. Kamei KF, Kobayashi-Kirschvink KJ, NozoeT, Nakaoka H, Umetani M, Wakamoto Y (2025) Revealing global stoichiometry conservation architecture in cells from Raman spectral patterns. eLife 14: RP101485.
    https://doi.org/10.7554/eLife.101485.2
  4. Shibai A, Furusawa C (2024) Development of specialized devices for microbial experimental evolution. Dev Growth Diff 66: 372-380.
    https://doi.org/10.1111/dgd.12940
  5. Iwasawa J, Maeda T, Shibai A, Kotani H, Kawada M, Furusawa C (2022) Analysis of the evolution of resistance to multiple antibiotics enables prediction of the Escherichia coli phenotype-based fitness landscape. PLOS Biol 20: e3001920.
    https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3001920
  6. Shibai A, Kotani H, Kawada M, Yokoi N, Furusawa C (2022) Development of a device that generates a temperature gradient in a microtiter plate for microbial culture. SLAS Technol 27: 279-283.
    https://doi.org/10.1016/j.slast.2022.07.004
  7. Maeda T, Iwasawa J, Kotani H, Sakata N, Kawada M, Horinouchi T, Sakai A, Tanabe K, Furusawa C (2020) High-throughput laboratory evolution reveals evolutionary constraints in Escherichia coli. Nat Commun 11: 5970.
    https://doi.org/10.1038/s41467-020-19713-w

合成生物学的技術を駆使した共生微生物のゲノム、遺伝子、機能改変技術の新展開

出芽酵母を用いた細菌全ゲノムのクローニング、合成、改変、移植等の合成生物学的技術を駆使することにより、難培養性の共生細菌ゲノムを遺伝学的に操作できる道を拓いた。例えば、ゲノムを極限まで削減して作成した細菌マイコプラズマのミニマルセルに、らせん形状で運動性を有する細菌スピロプラズマのいくつかの遺伝子を導入して発現させることで、合成細菌にらせん形状や遊泳能力を賦与することに成功した。これらの研究成果により、合成ゲノム細菌の機能解析や、難培養性共生細菌の遺伝子機能解明に新たなアプローチを提示した。

 

代表論文

  1. Mizutani M, Omori S, Yamane N, Suzuki Y, Glass JI, Chuang RY, Fukatsu T, Kakizawa S (2024) Cloning and sequencing analysis of whole Spiroplasma genome in yeast. Front Microbiol 15: 1411609.
    https://doi.org/10.3389/fmicb.2024.1411609
  2. Kiyama H, Kakizawa S, Sasajima Y, Tahara Y, Miyata M. (2022) Reconstitution of a minimal motility system based on Spiroplasma swimming by two bacterial actins in a synthetic minimal bacterium. Sci Adv 8: eabo7490.
    https://doi.org/10.1126/sciadv.abo7490

哺乳類―昆虫―大腸菌人工共生系における腸内共生機構の共通性および多様性の理解

無菌マウスと高速進化大腸菌を用いた人工共生進化系を用いることにより、腸内定着時に生じる大腸菌ゲノムの遺伝子変異が宿主の食餌の種類に依存して変化すること、これらの変異株は腸内の栄養素を効率的に利用する能力の向上により優勢になることを明らかにした。本実験系を昆虫―大腸菌人工共生進化系に展開することにより、昆虫腸内と哺乳類腸内の両方の定着に共通して必要と思われる遺伝子変異候補や、昆虫腸内定着または哺乳類腸内定着のみに必要な遺伝子変異候補を同定し、脊椎動物と無脊椎動物の腸内共生機構の相違点と共通点の解明を推進した。また、ウィルス性肺炎の重症化抑制や、持久運動パフォーマンスの向上など、哺乳類における腸内細菌叢の生理機能について数々の重要な新知見を得た。

 

代表論文

  1. Tsukimi T, Obana N, Shigemori S, Arakawa K, Miyauchi E, Yang J, Song I, Ashino Y, Wakayama M, Soga T, Tomita M, Ohno H, Mori H, Fukuda S. (2024) Genetic mutation in Escherichia coli genome during adaptation to the murine intestine is optimized for the host diet. mSystems 9: e01123-23.
    https://doi.org/10.1128/msystems.01123-23
  2. Nagai M, Moriyama M, Ishii C, Mori H, Watanabe H, Nakahara T, Yamada T, Ishikawa D, Ishikawa T, Hirayama A, Kimura I, Nagahara A, Naito T, Fukuda S, Ichinohe T. (2023) High body temperature increases gut microbiota-dependent host resistance to influenza A virus and SARS-CoV-2 infection. Nat Commun 14: 3863.
    https://doi.org/10.1038/s41467-023-39569-0
  3. Morita H, Kano C, Ishii C, Kagata N, Ishikawa T, Hirayama A, Uchiyama Y, Hara S, Nakamura T, Fukuda S. (2023) Bacteroides uniformis and its preferred substrate, α-cyclodextrin, enhance endurance exercise performance in mice and human males. Sci Adv 9: add2120.
    https://doi.org/10.1126/sciadv.add2120
  4. Furusawa C, Tanabe K, Ishii C, Kagata N, Tomita M, Fukuda S (2021) Decoding gut microbiota by imaging analysis of fecal samples. iScience 24: 103481.
    https://doi.org/10.1016/j.isci.2021.103481

共生進化機構研究の最前線についての一般社会、次世代へのアウトリーチ活動

ERATOプロジェクトの実施において高度な学術的成果の輩出はもちろんのこと、「共生」「進化」という生物学分野にとどまらない普遍性と広がりを有する研究領域に取り組む上で「一般社会の皆さんへ、とりわけ次の世代を担う子どもたちへ」「高いレベルの科学的な知見や成果や世界の見方を」「わかりやすく、面白く、伝えたい」という使命感のもと、ERATO共生進化機構国際セミナー(全34回)、ERATO共生進化機構先端セミナー(全39回)、中学校・高校オンライン特別講義(全43回)、YouTubeチャンネル開設など、積極的かつ広範なアウトリーチ活動を展開した。

 

アウトリーチ活動

  1. ERATO深津共生進化機構プロジェクト → セミナー
    https://www.jst.go.jp/erato/fukatsu/seminars/
  2. ERATO深津共生進化機構プロジェクト → アウトリーチ活動等
    https://www.jst.go.jp/erato/fukatsu/research/
  3. JST news 特集「昆虫ー大腸菌実験共生進化系を確立 生命現象と進化の謎の解明目指す」
    https://www.jst.go.jp/pr/jst-news/backnumber/2024/202404/index.html
  4. YouTube「ERATO深津共生進化機構プロジェクト」チャンネル
    https://www.youtube.com/@eratosymbiosis
  5. ヨビノリ学術対談【閲覧注意!?】昆虫に共生する微生物研究の最前線
    https://youtu.be/M3_OsZ8TFeI
  6. ヨビノリ学術対談【速報】共生関係の進化を目の前で起こすことに成功
    https://youtu.be/xIrw0BQzF5M
  7. 日本動物学会動物学教育賞「昆虫類と微生物の共生関係および共進化の重要性の一般社会および小・中・高校生への普及活動」
    https://www.zoology.or.jp/about/others/education/education-list
  8. 日本進化学会教育啓発賞「昆虫類と微生物の共生進化に関する一般向け著書・講演・教育活動を通した啓発」
    http://sesj.kenkyuukai.jp/special/index.asp?id=41048
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