社会的孤立・孤独の予防と多様な社会的ネットワークの構築|RISTEX

RISTEX社会技術研究開発センター

稲葉 陽二

元 日本大学法学部
教授

カズオ・イシグロの『クララとお日さま』の最後の部分で、主人公であるAIロボットクララが、彼女の主人であった少女を調べた人物が少女についてなにも特別なものを見出すことができなかったことについて、それは探す場所を間違えたのだ、特別な何かはあるのだが、それは少女の中にではなく、少女を取り巻く人々との中にあったのだと述べる一節があります。私はこれに強く同意します。一人だけの社会では孤立はありえません。孤立は本来それだけで社会的なはずなのに本プログラムではあえて「社会的」孤立と称している意味を十分考えて欲しいのです。また、孤独は望ましくない状態であると決めつけるのはやめて欲しいと思います。避けるべきは、社会の理不尽を個人に負わせ、それを当人でさえ自覚せず、絶望に陥れることです。そのような事態はなんとしてでも避けるように社会の仕組みを変えてほしい。問題は個人の属性にあるのではなく、個人をとりまく社会環境にあります。

プロフィール

もともと経済学を専門として、経済予測、エネルギーの経済分析をしていたが、米国駐在中、生産性は改善しているのに長期にわたり実質賃金が低下している事態に驚き、『中流が消えるアメリカ』という書籍を上梓した。その後、日本も同じ事態に立ち至ったが、日本の経済学者が経済格差の拡大に無頓着であることに大きな違和感をもった。当時、社会関係資本の論者が、格差拡大は社会の安定を損ねるから問題であるという議論を展開しており、それに賛同し2000年のはじめごろから社会関係資本論を研究している。京都大学経済学部卒、スタンフォード大学経営大学院修了、筑波大学博士(学術)。この間、OECDエネルギー経済分析部エコノミスト、日本経済研究所(国際援助担当)常務理事、日本政策投資銀行設備投資研究所長、日本大学法学部教授を歴任。現在は日本大学大学院法学研究科非常勤講師。

専門分野・関心分野

社会関係資本(social capital)論

著書・論文

  • 佐藤嘉倫、稲葉陽二、藤原佳典(編著)(2022)『AIはどのように社会を変えるか ソーシャル・キャピタルと格差の視点から』 東京大学出版会
  • 稲葉陽二(編著)(2021)『ソーシャル・キャピタルからみた人間関係―社会関係資本の光と影』 日本評論社
  • 稲葉陽二(2017)『企業不祥事はなぜ起きるのか ソーシャル・キャピタルから読み解く組織風土』 中央公論新社
  • 稲葉陽二/吉野諒三(2016)『ソーシャル・キャピタルの世界 学術的有効性・政策的含意と統計・解析手法の検証』 ミネルヴァ書房
  • 稲葉陽二/藤原佳典(編著)(2013)『ソーシャル・キャピタルで解く社会的孤立 重層的予防策とソーシャルビジネスへの展望』 ミネルヴァ書房