[細胞構成] 細胞機能の構成的な理解と制御

※ 所属・役職は、活動終了時点のものです。

戦略目標

生命現象の統合的理解や安全で有効性の高い治療の実現等に向けたin silico / in vitroでの細胞動態の再現化による細胞と細胞集団を自在に操る技術体系の創出

研究総括

上田 泰己(東京大学 大学院医学系研究科 教授)

概要

 「生命とは何か」という疑問に関し、様々な現象に関わる生体分子を探し当て、その機能を解析することにより、生命科学は飛躍的な発展を遂げてきました。また、2000年前後に様々なゲノムが相次いで解読され始めてから約10年以上が経過しましたが、ゲノムという分子のカタログ情報が手に入った結果、従来の個別現象の解析を踏まえて生命の基本単位である細胞の設計図を捉えようとする動きが加速しています。なかでも複数の関連分子を試験管内で反応させることにより、複製・転写・翻訳など特定の細胞内現象の部分的な再構築がすでに成功しています。このような構成的なアプローチは萌芽的ではありますが、これまでにも生体分子が高次機能を生じる仕組みについて様々な知見をもたらしており、これらの延長線上に『細胞の再構成・設計』を試みることを通じて、生命の本質に迫ろうとする機運が国内外で高まっています。そこで、本研究領域では、分子の設計から個体システムの合成まで多岐にわたる構成的アプローチによって生命の理解と幅広い応用を目指す生命科学の新潮流を対象とすることにしました。

構成的アプローチは、生体分子が織りなす分子ネットワークの定量的な理解や、分子ネットワークが機能するための十分条件の確定に真価を発揮します。またデータ収集に重点をおいた記述的アプローチから、生命システムの動的な振る舞いに関する定量的な予測とその検証に重きをおいたアプローチへの転換をもたらし、理論と実験のテンポのよいサイクルを推し進める効用があります。さらに現象の特性を定式化・定量的に表現することが求められ、それを実験的に検証することにより、対象としている生命機能と私たちの知識や理論との齟齬を明らかにします。その齟齬は新たな解析的・構成的な研究の種となり、対象となる現象の本質を深く問い、理解し、さらには自在に制御するための有効な手がかりともなります。

最近では、このような構成的アプローチを統合したより大きなテーマとして「細胞」の再構成・設計の実現性に関して国内外で真剣に議論されてきています。このような試みは、何をもって「細胞」を創ったとみなすのか、という問題を常に意識することになるため,とりもなおさず「細胞」とは何か、「生命」とは何か、という生命科学における根本問題を不断に考える営みでもあります。そのため構成的アプローチは、自然科学的観点においてだけでなく、社会や文化との関わりにおいても注目すべき広がりをもっています。 現在、合成可能なDNAの長さは指数関数的に増大しており、これまでに遺伝子サイズやウイルスサイズのDNAが完全合成され、昨年の2010年には細菌のゲノム合成が現実となっています。もしもこのままのペースでDNA合成が発展すると2015〜2020年には、ヒトのゲノムが合成されることになります。そのときに実現するであろう生命科学とはどのようなものなのでしょうか。本研究領域への参加を通じて『創る』生命科学の創造に実際に立ち会っていただければ幸いです。

 本研究領域は、文部科学省の選定した戦略目標「生命現象の統合的理解や安全で有効性の高い治療の実現等に向けたin silico / in vitroでの細胞動態の再現化による細胞と細胞集団を自在に操る技術体系の創出」のもとに、平成23年度に発足しました。

領域アドバイザー

上田 卓也 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授/研究科長
岡田 清孝 自然科学研究機構 理事
影山 龍一郎 京都大学 ウイルス研究所 教授
菅 裕明 東京大学 大学院理学系研究科 教授
杉本 亜砂子 東北大学 大学院生命科学研究科 教授
竹内 昌治 東京大学 生産技術研究所 教授
永井 健治 大阪大学 産業科学研究所 教授
西田 栄介 京都大学 大学院生命科学研究科 教授
野地 博行 東京大学 大学院工学研究科 教授
水島 昇 東京大学 大学院医学系研究科 教授

平成23年度 採択課題

非平衡人工細胞モデルの時空間ダイナミクス定量解析

研究者
瀧ノ上 正浩(東京工業大学 大学院総合理工学研究科 准教授)

バクテリア再構成法の開発

研究者
田端 和仁(東京大学 大学院工学系研究科 講師)

構成的アプローチによる植物の生物時計の組織特異的な役割の解明

研究者
遠藤 求(京都大学 大学院生命科学研究科 准教授)

分子輸送から解く生命の起源:構造、情報、輸送の動的結合の解明と新たな分子操作技術の確立

研究者
前多 裕介(九州大学 大学院理学研究院 准教授)

動物胚の頑強な相似性を保証する発生場スケーリングのシステム制御機序

研究者
猪股 秀彦(理化学研究所 多細胞システム形成研究センター チームリーダー)

細胞内環境操作法による疾患モデル細胞の創成

研究者
加納 ふみ(東京大学 大学院総合文化研究科 助教)

分子複合体と動物個体での機能を結ぶ1分子可視化計測

研究者
茅 元司(東京大学 大学院理学系研究科 助教)

無細胞合成生物学による人工二次代謝産物の発見と生産

研究者
後藤 佑樹(東京大学 大学院理学系研究科 助教)

染色体複製系の周期的駆動にむけた回路の再構成

研究者
末次 正幸(立教大学 理学部 准教授)

人工遺伝子回路を利用して発生現象に迫る

研究者
石松 愛(ハーバードメディカルスクール システムバイオロジー部門 ポストドクトラルフェロー)

カイメンが工学的に優れた骨格構造を自律的に構築するメカニズムの解明

研究者
船山 典子(京都大学 大学院理学研究科 准教授)

細胞分裂周期のin vitro再構成への挑戦

研究者
持田 悟(熊本大学 国際先端医学研究機構 准教授)

細胞形状と運動の自己組織的挙動の理解と操作

研究者
澤井 哲(東京大学 大学院総合文化研究科 准教授)

平成24年度 採択課題

脳内情報を担う動的回路としての「細胞集成体」の計測と制御

研究者
佐藤 正晃(科学技術振興機構  さきがけ研究者)

光で“創る”オプトジェネティクスへの挑戦

研究者
井上 圭一(名古屋工業大学 大学院工学研究科 助教)

「エピヌクレオソーム」の精密な再構成による遺伝子発現制御解析

研究者
梅原 崇史(理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター ユニットリーダー)

人工細胞作出に向けた人工脂質二重膜と生体膜の違いの解明

研究者
池ノ内 順一(九州大学 大学院理学研究院 准教授)

細胞走化性の再構築

研究者
井上 尊生(ジョンズ・ホプキンス大学(アメリカ) 大学院医学系研究科 アソシエイトプロフェッサー)

細胞間フィードバック回路による細胞運命の制御

研究者
戎家 美紀(理化学研究所 生命システム研究センター ユニットリーダー)

細胞内局所温度が司る細胞機能発現の解明

研究者
岡部 弘基(東京大学 大学院薬学系研究科 助教)

有糸分裂紡錘体におけるミクロな力学反応の再構成

研究者
島本 勇太(情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 准教授)

記憶の具現化

研究者
杉 拓磨(科学技術振興機構  さきがけ研究者)

進化的・構成的アプローチによる哺乳類型大脳皮質層構造の再設計

研究者
野村 真(京都府立医科大学 大学院医学研究科 准教授)

細胞挙動の解析から構成的に理解するその集合体としての植物過敏感反応誘導機構

研究者
別役 重之(科学技術振興機構  さきがけ研究者)

平成25年度 採択課題

生物時計中枢における細胞ネットワークの計測・制御と再構成

研究者
榎木 亮介(北海道大学 大学院医学研究科 助教)

光の色を使った細胞内情報伝達因子の時空間的に精密な制御

研究者
小柳 光正(大阪市立大学 大学院理学研究科 准教授)

分裂様式の操作による細胞運命の制御と個体構築原理の追究

研究者
清光 智美(名古屋大学 大学院理学研究科 助教)

力のベイズ推定から解き明かす組織の変形と力

研究者
杉村 薫(京都大学 物質-細胞統合システム拠点 助教)

デグロン変異細胞創出のための基盤技術開発

研究者
鐘巻 将人(情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 准教授)

多細胞系からなる複雑なヒト臓器の人為的構成

研究者
武部 貴則(横浜市立大学 大学院医学研究科 准教授)

細胞膜模倣リン脂質非対称膜による自己再生産可能な人工細胞モデルの創成

研究者
神谷 厚輝(神奈川科学技術アカデミー 人工細胞膜システムグループ 研究員)

高次脳機能情報処理の再構成に向けた恐怖記憶の読み取りと操作

研究者
揚妻 正和(科学技術振興機構  さきがけ研究者)

血流による血管ネットワークの制御と再現

研究者
佐藤 有紀(九州大学 大学院医学研究院 講師)

電界誘起気泡インジェクションメスによる分子操作と再構成

研究者
山西 陽子(芝浦工業大学 機械工学科 准教授)

精子幹細胞の寿命と精子形成への寄与の動態解明

研究者
篠原 美都(京都大学 大学院医学研究科 助教)

なぜ夢を見るのか ~トランスジェニックマウスによるレム睡眠の操作と解析~

研究者
林 悠(筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 助教)

細胞機能の制御・設計に向けたアロステリックタンパク質の人工設計

研究者
古賀 信康(自然科学研究機構 分子科学研究所 准教授)

神経スパイク列の再構成から迫る神経活動依存的な神経回路形成機構の解明

研究者
竹内 春樹(科学技術振興機構  さきがけ研究者)

非侵襲脳刺激による脳領域間の情報伝達効率の制御

研究者
森島 陽介(ベルン大学(スイス) トランスレーショナルリサーチセンター グループリーダー)

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