統合型材料開発システムによるマテリアル革命

SIP「統合型材料開発システムによるマテリアル革命」成果報告会2020
~マテリアルズインテグレーション(MI)による材料開発手法の刷新~
開催報告

2020年12月1日

 本課題では、今年度で3年目を迎え、研究開発内容、そして最新の研究成果を多くの方々に知って頂くことを目的に、研究者等による成果報告会を10月28日にオンライン方式で開催しました。

 成果報告会では、髙原勇内閣府大臣官房審議官の開会挨拶、三島良直プログラムディレクターによる産官学48機関(企業19、大学25、公的機関4)が取り組む開発研究の内容と意義の説明に続き、毛利哲夫サブプログラムディレクターによる「計算材料科学から統合型材料開発システム構築へ」と題した課題が取り組みMIシステムの紹介から始まりました。引き続き、研究開発の取り組み等について3領域および13チームから成果報告を行い、科学技術振興機構白木澤 佳子理事による閉会の挨拶で終了しました。なお、オンライン開催を行うに当たり、「講演要旨/ポスター発表集」を参加登録された方に事前に送付し、32課題紹介ポスター発表を紙面で行いました。また、チャットで頂いた質問へは、講演者およびポスター発表者からの回答を本ページで掲載を行いました。

 約400名にアクセス頂き、我が国で開発してきたマテリアルズインテグレーションの技術基盤を活かし、欲しい性能から材料・プロセスをデザインする統合型材料開発システムの開発を行い、航空機の機体用高機能CFRPの開発や粉末・3D積層などの材料プロセスによる金属・セラミックス材料の開発を目指すプロジェクト成果紹介を行うことができました。

プログラム

10:00-10:45 【オープニング】
  • 10:00-10:05 開会挨拶  髙原 勇 内閣府大臣官房審議官(科学技術・イノベーション担当)
  • 10:05-10:25 PD挨拶および「構造材料におけるデータ駆動型設計手法の開発研究の意義と内容」  三島 良直 プログラムディレクター
  • 10:25-10:45 「計算材料科学から統合型材料開発システム構築へ」 毛利 哲夫 サブプログラムディレクター 
10:45-12:00 【先端的構造材料・プロセスに対応した逆問題MI基盤の構築(A領域)の成果報告】
  • 10:45-10:55 「逆問題マテリアルズインテグレーションシステムの最前線」 出村 雅彦(物質・材料研究機構)
  • 10:55-11:20 「逆問題解析による構造材料開発のパラダイムシフト」 榎 学(東京大学)
  • 11:20-11:45 「マテリアルズインテグレーション(MI)システムの開発と材料開発への活用」 源 聡(物質・材料研究機構)
  • 11:45-12:00 「構造材料データをデジタル化する」 出村 雅彦(物質・材料研究機構)
12:00-13:00 昼休み
13:00-14:05 【逆問題MIの実構造材料(CFRP )への適用(B領域)の成果報告】
  • 13:00-13:05 「先進的CFRP研究開発とMIシステム」  岡部 朋永(東北大学)
  • 13:05-13:20 「マルチフィジックス/マルチスケール(MP/MS)統合解析ツールの開発」  岡部 朋永(東北大学)
  • 13:20-13:35 「次世代航空機構造における材料のマルチファンクション化」  吉岡 健一(東レ株式会社)
  • 13:35-13:50 「環境負荷低減に貢献する複合材適用拡大を目指して」  阿部 俊夫(三菱重工業株式会社)
  • 13:50-14:05 「複合材のポテンシャルを引き出す薄層材を用いた高自由度設計製造技術」 内山 重和(株式会社SUBARU)
14:05-14:15 休憩
14:15-16:10 【逆問題MIの実構造材料(粉末・3D積層)への適用(C領域)の成果報告】
  • 14:15-14:35 「『逆問題MIの実構造材料への適用(粉末・3D積層)』 の紹介と金属Additive Manufacturingの魅力」 中野 貴由(大阪大学)
  • 14:35-14:55 「プロセスデザイン」  渡邊 誠(物質・材料研究機構)
  • 14:55-15:10 「3D積層造形プロセス向け高強度Ni基合金の開発」 井頭 賢一郎(川崎重工業株式会社)
  • 15:10-15:25 「高性能化のためのNi粉末鍛造プロセスの開発の進捗と展望」 今野 晋也(三菱日立パワーシステムズ株式会社)
  • 15:25-15:40 「Ti合金の粉末・3D積層造形プロセスの開発」 高橋 聰(株式会社IHI)
  • 15:40-15:55 「粉末造形プロセスによる高性能TiAl基合金動翼の開発に向けた逆問題MI基盤技術の構築」 竹山 雅夫(東京工業大学)
  • 15:55-16:10 「セラミックス基複合材料部材開発に役立つ材料開発システム:考え方と役割」  香川 豊(東京工科大学)
16:10-16:15 【クロージング】
  • 16:10-16:15 閉会挨拶  白木澤 佳子 (科学技術振興機構 理事)

成果報告会の様子

  • タイトルスライド

  • 開催挨拶

  • 課題紹介

  • 閉会挨拶

成果報告会での質問と回答

頂いた質問と回答は以下のとおりです。

各領域およびチームの講演について

質問 回答 (敬称略)

【質問先】
「逆問題MIの実構造材料(CFRP )への適用(B領域)の成果報告」の5講演について

【質問内容】
解析シミュレーション技術など、5つの報告内容はCFRPに特化したものとなっておりますが、CFRTPについては今後適用が進んでいく可能性は低いのでしょうか?その場合、理由などありましたらご教授下さい。

CFRPは既に成熟した材料であり、数多くの適用例があります。一方で、CFRTP(特に連続繊維強化複合材料において)は未だに開発途中であり、今後の発展が期待される新規材料です。我々としては社会実装への道筋を立てやすいCFRPに特化して取り組んでおります。

回答:岡部 朋永(東北大学)

【質問先】
「先進的CFRP研究開発とMIシステム(B領域全体)」
岡部 朋永(東北大学)、中村 俊哉(JAXA)

【質問内容】
A領域の技術は、MI統合システムでできる限り、汎用的に使えることを目指しているようですが、B領域では、個別課題の解決をスムーズに行うツールとして使われているように見えます。製造現場にあるAIと連携させて使うのが、最終的な使い方になると思いますが、それに近い使い方はありますでしょうか?

ご質問のようなのAIの使い方も重要ですが、今回のA3とB領域連携における使い方とは異なると思います。航空機材料においては、材料の研究から認定までに多くの時間やコストがかかるため、研究開発の時間短縮・コスト削減が大きな課題となっています。本プロジェクトでは、MIを活用した樹脂設計やCFRP設計の最適化、研究開発の効率化を目指しており、それに適したMIの解析手法を使用しています。ご質問の製造現場にあるAIと連携して使用する場合は品質管理や生産性向上が目的と思いますが、その場合は別の手法が必要になると考えており、今回のA3とB領域のシステムでは想定しておりません。

回答:岡部 朋永(東北大学)

【質問先】
「次世代航空機構造における材料のマルチファンクション化」(B1)
吉岡 健一(東レ株式会社)、岡部 朋永(東北大学)

【質問内容】
自己組織化マップを用いた組成探索がうまくいったと講演がございましたが、どういったデータから自己組織化マップを作成し、どのようにターゲットエリアを推定されたのでしょうか?

現状では、実験データを基に、自己組織化マップを作成し、それを元にトレードオフの少ない点が浮き彫りとなるようサンプル数を用意し、ターゲットエリアを探し出しました。ターゲットエリアの設定等は材料技術者の希望に沿ってデザインすることが可能です。

回答:岡部 朋永(東北大学)

ポスター発表について

質問 回答 (敬称略)

【質問先】
「次世代高強度鋼MI:組織と特性の逆問題解析技術の開発 」(A1-1)
白岩 隆行(東京大学)、後藤 聡太(JFEスチール株式会社)

[講演要旨集・ポスター集(p34)]

【質問内容】
画像データから組織記述子を出力し、特性とのひもづけを試みています。その際、画像データから抽出された組織記述子については、どのように選定されているのでしょうか?

組織記述子の選定は、2つのアプローチから検討しています。

ひとつは経験的知見に基づくアプローチです。
初めに、従来からよく使用されている組織記述子として、結晶粒径や、軟質相/硬質相の体積分率を使用することを検討しました。最近は、粒形状や硬質相の連結性が重要であるという知見をもとに、真円度などの粒形状を表すパラメータや、連結性を表すベッチ数やオイラー標数を使うことも検討しています。

もうひとつは、データ駆動型のアプローチです。
対象が二相組織なので、組織形態は2点空間相関関数やパーシステントホモロジーにより表すことができます。これらは高次元のデータなので、次元を削減する必要があります。そこで、例えば、主成分解析により次元削減した後に、どの主成分が性能(TSやEL)に寄与するかを、線形回帰モデルを用いた全状態探索法(ES-Dos法)によりモデル選択することで、記述子の選定ができないか検討を進めています。

回答:白岩 隆行(東京大学)

【質問先】
「ベイズ推定によるアルミ合金特性の予測」(A1-5-2)
奥野 好成(昭和電工株式会社)、井上 純哉(東京大学)

[講演要旨集・ポスター集(p39)]

【質問内容】
q1.
こちらの学習モデルは線形ニューラルネットワークとありますが、どのモジュール(sklearn,など)を使用しておりますか?または独自で学習アルゴリズムを自作されていますか?

q2.
今回の学習モデルは内挿予測または外挿予測のどちらになりますか?

a1.
学習アルゴリズムはプロジェクト内で独自開発したものを利用しています。
この学習アルゴリズムはニューラルネットワークだけでなく、様々な非線形回帰モデルに適用可能なもので、A1-2等のサブチームでも利用しています。

a2.
原理的には学習モデルは内挿予測と外挿予測の両方に適用可能で、予測の不確実性も含め推定可能です。とは言え、 メカニズムベースではない 非線形モデルを用いた場合は、外挿予測に関しては別途検証が必要になると考えています。

回答:井上 純哉(東京大学)

【質問先】
「画像データのカタチを捉えて材料特性とプロセス条件をつなぐ」(A5-3)
赤木和人、西浦 廉政 (東北大学)

[講演要旨集・ポスター集(p56)]
DP鋼板の組織画像を用いた逆問題MI(ポスター右下)について

【質問内容】
q1.「試料毎に100枚の画像群を作成」とありますが、元の画像は全く同じものを使用して、100枚を作成されたのでしょうか?

q2. TSxELと記述子ベクトルとの相関をよりいっそう良くするためには、どのようなアプローチを検討されますか?
例えば以下のようなアプローチについては、検討されるのでしょうか?
(2-1)画像からこれまでに取得したことがない方法で数値情報を取得する
(2-2)既知方法にのっとり取得された数値情報を変換する
(2-3)機械学習モデルを検討する

a1.
各画像は同一試料の同一断面について異なる場所を撮影したものになっています。
撮影者と装置は同じですが、コントラストやフォーカスは画像毎にばらつきがあります。

a2.
(2-1)(2-2)(2-3)のいずれも検討もしくは予備的な評価を行なっていますが、ご報告できるまでもう少しお時間をいただきそうです。なお、パーシステントホモロジーを使うにしても、画像の前処理の仕方によって取り出せる情報が変わります。異なる種類の前処理を経て取り出した情報を組み合わせて記述子ベクトルの表現の幅を広げるアプローチも有用そうです。

回答:赤木和人(東北大学)