マテリアルズインテグレーション(MI: Materials Integration)とは、材料科学の成果を活用するとともに、理論、実験、解析、シミュレーション、データベースなどの全ての科学技術を融合して材料の研究開発を工学的な視点に立ち支援することを目指す総合的な材料技術ツールと定義されます。
金属材料、高分子材料、セラミックス材料、複合材料などのあらゆる種類の材料や部材の実使用環境下でのパフォーマンスが対象となります。
マテリアルズインテグレーションの研究開発の目的は、材料や部材の研究開発時間の短縮に寄与することができる道具の提供です。
この道具を通して、物質・材料・構造・組織・パフォーマンスのいろいろなレベルでの関連性を知ることができ、研究開発に役立てることができます。
この関連性はどのようなレベル(寸法、時間)からも、どのような順序からも求めることができます。例えば、材料プロセス→パフォーマンスという流れではなく、パフォーマンス→材料プロセスの最適化を図る答えを短時間で得ることも可能になります。
このとき、評価や解析に長時間を要している使用環境の影響やその影響の時間的な変化を知り、材料開発に役立てることが可能になります。
材料種類の壁を越えて最適な答えが得られることは、将来のマルチマテリアルの時代には重要です。システムには、企業ユーザーが必要なデータベースを独自に付け加えてシステム全体が利用できるなどの柔軟性も求められます。
マテリアルズインテグレーションを通して新しい知識と知識の使い方を提供します。
マテリアルズインテグレーションは、現在の最先端科学技術の知識を誰もが容易に利用できる道具となることが期待されます。
SIP革新的構造材料で研究開発しているマテリアルズインテグレーションでは、理論、実験、経験、ノウハウ、シミュレーション、データベース等のありとあらゆる材料関連技術を必要に応じて組み合わせたものです。計算機を利用しますが単なるシミュレーションとは異なり、世の中にある科学技術の成果や知識を駆使して材料の研究開発を効率的に行うことを目指したシステムです。必要とされるパフォーマンスからプロセス条件を最適化することなど、現在の材料科学では難しい課題を克服することを可能にするシステムです。
SIP革新的構造材料では、金属材料、高分子材料、セラミックス材料(コーティング)を対象として、新しいコンセプトを持つ材料開発のためのマテリアルズインテグレーションシステムを提供し、工業製品のイノベーションに寄与することを目指しています。
材料を使う立場からのパフォーマンスを取り扱うことが大きな特徴です。構造材料のパフォーマンスとして重要なものとして疲労、クリープ、腐食などの問題があり、いずれの特性も時間に依存するものであり、長い時間の使用を前提にしていることに大きな特徴があります。
長時間の使用を前提とした研究開発では、使用環境下での材料のパフォーマンスの変化を知ることが必要です。ノウハウや経験に頼らず、材料の研究開発時にパフォーマンスを短時間で予測することができれば、研究開発に要する時間を大きく短縮することに貢献します。
これまでに出版・開示された膨大な理論や実験などの論文の成果やノウハウなどを有効に利用するための仕組みを作ることも重要な研究課題です。これまでとは異った分野の最先端科学技術の積極的な取り組みと融合を可能にします。
これまでに出版・開示された膨大な理論や実験などの論文の成果やノウハウなどを有効に利用するための仕組みを作ることも重要な研究課題です。これまでとは異った分野の最先端科学技術の積極的な取り組みと融合を可能にします。
従来から行われている材料研究開発手法に加えて、ビッグデータあるいはデータベースを利用して与えられたデータから全体を俯瞰する技術、計算機科学を利用するための未利用データの取得や活用も含めた新しいコンセプトの統合的な材料開発技術等を提供することができます。
材料の種類を超えて、得意な技術分野を俯瞰しあい問題解決を図ることが可能になります。将来はIoT (Internet of Things)やAI (Artificial Intelligence)などと融合することにより、より強力な材料研究開発に役立つツールとなることが期待されます。マテリアルズインテグレーションは科学技術融合・集積型の新しい概念の材料開発支援のツールの提供を目指します。
材料の力学特性を考える場合にはメートル(実用スケール)からナノメートルオーダーの範囲に亘り、いろいろな理論やシミュレーション技術があります。
一つのスケールで扱える範囲には限界があり、またそれぞれのスケールで最も物理的に意味を持つ特性を求めることができます。
例えば、界面が剥離するモデルではnmのモデルから求めた破壊エネルギーは、cm~mオーダーの実構造体で求めた値の1/10~1/100程度になります。この差を説明するためには、μm~mmオーダーの変形を取り扱うことが重要になります。
材料の原子・分子レベルから材料を使う構造体としてのレベルまでを統一的に理解するためには、理論、実験、シミュレーションを問わず、対象とするディメンジョンや時間スケール毎に現象を理解するための最も良い手法が存在するということを理解し、このとき、材料中に存在する欠陥や材料に働くマクロな力学状態により力学的パフォーマンスは異なること等に注意して、相互の関連を考えることが必要です。
分類 | No. | 研究開発課題 | ユニット名 | ユニット代表者 |
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金属MI | D61 | マテリアルズインテグレーションシステムの開発 | 組織予測システムの開発 | ◎○小関敏彦(東京大学) |
D62 | 性能予測システムの開発 | ◎榎学(東京大学) | ||
D63 | 特性空間分析システムの開発 | 井上純哉(東京大学) | ||
D64 | 統合システムの開発 | 〇渡邊誠(NIMS) | ||
D65 | 溶接部性能保証のためのシミュレーション技術の開発 | 〇廣瀬明夫(大阪大学) | ||
D67 | 「界面」を通じた、構造材料における未解決課題克服のための技術構築 | 〇津崎兼彰(九州大学) | ||
先端計測 | D66 | 構造材料の未活用情報を取得する先端計測技術開発 | 〇大久保雅隆(AIST) | |
セラミックスコーティングMI | D68 | 高温物質移動および組織の時間依存挙動のシミュレーション技術開発 | 松原秀彰(東北大学) | |
D69 | 計算機を用いた材料支援技術への時間依存特性導入技術 | 毛利哲夫(東北大学) | ||
D73 | 構造材料開発に利用する計算熱力学に関する技術基盤構築 | 菖蒲一久(AIST) | ||
高分子MI | D70 | 高性能高分子材料の長期時間依存特性の予測技術の開発 | 栗山卓(山形大学) | |
D71 | 構造用高分子材料の実用型最適設計・総合評価支援ツールの開発 | 藤元伸悦(新日鉄住金化学) | ||
D72 | マテリアルズインテグレーションヘの数学的アプローチ技術開発 | 西浦廉政(東北大学) | ||
D74 | 非線形解析を用いた高分子材料のパフォーマンス予測技術 | 志澤一之(慶應大学) | ||
D75 | 原子・分子レベルからのアプローチによる高分子材料設計支援技術 | 山下雄史(東京大学) |
◎:領域長 〇: 拠点長