ラベッツ博士の科学論
科学神話の終焉とポスト・ノーマル・サイエンス
ジェローム・ラベッツ
御代川貴久夫/訳
こぶし書房 2010年
かつて、『批判的科学』という著作において、20世紀後半の科学・技術が専門家支配の下で暴走する危険性を厳しく批判したラベッツが、21世紀の科学技術の在り方を論じた小著。今後先進国が競って推進しようとしている「ゲノム研究」「ロボット研究」「人工知能研究」「神経科学」「ナノテクノロジー」の健全な発展のためには、「安全」「健康」「環境」そして「倫理」の視点からの研究(彼はこれらの研究の英語名の頭字を集めてSHEE科学と呼ぶ)による補完が必要だと主張している。とりわけ、科学技術が社会に深く組み込まれるようになった現在、科学が不確実な知識しか生み出せず、しかも価値観が関与し、社会的意思決定が求められるような事例が増えている。彼はこのような状況を「ポストノーマル科学」と呼び、「拡大されたピア」による科学技術のマネジメントを提唱している。
(小林傳司:大阪大学コミュニケーションデザイン・センター 教授)