科学者の将来
佐藤文隆
岩波書店 2001年
著者は高名な理論物理学者である。しかし(いやむしろ、だからと言うべきか)本書では、科学が社会の中でどのように振舞うべきかが真剣に考察されている。いわゆる「役に立つ」研究とはとてもいえない分野に携わっていたがゆえに、科学の役割を安易に弁証せず、さりとて、人類固有の「知的好奇心」も単純にもたれかかることもしていない。全編、刺激に満ちた叙述が続くが、とりわけ「ある架空の物語」が面白い。科学と社会の関わりを三つの近未来的な物語で描き出し、専門家には自明な科学が歴史的には新しい「実験中の」社会制度であり、現状は一つの可能性にすぎないことを示唆している。理系ならではの「思考実験」の面白さがここにはある。
(小林傳司:大阪大学コミュニケーションデザイン・センター 教授)