成果概要
Awareness Musicによる「こころの資本」イノベーションと新リベラルアーツの創出6. fMRI/脳波BIN同時解析による感性のメカニズム解明と脳科学モデル
2022年度までの進捗状況
1.概要
本研究開発テーマでは、本プロジェクトで提案している感性脳科学モデルの検証とそのフィールドでの実証に向けた取り組みを進めています。特に、脳と内臓の間の情報伝達と制御に関わるネットワーク(「脳-内受容感覚ネットワーク:Brain-Interoception Network; BIN」)が感性的評価のきっかけとなる「気づき」に関わっているという仮説を立て、fMRI-EEGおよび生理計測によって得られたマルチモーダルデータを解析することで仮説の検証を進めるとともに、そのメカニズムの解明を目指しています(図1)。
2.2022年度までの成果
・音楽の感動に関わる内受容感覚処理と脳内メカニズム
BINにおいて重要な脳部位である島皮質に関する仮説についての論文を自由エネルギー理論の提案者Fristonとの共著で出版しました(Fermin, Friston, & Yamawaki, 2022)。
音楽を聞いたときの感動度を評定する課題を行っている参加者の心拍と脳活動の計測を行いました。心拍知覚の成績に基づいて参加者を内受容感覚の高い群と低い群に分けて比較を行うと、内受容感覚の高い群は低い群に比べて、感動度が高い音楽を聴いているときに心拍数が上昇し、中部島皮質という脳領域で感動度と相関した活動が見られました(図2)。この領域は内臓からの信号を受け取っていることが知られており、内受容感覚が高い人たちでは、感動を評定するとき心拍感覚のような内受容感覚の情報が用いられていると考えられます。
・音楽における予測の不確実性と心拍誘発電位
脳と心臓の間のインタラクションを反映していると考えられる心拍誘発電位(HEP; Heartbeat Evoked Potential)を用いて、次の和音の予測しやすさがBINに与える影響を検討しました。その結果、音楽的な和音列の場合よりも、次が予測しづらく、不確実性が高い和音列の場合に、前頭部で生じるHEPが大きく、また実際に参加者が和音の予測が不確実と答えたときほどHEPが大きくなることが示されました(図3)。これらの結果は、和音に対する予測の不確実性がBINに影響を及ぼすことを示唆しています。
3.今後の展開
今後も引き続きBINの解明を進め、内受容感覚の気づきを可視化する指標の特定を目指します。その上で、得られた指標が音楽に関わるこころの動きと関連するかを検証すると共に、音楽ワークショップなどフィールドでの実証実験(図4)も進め、Awareness Music/Soundのための理論的・技術的基盤の構築とその実証検証を進めます。
(笹岡貴史・広島大学)