成果概要
Awareness Musicによる「こころの資本」イノベーションと新リベラルアーツの創出3. 音楽養育環境による乳幼児の内受容感覚発達のメカニズム解明
2022年度までの進捗状況
1.概要
核家族化が進み続ける現代社会では、孤立育児に悩み、ストレスに苛まれる親(母親)の数は増加の一途をたどっています。さらに、虐待など不適切な環境で余儀なく育つ子ども、ネット依存やいじめ、不登校、自殺者数も顕著に増加しています。新型コロナウイルスの感染拡大が、これらの問題の深刻化に拍車をかけました。
育児にまつわる社会問題の改善を目指し、本研究では、親子双方の生理・心理的機構の解明と新たな発達支援手法を開発します。とくに音楽体験による介入に着目し、母親と乳幼児の相互作用時の生体動態の時系列推移を可視化することで、親子の生理・心理面をどのように変容するかを検証します。最終的に、Awareness Music Sound(AMS)によって、親子のストレスを低減し、歓びと自己効力感を高める「AMS感性発達メソッド」の開発を目指します。
2.2022年度までの成果
乳児―養育者間相互作用時のハイパースキャン脳波・心電図計測システムの構築
ヒト乳児を対象に、(Heartbeat-evoked potentials, HEP)の妥当性を検証しました。HEPは、感性のバイオマーカーの一つと考えられています。計測の結果、神経指標安静時に前頭領域から頭頂領域にかけてHEP反応(ポジティブなピーク)が認められました。また、情愛的接触(affective touch, 内受容感覚に影響する)を受ける経験が、乳児のHEPの活動を高めることも明らかとなりました。
さらに、乳児-養育者の相互作用中のHEPを計測するために、2者の脳波(EEG)・心電図(ECG)を安定して計測できる評価系を構築しました。神経生理系の指標として、ハイパースキャニングEEG+ECG同時計測システム、アクティブ電極搭載型脳波キャップを導入しました。加えて、運動系の指標としてセンサーレスモーションキャプチャシステムを導入しました。
音楽を用いたフィールドでの実証実験と計測システムの検討
音楽体験により親子の感性を育む「AMS感性発達メソッド」の開発を目指し、音楽を用いたフィールドでの実証実験計画を具体化しました。ここで克服すべき課題は、乳幼児とその親の身体を(可能な限り)拘束せず、生体データを取得することです。そのため、ワイヤレス心拍計、マーカーレスモーションキャプチャカメラに加え、非接触で呼吸・心拍、体動を計測できるセンサシステム(京都大学大学院工学研究科阪本卓也教授との協働)を導入しました。
3.今後の展開
- 母親―乳児を対象としたマルチモーダル生体計測によって、親子の神経生理同期の動態推移を可視化します。
- 上記の結果と、それぞれの親子が示すポジティブ・ネガティブ感性(主観)との関連を検討します。
- フィールドでの実証実験に向けて、京都大学にて、複数ペアの親子を対象とした音楽体験時の生理・心理・行動を評価します。
(明和政子・京都大学)