成果概要

Awareness Musicによる「こころの資本」イノベーションと新リベラルアーツの創出1. 音楽と感性脳科学の異分野融合によるイノベーション研究推進

2022年度までの進捗状況

1.概要

本プロジェクトでは、脳と身体内部の内受容(内臓)感覚の相関に注目し、感性の脳メカニズムの解明とその可視化をするとともに、音楽という言葉の壁を超えて感性に作用するツールを用いて、無意識のポジティブ感性に気づかせ、希望・効力感・レジリエンス・楽観などの「こころの資本」を増大し、次世代がこころ豊かに活躍できる社会の実現を目指します。

音楽と感性脳科学という異分野融合によるイノベーション創出を目的としますが、両者にはまだ大きなギャップがあります。本研究開発課題では、音楽家の芸術的感性(非言語的体験)を科学者の言語に変換し、音楽の感性に及ぼす効果を脳科学的に実証し、イノベーション創出実現のために克服すべき課題を抽出し、その解決策を検討します。

2.2022年度までの成果

ヒトは予測しながら生きています。過去に体験したエピソードにおける内受容感覚の変化を記憶しています。Seth&Friston(2016)は脳が過去の体験に基づいて内受容感覚の変化の意味を推測する時に感情が生じると報告しています。2022年度は、我々のグループと感性の脳メカニズム解明の基盤となる島皮質による内受容感覚制御についての論文を発表しました(Fermin, Friston & Yamawaki;2022)。
音楽を聴取する場面でも脳と内受容感覚を計測するために、感性に関わる内受容感覚の気づき、ストレス、レジリエンスなどの質問紙を組み込んだ音楽・感性アプリを開発し、ウエアラブル心拍と脳波の計測のデバイスによる同時計測システムを構築しました。
音楽ワークショップに研究者が参加し、音楽による感性変化の体験を共有するとともに、演奏者・指揮者に対して内受容感覚の気づきなどの感性アプリを用いた心理調査や客観的感性評価方法の確立に向けて、演奏中の心拍変化や脳活動計測、人間の耳では聴こえない超高周波音の効果の予備的検討を行いました。その結果を踏まえて音楽家と脳科学研究者が議論し、感性アプリの有用性や生体計測の課題などを抽出しました。

また、2050年に活躍すべき次世代(乳児)を対象とした脳波と心拍の同時計測による内受容感覚の心拍に誘発される心拍誘発電位(HEP)測定法の検討と、音楽による感性の発達研究体制の基盤を構築しました。

3.今後の展開

感性の脳科学研究の成果を音楽場面で検証するフィールドを一般市民(子どもを含む)の協力を得て構築していきます。
参加者に音楽を楽しみながら感性の仕組みを理解してもらえるMusic Edutainmentプログラム開発や感性の可視化技術の社会実装するための課題を議論して、イノベーション創出につながる研究方略について検討します。
音楽を活用した子どもの感性を育む育児システム、教育システム開発のために、学校や自治体と連携します。
子どもを対象とする感性研究のインフォームドコンセント、産学連携による社会実装や悪用に対するELSIについても幅広く検討して、イノベーション創出につながる研究を推進します。
(山脇成人・広島大学)