成果概要

Awareness Musicによる「こころの資本」イノベーションと新リベラルアーツの創出5. Awareness Music/Soundの要素同定と音の及ぼす臨界期の解明

2022年度までの進捗状況

1.概要

音楽は聴覚系、運動系、情動系、内受容感覚系などに強い訴求力を発揮することが特徴であり、その神経基盤の解明はAMS(Awareness Music Sound)の創成に不可欠です。また可聴域外の音もAMSになり得ますが、ヒトでの検証は難しくなります。本研究では内受容感覚と外受容感覚の相互作用が進化の過程でどのように獲得されてきたのかに注目し、ヒトと動物の相同性を実験的に検証します。また、乳幼児期(臨界期)の音環境が内受容感覚の発達にどのように影響を及ぼすかを検討し、その脳内基盤を解明します。
本研究では (i) 内受容感覚の気づきを促進するAMSの音響情報構造(リズム、和音、超高周波音など)を同定し、音楽やAMSのリズム、和音、旋律などが脳の報酬系、情動系、自律神経系や内受容感覚系に対して、どのような作用機序で影響を及ぼすかを検証すること、(ii) 自律神経系の操作(たとえば迷走神経刺激)が、外受容感覚系の神経活動に対してどのような影響を及ぼすのか、時間周波数分析や心拍誘発電位(HEP)などが内受容感覚の気づきの指標になるのかを検証し、その神経基盤を明らかにすること、(iii) 母子分離のような養育環境や音楽に接する音環境が、音の規則性や倍音の情報処理 (外受容感覚系)、自律神経系・内受容感覚系の発達に対して、どのような影響を及ぼすのかを調べ、その神経基盤を明らかにすること、(iv) 音楽が複数個体へ影響を及ぼすメカニズムを調べ、運動系や内受容感覚系の個体間同期が、集団の内受容感覚の気づきに基づく一体感を生み出す神経基盤を解明すること、(v) ヒトと動物(ペットなど)の種を超えたAMSの効果検証と社会実装の可能性を検討することなどに取り組みます。

2.2022年度までの成果

AMSの効果を動物実験で検証するための生理実験系・行動実験系を構築し、そのフィージビリティを示しました。音楽的な音響情報構造の特徴として、リズムに注目し、その情報処理機構をげっ歯類モデルにおいて同定しました。
ラットの頭部に無線加速度計を取り付け、音楽提示中のラットの頭部運動を精密に計測することを試みたところ、ラットは原曲で最も顕著なビート同期を示すことや、楽曲中のビート同期運動の変化は、ラットとヒトで似ていることを明らかにしました。さらにラットの視床・聴覚野において、リズムが聴覚野における音楽情報処理に与える影響を精査したところ、音楽に多く表れるリズムやテンポは、聴覚野の応答特性に関係があることを見出しました。これらの結果から、ビート同期を生む脳のダイナミクスは、少なくともげっ歯類の脳から私たち人間の脳に受け継がれてきたと言えます。また逆に、長い年月をかけて、人間社会で発展してきた音楽は、動物種を超えて、脳へ強い訴求力を発揮する可能性も考えられます。このようにラットは、AMSの効果を検証するための画期的な実験モデルとなり得ます。

3.今後の展開

今後の研究では、(i) 内受容感覚と外受容感覚の相互作用がどのように獲得されてきたのかに注目し、(ii) ヒトと動物の相同性を実験的に検証すること、(iii) 動物実験において、電気・光生理学的な手法で、自律神経系や情動系の状態を把握し、調整できる手法を確立すること、(iv)ヒトとの相同性を考慮し、心拍誘発電位計測や迷走神経刺激療法のトランスレーショナル研究を推進すること、(v) 聴覚系と情動系との相互作用に基づき、自律神経系や情動系へ訴求する音響情報構造や気づきを促す音響情報構造を明らかにして、AMSを同定すること、(vi) AMSの長期曝露により、脳や行動がどのように変化するかを生理実験と行動実験でトランスレーショナルに解明することに取り組みます。
(高橋宏知・東京大学)