成果概要

Awareness Musicによる「こころの資本」イノベーションと新リベラルアーツの創出7. 簡易BIN計測による感性の遠隔可視化と音楽によるNBF技術開発

2022年度までの進捗状況

1.概要

日常生活場面における脳波などのウェアラブル脳計測技術の発展により、これまで定量評価しにくかった感性などを可視化する技術が定着されつつある中、高い信頼度と日常生活場面でも計測可能な簡便性を合わせ持つ脳計測技術の確立が、今後の脳・内受容感覚ネットワーク(BIN: Brain-interoception Network)計測を日常場面での音・音楽に生かした脳生理計測及び可視化技術の確立に向けて必須な開発課題となっています。本テーマでは、基礎研究で得られた指標をもとに、社会実装の達成を目指すための基盤技術開発を進めます。第一にウェアラブル脳波計及び生理計測デバイスを用いたマルチモダルなBINの脳生理指標を用いた可視化技術を開発し、リアルタイムでBINを計測し可視化する指標を特定します。収集されるデータは、情報通信技術を応用することにより、その可視化を複数名での同時計測・可視化に繋げることで、ポジティブ感性や共感などの定量評価を可能にするための基盤技術を開発します。

これらの脳科学技術を応用し、可視化するだけではなく、BINを刺激して、ネガティブ感性最小化するような音や音楽でリアルタイムに可聴化する技術開発を行うことで、Awareness Music/Sound (AMS)がもたらす効果を踏まえたNeuro-Bio Feedback(NBF)技術の創出につなげます。

2.2022年度までの成果

①「ウェアラブルBIN計測を用いた感性可視化技術開発」
脳波に加えて、複数の生理指標を同時計測する、BIN計測法を構築しています。また、多変量の脳データにおいて既存の機械学習法の解読精度を向上する新たな解析手法とツールボックスを開発し、公開しました(図右)。

②「複数名同時のマルチモダルBINデータの蓄積と感性の遠隔可視化技術開発への整備」
近い将来、市民からも得られるマルチモダルな脳生理情報(パーソナルデータ)を取得するプラットフォームとして、セキュアにデータの提供者とその利用者間の認証を確立する、自己主権型認証を開発しました(Ding, Sato & Machizawa, 2022)。国際学会(IEEE Software Defined Systems)にてBest Paper Awardを受賞しました。

③「統計学習と音楽の知覚・認知・鑑賞に関する神経基盤」
私たちは無意識にも音階を学習し、脳は自動的に音符の統計学習を行っています。我々の統計学習理論を用いた研究によって、失読症に関係する知覚及び注意の神経基盤が明らかになりつつあります。

④「世代間及び種族間でのBIN計測手法の共有」
各チームと連携して、基礎研究〜実社会応用への橋渡し、世代間(大人〜子ども)及び種族間(ヒト〜ネズミ)でのBIN計測手法の技術的な共通化を進めています。

3.今後の展開

実社会でも精度を担保した上での実用化に向けて、(1)で開発した解読手法を応用することで、基礎研究で得られた脳機能を一般社会でも信頼して利活用できる礎になることが期待されています。市民の参画による共同研究によって、安心したデータの共有をつうじた共同研究が期待されます。BINを念頭において感性の脳科学モデルに基づいて、経験に基づく音や音楽に関係する個人差に関わる脳神経基盤を解明が期待されます。また実社会でも利活用可能な簡便な指標を特定し、今後のリアルタイム可視化を可能とするマルチモダル脳生理情報の解読技術の構築につなげます。総じて、脳科学的な基礎研究から見出された信頼度のある指標をもとにした、実社会におけるBIN計測、評価、そしてフィードバックを通じた「こころの資本」の強化に向けた開発が期待されています。
(町澤まろ・広島大学)