成果概要

イオントラップによる光接続型誤り耐性量子コンピュータ[7] イオンと原子の量子インターフェースの開発

2024年度までの進捗状況

1. 概要

イオントラップを用いた大規模な量子コンピューティングにおいては、量子ビット数の拡張を行うために独立したトラップモジュール間を接続することが重要となります。そのためにはイオンを異なる量子系と結合させる技術を確立する必要があります。本研究開発項目では単一イオンと中性原子のハイブリッドトラップを開発し、イオン・原子間の量子インターフェースの開発を行います。中性原子はイオントラップデバイスや光共振器との高い親和性を示すため、トラップモジュール間のつなぎ役として活用することが可能となります。それにより、より効率的なイオン量子ビット数の拡張が行えるものと期待されます。

図
図1. イオンと原子の量子インターフェース

2. これまでの主な成果

これまでの研究においてはイオンと原子の量子インターフェース開発に向けて、中性原子のリドベルグ励起に取り組みました。原子やイオンを大きな双極子モーメントを持つリドベルグ状態に励起することで相互作用を増大することができ、より高速な量子ゲート操作などが期待されます。原子やイオンをリドベルグ状態に準備するためにはレーザー光を使った多光子励起を行う必要があります。本研究ではそのために紫外波長域のレーザー光を2本用いてストロンチウムのリドベルグ原子を生成しました。図2はその際に得られた結果を表しており、リドベルグ原子の持つ軌道の大きさを表す主量子数nが30から100程度のリドベルグ状態へと原子を励起することが可能であることが確認できました。 内挿図はその時に得られたスペクトルを表します。

図2
図2. ストロンチウム原子のリドベルグ励起

原子やイオンを高い精度で量子制御するためにはそれらを極低温状態に冷却する必要があります。そのために今回の研究では原子の持つ狭線幅遷移を用いたレーザー冷却に取り組み、10マイクロケルビン以下の温度領域へと中性原子を効率よく冷却することできることが確認されました。
これと並行して、冷却イオンをリドベルグ状態へと準備するためのレーザー光源開発にも取り組みました。そのために、半導体レーザーや光増幅器および波長変換のための光共振器を製作し、深紫外領域(波長244nm)の励起用レーザー光を得ることができました。また、リドベルグ励起の際の中間準位として用いる光学遷移の特定を行うことにも成功しました。今後は上記で得られた光源を用いてイオントラップ中の単一ストロンチウムイオンのリドベルグ状態励起の研究に取り掛かる計画です。

3. 今後の展開

今後の研究においては、これまでに得られた原子やイオンのリドベルグ励起の技術を用いてイオンと原子の量子状態制御や両者の量子インターフェースの開発を進めます。本課題では特に、原子やイオンをリドベルグ状態へと励起することで実現される新規な量子結合方式や高速な量子ゲート操作に着目しており、こういった技術をイオンや原子を使った量子コンピューティングにおいて応用することを目指しています。