成果概要
イオントラップによる光接続型誤り耐性量子コンピュータ[7] イオンと原子の量子インターフェースの開発
2023年度までの進捗状況
1. 概要
イオントラップを用いた大規模な量子コンピューティングにおいては、量子ビット数の拡張を行うために独立したトラップモジュール間を接続することが重要となります。そのためにはイオンを異なる量子系と結合させる技術を確立する必要があります。本研究テーマでは単一イオンと中性原子のハイブリッドトラップを開発し、イオン・原子間の量子インターフェースの開発を行います。中性原子はイオントラップデバイスや光共振器との高い親和性を示すため、トラップモジュール間のつなぎ役として活用することが可能となります。それにより、より効率的なイオン量子ビット数の拡張が行えるものと期待されます。
2. これまでの主な成果
これまでの研究において単一イオンと中性原子のレーザー冷却とトラッピングを行いました。そのためにまず、線形イオントラップ装置を開発し真空装置内へと実装しました。イオンを捕獲するためにはイオンのレーザー冷却が欠かせません。今年度の研究では必要となるレーザー光源の開発を行い、イオントラップ装置へと照射することでストロンチウムイオンの捕獲と冷却ができることが確認されました。図2.はその時に高感度CCDカメラにより撮像された単一/複数のイオンからの蛍光画像を表します。レーザー冷却されたイオンの温度は数百マイクロケルビンのオーダーと見積もられ、こういった状況においては一次元クーロン結晶が形成されることがわかります。今後はイオンを高性能量子ビットとして動作させるためのコヒーレント量子制御技術の開発に取り組みます。
これと並行して、中性原子(ストロンチウム原子)の捕獲と冷却のための実験装置開発も進めました。中性原子のトラッピングにおいてはまず、気化した原子をゼーマン減速機により予備冷却します。そのようにして準備された低速の原子はその後、磁気光学トラップ中で捕獲されさらにレーザー冷却されることとなります。本研究ではそのために必要となるトラップ装置と高パワー冷却用レーザー光源の開発を行い、ストロンチウム原子を真空装置中にトラップできることが確認されました。図3中央では冷却原子集団が磁気光学トラップ中でレーザー冷却されている様子が見て取れます。このようにして準備された原子はその後、光ピンセットへと移行され自在に移動・配列することも可能となります。さらに、レーザー光による励起を行うことで原子をリドベルグ状態へと準備し量子操作へと応用することができます。
3. 今後の展開
今後の研究においては、これまでにトラップ中に準備されたイオンや中性原子を量子ビットとして機能させるための量子操作技術の開発を進めます。本課題では特に、原子やイオンをリドベルグ状態へと励起すること実現される、新規な量子結合方式や高速な量子ゲート操作に着目しています。来年度の研究においてはそのための基盤技術の確立にも取り組みます。こういった研究開発課題は、イオン•原子混合系といったハイブリッド量子システムにおける量子インターフェース実現へと発展することが期待されます。