成果概要

イオントラップによる光接続型誤り耐性量子コンピュータ[4-2] イオントラップ量子コンピュータのクラウド化基盤技術

2024年度までの進捗状況

1. 概要

イオントラップ量子コンピュータのクラウド化に必須となる自動化技術、遠隔操作技術の実装を行い、小規模な量子計算機を教育機関等で遠隔的に利用できる環境を構築します。そのために、イオンの基本的な制御技術の信頼性を大幅に高め、実験における一連の操作(イオンのロード、レーザー冷却、ゲート操作等)をすべて遠隔実行可能にします。さらに、既存のイオン内部状態量子ビットを用いて比較的少数個(10個オーダー)の量子計算機を実現し、これを遠隔から操作可能な状態で提供できる環境を整備します。また、クラウド化されたイオントラップ量子コンピュータの性能を向上させる基盤技術開発として、イオントラップモジュールを統合するためのイオンの輸送実験、量子ビット数拡張のための2次元的なイオン配列実験を行います。

2. これまでの主な成果

イオンをもちいた量子コンピューティングの実現にむけて研究開発を進めています(図1)。今回、イッテルビウムイオンの特定の同位体(171Yb+)を選択的にイオントラップ中に導入し、安定して保持するための技術開発に取り組みました。私達のイオンをもちいた量子コンピューティング実験においては、イッテルビウムイオンの基底状態の二つのエネルギー状態を量子ビットとして用います。今回、外部から光を照射してイオンがその二つのエネルギー状態のどちらにいるかを検出する実験に取り組みました。結果として、誤り率6 %で量子ビット状態の検出を行うことに成功しました。その状態検出にもとづき、外部からマイクロ波を照射することによりラビ振動を観測することに成功しました(図2)。さらに、光(355 nmパルスレーザー光)を用いた誘導ラマン遷移の観測に成功しました。今後2量子ビットゲートおよびクラウド接続試験へと進んでいく予定です。

図1
図1 量子コンピューティングのためのイオンをもちいた実験。 (a) 機械加工3次元リニアトラップ を真空チェンバーにインストールしたところ。(b) イッテルビウムイオン(171Yb+)の画像
図2
図2 マイクロ波照射によるラビ振動の観測結果。

イオンの輸送技術開発では、図3 (a)のような複数のトラップ領域をもつ平面型イオントラップを用いて実験を行っています。イオン輸送では各電極に印加する電圧を変化させてイオンの位置を操作します。図3(b)は単一カルシウムイオンの輸送実験の画像で、イオンの加熱を抑えるために始点、終点付近ではそれぞれ徐々に加速、減速を行い、往復10,000回繰り返すことに成功しています。輸送実験ではトラップ電極の高性能化に加えて、どのように電圧を制御するかも重要な課題です。そこで多チャンネルで、汎用の装置よりも2桁速く電圧を変化でき、さらに出力が5倍のFPGAベースの電圧制御装置を企業との共同研究で開発し、高速化を進めています。

図3
図3 (a)平面型イオントラップ電極 (b)単一カルシウムイオンの輸送実験のスナップショット

3. 今後の展開

2量子ビットゲートを実現し、その精度を向上するとともに、比較的単純なアルゴリズムを実装し、量子ゲート・アルゴリズム実験を運用できるようにします。また、遠隔からの運用のテストを行います。さらに多くのアルコリズムを試験実行するとともに、それらについて遠隔からの実行を実現します。イオンの輸送は複数のモジュールから成る量子コンピュータの計算所用時間にかかわる重要な問題です。今後は更なる高速化のための回路構成の改良や大規模化のための制御系の拡張を行っていきます。