成果概要

イオントラップによる光接続型誤り耐性量子コンピュータ[4-2] イオントラップ量子コンピュータのクラウド化基盤技術

2023年度までの進捗状況

1. 概要

イオントラップ量子コンピュータのクラウド化に必須となる自動化技術、遠隔操作技術の実装を行い、小規模な量子計算機を教育機関等で遠隔的に利用できる環境を構築します。そのために、イオンの基本的な制御技術の信頼性を大幅に高め、実験における一連の操作(イオンのロード、レーザー冷却、ゲート操作等)をすべて遠隔実行可能にします。さらに、既存のイオン内部状態量子ビットを用いて比較的少数個(10個オーダー)の量子計算機を実現し、これを遠隔から操作可能な状態で提供できる環境を整備します。また、クラウド化されたイオントラップ量子コンピュータの性能を向上させる基盤技術開発として、イオントラップモジュールを統合するためのイオンの輸送実験、量子ビット数拡張のための2次元的なイオン配列実験を行います。

2. これまでの主な成果

クラウド化されたイオントラップ量子コンピュータのために、イオントラップ装置の立ち上げを行いました。レーザー冷却に用いるイオントラップ装置については、機械加工3次元リニアトラップ、原子オーブン等を真空チェンバーにインストールしました(図1)。これを用いて、Yb+イオンのローディングに成功しました(図2)。また、誘導ラマン励起用光学系の設計・設置を行うとともに、誘導ラマン遷移を用いて安定に量子ビット制御を行うために必要なピコ秒パルスレーザーの繰り返し周波数安定化を行いました。パルスレーザーのファンノイズを除去するために外部空冷システムを設置したうえで実験を行うことにより、12 GHz付近のビート信号に対して位相ロックを行うことに成功しました。これにより、この光源を量子ゲート操作に用いる準備ができたといえます。さらに、4イオン配列の個別アドレッシングのための集光光学系を構築しました。

図1 機械加工3次元リニアトラップ を真空チェンバーにインストールしたところ。
図1 機械加工3次元リニアトラップ を真空チェンバーにインストールしたところ。
図2 イッテルビウムイオンローディング実験の結果
図2 イッテルビウムイオンローディング実験の結果。(a)トラップされたYb+イオン(クラウド状態)の蛍光画像。(b)結晶化したYb+イオンの画像。光っている3個のイオンは174Yb+であり、また左端にdark ion(174Yb+以外の同位体イオン)がいると推測される。

イオンの輸送技術開発では、図3(a)のような複数のトラップ領域をもつ平面型イオントラップを用いて実験を行っています(図3(b))。イオン輸送では各電極に印加する電圧を変化させてイオンの位置を操作します。そのためトラップ電極の高性能化に加えて、どのように電圧を制御するかも重要な課題です。そこで多数の出力をもち、汎用の装置よりも2桁速く電圧を変化できるFPGAベースの電圧制御装置を企業との共同研究で開発し、これによって高速化が可能になりました。

図3 (a)平面型トラップ電極と電極表面から約200 μmの高さに捕獲されたカルシウムイオンの画像。(b)単一イオンの輸送実験のスナップショット。
図3 (a)平面型トラップ電極と電極表面から約200 μmの高さに捕獲されたカルシウムイオンの画像。(b)単一イオンの輸送実験のスナップショット。

3. 今後の展開

量子ゲートを実現し、その精度を向上するとともに、比較的単純なアルゴリズムを実装し、量子ゲート・アルゴリズム実験を運用できるようにしします。また、遠隔からの運用のテストを行います。さらに多くのアルコリズムを試験実行するとともに、それらについて遠隔からの実行を実現します。イオンの輸送は複数のモジュールから成る量子コンピュータの計算所用時間にかかわる重要な問題です。今後は輸送前と輸送後のイオンの状態の変化などを詳細に調べ、イオントラップモジュールを統合し動作させる場合に最適な輸送方法を確立していきます。