成果概要

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イオントラップによる光接続型誤り耐性量子コンピュータ[4-2] イオントラップ量子コンピュータのクラウド化基盤技術

2025年度までの進捗状況

1. 概要

イオントラップ量子コンピュータのクラウド化に必須となる自動化技術、遠隔操作技術の実装を行い、教育機関等において小規模な量子計算機を遠隔的に利用できる環境を構築します。そのために、イオンの基本的な制御技術の信頼性を大幅に高め、実験における一連の操作(イオンのロード、レーザー冷却、ゲート操作等)をすべて遠隔で実行可能にします。さらに、既存のイオン内部状態を利用した量子ビットを用いて比較的少数個(10個オーダー)の量子計算機を実現し、これを遠隔操作が可能な状態で提供できる環境を整備します。また、クラウド化されたイオントラップ量子コンピュータの性能を向上させる基盤技術開発として、イオントラップモジュールを統合するためのイオンの輸送実験、量子ビット数拡張のための2次元的なイオン配列実験を行います。

2. これまでの主な成果

イオンを用いた量子コンピューティングの実現に向けて研究開発を進めています。今回、これまで開発してきた技術をベースとして、クラウド接続可能なイオントラップ量子コンピュータの実証を行いました。具体的には、171Yb+イオンを1個用い、マイクロ波照射による1量子ビットゲートを遠隔から行うことに成功しました。クラウド接続用のソフトウェア群として、大阪大学量子情報・量子生命研究センターなどにより開発されたOpen Quantum Toolchain for OPerators and USers (OQTOPUS)を用いました。このクラウド実行環境では、イオンがいるかどうかをモニターし、いなくなれば新しくイオンをロードするようなシステムを常に動作させました。OQTOPUSを通じて新たなジョブが入って来たときに、イオンが存在すれば与えられたジョブを実行し、いない場合はエラーを返します。このシステムを使って𝜋/2ゲートの測定を行いました(図1)。1000回の測定のもと、状態|0の確率として0.567が得られました。状態|0|1より多く得られたことについては、主に光子収率が十分高くないことに由来する測定エラーが原因だと考えています。

図1
図1 クラウド接続による𝑅𝑋(𝜃)ゲート実行例。
この例では𝜃= 𝜋/2とした。測定は1000 回行われ、棒グラフの左側は状態|0⟩ を得た回数、右側は|1⟩ を得た回数を示している。

イオンの輸送技術では、図2のような複数のトラップ領域をもつ平面型イオントラップを用いて実験を行っています。イオン輸送では各電極に印加する電圧を変化させてイオンの位置を操作します。大規模化における課題のひとつとして、増加する電極の電圧制御方法が挙げられます。将来的に1000個、10000個といったオーダーの電極にどのように電圧を印加するか、つまり、電圧源や配線をどうするかという問題です。イオントラップは超高真空環境下で動作させなければならず、真空装置内に設置できる部品の材質には制限があるため、大気中で確立されている技術をそのまま使うことができません。この課題を解決するため、ひとつの電圧源が発生する電圧を時間的に複数の電極に分配して制御する「時分割多重化方式」によって、電圧源や配線の数を軽減する新しい手法が提案されました。そして図2のトラップ電極を用いて、この新方式でイオン捕獲や輸送が可能なことを世界で初めて実験によって示しました。本研究はキュエル株式会社、東京大学、大阪大学の共同研究として行われました。この成果は大規模イオントラップ量子コンピュータの実現に向けて、電極制御回路のスケーラビリティを大幅に改善する基盤技術を提供するものです。

図2
図2 平面型イオントラップ電極

3. 今後の展開

2量子ビットゲートを実現し、その精度を向上するとともに比較的単純なアルゴリズムを実装し、量子ゲート・アルゴリズム実験ができるようにします。多くのアルゴリズムを試験実行しこれらについても遠隔での実行を実現します。イオンの輸送は複数のモジュールから成る量子コンピュータに必須の技術です。さらなる高速化、大規模化に向けて、これまでに開発した技術を更に発展させていきます。