成果概要

イオントラップによる光接続型誤り耐性量子コンピュータ5. イオントラップのための集積化光回路に関する研究開発

2022年度までの進捗状況

1.概要

イオントラップ量子技術には通常、多数のレーザー光が用いられます。従来は多数の光学素子を堅牢な除振台の上に精密に並べて固定し自由空間の光回路を構築していましたが、本テーマではこの光回路を小さなチップ上の微細な光素子からなる光回路で置き換え、光回路がイオントラップと一体化した「光回路一体型イオントラップ」の実現を目指しています。この研究の推進によりイオントラップ量子ノードの大幅な小型化と安定化が期待でき、光接続された多数のイオントラップ量子ノードを量産・実装するための技術的ハードルがはるかに易しくなります。

図1.光回路一体型イオントラップの概念図
図1.光回路一体型イオントラップの概念図

2.2022年度までの成果

九州大学ではイオントラップに多種のイオンポンプ用レーザーを導入するための集積光回路を開発しています。波長は可視から近赤外域にわたっており、広帯域性と光集積性を兼ね備えたシリコン系素子を作製しました。また、入射するレーザーの光波制御もチップ上で行うため、集積性が高く小型の位相変調器の作製も進めています。最終的に東京大学で進めているイオントラップデバイス内に実装しすることを計画しています。

図2.光回路素子(光出射素子、光変調器)の開発
図2.光回路素子(光出射素子、光変調器)の開発

また、東京大学のグループでは実際に九州大学において設計・作製された光出射素子を組み込む手法の開発や実際に光回路一体型イオントラップを実証するためのイオントラップ実験系の構築を行いました。レーザー光源の調達から実験系の設計、組み立て、自由空間光でのテストのための光学系の構築までを完了して、現在イオントラップのテスト中です。また、捕獲されたイオンのうち一つだけを個別にレーザー照射するための光出射素子の設計も進め、その試作と評価も進めています。

図3.構築されたイオントラップ系
図3.構築されたイオントラップ系

また、イオントラップに用いる光源の全ファイバー化という観点で、原子発生に用いるレーザーアブレーション系のファイバー化と真空環境でのテストにも成功し、国際学術誌に論文を投稿しました。

図4.光ファイバーによる原子発生
図4.光ファイバーによる原子発生

3.今後の展開

今後はこれまでに設計、評価した光出射素子を実際にイオントラップに組み込んだ光回路一体型イオントラップの実現に向け、設計・試作・評価・組み込み等のプロセスを進めていきます。この実現によってさまざまな光回路素子をイオントラップに組み込んでテストするためのテストベッドができますので、光出射素子だけでなく例えば光変調器などのより高機能な光素子の一体化へと進み、イオントラップ量子技術とフォトニクスの融合した新分野の最先端へチャレンジし、量子ノードの小型化を飛躍的に進めることができます。また、宙に浮かんだ原子ひとつひとつを時空間的に狙い打つという新奇な目的のために、フォトニクスの方にも新たな分野が芽生えるのではないかと期待しています。