成果概要

イオントラップによる光接続型誤り耐性量子コンピュータ[4-1] 高性能イオントラップ作製・評価技術の確立

2024年度までの進捗状況

1. 概要

光接続イオントラップ量子コンピュータ用トラップモジュールを実現するには、量子光接続、マイクロ波量子操作、フォノン量子符号化等の新奇技術実装を可能とするイオントラップの開発が必須になります。本研究開発テーマでは、これらの機能を実装可能とするイオントラップを製作し評価する技術を確立します。イオントラップの評価は製作・評価グループがCa+(カルシウムイオン)を用いて実施するとともに、Yb+(イッテルビウムイオン)を用いた評価、Ba+(バリウムイオン)を用いた評価を二つのグループが並行して行い、それぞれの用途に応じた評価実験で得られた知見を研究開発に反映させる開発体制を確立します。

2. これまでの主な成果

イオンの束縛に優れ、光接続に用いるミラーの影響を軽減する立体型イオントラップと、ジャンクション等の機能を埋め込むのに適した平面型イオントラップについて、同時に開発を進めています。
立体型イオントラップの開発では熱伝導に優れた窒化アルミ基板を貼り合わせた構造のトラップ(図1(a)左)が動作実証段階に入っており、チップ部品周辺の汚染が少ない実装方法の開発などの細部に渡る改善作業を実施しています(図1(a)右)。また、合成石英基板を用いた選択的レーザエッチング法で微細構造を形成するための動作条件の最適化を実際の構造試作で確認することができました(図1(b))。平面型イオントラップでは内部の配線が不要の真空パッケージにマウントされた第一世代が4チームに供給されてテストを並行して行うとともに、より表面精度の高い第二世代の供給準備が整うとともに、装置が簡略化できる第三世代の設計も進んでいます。またトラップの評価法として、微弱光カメラを用いてCaの振動を詳細にイメージングし運動の加熱を評価する方法、従来の紫外光レーザーに代わり赤色レーザーでCa+を冷却し量子状態を観測する手法の開発に成功しました。

図1
図1.(a)窒化アルミ製立体型トラップとチップ部品実装方法の改善。(b)合成石英基板へのトラップパターン形成。

Yb+立体型トラップ評価チームでは、量子計算に用いられる171Yb+同位体のラム・ディッケパラメータ1.5程度までの冷却(図2)と、長いコヒーレンス時間を得るために重要な、磁場に鈍感なmF=0間遷移の検出に成功しました。
Ba+平面型トラップ評価チームでは、イオントラップシステム構築に係る研究開発を実施し、平面型イオントラップ、原子源、レーザー光入射および観測光学系、磁場印可コイル等を設計、製作(図3)するとともに、従来のヘリカル共振器を用いた昇圧回路に比べて、一般的な電子部品を用いて容易に製作、使用できる高電圧RFドライバの開発に成功しました。今後、より高い周波数における同様の開発を進めていく予定です。また、同位体選択的Ba+導入のために533nm光源を新たに構築しました。さらに、先述の真空パッケージに対して体積が1/10程度の小型イオントラップモジュール用真空パッケージの試作品の作製も進めました。

図2
図2:単一171Yb+ 時計遷移の永年運動サイドバンドスペクトル
図3
図3:Ba平面型トラップシステム

3. 今後の展開

作製・評価グループがCa+を用いて立体型、平面型イオントラップの評価、性能改善を行い、プロジェクト内に供給するとともに、国内企業との協力により、プロジェクト内外への供給に適した真空パッケージの開発を進めます。Yb+グループは、サイドバンド冷却法を実装して立体型トラップ装置の動作評価を進めていきます。Ba+グループは平面型トラップの動作評価を実施します。プロジェクト内グループ、国内企業の協力により、光接続イオントラップ量子コンピュータ用モジュール用トラップ製作・評価技術の確立を目指します。