成果概要

イオントラップによる光接続型誤り耐性量子コンピュータ3. 振動自由度を用いた量子誤り訂正符号実装のための研究開発

2022年度までの進捗状況

1.概要

量子コンピュータを用いて有用な計算を行うためには、誤り訂正された論理量子ビットおよびその間の演算を実現することが鍵となります。多準位を擁するイオンの振動モードは、論理量子ビット実現のための有力な候補です。誘導ラマン散乱を用いて、集団振動フォノンモード間ビームスプリッター相互作用を実現し、それによりフォノンモード間量子もつれを実現することは、論理量子ビット間演算実現のための重要なステップであると考えられます。このような複数モードに対する量子もつれ操作とスクイーズド状態を用いれば連続量クラスター状態を生成することが可能になります。さらにGKP状態などのボゾニックコードをイオンの振動状態として準備し、上記のビームスプリッター相互作用を活用すれば複数モードにまたがるGKP状態のゲート操作が実装できます。

図1(左)対向するレーザービームによる動径振動モードの励起、(右)イオン配列の動径方向の集団振動モード。
図1(左)対向するレーザービームによる動径振動モードの励起、(右)イオン配列の動径方向の集団振動モード。

2.2022年度までの成果

誤り訂正に用いることのできる状態を振動モードにおいて生成することにむけて、熱浴エンジニアリングによる振動スクイーズド状態生成実験を行いました(図2,3)。図2はスクイージングパラメターr=0.00、つまり全くスクイーズしていない場合(振動基底状態)に対するブルーサイドバンドラビ振動の結果であり、減衰振動のかたちを示しています。いっぽう、図3はスクイージングパラメターr=0.86の場合の実験結果であり、スクイーズド状態に対するブルーサイドバンドラビ振動の特徴を反映する結果が得られました。

図2 スクイーズド状態生成実験の結果。スクイージングパラメターr=0.00の場合のブルーサイドバンドラビ振動測定結果。
図2 スクイーズド状態生成実験の結果。スクイージングパラメターr=0.00の場合のブルーサイドバンドラビ振動測定結果。
図3 スクイーズド状態生成実験の結果。スクイージングパラメターr=0.86の場合のブルーサイドバンドラビ振動測定結果。
図3 スクイーズド状態生成実験の結果。スクイージングパラメターr=0.86の場合のブルーサイドバンドラビ振動測定結果。

これについて、さらに高い忠実度を得るためには、振動状態コヒーレンスの改善が必要と考えられます。また、これまでに振動モード間ビームスプリッター相互作用を実現していますが、その忠実度改善のためにも、同様に振動状態コヒーレンスの改善が必要と考えられます。今回、それにむけて振動状態コヒーレンスの評価を行ったところ、振動状態ラムゼイ干渉の減衰時間として1.5msという値が得られました。今後、これを一桁程度改善することが必要と考えられますが、そのための方策として、動径方向についてはトラップ用交流電圧振幅安定化の精度を改善すること、重心振動モード以外のモードを使用すること、さらに軸方向振動モードを用いることが考えられ、現在これらについて準備を進めています。

3.今後の展開

複数振動モード間に準備したスクイーズド状態を、ビームスプリッター相互作用によって混合することにより、EPR (Einstein–Podolsky–Rosen)型量子もつれ状態を実現することを目指します。また、単一の振動モードに対して、ボゾニック符号により、単一量子ビットを符号化するとともに、複数の振動モードに符号状態を準備して、モード間にビームスプリッター相互作用を印加することにより、特に複数モードにまたがるボゾニック符号に対する量子ゲート操作を実現することを目指します。