成果概要

イオントラップによる光接続型誤り耐性量子コンピュータ[3] 振動自由度を用いた量子誤り訂正符号実装のための研究開発

2023年度までの進捗状況

1. 概要

量子コンピュータを用いて有用な計算を行うためには、誤り訂正された論理量子ビットおよびその間の演算を実現することが鍵となります。多準位を擁するイオンの振動モードは、論理量子ビット実現のための有力な候補です。誘導ラマン散乱を用いて、集団振動フォノンモード間ビームスプリッター相互作用を実現し、それによりフォノンモード間量子もつれを実現することは、論理量子ビット間演算実現のための重要なステップであると考えられます。このような複数モードに対する量子もつれ操作とスクイーズド状態を用いれば連続量クラスター状態を生成することが可能になります。さらにボソニック符号をイオンの振動状態として準備し、上記のビームスプリッター相互作用を活用すれば複数モードにまたがる符号状態のゲート操作が実装できます。

図1(左)対向するレーザービームによる動径振動モードの励起、(右)イオン配列の動径方向の集団振動モード。
図1(左)対向するレーザービームによる動径振動モードの励起、(右)イオン配列の動径方向の集団振動モード。

2. これまでの主な成果

誤り訂正に用いることのできる状態を振動モードにおいて生成することにむけて、熱浴エンジニアリングによる振動スクイーズド状態生成実験を行いました。図2(a)はスクイージングパラメターr=0.70に対するブルーサイドバンドラビ振動の結果です。図2(b)は、図2(a)の結果に対するフィッティングにより得られたフォノン数分布です。これは、真空スクイーズド状態に対応する偶数性を反映している可能性がありますが、さらに精度・再現性を高める必要があると考えており、研究開発を継続中です。

図2 スクイーズド状態生成実験の結果。(a)スクイージングパラメターr=0.70の場合のブルーサイドバンドラビ振動測定結果。(b)フィッティングにより推定されたフォノン数分布。
図2 スクイーズド状態生成実験の結果。(a)スクイージングパラメターr=0.70の場合のブルーサイドバンドラビ振動測定結果。(b)フィッティングにより推定されたフォノン数分布。

振動モードにおける状態生成および振動モード間ビームスプリッター相互作用において高い忠実度を得るためには、高い振動状態コヒーレンスを実現することが必要です。それに関連して、今回、単一イオン軸方向振動モードの運動コヒーレンス評価を行ったところ、運動ラムゼイ干渉フリンジの減衰時間として112±19 msという値が得られました(図3)。これは、他のグループが論文などに記載している値と比べても、顕著に長いコヒーレンス時間であるといえます。今後、このような軸方向振動モードに対する操作を複数イオンに拡張することで、複数振動モードに対するコヒーレントな操作を実現し、誤り訂正状態の生成およびゲート操作にむけて研究開発を進めていきたいと考えています。

図3 単一イオン軸方向振動モードに対する運動ラムゼイ干渉法によるコヒーレンス時間の測定結果。
図3 単一イオン軸方向振動モードに対する運動ラムゼイ干渉法によるコヒーレンス時間の測定結果。

3. 今後の展開

複数振動モード間に準備したスクイーズド状態を、ビームスプリッター相互作用によって混合することにより、EPR (Einstein–Podolsky–Rosen)型量子もつれ状態を実現することを目指します。また、単一の振動モードに対して、ボゾニック符号により、単一量子ビットを符号化するとともに、複数の振動モードに符号状態を準備して、モード間にビームスプリッター相互作用を印加することにより、特に複数モードにまたがるボゾニック符号に対する量子ゲート操作を実現することを目指します。