成果概要

イオントラップによる光接続型誤り耐性量子コンピュータ6. ジャンクショントラップを用いた捕獲イオンの配列技術

2022年度までの進捗状況

1.概要

量子情報処理で利用されている2次元、3次元の微細加工イオントラップについて、世界の研究開発状況を概観しました。多数のイオンを取り扱うためには2次元イオントラップが優れている一方で、量子状態の伝送に光を用いる場合には、トラップごとのイオン数を少なくすることができ、大がかりな輸送も必要なくなります。また、イオンから光を伝送するに当たっては、イオンの捕獲位置をしっかり確定させ、ファイバと高効率で結合させることが非常に重要となります。そのためには、イオンのトラップポテンシャルの深い3次元トラップが望ましいと考えられます。そこで、本研究では、3次元トラップに対して、協同冷却を念頭において、異元素イオン(CaおよびSr)を同時に捕獲・配列できるような3次元微細加工電極によるトラップ装置の開発を進めています。

2.2022年度までの成果

本研究課題で必要となるイオントラップ装置の微細電極設計にあたり、数値計算を行うことができる電場解析ソフトの精査を行い、使用するソフトウエアを選定しました。そのソフトを用いて、製作可能な微細電極技術を踏まえて、ジャンクション電極の具体的な形状を検討しました。
電場数値解析に必要となるソフトウエアの精査を行いました。具体的には、交流電場においてイオン軌道を計算可能な3つのソフトウエアにおいて、3次元イオントラップを作成し、その使い勝手を確認しました。
そのうち、ソフトウエアCは有限要素法をベースとした汎用の統合シミュレーションソフトウェアであり、高周波RFに対応しており、微細な構造を持つ部分とそうでない部分とで異なるメッシュサイズを設定することができるため、微細加工電極の計算にも適していることを確認できました。

図1:ジャンクション3次元微細加工トラップにおけるイオン輸送モデル
図1:ジャンクション3次元微細加工トラップにおけるイオン輸送モデル

また同ソフトウエアを用いて微細加工イオントラップシミュレーションの先行研究などでも行われているため、様々な例を参考に計算モデルを構築できることも期待できることが確認できました。以上より、高周波RFに対応しており、微細構造を持つモデルでも計算時間が長くならないことに注目し、本研究ではソフトウエアCを使用することとしました。
図1に示すような二股に分かれたジャンクション部分をイオンが移動できるような電極配置と印加電圧について、数値解析による定量的な評価を行いました。電極配置とジャンクション部の角度を変えて、図1のジャンクション部のDC1の赤丸からDC4の赤丸までイオンを輸送いたしました。そのイオン軌道の結果の一例を図2に示します。

図2:ジャンクション部の輸送におけるイオン軌道
図2:ジャンクション部の輸送におけるイオン軌道

このように、ジャンクション部の角度に応じてイオンの輸送が可能となるようなDC電圧設定の時間的変化を設定することができるようになりました。
捕獲イオンとしては、CaとSrイオンを対象として、その捕獲・操作を行うために必要となる実験装置の立ち上げにむけて、真空系、電場駆動系、観測系、光学系、レーザー光源系などの準備を行いました。

3.今後の展開

3次元微細加工電極のプロトタイプを製作し、まずはCaイオンについて、イオンの捕獲・レーザー冷却による観測を目指します。イオンの観測が可能になれば、DC電極を変化させることでイオン輸送に取り組みます。これとあわせて異元素であるSrイオンを対象とした捕獲・観測を行うことで、複数元素の同時捕獲・観測およびジャンクションを用いて任意の順番でのイオン配置を目指します。