成果概要

イオントラップによる光接続型誤り耐性量子コンピュータ[5] イオントラップのための集積化光回路に関する研究開発

2023年度までの進捗状況

1. 概要

イオントラップ量子技術には通常、多数のレーザー光が用いられます。従来は多数の光学素子を堅牢な除振台の上に精密に並べて固定し自由空間の光回路を構築していましたが、本テーマではこの光回路を小さなチップ上の微細な光素子からなる光回路で置き換え、光回路がイオントラップと一体化した「光回路一体型イオントラップ」の実現を目指しています。この研究の推進によりイオントラップ量子ノードの大幅な小型化と安定化が期待でき、光接続された多数のイオントラップ量子ノードを量産・実装するための技術的ハードルがはるかに易しくなります。

図1.光回路一体型イオントラップの概念図
図1.光回路一体型イオントラップの概念図

2. これまでの主な成果

図2.光回路素子(光出射素子、光変調器)の開発
図2.光回路素子(光出射素子、光変調器)の開発

九州大学ではイオントラップに多種のイオンポンプ用レーザーを導入するための集積光回路を開発しています。波長は可視から近赤外域にわたっており、最大6波長のレーザー光源をイオントラップ中に集光する必要があります。このような集光導波路素子を作製するため、Si基板上で光集積デバイス化が可能なSiN系光導波路チップの作製を行いました。得られた集光特性は、東京大学で進めているイオントラップ内に実証することを目指しています。これまでに、イオン冷却で必要とする波長422nmから1092nmの複数のレーザー光を集光できる照射素子を作製してきました。また、最終的にイオントラップ内へ導入するレーザー光はその位相・周波数制御、および安定化などが必要となります。従来、これらの光源制御はデスクトップで調整がされていましたが、本研究の集積化光回路はオンチップで制御するデバイス実装化も目指しています。そのため、電気光学を使った高効率位相シフタの開発も進めています。光回路一体型イオントラップは、東京大学のグループで進めるイオントラップ実験系に導入される予定です。

図3.試作された光出射素子による放射パターン
図3.試作された光出射素子による放射パターン

また、東京大学のグループでは光回路一体型イオントラップの集積手法の開発(特許申請中)やそれを実装するための光回路チップの加工技術の開発を、九州大学と相補的な形でおこなっています。また、捕獲されたイオンのうち一つだけを個別にレーザー照射するための光出射素子の設計も行い、その試作と評価を行いました。

3. 今後の展開

今後はこれまでに設計、評価した光出射素子を実際にイオントラップに組み込んだ光回路一体型イオントラップの実現に向け、デバイス設計されたフットプリント内で光集積化を進めていきます。
この実現によってさまざまな光回路素子をイオントラップに組み込んでテストするための基礎ができますので、光出射素子に加えて光変調器などのより高機能な光素子の一体化へと進み、イオントラップ量子技術とフォトニクスの融合した新分野の最先端へチャレンジし、量子ノードの小型化を飛躍的に進めることができます。