成果概要
イオントラップによる光接続型誤り耐性量子コンピュータ[5] イオントラップのための集積化光回路に関する研究開発
2024年度までの進捗状況
1. 概要
イオントラップ量子技術には通常、多数のレーザー光が用いられます。従来は多数の光学素子を堅牢な除振台の上に精密に並べて固定し自由空間の光回路を構築していましたが、本テーマではこの光回路を小さなチップ上の微細な光素子からなる光回路で置き換え、光回路がイオントラップと一体化した「光回路一体型イオントラップ」の実現を目指しています。この研究の推進によりイオントラップ量子ノードの大幅な小型化と安定化が期待でき、光接続された多数のイオントラップ量子ノードを量産・実装するための技術的ハードルがはるかに易しくなります。

2. これまでの主な成果

九州大学ではイオントラップに多種のイオン励起用レーザーを導入するための集積光回路を開発しています。波長は可視から近赤外域にわたっており、最大6波長のレーザー光源をイオントラップ中に集光する必要があります。このような光学素子を作製するため、高精度な光導波路技術を用いて研究に取り組みました。図2は、SiN系光導波路を使って作製した6種類のレーザー光を同時入射できる光素子です。SiNは光集積性に優れた特性を持ち、イオントラップ装置をデバイス化した光回路一体型イオントラップを実現することができます。現在、大阪大学で進めているイオントラップデバイスにモジュール化する最終工程に入っており、これが完成すれば今まで大掛かりな実験設備を使って行っていた光入射実験を、小型の光学チップ一つ入力でできるようになります。

また、大阪大学のグループでは光回路一体型イオントラップの集積手法の開発(特許申請中)やそれを実装するための光回路チップの加工技術の開発を、九州大学と相補的な形でおこなっています。また、捕獲されたイオンのうち一つだけを個別にレーザー照射するための光出射素子の設計も行い、その試作と評価を行ってきました。今後は、光回路一体型イオントラップへの光学素子の実装に向けた最終調整を行い、モジュール化を目指します。
3. 今後の展開
今後はこれまでに設計、評価した光出射素子を実際にイオントラップに組み込んだ光回路一体型イオントラップを作製し、イオントラップモジュールの完成に向けて研究を進めていきます。今後もイオントラップ量子技術とフォトニクスの融合した新分野の最先端へチャレンジし、量子ノードの小型化を飛躍的に進めることができます。