成果概要
イオントラップによる光接続型誤り耐性量子コンピュータ[6] ジャンクショントラップを用いた捕獲イオンの配列技術
2023年度までの進捗状況
1. 概要
本研究開発テーマは、複数元素イオンを任意の順番でイオントラップに配列し、多重化を図るための技術基盤の整備の役割を担っています。これにより量子ビットおよび計算時間の拡張に貢献します。
多数のイオンを輸送するためには2次元イオントラップが優れていますが、一方で、量子状態の伝送に光を用いる場合には、トラップごとのイオン数を少なくすることができ、大がかりな輸送も必要なくなります。また、イオンから光を伝送するに当たっては、イオンの捕獲位置をしっかり確定させ、ファイバと高効率で結合させることが非常に重要となります。そのためには、イオンのトラップポテンシャルが深く堅牢性に優れている3次元イオントラップが望ましいと考えられます。本研究では、3次元イオントラップに対して、協同冷却を念頭において、異元素イオン(CaおよびSr)を同時に捕獲・配列できるような3次元微細加工電極によるトラップ装置の開発に取り組んでいます。
2. これまでの主な成果
昨年度電場解析ソフトを用いて設計したジャンクション電極について、検討を行いました。それを元に課題4-1-1(NICT)と共同で開発を進めるとともに、製作工程を6工程に細かく分割して各工程を分業委託する方針で、可能性を模索しています。
課題4-1-1(NICT)から平面型イオントラップの供与を受けて、システム構築を行いました(図1)。また、昨年度調達した物品に加え、レーザー光源系の調達が完了し、真空系、電場駆動系、観測・光学系、レーザー光源系などの実験系の立ち上げを行いました。
真空系に関しては、3種類のポンプを組み合わせることで、5.6×10-9 Torrの真空度を達成し、イオントラップが可能な真空特性を確認できました。電場駆動系に関しては、微細電極トラップに必要なRF周波数を生成するため、課題4-1-1(NICT)の協力のもと、ソケット型ヘリカル共振器を製作しました。増幅試験を行い、周波数19 MHzにおいて約4倍の増幅を確認し、プリアンプと組み合わせることでイオントラップが可能なRF電圧(振幅:100〜150V)を達成しました。また、Labview経由での直流電圧の制御系を構築しました。観測・光学系に関しては、過去に構築した光学系(倍率10倍)を、鏡筒長を伸ばすことで倍率20倍まで増倍に成功し、qCMOSカメラと組み合わせることで捕獲したイオン間の距離も正確に観測できる見込みであることが明らかになりました。レーザー光源系に関しては、Ca原子の光イオン化のために423 nmと375 nm、捕獲イオンの冷却および再励起のために397 nmと866 nmの4波長の外部共振器型半導体レーザー(ECDL)を使用し、このうち波長375 nmのレーザーに関しては自作のリトロー型ECDLを製作しました。その上でECDLの各種パラメータの最適化を行い、特に発振閾値電流値に関して、フリー動作時の46.5 mAから43.3 mAまで改善し、強い光フィードバックを得ることができました。
完成した実験系(図2)および平面型イオントラップを用いて、目標捕獲イオンの1つであるCaイオンのトラッピング実験に取り組んでいます。
3. 今後の展開
製作を進めている3次元微細加工電極のプロトタイプを完成させ、目標捕獲対象であるCa/Srイオンについて、個別イオンの捕獲・レーザー冷却による観測を目指します。イオンの観測が可能になれば、DC電圧を変化させることでイオン輸送に取り組みます。さらに、両イオンの同時捕獲・観測および任意の順番でのイオン配置を目指します。