成果概要

イオントラップによる光接続型誤り耐性量子コンピュータ7. イオンと原子の量子インターフェースの開発

2022年度までの進捗状況

1.概要

イオントラップを用いた大規模な量子コンピューティングにおいては、量子ビット数の拡張を行うために独立したトラップモジュール間を接続することが重要となります。そのためにはイオンを異なる量子系と結合させる技術を確立する必要があります。本研究テーマでは単一イオンと中性原子のハイブリッドトラップを開発し、イオン・原子間の量子インターフェースの開発を行います。中性原子はイオントラップデバイスや光共振器との高い親和性を示すため、トラップモジュール間のつなぎ役として活用することが可能となります。それにより、より効率的なイオン量子ビット数の拡張が行えるものと期待されます。

図1. イオンと原子の量子インターフェース
図1. イオンと原子の量子インターフェース

2.2022年度までの成果

イオンと中性原子の同時捕獲のためのトラップ装置の設計と開発を行いました。まずは研究で用いるストロンチウムイオン捕獲のための三次元型線形イオントラップを作製し、超高真空装置中に実装しました。このトラップ装置を用いることで単一イオンを微小な空間領域に強く閉じ込めることができ、さらにレーザー冷却を施すことで振動基底状態にまで冷却することが可能になります。これはイオンの内部・外部振動状態の量子制御を行う上で重要なステップとなります。

図2. 作製された線形イオントラップ装置
図2. 作製された線形イオントラップ装置

これと並行して、中性原子(ストロンチウム原子)の捕獲と冷却のための真空装置の設計を進めました。原子のトラッピングでは、原子オーブンにて気化された中性原子がゼーマン減速器にて予備的にレーザー冷却されます。その後、原子トラップチャンバーに到達した低速の原子は磁気光学トラップ(磁場とレーザー光による閉じ込め/冷却を行う装置)においてミリケルビンオーダー以下の極低温領域にまで冷却することができます。本研究テーマでは原子やイオンをレーザー励起によりリドベルグ状態へと準備することでイオン・原子間の量子インターフェーシングを行いますが、今回の設計ではリドベルグ状態へと励起された原子を高効率で検出するためのイオン化電極とマイクロチャンネルプレートを組み込みました。これらの電極はトラップ中心付近での余剰電場の補正にも利用することができ、外部電場に敏感なリドベルグ原子を安定的にトラップすることが可能となります。現在は準備されたトラップ装置とレーザー冷却のための光源システムを用いて、イオンや原子のトラッピング実験に取り組んでいます。

図3. 原子トラップ真空装置の設計
図3. 原子トラップ真空装置の設計

3.今後の展開

これまでに実装されたイオントラップ装置を用いて単一イオンを捕獲し、レーザー冷却によりミリケルビン温度領域への冷却を行います。また、設計された原子トラップ装置を実装することで、極低温でのイオンと原子のハイブリッドトラッピングを目指します。そのようにしてトラップされたイオンや原子をリドベルグ状態へとレーザー励起することでブロッケード効果の検証を行います。これらの研究開発課題はイオン・原子混合系といったハイブリッド量子システムにおける量子インターフェース実現へと発展することが期待されます。