成果概要

イオントラップによる光接続型誤り耐性量子コンピュータ[6] ジャンクショントラップを用いた捕獲イオンの配列技術

2024年度までの進捗状況

1. 概要

本研究開発項目は、複数種類のイオンを任意の順番でイオントラップに配列する技術の開発に取り組んでいます。これは、量子コンピュータでより複雑な演算を効率的に行うための基盤設計にあたり、将来的なユニット拡張や計算時間の短縮にもつながります。
多数のイオンを輸送するためには2次元イオントラップが優れていますが、安定したイオン捕獲には、イオンのトラップポテンシャルが深く堅牢性に優れている3次元イオントラップが望ましいと考えられます。本研究では、3次元イオントラップに対して、協同冷却を念頭において、異元素イオン(CaおよびSr)を同時に捕獲・配列できるような3次元微細加工電極によるトラップ装置の開発に取り組んでいます。

2. これまでの主な成果

令和6年度は、前年度から進めていたジャンクション型3次元微細加工電極の製作を継続しました。工程を一貫して管理できる日本のメーカーが見つからなかったため、工程を分割して委託する方針に転換しました。令和6年度上半期までに6つに分割することで委託できる目処が立ったため、実際の作成に着手しました。
令和7年3月時点で6工程のうち5工程までを完了しており、課題4-1-1(NICT)による電極の組立作業の完了を以て、微細電極完成となります。
各工程の実施にあたって、基板の特性も評価しました。レーザーカット後の基板(図1)のイオン捕獲部分のスリット幅20箇所の加工精度を評価した結果、基板の入口径と出口径の標準偏差はそれぞれ2.36 μm (3.3 %)と1.15 μm (3.8%)であり、先行研究で言及されている加工誤差5 %以下の精度で構築できていることを確認できました。

図1
図1:レーザーカット後の基板の実体顕微鏡測定図
図2
図2:加工特性を反映したモデルでのイオンの軌跡

その後、基板表面に電子ビーム蒸着を施し、金膜を成長させる電解メッキを実施しました。基板表面の粗さを、レーザー顕微鏡を用いて評価したところ、標準偏差0.32 μmであることがわかりました。
次に得られた加工特性が、イオン輸送に与える影響を、数値シミュレーションにより評価しました。図2に示しているのは加工特性を反映した電極モデルにおけるイオンの軌跡を示しています。このように、イオンを電極の中心で捕獲可能であることが確認できました。また、電極1から電極5までの輸送過程における運動エネルギー増加も定量的に評価し、トラップポテンシャルの深さよりも十分小さく、加工誤差を加味してもイオン輸送が安定してできる見込みであることがわかりました。

図3
図3:Yジャンクション型電極の電子顕微鏡画像

図3に示したように電極の加工は完了し、組立工程が完了次第、実験装置にインストールして実験を開始予定です。

3. 今後の展開

今後は、3次元微細加工の新型トラップを完成させ、目標捕獲対象であるCa/Srイオンの捕獲と観測から、電極に印加する電圧を時間的に変化させることでイオン輸送の制御に取り組みます。これにより、量子演算に必要なイオン配置を制御できる技術の確立を目指します。この技術は、将来の量子コンピュータにおいて多数のイオンを制御・操作するための基盤となるものであり、大阪・関西万博で掲げられる“共創と未来志向”のテーマにも直結します。