成果概要

イオントラップによる光接続型誤り耐性量子コンピュータ1. イオントラップの量子光接続に関する研究開発

2022年度までの進捗状況

1.概要

イオントラップを用いた大規模量子コンピュータ実現のため、本テーマでは複数のイオントラップを光子を介して相互に接続する量子光接続の手法を追及します。核となるのは微小光共振器と線形イオントラップを統合したイオントラップデバイスの開発です。微小光共振器はイオンと光子の結合のために、線形イオントラップは複数のイオンを一直線上に捕獲するために必要です(下図参照)。これらを単一のデバイスで同時に実現して初めて量子光接続が可能となります。

図1. 微小共振器一体型線形イオントラップの模式図
図1. 微小共振器一体型線形イオントラップの模式図

その他にも、バリウムイオンを用いたイオン・光子結合の増強、低温環境下での量子光接続、半導体ミラーの開発などのテーマを探求し、量子光接続のさらなる向上に挑んでいきます。

2.2022年度までの成果

微小光共振器一体型イオントラップ実現のため、三次元線形イオントラップを選択的レーザーエッチング(SLE)という手法を用いて作製しました。SLEはレーザーを使った3Dプリンティングというべき技術で、SLEを使えば任意の三次元構造をガラスから切り出すことが可能です。このようにして作成したガラスの構造体の表面に金属を蒸着させることで電極を作り、イオントラップが完成しました(図2)。

図2. SLE法によるイオントラップの作製
図2. SLE法によるイオントラップの作製

このようにして作製したイオントラップを用いて、超高真空中でイオンの捕獲・レーザー冷却に成功しました(図3)。

図3. SLE法で作製したイオントラップでイオンが捕獲されている様子
図3. SLE法で作製したイオントラップでイオンが捕獲されている様子

バリウムイオンを用いた実験のために、バリウムイオンの遷移波長である493nm用の高反射ミラーの特性を評価しました。紫外から可視領域の高反射ミラーに対して、真空中で反射率が劣化する現象が報告されています。私たちは493nm用のミラーで光共振器を作り、真空中でのフィネスを長期間測定することで、そのような劣化が起こらないことを確かめました。
私たちは半導体ミラーを用いたイオンと光子の量子インターフェースの開発も行っています。半導体を用いることでミラー表面に浮遊電荷が堆積することを避ける効果が期待できます。半導体多層膜を用いたDistributed Bragg Reflector(DBR)上にパターン化された金属電極を形成し、イオントラップとする手法を確立しました(図4)。

図4. 半導体DBR上に形成されたトラップ電極
図4. 半導体DBR上に形成されたトラップ電極

3.今後の展開

今後は、イオントラップに実際に微小共振器を組み込み、単一イオンと光共振器の結合を目指します。