成果概要

イオントラップによる光接続型誤り耐性量子コンピュータ4-2. イオントラップ量子コンピュータのクラウド化基盤技術

2022年度までの進捗状況

1.概要

イオントラップ量子コンピュータのクラウド化に必須となる自動化技術、遠隔操作技術の実装を行い、小規模な量子計算機を教育機関等で遠隔的に利用できる環境を構築します。そのために、イオンの基本的な制御技術の信頼性を大幅に高め、実験における一連の操作(イオンのロード、レーザー冷却、ゲート操作等)をすべて遠隔実行可能にします。さらに、既存のイオン内部状態量子ビットを用いて比較的少数個(10個オーダー)の量子計算機を実現し、これを遠隔から操作可能な状態で提供できる環境を整備します。また、クラウド化されたイオントラップ量子コンピュータの性能を向上させる基盤技術開発として、イオントラップモジュールを統合するためのイオンの輸送実験、量子ビット数拡張のための2次元的なイオン配列実験を行います。

2.2022年度までの成果

クラウド化されたイオントラップ量子コンピュータのために、イオントラップ装置の立ち上げを行いました。レーザー冷却に用いるイオントラップ装置については、機械加工3次元リニアトラップ、原子オーブン等を真空チェンバーにインストールしたうえで(図1)、真空装置全体のベークを行うとともに、光学テーブルに冷却用光学系、光学部品を配置しました(図2)。また、冷却用半導体レーザー光源(935nm)の周波数安定化を行いました。周波数安定化の基準として、光周波数コム発生器を用い、光波長計を用いて評価することで、40hの運転で変動が1.6MHzに収まっていることがわかりました。これにより、24時間を超えるようなクラウドコンピューティングにおける運用にも耐える連続運用時間・安定度が確認できたといえます。また、誘導ラマン励起用光学系の設計・設置を行うとともに、誘導ラマン遷移を用いて安定に量子ビット制御を行うために必要なピコ秒パルスレーザーの繰り返し周波数安定化を行い、1GHz付近のビート信号に対して位相ロックを行うことに成功しました。今後パルスレーザーを改造し、超微細構造間隔(13GHz程度)に対応するビート信号に位相ロックを行うということにむけて、開発を進めています。

図1 機械加工3次元リニアトラップ を真空チェンバーにインストールしたところ。
図1 機械加工3次元リニアトラップを真空チェンバーにインストールしたところ。

イオンの輸送技術開発では、図3(a)のような複数のトラップ領域もつ平面型イオントラップを用いて実験を行っています。各電極に印加する電圧を変化させてイオンが捕獲されるトラップポテンシャルを操作します。ポテンシャルの形状を維持しながら捕獲位置を移動させるために、どのような電圧をかければよいかを最適化問題を解く手法を適用して求めました。図3(b)はイオン輸送実験の一例です。イオンの加熱を抑えるため始点、終点付近ではそれぞれ徐々に加速、減速を行っています。

図2 冷却・誘導ラマン励起用光学
図2 冷却・誘導ラマン励起用光学

図3 (a)平面型トラップ電極と電極表面から約200 μmの高さに捕獲されたカルシウムイオンの画像。(b)電極に印加する電圧を変化させてイオン輸送を実現。
図3 (a)平面型トラップ電極と電極表面から約200 μmの高さに捕獲されたカルシウムイオンの画像。(b)電極に印加する電圧を変化させてイオン輸送を実現。

3.今後の展開

量子ゲートを実現し、その精度を向上するとともに、比較的単純なアルゴリズムを実装し、量子ゲート・アルゴリズム実験を運用できるようにしします。また、遠隔からの運用のテストを行います。さらに多くのアルコリズムを試験実行するとともに、それらについて遠隔からの実行を実現します。イオンの輸送は複数のモジュールから成る量子コンピュータの計算所用時間にかかわる重要な問題です。これまでに開発した輸送技術をもとに、今後は高速化を進めていきます。