成果概要

イオントラップによる光接続型誤り耐性量子コンピュータ4-1. 高性能イオントラップ作製・評価技術の確立

2022年度までの進捗状況

1.概要

光接続イオントラップ量子コンピュータ用トラップモジュールを実現するには、量子光接続、マイクロ波量子操作、フォノン量子符号化等の新奇技術実装を可能とするイオントラップの開発が必須になります。本研究開発テーマでは、これらの機能を実装可能とするイオントラップを製作し評価する技術を確立します。並行して、上記技術を基本とした汎用イオントラップを製作し、当研究プロジェクトには直接参画しないグループを含めた国内のイオントラップコミュニティーに対してそれらを配布し、それぞれの用途に応じた評価実験で得られた知見を研究開発に反映させる開発体制を確立します。

2.2022年度までの成果

イオンの束縛に優れ、光接続に用いるミラーの影響を軽減する立体型イオントラップと、ジャンクション等の機能を埋め込むのに適した平面型イオントラップについて、同時に開発を進めています。
立体型イオントラップでは熱伝導に優れた窒化アルミ(AlN)基板を貼り合わせた構造のトラップ試作に成功しました。電極を精査したところ、イオンが正対する基盤側壁の電極に短絡部分が一定頻度で生じていることが分かりました。新しい手法の導入を含めた作製プロセスの改善に成功し、基盤側壁の品質改善を実現することができ(図1)、プロジェクト内でのトラップ供給に目途が付きました。

図1.改善した電極作製技術による立体型イオントラップ
図1.改善した電極作製技術による立体型イオントラップ

平面型イオントラップでは昨年度までに加工性に優れたシリコン基板系トラップの作製と動作検証を終了し、プロジェクト内外への供給に向けたトラップパッケージの開発に着手しました。国内プロジェクトと国内企業の協力により、真空内での個別配線作業を一切必要しないトップ基板のプラグアンドプレイに対応した真空パッケージの試作に成功しました(図2)。真空、電気的特性の評価で良好な結果が得られ、プロジェクト内外へのトラップ供給に目途が付きました。

図2 トラップチップのプラグアンドプレイに対応した真空パッケージ試作品
図2 トラップチップのプラグアンドプレイに対応した真空パッケージ試作品

これまで、開発したイオントラップの評価は製作・評価グループがCa+を用いて実施してきましたが、製作評価サイクル確立を加速するため、2022年度には二つのチームが新たに加わりました。Yb+立体型トラップ評価チームでは、従来型rfトラップを用いて光領域でのラム・ディッケ領域閉じ込めにあと1mKに迫る2mK程度まで、単一174Yb+を再現性よく冷却する技術を確立しました(図3)。Ba+平面型トラップ評価チームでは、既存の線形トラップを用いたシステムでの予備実験を進めるとともに(図4)、光イオン化によりBa+を生成するためのレーザの開発に成功しました。

図3 単一174Yb+の時計遷移励起スペクトル
図3 単一174Yb+の時計遷移励起スペクトル
図 4 構築中のBa+平面型トラップ評価システム
図 4 構築中のBa+平面型トラップ評価システム

3.今後の展開

作製・評価グループがCa+を用いて立体型、平面型イオントラップの評価、性能改善を行い、プロジェクト内に供給するとともに、国内企業との協力により、プロジェクト内外への供給に適した真空パッケージの開発を進めます。Yb+立体型トラップ評価システム構築では量子ビットに用いる171Yb+のレーザ冷却とサイドバンド冷却法を実装するとともに、174Yb+による立体型トラップの評価を行います。Ba+平面型トラップ評価システム構築では、トラップ寿命、加熱レート等の平面型トラップ特性評価を実施する予定です。プロジェクト内グループ、国内企業の協力により、光接続イオントラップ量子コンピュータ用モジュールを実現するトラップの製作・評価技術の確立を目指します。