成果概要

誰もが自在に活躍できるアバター共生社会の実現[8] アバター社会倫理設計

2023年度までの進捗状況

1. 概要

本研究開発項目では、サイバネティック・アバタ―(CA)利用における倫理・法律問題の研究とモラルコンピューティングの実現に取り組んでいます。幅広い見地からCA利用の社会倫理を議論し、提案することは、今後CAの開発が進み、社会に普及していく上で不可欠です。この目的のために、倫理、法律、工学の研究者が共同して、アバター社会倫理に関する議論を深めます。
工学的なアプローチの研究では、CA利用者の不適切な行動も、自動的に適切な行動に変換するCAの機能である、モラルコンピューティングの研究開発と、文化適応性も考慮したホスピタリティを高めるCAの行動生成の研究を行います。また、社会倫理の研究では、CAが社会に普及した場合に起こりうる、社会、倫理、さらには心理的な影響を検討します。法律の研究では、アバターの認証制度、プライバシー問題、アバター社会実装における法的問題について検討します。

2. これまでの主な成果

アバター共生社会倫理コンソーシアム
①アバター共生社会倫理コンソーシアムの活動
アバター社会倫理に関する議論を深めるため、アバター共生社会倫理コンソーシアム設立しました。コンソーシアムが主体となり、国内・国際シンポジウム、国際ワークショップ、アバターモラル体験会(図1)等を実施し、アバター社会倫理設計について幅広い分野の専門家(法律、倫理、工学、教育、SF作家等)と議論を深めました。
② アバター社会実装ガイドラインの作成
アバターに関するイノベーションを社会に実装する際に考慮すべき点について、法律、倫理、技術的観点から検討を進めてきました。その成果をまとめ、アバター社会実装ガイドラインを作成しました。
図1:アバターモラル体験会
図1:アバターモラル体験会

<ガイドラインの主な観点>
社会的ウェルビーイングを高めることを最重要の目的とし、新技術に対する心配・信頼の問題(法的・倫理的課題等)へ配慮しつつ、新技術を社会に普及させるためにそれらの課題を克服していく必要がある。

【配慮】操作者への配慮と利用者への配慮。

【普及】CAの社会への普及において目指すべきこと。

  • 誰もが平等にCAの活用機会を享受できること。
  • CAを使ってサービスの質と生産性を向上させること。
  • CAを使って持続可能な社会の実現に貢献すること。
モラルコンピューティングとアバターホスピタリティの研究
① モラルコンピューティングの研究:
不適切な発話をするオペレータを検出し、丁寧な発話に変換して相手に伝える技術を開発しました(図2)。これによりCA操作者の作業負荷が低減することが確認されました。また、歩行者が他者に進路を妨害された時の回避行動をモデル化し、ロボットに実装しました。
② アバターホスピタリティの研究:
接客場面のロボット行動として、狭い店内の通路を通りたい意図を伝えるロボット動作を開発しました。これにより、ロボットの意図がより人に伝わりやすくなることが確認されました。
図2:モラルコンピューティングシステム
図2:モラルコンピューティングシステム
社会倫理・法律課題の研究
① 社会倫理の研究:
アバター技術に対するイメージ調査を実施し、一般の方々のアバターに対する期待や懸念について、日米で意見を集約しました。日米ともアバターで代替することに問題があると考えられる職業のトップが「保育士」であり、「聖職者」「政治家」「教師」「医療従事者」が共通して上位に並びました。また、日米とも、仕事に関連する行動、例えば「仕事上の失敗をアバターのせいにする」などは倫理的に問題があると考える傾向があるとともに、アバターに期待することとして「なりたい自分になれる」、「社会参加が難しい人が社会参加できるようになる」といった側面への期待がありました。
② 法的課題の検討:
1)プライバシー保護の観点からアバターのなりすましを巡る法的課題や、仮想空間におけるアバターの不正利用について議論しました。2)アバター認証の制度的課題について提案しました。3)バスの乗務員やコンビニ店員等、交通機関や店舗におけるアバター利用について具体的に法的問題点を検討しました。4)匿名の参加を可能とするアバターを活用することにより、より多くの人による双方向の議論が可能になることを提案しました。

3. 今後の展開

  • アバター社会倫理コンソーシアムが主体となり、シンポジウム、ワークショップ等の活動を引き続き行い、アバター社会倫理の議論を深めるとともに、アバター社会実装ガイドラインの改良と普及を目指します。
  • モラルやホスピタリティに関する文化差について調査するとともに、文化適応的なCAの開発を目指します。
  • 社会倫理、法律、心理的課題を明らかにしていきます。