成果概要
誰もが自在に活躍できるアバター共生社会の実現[1] 存在感・生命感CAの研究開発
2023年度までの進捗状況
1. 概要
本研究開発項目では、人間並みの外見と機能を有する存在感サイバネティック・アバター(以下CA)や生物らしさをもつ生命感CAを開発することを主たる目的とします。また、存在感CAや生命感CAの拡張として、環境のなかを自在に移動しかつ子どもらしさを備えた移動型CAや、メンタルケアでの使用が想定される抱擁型CAの開発も行います。そして、CAが遠隔操作者の意図・感情・人格といった状態を適切に表出するための自動動作生成システムや、操作者がCAを自在に操作するための高臨場感インターフェースを開発します。
これらの研究開発によって、CAは様々な社会的場面において遠隔操作者の適切な身代わり=アバターとなることができるようになります。そして、これらのCAを遠隔操作することで、私たちは空間的・時間的制約から解放され、様々な時と場所で、CAがなければ実行することのできないような課題を遂行し自在に活躍することができるようになります。
2. これまでの主な成果
- ①存在感CAにおいて操作者よりも表現力豊かな身振りを実現。
- ②現役大臣のCAの開発及び実証実験の実施。
- ③移動機構を備えた生命感CAの開発と、複数の生命感CAが連携したシステムの開発。
- ④CAによる操作者を超える知覚能力の習得。
- ⑤CG-CAを用いた非対称なメタバース空間での対話。
①では、存在感CAが対話相手や対話内容に応じて適切な身振りと表情でもって利用者と交流することができるように、操作者の声から自動的に表現力豊かなジェスチャーを作り出すCAの機能を実現しました。これにより、CAは操作者本人よりも表現力豊かなでホスピタリティーのある振る舞いができるようになりました(図1)。

②では、デジタル庁大臣のCAを開発し(図2)、大臣によるCA遠隔操作公務の実証実験を実施しました。大臣は商業施設等に設置されたCAを議員会館から遠隔操作し、商業施設での通行人に対してデジタル庁の取り組みについて説明を行う等の公務を行いました。この実証実験では、多くの人が「大臣以外の人物が操作するCAの発言を大臣本人が言っていることとして受け入れられる」と回答しました。このように著名人によるCA利用の社会受容性について調査が進みました。

③では、ロボットの機構音を無音化し、生物らしい生命感をもったCAを実現しました。無音の生命感CAは、動作音のするCAと比べて高い主体性をもつように感じられることが確認されています。また、移動機構を持つ顔面にディスプレイが搭載された生命感CAも開発しました(図3)。このCAは自由に顔を変更できます。さらにはこの移動機構を持つ2台のCAと持たない3台のCAが連携して人を支援するシステムも開発しました。

④では、逆強化学習によって、消毒をお願いするための声かけタイミングをアバターに学習させ、普通の人間を超える最適なタイミングで声かけできるようにしました(図4)。さらには、強化学習により声かけのうまい人以上に、より適切なタイミングで声かけができるようになりました。実世界のロボットによる学習機能としては、世界初の研究成果です。

⑤では、CG-CAとメタバース空間を用いて、誰もが気軽に対話に参加できるシステムを実現しました(図5)。このシステムでは、操作者の声に応じてCAが自動的に身振り手振りを付けるだけでなく、聞く側のCAも、視線を合わせたり、頷く等の動作を行います。これにより、誰でも容易に対話に参加できるようになりました。

3. 今後の展開
本研究開発項目のもとで開発されるCAは操作者の身代わりとなることで操作者を身体的・空間的・時間的制約から解放しますが、単に人の身代わりとなるCAにとどまらず、人を超える機能や能力をもったCAの開発に挑戦します。私たちはそのようなCAを通すことで、単に異なる場所や時間において働くことができるようになるだけでなく、普段の自分にはできないような能力や振る舞いを発揮して活躍することができるようになります。