トポロジカル材料科学と革新的機能創出

1.研究領域の概要

 本研究領域は、トポロジーという新たな物質観に立脚したトポロジカル材料科学の構築と、それによる革新的な新規材料・新規機能創出を目的とし、「トポロジカル絶縁体」に代表される様々なトポロジカル量子材料に加え、磁性、光学、メカニクス、ソフトマター(高分子材料・ゲル材料など)分野など、広範な領域における「トポロジカル材料科学」の探求を通して、原理的にその性能向上の限界が顕在化してきているエレクトロニクスデバイス分野等において新たなパラダイムを築くことを目指します。
 具体的には、電子材料、磁性材料、光学材料、メタマテリアル、高分子材料、分子性材料といった広範な分野での新規トポロジカル物質を開拓し、それらの材料としての設計・制御による革新的機能創出およびデバイス創成へつながる先駆的で独創的な研究を推進します。さらにトポロジカル材料科学の体系化を目指し、物理学・化学・工学・数学等の広範な学問分野の連携を推進します。これらを通じて、様々なトポロジカル物質群、機能群を統合し、従来の物質観を超えたトポロジー材料科学を構築します。
 トポロジーを共通言語とした新規物質・材料開発、理論・計算研究、計測・解析技術の開発の緊密な連携を通じて、低エネルギー社会、超スマート社会といった社会的ニーズに応える、革新的材料・デバイス創出につながる物質・材料研究の新たなパラダイムを生み出します。

2.事後評価の概要

2-1.評価の目的、方法、評価項目及び基準

「戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発及び先端的低炭素化開発を除く。) の実施に関する規則」における「第4章 事業の評価」の規定内容に沿って実施した。

2-2.評価対象研究代表者及び研究課題

2018年度採択研究課題

(1)青木 大輔(東京工業大学 物質理工学院 助教)
空間結合を創る高分子トポロジー変換反応を鍵とした異種トポロジーの融合

(2)打田 正輝(東京工業大学 理学院 准教授)
薄膜技術を駆使したトポロジカル半金属の非散逸伝導機能の開拓

(3)葛西 伸哉(物質・材料研究機構 磁性・スピントロニクス材料研究拠点 グループリーダー)
磁気スキルミオン素子の構築と新規材料探索

(4)塩崎 謙(京都大学 基礎物理学研究所 助教)
一般コホモロジー理論に基づいたトポロジカル材料科学理論の構築

(5)関 真一郎(東京大学 大学院工学系研究科 准教授)
磁気構造と電子構造のトポロジーを利用した巨大創発電磁場の生成と制御

(6)竹内 一将(東京大学 大学院理学系研究科 准教授)
液晶トポロジカル乱流の構造決定と負粘性材料科学の開拓

(7)中山 耕輔(東北大学 大学院理学研究科 助教)
全結晶方位 ARPES 法による新規トポロジカル材料開拓

(8)松尾 貞茂(理化学研究所 創発物性科学研究センター 基礎科学特別研究員)
並列二重ナノ細線と超伝導体の接合を用いた無磁場でのマヨラナ粒子の実現

(9)森竹 勇斗(東京工業大学 理学院 助教)
メタ原子鎖による新奇な光トポロジカルエッジ状態の開拓

(10)渡邉 悠樹(東京大学 大学院工学系研究科 准教授)
対称性の表現に基づくトポロジカル材料の探索

2-3.事後評価会の実施時期

2022年1月13日(木曜日)事後評価会開催

2-4.評価者

研究総括
村上 修一 東京工業大学 理学院 教授
領域アドバイザー
石坂 香子 東京大学 大学院工学系研究科 教授
石原 照也 東北大学 大学院理学研究科 教授
大淵 真理 富士通(株) 富士通研究所 特任研究員
齊藤 英治 東京大学 大学院工学系研究科 教授
笹川 崇男 東京工業大学 科学技術創成研究院 准教授
佐藤 昌利 京都大学 基礎物理学研究所 教授
高田 十志和 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 研究科長
坪井 俊 武蔵野大学 工学部 特任教授
眞子 隆志 科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー
村木 康二 日本電信電話(株) NTT物性科学基礎研究所 上席特別研究員
求 幸年 東京大学 大学院工学系研究科 教授
外部評価者
該当なし人

3.総括総評

 本研究領域は、「トポロジー」という新たな物質観に立脚したトポロジカル材料科学の構築と、それによる革新的な新規材料・新規機能創出を目的とし、広範な領域における「トポロジカル材料科学」の探求を通して、原理的にその性能向上の限界が顕在化してきているエレクトロニクスデバイス分野等において新たなパラダイムを築くことを目指している。
 今回評価対象となる1期生(2018年度採択)10名は、電子材料と磁性材料を中心に、光学材料、ソフトマターなどの幅広い分野で挑戦的な研究を進めてきた。具体的には、磁化のトポロジカルな構造(スキルミオン)についての実験研究、トポロジカル絶縁体等のトポロジカル相の理論研究、トポロジカル材料で実現される特異な状態の観測、トポロジーの概念の多様な分野への展開(フォトニック結晶の端状態、液晶のトポロジカル欠陥、高分子の絡み合い等)と分類され、それぞれ新しく独創的な研究成果を挙げた。
 特筆すべき点は、当初計画になかった展開や成果が数多く見られたことである。運営方針として各研究者には、当初計画にこだわりすぎず、国内外の研究動向を見ながら、研究項目や展開の方向性を機動的に変えて挑戦してほしいと伝えてきた。その趣旨をよく理解して、当初目標を意識しながら新潮流のタネを見つけて研究を進めてくれた結果であり、とても嬉しく思う。また、さきがけをきっかけとした領域内での共同研究もいくつかスタートしており、今後の研究展開が期待される。
 2020年度からは新型コロナウイルスにより、対面での会議を行うことができず、オンラインでの領域会議やインフォーマルミーティング(自由参加の意見交換会)となったが、その中でも積極的に共同研究・研究交流を進めてきたことは、今後の研究における財産になったと思われる。
 また、10名のうち6名が研究期間中に異動または昇進しており、また様々な賞の受賞やプレスリリースでの成果発表も相次ぐなど、さきがけを契機に研究分野において評価され、研究者として着実に成長している。なお、昇進の有無に限らず、1期生10名の成長は著しく、その姿は2 期生・3期生の研究者にとって良いロールモデルとなったと高く評価している。さきがけは、研究人生における通過点であるので、今後もさきがけでの経験や得られた人脈を生かして、コンパクトにまとまらずにさらに飛躍することを期待している。

※所属・役職は研究終了時点のものです。