人とインタラクションの未来

1.研究領域の概要

 人工知能・ビッグデータ解析技術等が広範に用いられ、IoTが社会の各所に浸透し、情報空間と現実社会が広範囲に融合しつつある中、あらゆる人々が自然な形で最適かつ高品質なサービスを受け、能力を発揮し、快適な生活を享受できる「超スマート社会」の実現が期待されています。
 本研究領域では、情報科学技術をはじめとする各種の技術により、人間と人間、人間と機械、人間と情報環境、人間と実世界環境などの多様な状況でのインタラクションの進展に資する、人間の能力を拡張するための新たな技術や人間と環境が高度に調和する技術の創出や、インタラクション理解のさらなる深化を目指します。
 具体的には、ヒューマンコンピュータインタラクション、バーチャル/オーグメンティッドリアリティ、人間拡張(ヒューマンオーグメンテーション)、人間とAIの協調/融合、BMI(ブレイン・マシン・インタフェース)、テレプレゼンス、ウェアラブルコンピューティング、コミュニケーション技術、スマート環境、高度センシング、デジタルファブリケーション等、人に関わるあらゆる情報科学技術を対象とし、これらの技術を中心に、認知科学、心理学、神経科学等の関連学問分野と連携し、インタラクションの支援・理解・活用のための未来先導型の研究開発を推進していきます。
 インタラクション技術により、人々の相互理解を深め、個々人の多様な生活形態や能力等に沿って自然に行動を支援し、急速に進化している人工知能・IoT等の恩恵を誰もが最大限に享受できる未来社会の実現に貢献していきます。
 なお、本研究領域は文部科学省の人工知能/ビッグデータ/IoT/サイバーセキュリティ統合プロジェクト(AIPプロジェクト)の一環として運営します。

2.事後評価の概要

2-1.評価の目的、方法、評価項目及び基準

「戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発及び先端的低炭素化開発を除く。) の実施に関する規則」における「第4章 事業の評価」の規定内容に沿って実施した。

2-2.評価対象研究代表者及び研究課題

2017年度採択研究課題

(1)天野 薫(情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター 主任研究員)
脳状態を考慮した低負荷かつ効率的な情報提示デバイスの開発

(2)伊藤 勇太(東京工業大学 情報理工学院 助教)
視覚拡張に向けた高度な知覚情報提示を行う映像重畳技術基盤の構築

(3)上瀧 剛(熊本大学 大学院先端科学研究部 准教授)
物理媒体利用ディスプレイの符号化に関する基盤技術の開発

(4)杉浦 裕太(慶應義塾大学 理工学部 准教授)
セルフリハビリテーションを促進するシステム基盤構築

(5)竹井 邦晴(大阪府立大学 大学院工学研究科 教授)
連続的多種健康・環境データ解析に向けたデバイスプラットフォームの創出

(6)鳴海 拓志(東京大学 大学院情報理工学系研究科 准教授)
Ghost Engineering:身体知覚の変容を通じた認知拡張基盤の構築

(7)橋本 悠希(筑波大学 システム情報系 助教)
間接的な足底触覚提示技術による足底インタラクションの拡張

(8)牧野 泰才(東京大学 大学院新領域創成科学研究科 准教授)
人の挙動観察に基づく対象情報の推定と身体動作予測

(9)山川 雄司(東京大学 大学院情報学環 准教授)
高速センシング・ロボットによる実時間インタラクションの創成

(10)吉村 奈津江(東京工業大学 科学技術創成研究院 准教授)
脳波を用いたセルフケアサポートシステム

2-3.事後評価会の実施時期

2021年1月13日(水曜日)事後評価会(成果報告会)開催

2-4.評価者

研究総括
暦本 純一 東京大学 大学院情報学環 教授/(株) ソニーコンピュータサイエンス研究所 副所長
領域アドバイザー
五十嵐 健夫 東京大学 大学院工学系研究科 教授
今井 倫太 慶應義塾大学 理工学部 教授
牛場 潤一 慶應義塾大学 理工学部 准教授
梶本 裕之 電気通信大学 大学院情報理工学研究科 教授
川原 圭博 東京大学 大学院工学系研究科 教授
楠 房子 多摩美術大学 美術学部 教授
小池 英樹 東京工業大学 情報理工学院 教授
武田 浩一 名古屋大学 大学院情報学研究科 教授/附属価値創造研究センターセンター長
林 千晶 (株)ロフトワーク 代表取締役/マサチューセッツ工科大学 メディアラボ 所長補佐
山岸 典子 立命館大学 グローバル教養学部 教授
領域運営アドバイザー
安宅 和人 ヤフー(株) チーフストラテジーオフィサー(CSO)/慶應義塾大学環境情報学部 教授

※所属および役職は評価時点のものです。

3.総括総評

 本研究領域では、情報科学技術をはじめとする各種の技術により、人間と人間、人間と機械、人間と情報環境、人間と実世界環境などの多様な状況でのインタラクションの進展に資する人間の能力を拡張するための新たな技術や人間と環境が高度に調和する技術の創出、インタラクション理解のさらなる深化を目指して、研究を進めてきた。
 総じて言えばインタラクション関連研究領域であるが、2020年度終了の1期生の研究課題は、様々な分野から多様な技術者が集まっていた。脳波から人の活動を推定するBMI、視覚を拡張し見えないものを見えるようにするディスプレイデバイス、人間の動作に合わせて対応が可能はリアルタイム処理、人の内部情報を獲得するためのウェアラブルエレクトロニクス等、そのジャンルは多岐に渡った。
 運営に関しては、年2回の合宿形式の領域会議を中心に、それぞれの分野で日本を代表する研究者が、一段階広い視野で自分の研究を見直し、基盤技術と応用分野の様々な側面から総括・アドバイザーと共に議論を戦わせた。
 各研究者は、当該分野のトップ国際会議での論文発表、チュートリアル講演などを行うとともに、ソフトウェアの公開、企業等との共同研究などを活発に進めた。3.5年間における総論文数は334件を数え、その中で、44件の様々な受賞を勝ち得ている。研究成果の特許出願も10件あった。また、成果の展示においては、2019年度のJSTアゴラに3名の研究者が出展し好評を得たこと、2名の研究者によるプレス発表(ウェアラブルデバイス関連、BMI関連)も大きな反響を得ている。
 本来、さきがけは個人研究であるが、本領域では、多様な背景を持つ参加研究者間での共同研究が多く結実したことも特筆すべき点である。JSTとしての施策である研究者間の共同研究にも多数の応募があり、13件の共同研究が行われ、個々の成果に結び付いている。
 本さきがけの特徴の一つとして、SciFoS (Science For Society)活動に対して全員参加する方針を揚げたことがある。その結果、大半の研究者が企業訪問を行い、自らの研究と社会実装との接点を検討する機会が与えられ、インタラクション研究の成果として有益であったと考える。
 総括との接点としては、領域会議等だけでなく、サイトビジットを全員に対して行い、実際の研究現場を視察し、各研究者とも個別に議論する時間を確保できたことも価値があったと考える。
 このさきがけの1期生は、今年度で終了となるが、上位組織であるAIPラボのプロジェクトとして、AIP加速で研究を継続するもの、新たなJSTのプロジェクトである創発的研究支援事業に採択された者もおり、今後の更なる発展が大いに期待できる。
 以上、本領域は各研究者の研究を促進したことはもちろんのこと、将来の日本の科学技術のリーダ育成の場として十分に機能した。