新しい社会システムデザインに向けた情報基盤技術の創出

1.研究領域の概要

 情報技術の急速な進展により、莫大な数のセンサやデバイスがインターネットにつながるようになってきました。また、医療・健康、材料・物性、都市インフラや地球環境など、あらゆる場所で多種多様のビッグデータが蓄積され、応用されてきています。さらに、自然言語処理やディープラーニング等を駆使した人工知能技術にも大きな関心が集まり、これらの各分野における活用が急速に進みつつあります。
 本研究領域では、この様な情報技術に基づいた社会変革の時代に対応し、これからの新しい社会システムのデザインを可能にするための情報基盤技術の創出を目指します。モビリティなどを含めた社会基盤、介護を含むヘルスケア、防災・減災、ロボティクスなど、あらゆる分野において、情報を知的・統合的に解析・処理・制御し、新しいサービスや社会構造の構築に貢献する基盤技術を創出します。
 具体的には、多種・膨大な情報を収集・取得するための高度なセンシング技術、リアルタイム処理のためのデータ処理技術およびシステム最適化技術、知的メディアを使ったコミュニケーション支援や、人工知能などを含むデータ処理と知識処理の技術、多種多様な機器やシステムに対応可能なセキュリティ・プライバシーエンハンスメント技術などを対象とします。
 なお、本研究領域は文部科学省の人工知能/ビッグデータ/IoT/サイバーセキュリティ統合プロジェクト(AIPプロジェクト)の一環として運営します。

2.事後評価の概要

2-1.評価の目的、方法、評価項目及び基準

「戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発及び先端的低炭素化開発を除く。) の実施に関する規則」における「第4章 事業の評価」の規定内容に沿って実施した。

2-2.評価対象研究代表者及び研究課題

2017年度採択研究課題

(1)安積 卓也(埼玉大学 大学院理工学研究科 准教授)
大容量データをリアルタイム処理するメニーコア向けソフトウェアプラットフォームの構築

(2)荒井 ひろみ(理化学研究所 革新知能統合研究センター ユニットリーダー)
安全かつ透明な個別化のためのプライバシ保護データマイニング

(3)神山 直之(九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所 教授)
数理的システムデザインに潜む離散構造の研究とその応用

(4)亀﨑 允啓(早稲田大学 理工学術院総合研究所 主任研究員・研究員准教授)
同調と主張に基づく接近・接触状態での人共存型モビリティの協調移動技術

(5)境野 翔(筑波大学 システム情報系 准教授)
未知物体操作のための位置と力情報を用いたEnd to End Learning

(6)シモセラ エドガー(早稲田大学 理工学術院基幹理工学部 専任講師)
対話型パーソナライゼーションAIによるコンテンツ制作の拡張

(7)周 金佳(法政大学 大学院理工学研究科 准教授)
バッテリーレス・ワイヤレス動画収集機能をもつ高分散型監視システム

(8)永田 亮(甲南大学 知能情報学部 准教授)
新しい学びの形態を実現するための問題自動解説技術の開発

(9)福永 拓郎(中央大学 理工学部 准教授)
適応的最適化による推測・変動データからの意思決定

(10)松崎 拓也(東京理科大学 理学部 教授)
読解に困難を抱える生徒を支援するための言語処理に基づくテキスト表示技術

2016年度採択研究課題

(1)松原 靖子(大阪大学 産業科学研究所 准教授)
複合時系列イベントストリームに基づくリアルタイム将来予測と社会行動支援サービスの構築

備考:
2016年度採択の松原 靖子(大阪大学)は、ライフイベント等による研究の一時中断を含むため今年度事後評価対象とした。

2-3.事後評価会の実施時期

2020年12月4日(金曜日)事後評価会開催
2021年2月 各研究者からの研究報告書に基づく研究総括による事後評価

2-4.評価者

研究総括
黒橋 禎夫 京都大学 大学院情報学研究科 教授
領域アドバイザー
相澤 彰子 情報・システム研究機構 国立情報学研究所 教授
今井 浩 東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授
尾形 哲也 早稲田大学 理工学術院 教授
鹿島 久嗣 京都大学 大学院情報学研究科 教授
加藤 由花 東京女子大学 現代教養学部 教授
河口 信夫 名古屋大学 未来社会創造機構 教授
角田 達彦 東京大学 大学院理学系研究科 教授
原 隆浩 大阪大学 大学院情報科学研究科 教授
東中 竜一郎 名古屋大学 大学院情報学研究科 教授
松井 充 三菱電機(株) 開発本部 役員技監
山田 敬嗣 NEC Asia Pacific Pte. Ltd.Regional Head Quarter Senior Vice President
外部評価者
該当者なし  

※所属および役職は評価時点のものです。

3.総括総評

 本研究領域では、情報技術の発展に基づいた社会変革の時代において、これまでにない新しい社会システムと新しい基盤技術の創出が必要であるという意識のもと、各研究者は単なる基礎研究の発展を目指すのではなく、社会変革の見通しを持ち、社会実装を見据えた研究を行い、領域として切磋琢磨した。また、領域運営の中で、参画した研究者の議論の場を設け、挑戦的研究への支援と育成に努めた。
 2020年度終了の2期生は、ロボットの人間社会への受容・適用、自然言語処理を用いた学習支援の開発等、挑戦的研究をテーマとする他に、大規模なデータを取り扱うプラットフォームの構築、機械学習を用いたプライバシ保護、最適化基礎理論の構築等、1期生ではカバーできなかった新たな分野を研究テーマとした。年2回の領域会議を中心に、基盤技術と応用分野の様々な側面に広い視野を持つ総括・アドバイザーから意見を受けるだけでなく、先端的な情報科学技術の研究開発に取り組む研究者が互いに触発しながらシナジー効果を得て、将来に渡る研究者ネットワークを構築した。
 また、さきがけ事業である本研究領域の目的と各研究者の研究者の課題を照らし合わせ、2期生の研究活動を総括すると、学会賞の受賞、論文の発表にとどまらず、社会システムの変革を目指して、企業との共同研究・ユースケースを見据えた研究成果展開を実施できたと評価できる。さきがけ研究が終了した後も、各研究者はそのマインドを忘れずに活動することを期待したい。