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さきがけ
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量子現象をただ観るのではなく、制御して機能化するフロンティアを切り拓く独創的で意欲的な研究を本研究領域では推進します。様々な原子、分子、物質、ナノ構造、電磁波、生命体や、それらが相互作用する系に潜む量子現象の本質を紐解き、挑戦的な量子状態の操作・制御・測定をとおして新概念、新機軸、新技術の創成に大きく寄与します。これらがシーズとなり、将来的には革新的な情報処理技術、計測技術、標準化技術、通信ネットワーク技術、省エネ技術などに発展することを目指します。高度な洞察力と、理論展開・実験技術・計算技術などに支えられた実力を駆使して、量子科学とその応用の将来を世界レベルでリードする若手研究者の輩出を目指します。具体的には、量子が関わる物理学、情報科学、化学、工学や生物学のみならず、数理科学、物質科学、ナノ構造科学などの多岐に渡るテーマを推進し、これら異分野の連携・融合を促進するプラットフォームを構築します。
「戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発及び先端的低炭素化開発を除く。)の実施に関する規則」における「第4章 事業の評価」の規定内容に沿って実施した。
(1)東 浩司(日本電信電話(株) NTT物性科学基礎研究所 特別研究員)
量子インターネットの理論的研究
(2)今田 裕(理化学研究所 開拓研究本部 上級研究員)
分子間コヒーレントエネルギー移動の時空間計測と制御
(3)太田 泰友(慶應義塾大学 理工学部 准教授)
ハイブリッド集積シリコン量子フォトニクスの開拓
(4)小野 貴史(香川大学 創造工学部 助教)
非線形光学効果を利用した大規模量子シミュレータの開発
(5)中田 芳史(東京大学 大学院工学系研究科附属光量子科学研究センター 助教)
持続可能な高度量子技術開発に向けた量子疑似ランダムネスの発展と応用
(6)森 立平(東京工業大学 情報理工学院 助教)
定数時間量子アルゴリズムの設計
(7)山口 敦史(理化学研究所 開拓研究本部 専任研究員)
「原子核時計」実現に向けた原子核量子計測技術の開発
2020年11月14日(土曜日)事後評価会開催
伊藤 公平 | 慶應義塾大学 理工学部 教授/慶應義塾 塾長 |
小川 哲生 | 大阪大学 大学院理学研究科 教授 |
上妻 幹旺 | 東京工業大学 理学院理学系 教授 |
小林 研介 | 東京大学 大学院理学系研究科 教授 |
高橋 義朗 | 京都大学 国際高等教育院/大学院理学研究科 教授 |
谷 誠一郎 | 日本電信電話(株) NTTコミュニケーション科学基礎研究所 特別研究員 |
中村 泰信 | 東京大学 先端科学技術研究センター 教授/理化学研究所 量子コンピュータ研究センター センター長 |
橋本 秀樹 | 関西学院大学 理工学部 教授 |
藤原 聡 | 日本電信電話(株) NTT物性科学基礎研究所 上席特別研究員 |
古川 はづき | お茶の水女子大学 基幹研究院 教授 |
萬 伸一 | 理化学研究所 量子コンピュータ研究センター 副センター長 |
該当者なし |
本領域が研究対象とする量子情報分野、特に量子コンピュータ・量子通信・量子暗号の近年の進展は凄まじいものがあります。しかし、その流れに参加することは「追従」であり「さきがけ」ではありません。今の発展は、先見性のある研究者たちのさきがけた基盤のうえに築かれていることを認識することが大切です。それだけに本領域では、さきがけ研究の3年間でコンパクトな成果を出すのではなく、さきがけ研究から始まる挑戦が、さきがけ研究終了後の10年間で量子状態制御の新しい潮流を生み出すという目標を、領域の発足当初から明確にしてきました。そのために、本領域では様々なバックグラウンドを有する研究者をバランスよく採用し、彼(女)らが議論を深め、スケールの大きい目標に向かって勇気を持って力強く協調的に挑戦する環境を整えることを心がけています。そして、研究領域において研究者が影響し合い、異分野連携・融合的な視点で問題解決に取り組む中で、科学技術イノベーションの源泉となる研究成果を創出するとともに、量子科学とその応用の将来を世界レベルでリードする若手研究者を輩出することを目指しています。
このような視点において、今田裕博士が単一分子レベルでの光捕集における量子効果の解明と制御を目標に据えて、走査型トンネル顕微鏡(STM)に超高速レーザーを組み合わせた極限的な時空間分光法を開発し、単一分子内に生じる光電流を原子レベルの空間分解能とマイクロeVのエネルギー分解能で可視化(光誘起電荷分離)したことを高く評価します。山口敦史博士はトリウムの同位体Th-229を用いて世界一高精度な時計の開発に取り組みました。Th-229原子核内のエネルギー準位と遷移を詳細に解明することから、現在の世界最高精度の時計より一桁優れた1e-19程度の時計精度が得られる可能性を示し、その実現に向けた開発を世界にさきがけて行っています。東浩司博士は量子計算、量子通信、量子計測といった様々な量子技術を包含する上位概念としての量子インターネット研究を理論面から発展させました。中田芳史博士は量子疑似ランダムネス理論を駆使して量子情報技術全般の発展に寄与しました。その他の研究者も理論・実験の両面において、10年後の世界的潮流を創るべく鋭意努力しました。コロナ禍においても鋭意研究を進めた本領域の3期生の今後の発展が実に楽しみです。
※所属・役職は研究終了時点のものです。