計測技術と高度情報処理の融合によるインテリジェント計測・解析手法の開発と応用

1.研究領域の概要

 本研究領域は、計測・解析技術の深化による新たな科学の開拓や社会的課題の解決のために、多様な計測・解析技術に最先端の情報科学・統計数理の研究を高度に融合させることによって、これまでは捉えられなかった物理量・物質状態やその変化あるいは潜在要因等の検出、これまでは困難であった測定対象が実際に動作・機能している条件下でのリアルタイム計測等を実現するインテリジェント計測・解析手法の開発とその応用を目指します。
 具体的には、2つの大きな柱で研究を推進します。1つはデータ同化、スパースモデリング、画像解析、信号処理等の広範な逆解析技術を中心にした情報科学・統計数理による計測対象の特徴量解析手法や大量データの迅速・高精度解析手法等の開発です。もう1つの柱は、上記基盤手法を具体的な計測課題に応用し、物質・材料、生命・医療・創薬、資源・エネルギー、地球・宇宙、Web空間等、科学技術全般における新現象の発見、原理の解明や新たな知識獲得等を成し遂げることです。
 これらを通じて、新たな計測・解析手法を切り拓くことのみならず、豊かな社会の構築に資する科学技術イノベーションの創出に貢献します。

2.事後評価の概要

2-1.評価の目的、方法、評価項目及び基準

「戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発及び先端的低炭素化開発を除く。)の実施に関する規則」における「第4章 事業の評価」の規定内容に沿って実施した。

2-2.評価対象研究代表者及び研究課題

2018年度採択研究課題

(1)石川 亮(東京大学 大学院工学系研究科 特任准教授)
オンライン自動収差補正による3次元電子顕微鏡法の開発

(2)加藤 健一(理化学研究所 放射光科学研究センター 専任研究員)
データ駆動型全散乱計測に基づく不均質現象可視化システムの開発と応用

(3)阪本 卓也(京都大学 大学院工学研究科 准教授)
生体信号の数理モデルと電波センシングを融合した人体の非接触バイタルイメージング

(4)玉井 康成(京都大学 大学院工学研究科 助教)
スパース解析と遺伝的アルゴリズムの融合による新奇スペクトル分離手法の開発

(5)徳永 旭将(九州工業大学 大学院情報工学研究院 准教授)
学習型動態モーフィングによる神経間シグナル伝達特性の解明

(6)西川 悠(海洋研究開発機構 付加価値情報創生部門 研究員)
魚群探知機とバーチャル生簀の融合による養殖魚計測技術の開発

(7)林 久美子(東北大学 大学院工学研究科 准教授)
非平衡統計力学に基づく軸索輸送動画解析の医療応用

(8)平松 光太郎(東京大学 大学院理学系研究科 助教)
任意のスペクトル次元を測定できるfunctional Raman分光法の開発

(9)松岡 里実(大阪大学 大学院生命機能研究科 助教)
データ同化による1細胞内自己組織化過程の全可視化

(10)松田 佑(早稲田大学 理工学術院 准教授)
圧縮センシングを活用した高精度空力診断システムの構築

(11)森島 邦博(名古屋大学 大学院理学研究科 准教授)
高度情報処理と素粒子計測の融合によるミューオントモグラフィ技術

2017年度採択研究課題(コロナ延長課題)

(1)木村 隆志(東京大学 物性研究所 准教授)
ビッグデータアプローチによるX線レーザーイメージングの高度化

(2)成田 憲保(東京大学 大学院総合文化研究科 教授)
多色同時撮像観測と高精度解析による第二の地球たちの探査

(3)星野 学(理化学研究所 創発物性科学研究センター 客員研究員/科学技術振興機構 さきがけ研究者)
高分解能データの統計的推定による超高精細結晶構造解析の開拓

(4)松岡 大祐(海洋研究開発機構 付加価値情報創生部門 副主任研究員)
気象ビッグデータからの極端現象発生予測 ~台風のタマゴ発見から豪雨予測まで~

(5)宮脇 陽一(電気通信大学 大学院情報理工学研究科 教授)
高時空間分解能脳情報解析による自然条件下での実世界認識ダイナミクスの研究

2-3.事後評価会の実施時期

2021年12月2日(木曜日)~12月3日(金曜日) 事後評価会開催
2021年9月 各研究者からの研究終了報告書に基づき研究総括・副研究総括による事後評価(コロナ延長課題)

2-4.評価者

研究総括
雨宮 慶幸 (公財)高輝度光科学研究センター 理事長
副研究総括
北川 源四郎 東京大学 数理・情報教育研究センター 特任教授
領域アドバイザー
石井 信 京都大学 大学院情報学研究科 教授
伊藤 聡 (公財)計算科学振興財団 チーフコーディネータ
伊藤 隆 東京都立大学 大学院理学研究科 教授
長我部 信行 (株)日立製作所 ライフ事業統括本部 CSO兼企画本部長
岸本 浩通 住友ゴム工業(株) 研究開発本部分析センター センター長
喜多 泰代 東京理科大学 理工学部 嘱託准教授
佐藤 寛子 情報・システム研究機構 特任准教授/チューリッヒ大学 研究員
瀧川 仁 高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 協力研究員
民谷 栄一 大阪大学 産業科学研究所 特任教授
寺内 正己 東北大学 多元物質科学研究所 教授
鳥海 光弘 海洋研究開発機構 海域地震火山部門 招聘上席研究員
西野 吉則 北海道大学 電子科学研究所 教授
樋口 知之 中央大学 理工学部 教授
福山 秀敏 東京理科大学 理事長補佐・学長補佐
外部評価者
該当者なし  

3.総括総評

 本研究領域は、多様な計測技術に最先端の情報科学や統計数理を高度に融合させることによって、これまでは困難であった計測や解析の限界を突破することを目指している。
 2021年度に終了する三期としては、材料系、ライフサイエンス系などの主要な研究分野に加え、魚群、空力診断、素粒子計測など非常に多岐にわたる計測分野の課題を採択した。また、2021年度に新型コロナ延長制度を利用した二期の5課題は、ライフサイエンス系、材料系などの主要な研究分野に加え、地球外惑星、気象など非常に多岐にわたる計測分野と、情報科学アプローチの挑戦的課題として採択した。領域会議やクラスタ会議などを通して、情報と計測の融合のみならず、異分野間の融合やさきがけとCRESTの融合を目指した活発な活動を行った。
 特にCREST課題との共同研究や研究参加が積極的に行われ、計測の研究者は情報技術を、また情報の研究者は計測の実課題を深く理解する機会を持ち、さらに異分野との共同研究の場に参加することによって顕著な成果に結びつき、「計測×情報」という新しい分野を担う若い人材の育成が実現した。これは複合領域として本研究領域を設定した目的の一つであり、その目指したことが進展したことを示している。
 各研究者は領域の趣旨をよく理解して従来の枠を超える研究に挑戦し、積極的な共同研究・研究交流を行うとともにアドバイザーによる適切な助言を活用して、それぞれ情報計測の名にふさわしい顕著な成果を挙げた。

※所属・役職は研究終了時点のものです。