情報科学との協働による革新的な農産物栽培手法を実現するための技術基盤の創出

1.研究領域の概要

 本研究領域では、気候変動や環境負荷に向けた要求等、さまざまな制約の下でも高収量・高品質な農業生産を持続的に行うことを可能とする先進的な栽培手法の確立を目指します。このため、農学・植物科学と、先端計測やデータ駆動型科学等の情報科学との協働により、さまざまな環境に適応した植物栽培や生産品質に合わせた植物の生育制御を実現するための研究を異分野連携により推進していきます。
 具体的には、植物生体機能を非破壊で計測する技術、多様で大規模なデータから最適栽培に資する知識を抽出する技術、植物栽培の地域特異性を凌駕できる汎用生育モデルや不確実性を考慮できる生育モデル、圃場生態系を記述する複雑系モデル、野外での生育を精度よく制御する技術等を対象とします。
 研究推進にあたっては、情報科学研究者と農学・植物科学研究者との情報交換・議論・連携を重視します。さきがけ研究者がそれぞれの専門分野の強みを生かしながら連携することで、互いに触発しながらシナジー効果を得る体制を整え、将来の食料問題への解決に挑みます。さらに、戦略目標を踏まえた成果を最大化すべく、必要に応じてCREST研究領域「環境変動に対する植物の頑健性の解明と応用に向けた基盤技術の創出」、さきがけ研究領域「フィールドにおける植物の生命現象の制御に向けた次世代基盤技術の創出」とも連携した運営を行っていきます。

2.事後評価の概要

2-1.評価の目的、方法、評価項目及び基準

「戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発及び先端的低炭素化開発を除く。) の実施に関する規則」における「第4章 事業の評価」の規定内容に沿って実施した。

2-2.評価対象研究代表者及び研究課題

2017年度採択研究課題

(1)岩山 幸治(滋賀大学 データサイエンス学系 准教授)
不確実環境下における栽培条件のベイズ的最適化

(2)宇都 有昭(東京工業大学 情報理工学院 助教)
マルチモーダル・マルチテンポラル個葉スケール空撮画像のテンソル分解による作物の活性度推定法の開発

(3)大倉 史生(大阪大学 大学院情報科学研究科 准教授)
緻密な生育管理を実現する「未来栽培」のための植物の三次元構造復元と植物ライフログの構築

(4)小野 圭介(農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境変動研究センター 上級研究員)
自然条件下で光合成誘導時間を連続的に推定する手法の開発

(5)戸田 陽介(名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所 特任助教/科学技術振興機構 さきがけ専任研究者)
ディープラーニングを利用した植物表現型の定性的・定量的計測技術の開発

2-3.事後評価会の実施時期

2020年10月24日(土曜日)事後評価会開催

2-4.評価者

研究総括
二宮 正士 東京大学 大学院農学生命科学研究科 特任教授
領域アドバイザー
上田 修功 理化学研究所 革新知能統合研究センター 副センター長
加々美 勉 (株)サカタのタネ 常務取締役・常務執行役員
亀岡 孝治 三重大学 名誉教授
後藤 英司 千葉大学 大学院園芸学研究科 教授
中野 美由紀 津田塾大学 学芸学部情報科学科 教授
堀江 武 京都大学 名誉教授
松井 知子 情報・システム研究機構 統計数理研究所データ科学研究系 研究主幹・教授
外部評価者
該当者なし  

※所属および役職は評価時点のものです。

3.総括総評

 本研究領域は、将来求められる持続可能な農業生産に向け、情報学と農学との連携を通じて、さまざまな環境に適応した植物栽培や生産品質に合わせた植物の生育制御を実現するための研究を推進するものである。特に、本研究領域では互いの分野を単なるツールとして取り扱うのではなく、それぞれの分野の考えを尊重し、新たな分野を切り開こうとする研究者の育成に力を入れている。
 2020年度終了の3期生の研究課題は、「栽培条件等のベイズ最適化による探索」、「野外における作物個体群葉身角度部分布のUAV画像による一括推定」、「葉の遮蔽などにより見えない植物枝構造などの外部画像からの推定」、「野外開放系での光合成活性の迅速な計測」、「深層学習に用いる教師データの集合知による収集とアノテーション」等に取り組むもので、どれも新規性が極めて高く、挑戦的であったが、各研究者は果敢に取り組み多くの成果を上げた。どれも作物栽培や品種育成の革新に大きく貢献することが期待できるものである。
 これらの研究課題の内、特に大倉史生研究者は、葉などの遮蔽により外部から見えない植物の枝構造の推定を、外部からの画像だけから実現するなど、情報科学的にも植物科学的にも大きな成果を残し、画像系国際トップカンファレンスでの採択や学会賞等の受賞などの業績も含めて高く評価したい。
 また、さきがけという制度の目的に照らし合わせても、それぞれの研究者が異分野交流や成果展開を通じて研究者ネットワークを作り上げるなど、研究領域の活性化に貢献し、また新たな研究者ポストの獲得、学会賞の受賞を通じ、本研究期間中に研究者として成長したと考えられる。同じ「情報協働栽培」領域メンバーとだけではなく、さきがけ「フィールド植物制御」やCREST「植物頑健性」など他領域のメンバーとの幅広い共同研究も進んでいて、バーチャル研究所としてのさきがけの特徴をいかんなく発揮している。また,2018年度に引き続き開催した植物フェノタイピングとモデリングに関する国際ワークショップについても、本期のメンバーが中心的に計画準備を行い、成功裏に終わった。さらに、研究期間中に発刊された米国サイエンス社発行の専門誌「Plant Phenomics」の運営にも一部研究者が関わるなど、「情報協働栽培」領域が醸成してきた新分野の国際化にも大きく貢献してきた。