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さきがけ
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- フィールドにおける植物の生命現象の制御に向けた次世代基盤技術の創出
本研究領域では、フィールドにおける環境変化に適応し、安定的に生育する植物を分子レベルから設計するための次世代基盤技術の創出に関する研究を推進します。具体的には、植物の遺伝子(群)の挙動と表現型との関係性を時間的・空間的に定量的に解析し、環境に適応する植物の生理システムの包括的な理解を目指します。また、環境応答機構のモデルの構築やバイオマーカーなどの同定を行い、新しい植物生産の基盤技術を構築します。さらに、環境応答に関係する複雑な遺伝子(群)・遺伝子型の人工設計のための新たな遺伝的改良技術を開発し、多様な植物への応用展開を目指します。
研究領域の推進では、植物の環境応答機構の定量解析の観点から、植物の単一遺伝子の応答機構ではなく、多因子およびQTL による複雑な応答機構の解明に主眼を置きます。また、各種大規模データの解析やモデル化、およびその実証の観点から、植物科学のみならず情報科学、工学などの多様な分野の個人研究者の参画を促します。さらに、本研究領域は戦略目標の達成に向けた成果創出を最大化すべく、CREST 研究領域「環境変動に対する植物の頑健性の解明と応用に向けた基盤技術の創出」やさきがけ研究領域「情報科学との協働による革新的な農産物栽培手法を実現するための技術基盤の創出」とも連携した運営を行っていきます。
「戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発及び先端的低炭素化開発を除く。)の実施に関する規則」における「第4章 事業の評価」の規定内容に沿って実施した。
(1)稲垣 宗一(東京大学 大学院理学系研究科 准教授)
植物免疫のエピジェネティック制御機構の解明とその人為的制御
(2)岡本 暁(新潟大学 自然科学系(農学部) 助教)
有道管液のペプチドミクス・プロテオミクスを用いた地下部-地上部間の相互作用の探索とそのメカニズムの解明
(3)新屋 良治(明治大学 農学部 専任講師)
寄生線虫性転換を誘導する環境/植物シグナルの解明
(4)峯 彰(立命館大学 生命科学部 助教)
植物-病原体-環境ネットワークの解明による気候変動対応型病害抵抗性の分子設計
(5)山内 卓樹(名古屋大学 生物機能開発利用研究センター 准教授)
気候変動への適応を支える根の形質可塑性の分子基盤の解明
(6)米山 香織(愛媛大学 大学院農学研究科 特任講師)
ストリゴラクトン生産・分泌制御を介したアーバスキュラー菌根菌利用技術の確立
2021年7月及び10月 各研究者からの研究報告書に基づき研究総括による事後評価(コロナ延長課題)
岡田 清孝 | 龍谷大学 龍谷エクステンションセンター(REC) 顧問 |
2020年度に第2期生1名と第3期生10名の研究課題が終了した。第2期生のうちの1名(横井彩子研究者)はライフイベントにより研究を一時中断したために、終了年度を1年間延期したためである。
本領域は、植物が持つ環境応答能力を定量的に解析し、表現型を予測するバイオマーカーの開発や生育・環境応答予測モデルの構築など育種開発や栽培技術の高度化に向けた新たな手法を見出すことを目標としている。植物基礎科学、情報科学、農学(育種学、栽培学)など異なった研究分野の連携が重要であることから、いずれかの研究分野に一定の実績があり、その基盤の上に新たな研究分野を取り込む意欲を持った挑戦的な研究課題の提案を採択した。採択課題の大部分はさきがけ研究の目的を十分に達成する研究成果をあげたが、当初目標に対して思い通りの結果が得られなかった課題についても、それぞれの研究者が研究方針の転換や新規手法の取り込みなどの努力を重ねた結果、今後の発展が期待される新たな知見を数多く得ることができた。領域会議などの場においてアドバイザーや総括のみならず研究者が互いに批評・助言することによって研究のレベルが向上し領域が活性化した。
また、同時期に発足したCREST研究領域「植物頑健性」及びさきがけ研究領域「情報協働栽培」の領域会議に参加し、共同して研究会を行うなどの密接な研究連携を行い、シナジー効果を示すことができた。さらに、本さきがけ研究領域のJST担当者が交代した機会に改めてサイトビジットを行い、研究の進展状況や研究環境を確認し要望を聞くことができたこともさきがけ研究者の研究遂行に役立ったと思われる。
2019年12月には領域主催の国際シンポジウムを開催し、海外からの招聘研究者の選考はさきがけ研究者で組織した準備委員会に一任した。以前には面識のなかった国外研究者の招聘を希望するさきがけ研究者からの意見も採用して6名を招聘したが、これらの国外からの研究者はシンポジウム終了後に関係するさきがけ研究者の研究室を訪問して交流を深め、共同研究の推進、共同論文の執筆などにつながった。
一方、2020年初頭より新型コロナウイルスが国際的に蔓延し、さきがけ研究者も研究遂行に多大な影響を受けた。所属する大学などの機関が入構制限となったために、室内実験のみならず野外や圃場での植物の世話や観察が不可能となり、研究に数ヶ月の遅れが出た研究者が多い。また、首都圏や近畿圏に比べて感染者数が少ない地方の機関で入構制限が解かれた後も、首都圏や近畿圏の研究者との共同研究が再開できなかったり、海外での圃場実験を予定していたが出国できないなどの問題が頻発した。
そのような問題はあったが、研究期間の間に新たな上級ポストの獲得や受賞に至った研究者も多く、さきがけ研究のもう1つの主目的である将来の主導的研究者の養成についても一定の役割を果たせたと考えている。各さきがけ研究者はそれぞれの研究目標に向かって鋭意努力しており、研究者として飛躍したことを嬉しく思っている。
なお、新型コロナウイルス蔓延による上記の影響を考慮してさきがけ研究者1名が3ヶ月間、5名が6ヶ月間研究期間を延長して研究を継続した。これらの研究者は残っていた研究を進め、それぞれ目的とする成果を得ており、延長期間を有効に使ったことが確認できた。
※所属・役職は研究終了時点のものです。