理論・実験・計算科学とデータ科学が連携・融合した先進的マテリアルズインフォマティクスのための基盤技術の構築

1.研究領域の概要

 計測・分析技術の進歩、コンビナトリアル合成などのハイスループット実験手法の発展、スーパーコンピュータに代表される計算機能力の飛躍的向上、第一原理計算などの強力な計算科学から得られる高精度な知見などにより、物質・材料科学における原理解明が進むとともに関連するデータが短時間で大量に得られるようになっています。また、大量かつ複雑なデータからそれらの持つ意味や新しい知識を引き出す情報科学技術の進展もめざましいものがあります。
 本研究領域では、これら実験科学、理論科学、計算科学、データ科学の連携・融合によって、それぞれの手法の強みを活かしつつ相互に得られた知見を活用しながら新物質・材料設計に挑む先進的マテリアルズインフォマティクスの基盤構築と、それを牽引する将来の世界レベルの若手研究リーダーの輩出を目指します。
 具体的には、
1) 社会的・産業的に要求される機能を実現する新物質・材料の発見の促進、設計指針の構築
2) 大規模・複雑データから構造・物性相関や物理法則を帰納的に解明する手法の開発とそれを用いた新材料の探索・設計
3) 未知物質の物性を高精度に予測し、合成・評価の実験計画に資する候補物質を高速・大量にスクリーニングする手法の構築
4) 多種多様な物質データを包括的に整理・記述・可視化する新しい物理的概念や方法論の構築
5) データ科学と物質・材料科学の連携・融合に資する物性データ取得・蓄積・管理手法の開発、データベースの整備、各種計算・解析ツールの構築
などの研究を対象とします。
 研究推進にあたっては、情報科学研究者と物質・材料科学研究者等が連携し互いに触発しながらシナジー効果を得る体制を整え、エネルギー、医療、素材、化学など多くの産業応用に資する物質・材料の設計を劇的に加速しうる先駆的・革新的な研究を推進し、物質・材料科学にパラダイムシフトを起こすことを目指します。

2.事後評価の概要

2-1.評価の目的、方法、評価項目及び基準

「戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発及び先端的低炭素化開発を除く。) の実施に関する規則」における「第4章 事業の評価」の規定内容に沿って実施した。

2-2.評価対象研究代表者及び研究課題

2017年度採択研究課題

(1)相澤 直矢(理化学研究所 創発物性科学研究センター 研究員/科学技術振興機構 さきがけ専任研究者)
励起状態の仮想スクリーニングによる革新的有機半導体の探索と実用

(2)五十嵐 康彦(筑波大学 大学院システム情報工学研究科 准教授)
スパースモデリングによる物質・材料設計のための基盤技術の構築

(3)井上 和俊(東北大学 材料科学高等研究所 講師/科学技術振興機構 さきがけ専任研究者)
離散・位相幾何学的手法による界面構造予測と粒界指標の確立

(4)岩崎 悠真(産業技術総合研究所 NEC-産総研量子活用テクノロジー連携研究ラボ 特定集中研究専門員)
材料開発に特化した高精度ホワイトボックス型機械学習手法の開発と、そのスピン熱電材料開発への応用

(5)加藤 俊顕(東北大学 大学院工学研究科 准教授)
機械学習を活用したナノカーボンアトミックエンジニアリング

(6)清水 亮太(東京工業大学 物質理工学院 准教授)
自律的ものづくりを導入した金属水素化物の革新的新機能創出

(7)鈴木 耕太(東京工業大学 物質理工学院 助教)
合成-情報科学の融合によるリチウムイオン導電体の探索手法開拓

(8)鈴木 通人(東北大学 金属材料研究所 准教授)
多極子理論とデータ科学の融合による物質設計

(9)清野 淳司(東京都立大学 理学部 特任准教授)
離散・位相幾何学的手法による界面構造予測と粒界指標の確立

(10)田中 大輔(関西学院大学 理工学部 准教授)
ハイスループット合成・評価システムと機械学習の統合による革新的太陽電池材料の探索

(11)永村 直佳(物質・材料研究機構 先端材料解析研究拠点 主任研究員)
多次元X線イメージングを活用した原子層機能デバイスの物性制御法探索基盤プロセスの構築

(12)林 智広(東京工業大学 物質理工学院 准教授)
マテリアルズインフォマティクスと実験の融合による階層的マルチスケールバイオ界面の解析と医療用バイオマテリアルの開発

(13)林 博之(京都大学 大学院工学研究科 助教)
高効率な新物質発見のための合成手法推薦システムの構築

(14)柳井 毅(名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所 教授)
人工ニューラルネットワーク理論に基づく第一原理量子多体シミュレータの開発

2-3.事後評価会の実施時期

2020年11月7日(土曜日)事後評価会開催

2-4.評価者

研究総括
常行 真司 東京大学 大学院理学系研究科 教授
領域アドバイザー
青柳 岳司 産業技術総合研究所 機能材料コンピュテーショナルデザイン研究センター 総括研究主幹
伊藤 聡 (公財)計算科学振興財団 チーフコーディネータ
射場 英紀 トヨタ自動車(株) 先端材料技術部 チーフプロフェッショナルエンジニア
小谷 元子 東北大学 理事・副学長
佐藤 寛子 情報・システム研究機構 准教授/チューリッヒ大学 研究員
田中 功 京都大学 大学院工学研究科 教授
知京 豊裕 物質・材料研究機構 統合型材料開発・情報基盤部門 参事役
津田 宏治 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授
寺倉 清之 産業技術総合研究所 名誉リサーチャー
中井 浩巳 早稲田大学理工学術院 教授
樋口 知之 中央大学理工学部 教授
外部評価者
該当者なし  

※所属および役職は評価時点のものです。

3.総括総評

 今年度研究期間終了となる3期生は、マテリアルズインフォマティクスという言葉が社会的に認知され始めてからの応募・採択となったためか、これまで以上にマテリアルズインフォマティクス研究としての方向性が明確で、そうかと言って決してありきたりな内容ではない、よく練られた提案が採択された。また、実際に材料を合成できる実験研究者が多いのも、3期生の特徴である。1期生や2期生との共同研究を含む領域内の連携も、非常に活発に行われた。その結果、産業上も有望な新材料の発見を含む、多くの成果が得られている。最終年度は新型コロナウイルスにより、予定していた公開シンポジウムや国際会議が中止となったことは残念だったが、それまでに本領域主催で開催した2度の国際会議に参加して海外研究者と交流し、また企業研究者向けのチュートリアルや公開シンポジウムの講師としても活躍した。
 特筆すべき成果を挙げた研究者は多いが、その中でも本研究領域にただ一人企業から参加した岩崎悠真研究者は、コンビナトリアル実験、ハイスループット第一原理計算、機械学習とその解析、そして新規材料の創製という、一連のマテリアルズインフォマティクスのシステムを個人研究者として構築し、熱電デバイス応用が期待される高性能なスピン熱電材料を発見するという、優れた成果をあげた。