微小エネルギーを利用した革新的な環境発電技術の創出

1.研究領域の概要

 本研究領域は、様々な環境に存在する熱、光、振動、電波、生体など未利用で微小なエネルギーを、センサーや情報処理デバイス等での利用を目的としたμW~mW程度の電気エネルギーに変換(環境発電)する革新的な基盤技術の創出を目指します。
 具体的には、2つの大きな柱で研究を推進します。1つは熱、光、振動、電波、生体等のエネルギーを電気エネルギーに高効率に変換または高度に利用するための基盤技術の構築とその源となる基礎学理の創出です。これらは、全く新しい原理・新物質または新デバイスなどを用いて、未利用の微小エネルギーを電気エネルギーに変換する研究であり、例えばスピンとトポロジーの相関等、革新的なエネルギー変換に資する原理の解明・実証、及びそれらを活用した新物質の創製や、従来の特性や機能を飛躍的に向上させる優れた物性を有する新物質の創製に挑戦します。もう1つの柱は、上記基盤技術の創出のための理論・解析評価・材料設計の研究で、エネルギー変換時における物理現象(材料物性、界面、輸送現象等)の新しい解析技術の構築や、物性理論に基づく、あるいは計算機シミュレーションを駆使した、新たな材料設計の指針を提示することに挑戦します。これら2つの柱は、相互補完的に密接に結びついて研究を進めることが非常に重要です。
 したがって、本研究領域では、挑戦的な提案を求めつつ、領域終了時には、革新的な新原理、新物質、新デバイスが検証・実証できること、それらが次の研究開発ステージに繋がることを目指して研究を推進します。
そのため、研究総括及び副研究総括の強い統率の下、CREST・さきがけを複合領域として一体的に推進し、成果最大化のために研究チームの再編や研究進捗の調整、また課題間の連携などに取り組みます。

2.事後評価の概要

2-1.評価の目的、方法、評価項目及び基準

「戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発及び先端的低炭素化開発を除く。)の実施に関する規則」における「第4章 事業の評価」の規定内容に沿って実施した。
また、評価基準として領域独自に定めた次の8つの評価の視点により評価を実施した。
・評価の視点1:研究領域の趣旨に合致した研究開発が行われたか?研究開発の「おにぎり」のどこから、どこまでを実現できたか?
・評価の視点2:独創的・挑戦的かつ国際的に高水準の発展が見込まれる研究成果を得られたか?
・評価の視点3:当初目標との関係(目標以下か目標以上か。想定していなかった成果か?)
・評価の視点4:研究の進め方は適切であったか?領域内外との連携を積極的に進めたか?
・評価の視点5:研究成果の科学技術及び社会・経済への波及効果は大きいか?
・評価の視点6:本さきがけ研究を活かしてキャリアアップに努めたか?
・評価の視点7:今後の展開に対する期待。シナリオやタイムスパンを加味したコメント。
・評価の視点8:その他のプラスに評価できる点、不足していたと思われた点等。

2-2.評価対象研究代表者及び研究課題

2017年度採択研究課題

(1)衛 慶碩(産業技術総合研究所 ナノ材料研究部門 主任研究員)
伝導性ポリマーによる熱充電可能な電気化学セルの創成

(2)岡本 敏宏(東京大学 大学院新領域創成科学研究科 物質系専攻 准教授)
有機半導体の構造制御技術による革新的熱電材料の創製

(3)小野 新平((一財)電力中央研究所 材料科学研究所 上席研究員)
イオン液体ゲルによる新奇メカノエレクトリック変換の解明と応用展開

(4)小菅 厚子(大阪府立大学 大学院理学系研究科 物理科学専攻 准教授)
低温廃熱回収を目的とした熱電変換材料及びデバイスの開発

(5)桜庭 裕弥(物質・材料研究機構 磁性・スピントロニクス材料研究拠点 グループリーダー)
異常ネルンスト効果を用いた新規スパイラル型熱電発電の創成

(6)田中 有弥(千葉大学 先進科学センター 助教)
極性分子配向薄膜を備えた新規振動発電器の創生

(7)都甲 薫(筑波大学 数理物質系 准教授)
新奇ドーピング機構に基づく高出力フレキシブル熱電変換シート

(8)矢嶋 赳彬(九州大学 大学院システム情報科学研究院 准教授)
抵抗変化素子を活用した環境発電用回路技術の創成

(9)山根 大輔(立命館大学 理工学部機械工学科 准教授)
多層エレクトレット集積型CMOS-MEMS振動発電素子の創製

2016年度採択研究課題(1年追加課題)

(1)高橋 竜太(日本大学工学部 准教授)
メンブレン単結晶を用いた振動発電デバイスの創製

2-3.事後評価会の実施時期

2020年12月21日(月曜日)~12月23日(水曜日)事後評価会開催

2-4.評価者

研究総括
谷口 研二 大阪大学 名誉教授
副研究総括
秋永 広幸 産業技術総合研究所 デバイス技術研究部門 総括研究主幹
領域アドバイザー
青合 利明 千葉大学 自然科学系教育研究機構 特任教授
齊藤 英治 東京大学 大学院工学系研究科 教授
篠原 真毅 京都大学 生存圏研究所 教授
白石 賢二 名古屋大学 未来材料・システム研究所 教授
高柳 万里子 東芝デバイス&ストレージ(株) 技術企画部 参事
竹内 敬治 (株)エヌ・ティ・ティ・データ 経営研究所 社会・環境戦略コンサルティングユニット シニアマネージャー
藤田 博之 東京都市大学 総合研究所 特任教授
舟窪 浩 東京工業大学 物質理工学院材料系 教授
宮野 健次郎 物質・材料研究機構 フェロー
山田 由佳 パナソニック(株) テクノロジー本部事業開発室 企画総括
外部評価者
該当者なし  

※所属および役職は評価時点のものです。

3.総括総評

 さきがけ3期生は、挑戦的な研究課題が多かったことや一部の課題では災害(コロナ禍・水害)などで試作が遅れたことが影響して、最終研究成果の完成度にはばらつきはあるが、領域全体としては世界水準の優れた研究成果が得られたと考えている。
 さらに若手研究者育成面では、運営側の思惑通り(1)研究期間中の自己研究進捗管理法(通称「おにぎり」)の実践を通して試行錯誤、経験と勘に頼る研究から、科学的な根拠に基づく研究への転換意識が醸成されたこと、(2) さきがけ終了後のCRESTへのステップアップ評価の実施によってさきがけ生同士が連携を深めて環境発電の研究者集団の形成に至ったことなど、本さきがけ研究を経験することで、将来、大きく伸びる研究者に成長したと感じている。

研究課題の選考

 CRESTとさきがけを一体的に運営している本研究領域では、研究分野のバランスや基礎研究と応用技術との比率の舵取りが、組織全体の成果を最大化する重要なポイントである。
 平成29年度のさきがけ研究課題募集段階では、研究領域が本来カバーすべき環境発電の全体像と、採択済のさきがけ生(1期生、2期生)の研究課題とのギャップを埋める募集を意図的に行った結果、発足当初想定していた環境発電の全体像を過不足なくカバーする研究者集団ができたと感じている。
 選考過程では、(1) 研究計画の実現性、研究者の研究推進能力、(2) 科学的な根拠に基づく議論ができる研究者、などを見極めながら最終的にはダイバーシティの観点から電力中研からの提案や女性研究者へ配慮して9件を採択した。

研究者の育成

 研究者には (For what?, What’s your challenge?, How to break the limit?)を意識させるべく、年二回の領域会議や年度末報告書には通称「おにぎり」の使用を義務付けた。この作業を通して研究者は、本人の研究の独自性を再認識し、数値目標の達成を阻む技術的な壁を見つけ、その壁の向こうに見える将来の応用、を意識した研究を実践し、科学的な研究開発の理解が深まったと実感している。

研究成果

 熱発電 ①金属誘起層交換法によるSiGe結晶膜の低温形成技術、②分子動力学を用いた有機分子の骨格設計に基づく有機結晶膜の創製、③異常ネルンスト効果の学理究明と新磁性体材料の開発、など従来の材料開発とは全く異なるアプローチでの研究を実施し、学術的・技術的に世界に誇れる研究成果を得た。④化学ポテンシャルの温度依存性に基づく熱化学電池の開発も従来例のない熱発電の試みであった。

 振動発電 ①ゲル中のイオンを固定化した光重合電気二重層膜、②帯電処理不要の自己組織化膜、など、極めてユニークなエレクトレット材料の開発は、従来と異なる種類の振動発電器開発の道を拓くものと期待している。③電力損失を極限まで切り詰めたパルス駆動方式の回路開発の成果も、環境発電用回路の新しい潮流になる可能性がある。