光の極限制御・積極利用と新分野開拓

1.研究領域の概要

 本研究領域では、本質的な限界を持たないといわれる光を使って限界に挑戦し、それを超えようとする研究を推進します。具体的には、①環境・エネルギー・ものづくり・情報通信・医療等において将来の様々な社会的要請に応える新たな光利用を創成しようとする研究、②光の存在・介在によって出現する現象を利用して、従来の物理学・化学・生物学・工学等の分野に大きな革新をもたらし、これらの壁を打破しようとする研究、③高エネルギー密度科学や高強度光物理、極限物性研究などを通じて、より普遍的な原理及び現象を光科学技術の視点から確立しようとする研究、④上記の①~③を実現するための光源、受光、計測、イメージング機能を極限まで追究し、新しい応用に提供する研究等を対象とします。本研究領域の推進にあたっては、横断的な光科学技術の軸を通して異分野との交流を積極的に行い、多様で複雑な対象を扱う分野の先端研究において、新たな視点や発想を生み出すことを目指します。
 本研究領域は、文部科学省の選定した戦略目標「新たな光機能や光物性の発現・利活用による次世代フォトニクスの開拓」のもとに、平成27年度に発足しました。

2.事後評価の概要

2-1.評価の目的、方法、評価項目及び基準

「戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発及び先端的低炭素化開発を除く)の実施に関する規則」における「第4章 事業の評価」の規定内容に沿って実施した。

2-2.評価対象研究代表者及び研究課題

2017年度採択研究課題

(1)浅沼 大祐(東京大学 大学院医学系研究科 講師)
次世代バイオイメージングのための分子技術の開発

(2)石井 あゆみ(桐蔭横浜大学 大学院工学研究科 特任講師/科学技術振興機構 さきがけ研究者)
有機‐無機ハイブリッド界面を利用した一光子センシング技術の創出

(3)大山 廣太郎(量子科学技術研究開発機構 量子ビーム科学部門 主任研究員)
光熱変換の積極利用による細胞機能のアクティブ制御

(4)倉持 光(自然科学研究機構 分子科学研究所 准教授)
極限的電子分光法の開発による反応研究の革新

(5)小林 淳(北海道大学 大学院工学研究院 准教授)
光共振器増幅された光格子中での冷却分子の精密分光

(6)相良 剛光(東京工業大学 物質理工学院 准教授)
ロタキサン型メカノプローブの創製とメカノバイオロジーへの応用

(7)三宮 工(東京工業大学 物質理工学院 准教授)
加速電子線を用いた光ホログラフィ

(8)中川 桂一(東京大学 大学院工学系研究科 講師)
光音響高速サイトメトリーの創成

(9)福原 学(東京工業大学 理学院 准教授)
光学出力を増幅できるアロステリック計測 

(10)堀﨑 遼一(東京大学大学院情報理工学系研究科 准教授)
データ駆動型光計測・光制御

(11)南川 丈夫(徳島大学 ポストLEDフォトニクス研究所 准教授)
極限的分子感度・空間分解能・時間分解能を有する分子イメージング法の創出

2-3.事後評価会の実施時期

2020年11月30日(月曜日)事後評価会開催

2-4.評価者

研究総括
植田 憲一 電気通信大学 名誉教授
領域アドバイザー
井上 宏明 元日本オクラロ(株) 執行役員・CTO
神成 文彦 慶應義塾大学 理工学部 教授
竹内 繁樹 京都大学 大学院工学研究科 教授
武田 光夫 電気通信大学 名誉教授
塚田 秀夫 浜松ホトニクス(株)中央研究所 主幹
寺川 進 浜松医科大学 名誉教授
年吉 洋 東京大学 生産技術研究所 教授
波多野 睦子 東京工業大学 工学院 教授
松尾 由賀利 法政大学 理工学部 教授
三澤 弘明 北海道大学 電子科学研究所 特任教授
外部評価者
該当者なし  

※所属および役職は評価時点のものです。

3.総括総評

 どの研究も高く遠い目標を持っており、さきがけ研究期間内には根本問題を解明するための方向性が見つかったり、その端緒に取り付ければよいという感じで採用した課題も多かった。失敗を恐れない挑戦的な研究を行い、見事に目標を達成した研究が多い。さらに途中の試行錯誤の中で生まれた新しい研究を開花させたものもある。中には全く新規な現象を発見し、その原理解明を目指した課題もあった。その一方、それが叶わなかったと自己評価しているものもある。応用面ではデータを蓄積し、さらにデバイス化技術を開発し、さらに実際に生体試料のイメージングまで実現しており、その機構の現実性を確実なものにした。このような場合、既存の科学知識でとりあえずの説明をすることはかえって有害だと判断した。レーザー冷却の分野でも、純粋を追求するという従来の考え方の逆を行って、最初に大量の原子をトラップするところから出発するという独自のアイデアを実現させてみるなど、他人と違うことをやってみる精神を評価して、自由に研究をすることを推奨した。結果はどれも見事に成功したように見える。さきがけ研究では若い  研究者を信じ切ることが大事だということを実証できてうれしく思う。
思えば、多様な研究分野の研究者が互いに刺激し合い、学び会いながら、自分の内部に存在する新しい方向性を見いだしたり、発想を表面化させるという本領域の第1期生、第2期生が形成した領域分野の恩恵をもっともよく受けた第3期生となった。先輩達が形成した領域文化は空気として伝わり、同じ空気を吸っているだけで、浸透していったと感じられる。さきがけ「光極限」の最大の成果は、このような研究文化を持ったグループを形成したことだと考えている。

 それぞれの研究は、本質的な意味での分野、方向性が異なっており、評価の視点も異なっているため、もっとも光っている課題を選ぶのは難しい。その中で、石井あゆみ氏の研究を推薦したい。石井氏は0.5Vという低電圧駆動でありながら、極薄の有機無機ハイブリッド界面で光電流増幅をさせて、従来高電圧印加でなくてはできなかった超高感度光デバイスへの道を開いた。さらにペロブスカイト材料や希土類添加ナノ結晶、有機キラル分子薄膜など、材料を自在に扱う技術を利用して円偏光検出器のような全く新規な光検知器に結びつけた。当初、光検知器の専門家が予想もしなかった方式を提案し、実際に原理実証をした上で、デバイスにまで結びつけた実力は、もっとも光っている研究課題として、文句のないところであろう。