ERATO

国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業
戦略的創造研究推進事業

前田化学反応創成知能プロジェクト

プロジェクトホームページ

Maeda_portrait

研究総括 前田 理
(北海道大学 化学反応創成研究拠点 拠点長/大学院理学研究院 教授)
研究期間:2019年10月~2026年3月
※本プロジェクトは、追加支援期間(ノーコストエクステンション型)の枠組みにより当初研究期間を(1年)延長し、2026年3月までJSTが支援を行うことになりました。
グラント番号:JPMJER1903

 

Iwata_portrait

副研究総括 岩田 覚
(東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授/北海道大学 化学反応創成研究拠点 特任教授)

 

 

 

本プロジェクトでは、世界に先駆けて開発した反応経路自動探索技術(AFIR法)と、組合せ最適化技術を基盤とし、量子化学計算、情報科学、さらにはマテリアルズ・インフォマティクスの技術を統合することで、化学反応における「原子の動きの全貌」を予測し、有用な未知の化学反応を次々に提案する「化学反応創成知能」を創出します。

具体的には、AFIR法を用い、さまざまな反応物や触媒の組み合わせに対して「反応経路ネットワーク」を計算し、得られる反応経路データベースから目的物合成に適した化学反応を迅速に設計・提案するシステムを構築します。このとき、目的生成物の収率が最大となる反応物の組み合わせを導くために、組合せ最適化技術を活用します。また、反応経路ネットワークから反応性を支配する因子を抽出し、分子構造との相関を学習させることで、反応性を言い当てられる機械を創出します。

また、「化学反応創成知能」は実験的には検出できない超微量な副生物の存在まで明らかにできるため、そこから未知の化学反応が発見される期待もあります。さらに、合成ロボットへの「化学反応創成知能」の実装を試み、目的とする物質を生成するのに最適な化学反応を発見するスピードを大幅に加速することを目指します。

 

fig1

 

研究グループ

・運営グループ
・量子化学グループ
・化学情報グループ
・有機合成グループ
・ロボット合成グループ
・最適化グループ
・機械学習グループ

 

研究成果の概要

本ERATOプロジェクトでは、研究総括が開発した反応経路自動探索(AFIR)法を基盤として、化学創成のための新しい方法論の確立に取り組みました。AFIR法に基づく反応経路ネットワーク解析を発展させ、収率を考慮した量子化学的逆合成解析(QCaRA)、速度定数行列縮約(RCMC)法の数理解析に基づく収率微分法、さらにアルゴリズムや機械学習を活用した探索高速化手法を提案しました。
また、反応経路ネットワークのデータベース化を進め、可視化と解析を可能にするSCAN platformを公開しました。これらを組み合わせることで、前例のない反応経路や合成候補の予測と実験的実証を実現しました。さらに、ニューラルネットワークポテンシャル(NNP)を用いた高速探索法(NNP-AFIR法)を開発し、DFT精度を維持したまま計算時間を大幅に短縮しました。
加えて、バーチャル配位子法により遷移金属触媒設計を理論的に支援する触媒探索手法を確立しました。これらの成果により、計算主導の反応設計基盤が大きく進展しました。

 

研究成果

AFIR法に基づく第一原理的反応設計法の開発

本ERATOプロジェクトの初期段階では、AFIR法に基づく反応経路ネットワークの構築と、反応経路ネットワーク上での速度論解析に基づいて、化学反応の予測および実験実証を進めました。反応経路ネットワークに対する速度論解析は通常きわめて大きな計算コストを要しますが、本プロジェクトでは独自手法である速度定数行列縮約(RCMC)法を用いることで、探索により得られる膨大な化合物それぞれを起点とした生成物収率の簡便な計算を実現しています。これにより収率に基づく化合物スクリーニングが可能となり、組合せ爆発の問題を大幅に軽減するとともに、生成物から反応物候補を列挙する量子化学的逆合成解析(QCaRA)を確立しました[1]。
実在する化学反応の生成物を入力とした計算では、ストレッカー反応およびパッセリーニ反応に対応する反応物に加え、多数の新規候補を予測しました。この結果は、QCaRAが新たな反応設計法として有望であることを示しています。さらに、天然物分子に対するカスケード型ペリ環状反応の生成物を入力とする解析も行い、複雑分子合成への応用可能性を示しました[2]。
また、グラフニューラルネットワークやグラフ探索アルゴリズムを用いてSC-AFIR法における原子対選択を最適化することで、結合組換え経路探索の効率を向上できることを示しました[3]。
加えて、反応経路ネットワークのデータベース化を進め、インタラクティブな可視化と解析を可能にするSCAN platformを公開しました[4]。
これらAFIR法に基づく反応設計の技術的枠組みについては、レビュー論文にて総括しました[5]。

 

med-fig1

 

代表論文

  1. Quantum chemical calculations to trace back reaction paths for the prediction of reactants, Y. Sumiya, Y. Harabuchi, Y. Nagata, and S. Maeda, JACS Au, 2, 1181-1188 (2022).
  2. Prediction of high-yielding single-step or cascade pericyclic reactions for the synthesis of complex synthetic targets, T. Mita, H. Takano, H. Hayashi, W. Kanna, Y. Harabuchi, K. N. Houk, and S. Maeda, J. Am. Chem. Soc., 144, 22985-23000 (2022).
  3. Exploring the quantum chemical energy landscape with GNN-guided artificial force, A. Nakao, Y. Harabuchi, S. Maeda, and K. Tsuda, J. Chem. Theory Comput., 19, 713-717 (2023).
  4. Searching chemical action and network (SCAN): Interactive chemical reaction path network platform, M. Kuwahara, Y. Harabuchi, S. Maeda, J. Fujima, K. Takahashi, Digital Discovery, 2, 1104-1111 (2023).
  5. Toward ab initio reaction discovery using the artificial force induced reaction method, S. Maeda, Y. Harabuchi, H. Hayashi, T. Mita, Annu. Rev. Phys. Chem., 74, 287-311 (2023).

AFIR法に基づく第一原理的反応設計法を用いた新反応発見

上述の反応経路ネットワークを用いた化学反応の予測法の有効性を示す成果として、まずQCaRAを用いてα,α-ジフルオログリシン誘導体の合成経路を提案し、有機合成実験によって実証しました[1]。さらに、CF2カルベン種に着目し、AFIR探索を未知反応開発へと応用しました[2]。この研究では、三成分反応を網羅的に探索した結果、窒素含有五員環形成をはじめとする有望な反応経路を理論的に発見し、実験的にも実証しました。加えて、AFIR法により構築した反応経路ネットワークから、目的経路と副経路を識別し、それらの情報をもとに出発原料の分子設計を行うことで、ネットワークを”編集”する形でp-ベンザインに対する四重ホウ素化反応の開発に成功しました[3]。これらの成果は、AFIR法に基づく未知反応経路と収率予測が、未知の合成法の発見へと実際に適用できたことを示しています。
これらAFIR法に基づく反応発見の応用研究については、レビュー論文にて総括しました[4]。

 

med-fig2

 

代表論文

  1. Discovery of a synthesis method for a difluoroglycine derivative based on a path generated by quantum chemical calculations, T. Mita, Y. Harabuchi, and S. Maeda, Chem. Sci., 11, 7569-7577 (2020).
  2. In silico reaction screening with difluorocarbene for N-difluoroalkylative dearomatization of pyridines, H. Hayashi, H. Katsuyama, H. Takano, Y. Harabuchi, S. Maeda, and T. Mita, Nat. Synth., 1, 804-814 (2022).
  3. Tetraborylation of p-benzynes generated by the Masamune-Bergman cyclization through reaction design based on the reaction path network, S. Nakatsuka, S. Akiyama, Y. Harabuchi, S. Maeda, and Y. Nagata, JACS Au, 4, 2578-2584 (2024).
  4. Quantum chemical calculations for reaction prediction in the development of synthetic methodologies, H. Hayashi, S. Maeda, and T. Mita, Chem. Sci., 14, 11601-11616 (2023).

Neural network potential (NNP)技術を用いたAFIR法の加速と汎用性の拡大

本プロジェクトの基盤技術の一つであるAFIR法に基づく反応経路探索では、計算コスト(計算時間)のほとんどが、密度汎関数理論(DFT)によるポテンシャルエネルギー面(PES)およびその勾配計算に費やされます。そのため、DFT計算部分を、精度を落とさずに高速化する技術が求められていました。一方近年、DFT計算の結果を高精度に推定するニューラルネットワークポテンシャル(NNP)技術が活発に研究されております。本研究では、NNP技術をAFIR法と高度に組み合わせることで、計算コストの課題を抜本的に軽減しました。
本研究では、二種類のNNP活用法を検討しました。一つ目は、事前学習された汎用のNNPをそのまま用いるやり方です。本研究では、Matlantis社と連携し、同社が開発を進めているPreferred potential (PFP)を利用しました。PFPとAFIR法を組み合わせることで、900原子からなるPd(111)表面モデル上でのメタン完全酸化の反応経路ネットワークの計算が、ノートPC相当の計算環境で実施可能であることを示しました[1]。得られた反応経路ネットワークは、これまで長年にわたって研究されてきた素過程を包括的に含んでおり、PFPとAFIR法の組み合わせの信頼性が実証されました。この成果は、AFIR法の適用範囲を、これまで適用が難しかった固相触媒の理解と予測へと拡張できることを示しています。
もう一つは、事前データを一切必要とせず、比較的少ない回数のDFT計算を伴いながら探索と学習を繰り返す、自動NNP構築型のやり方です。一般に、高精度なNNPを得るにはDFT計算データを事前準備する必要があります。そこで、精度と計算コストの低い半経験的理論によるPESをベースとし、AFIR法による探索によって反応経路ネットワーク上のスパースな構造データ点を生成、それらデータ点においてDFT計算データを取得し、半経験的理論によるPESとDFT計算の誤差を学習したNNPを生成する、デルタラーニング型のΔNNP/AFIR技術を開発しました[2]。ΔNNP/AFIR技術は事前データを全く必要としないため、上で述べたようなゼロからの化学反応予測との相性が極めて高い技術となっています。また、対象系に応じてデータ量や計算レベル、溶媒効果の有無などを任意に選択できる点もメリットです。60原子系への応用では、DFTと同等の精度を保ちながら約1000倍以上の高速化を実現しました。
ΔNNP/AFIR技術を用いることで、228原子からなるIDPi有機酸触媒を用いた分子内ヒドロアルコキシル化反応では、実験的な収率・選択性を再現し、反応機構の詳細を明らかにしました[3]。触媒的ポリマー合成反応への適用では、触媒と少数のモノマーからなる系において構築したΔNNPを用いて、長鎖ポリマー生成の外挿領域まで高精度にシミュレーションできることを示しました[4]。
さらに、ΔNNP/AFIR技術を活用し、ハイドロゲル内部で生じたラジカル種の挙動をシミュレーションすることで、光・熱安定性と高いラジカル生成効率を両立する分子骨格(nodeモチーフ)を予測することに成功しました。実験グループと連携し、予測された分子骨格を含むダブルネットワークハイドロゲル(DNゲル)を合成したところ、当該DNゲル材料が高い自己強化特性と光・熱安定性を両立することが分かりました[5]。本成果は、反応経路ネットワークに基づく設計戦略を、材料科学へと大きく拡張する重要な一歩となりました。

 

med-fig3

 

代表論文

  1. Systematic and unbiased pathway exploration by artificial force application to a generic neural network potential, T. Ichino, H. Nabata, K. Matsumoto, T. Hasegawa, and S. Maeda, ChemRxiv, 10.26434/chemrxiv-2024-9h20v.
  2. An accurate and efficient reaction path search with iteratively trained neural network potential: Answering the Passerini mechanism controversy, R. Staub, Y. Harabuchi, C. Seraphim, A. Varnek, and S. Maeda, J. Chem. Theory Comput., 22, 422-440 (2026).
  3. Predicting enantioselectivity via kinetic simulations on gigantic reaction path networks, Y. Harabuchi, R. Staub, M. Gao, N. Tsuji, B. List, A. Varnek, and S. Maeda, ACS Cent. Sci., in press.
  4. Towards reaction vessel mimicry: Machine learning assisted automated exploration of alkene and alkyne polymerization, S. Ghorai, R. Staub, Y. Harabuchi, T. Nakano, A. Varnek, and S. Maeda, J. Chem. Theory Comput., in press.
  5. Node facilitated thermostable mechanophores for rapid self-strengthening in double network materials, J. Jiang, Z. J. Wang, R. Staub, Y. Harabuchi, A. Varnek, J. P. Gong, and S. Maeda, Chem. Sci., 16, 14278-14285 (2025).

バーチャル配位子法を基盤とする第一原理的遷移金属触媒設計

本ERATOでは、第一原理的な触媒設計を実現するために、遷移金属触媒の部分構造を数学的なモデルで近似するバーチャル配位子法の開発と応用を行いました。バーチャル配位子法は、計算コストを大幅に削減できるだけでなく、合理的な触媒設計を行う上で非常に有用です。実際の分子が離散的な存在であるのに対し、バーチャル配位子は電子効果と立体効果を連続的に変化させることが可能です。そのため、既存の連続最適化法を用いて目的の反応が最も有利になるようにパラメータを最適化することで、反応に最適な触媒の特徴を絞り込むことができます。

med-fig4

 

まず、バーチャル配位子のパラメータを格子点探索により最適化するバーチャル配位子アシストスクリーニング(VLAS)法[1,2]と、勾配法により最適化するバーチャル配位子アシスト最適化(VLAO)法[3]を開発しました。下図に示すように、VLAS法では触媒性能を表す等高線を可視化でき、VLAO法では目的反応に理想的なパラメータを効率的に得ることができます。さらに、これらの手法で得られた最適パラメータを基に実際に有用な触媒を設計し、実験的に実証することで、本手法が第一原理的な触媒設計に極めて有用であることを示しました。

med-fig5

 

また、最適パラメータから実際の最適触媒をデザインするアルゴリズムに関する研究も行いました。この手法では、バーチャル配位子と実在配位子を同一の記述子空間に射影し、距離に基づいて類似度を評価します。その理論に基づき、VLAO法で最適化されたパラメータに最も類似した実分子をデータベースから瞬時に抽出できるようになりました。この成果により、バーチャル配位子法が定性的指針にとどまらず、定量的な触媒設計手法としても有用であることを示しました[4]。

med-fig6

 

さらに、最先端の有機合成化学への応用として、励起パラジウム種の反応性を制御する配位子の開発を行いました[5]。励起パラジウム種から生成するケチルラジカルが逆電子移動(BET)で原料に戻る経路と、オレフィンと反応して生成物を与える経路を計算で解析し、その起こりやすさと配位子の電子的・立体的特徴との関係をVLAS法で調査しました。その結果、電子豊富で立体効果の小さい配位子が目的経路を促進することが示唆され、対応する配位子を用いた実験で高収率を達成しました。本成果は、本手法が最先端の触媒設計において有効であることを示しています。さらに今後、AFIR法やRCMC法と高度に融合させることにより、未知の触媒反応創出へと展開していきます。

med-fig7

 

 

代表論文

  1. Virtual ligand-assisted screening strategy to discover enabling ligands for transition metal catalysis, W. Matsuoka, Y. Harabuchi, and S. Maeda, ACS Catal., 12, 3752-3766 (2022).
  2. Highly chemoselective ligands for suzuki-miyaura cross-coupling reaction based on virtual ligand-assisted screening, W. Matsuoka, Y. Harabuchi, Y. Nagata, and S. Maeda, Org. Biomol. Chem., 21, 3132-3142, (2023).
  3. Virtual ligand-assisted optimization: A rational strategy for ligand engineering, W. Matsuoka, T. Oki, R. Yamada, T. Yokoyama, S. Suda, C. M. Saunders, B. B. Skjelstad, Y. Harabuchi, N. Fey, S. Iwata, and S. Maeda, ACS Catal., 14, 16297-16312 (2024).
  4. Mathematical framework to identify optimal molecule based on virtual ligand strategy, W. Matsuoka, K. Hirose, R. Yamada, T. Oki, S. Iwata, and S. Maeda, J. Chem. Inf. Model., 65, 6913-6926 (2025).
  5. Virtual ligand-assisted screening for the generation of ketyl radicals from alkyl ketones via photoexcited palladium catalysis, K. Tanaka, III, R. Yamada, S. Debbarma, W. Kanna, H. Hayashi, W. Matsuoka, S. Maeda, and T. Mita, J. Am. Chem. Soc., 147, 39640-39651, (2025).
トップに戻る