- JST トップ
- /
- 戦略的創造研究推進事業
- /
- ERATO
- /
- 研究領域の紹介/
- 終了領域/
- 彌田超集積材料プロジェクト
研究総括 彌田(いよだ) 智一
(東京工業大学 科学技術創成研究院 教授)
研究期間:2010年10月~2016年3月
特別重点期間:2016年4月~2017年3月
グラント番号:JPMJER1001
新材料の発見・創製は、科学技術や産業上、極めて重要で、今日までに金属、セラミックス、プラスチック、半導体などさまざまな性質の新材料が開発されてきました。これまでの新材料の創製は、主に新しい性質が偶発的に発見された物質の周辺の探索・最適化で行われており、合理的な新機能の設計や新材料の探索は容易ではありませんでした。一方、ハイブリッド材料は成分の組み合わせだけでも無限の可能性があるものの、個々の構成成分の性質を併せ持つ程度の複合機能に留まっていました。
本プロジェクトは、ナノテンプレート(ナノスケールの鋳型)を利用することで、各構成成分の精密な配置・配列を実現し、各成分同士の相互作用を精密に制御することで、単なる成分の足し合わせ以上の性質をもつ材料(超集積材料)の創出を目指します。ここで用いるナノテンプレートは人工的なものだけでなく、微生物がもつような複雑な構造も利用し、より高度な相互作用の制御を目指します。さらに、分子配線技術をナノテンプレートを利用して開発し、分子で回路を作ることで、その回路自体が1つの新材料であるという概念も提唱します。このような新材料創出の新しい方法論を確立することで、合理的に新材料を探索することが可能となり、材料探索への大きなブレークスルーが期待されます。
ナノ・マイクロスケールでの異種物質の混合は、各成分間の相互作用によって、単なる足し合わせを超えた新しい性質が期待されます。しかしながら、従来の混合物やハイブリッド材料では、各成分のドメインサイズ、構造周期、配置、配列に広い分布があるため、様々な微視的混合状態の性質が重なってしまい、潜在する特異な性質を引き出せませんでした。彌田超集積材料プロジェクトでは、構成材料のサイズ、かたち、配置、配列を規定した均質な混合状態を実現する強力な材料化学プロセスを提示し、工学的に利用できる革新的材料の開発を目的として研究を推進しました。その結果、要素技術の統合により分子デバイスを実現する分子回路工学と、3次元ナノ・マイクロ構造の量産プロセスであるバイオテンプレート法の2つの方法論を提示するに至り、既存の材料であっても、プロセス技術を鍵とする混合パラメーターの精密制御によって、各成分の相互作用が強く顕在化した人工物質(超集積材料)が構築可能であることを示しました。
分子回路工学:異種材料の集積化プロセス
分子素子の提案以来、分子スイッチ、分子メモリーなど機能を冠した分子設計が広く行われ、超分子化学による強力な機能集積の結果、膨大な「分子素子」資源が蓄積されています。しかしながら、これらの分子が実際に電極と接合した分子回路の対象になることは少なく、最近、ようやく機械的破断接合(MCBJ)を基本とした単一分子計測への応用が始まったばかりです。しかしながら、多数回測定と統計処理に立脚するMCBJによる分子回路構築の方法論は、最小要素の分子/電極接合を組み合わせた集積回路や、分子センシングや分子機能を外部に読み出すインターフェースとしての工学的利用が望めません。そこで我々は「分子で回路を創る」という化学者のモチベーションに立ち返り、分子-電極接合ユニットを高密度集積化した「分子グリッド配線」を構想し、そのプロトタイプを開発しました。分子グリッド配線は、①超高密度金ナノアレイ電極基板、②六方格子グリッド配線の伝導経路解析、③重合配線可能なπ共役系高分子ワイヤ、④表面増強ラマン散乱による重合配線計測の4つの要素技術を統合して作製しました。この配線は、六方格子状に配置したナノ金属電極間をπ共役系高分子で配線したネットワーク構造を有する分子回路であり、前述したMCBJによる「一対のナノギャップ電極を用いた夥しい数の電気伝導測定と統計処理」を、工学的に展開可能な「夥しい数のナノギャップ電極をもつ分子ネットワーク配線基板による電気伝導特性の一括評価」に置き換え、配線分子鎖の電気伝導度を再現性良くマクロに計測するインターフェースとなります(Scheme 1)。本成果は、分子デバイスが提唱されて以来、長年ボトルネックとなってきた分子と電極の高信頼性配線について新しい方法論を提示したものであり、分子伝導特性を再現性良く評価する統合システムの提供は、分子エレクトロニクスと分子センシングインターフェースに大きなブレイクスルーをもたらすと期待できます。
分子グリッド配線
バイオテンプレート法:かたちの転写プロセス
従来の人工ナノ構造作製法では困難な3次元ナノ・マイクロ構造の量産プロセスをめざし、多様な藻類などの微生物やタンパク質を転写複合化するバイオテンプレート技術の実証と機能探索を行いました。生物が生産するエネルギー物質を利用するバイオマス、生物の構造と機能を人工物で模倣するバイオミメティクスと異なり、バイオテンプレート構想は、生物微細構造の転写による形状特異的な機能を特徴とする先端材料を創製することにあります。
生物のもつ構造を利用し微細な構造を作製した成果のひとつに、(1)らせん藻類による金属マイクロコイルの作製が挙げられます。これは、らせん形状を持つ藻類のスピルリナをテンプレートとして無電解めっき法を駆使し、スピルリナのらせん構造を活かしたマイクロコイルを作製するプロセスですが、細胞との親和性の最適化など様々な技術的工夫により達成されたものです。また、スピルリナのように全体構造ではなく、微生物の内部構造を利用した構造特異機能材料として、(2)珪藻をテンプレートとした金属ナノホールアレイチップを開発しました。光領域の電磁波との相互作用(プラズモン共鳴特性)を示す新しい分散材料としての展開が期待できます。
上記のミクロンレベルからナノメートルレベルへバイオテンプレートのダウンサイジングを試みた結果、タンパク質からの(3)セラミック構造体作製や(4)タンパク凝縮構造を制御する技術開発に成功しました。タンパク凝縮構造制御では、ある種の界面活性剤をタンパク質と混合すると、水層から相分離し、高濃度のタンパク質含有物(タンパク質凝縮体)を取り出すことができるプロセスを見出し、凝縮メカニズム、制御因子など基礎的な検証も行いました。この結果は「上手く混ぜる」プロセスとして、タンパク質の保存、試薬や医薬品開発等へ発展すると期待されます。
共同展開研究
東工大協働実施方式の本プロジェクトでは、研究総括の本務である東工大資源化学研究所集積分子工学部門(2016年4月改組により科学技術創成研究院の彌田超集積材料ユニットと化学生命科学研究所長井研究室)との共同研究も推進しました。プロジェクト中期より進めた「簡便な三次元ブロックコポリマーパターン作製手法開発」の成果と、2014年に彌田研究室に参画した日比裕理研究員(学振SPD)の「高分子の高次構造制御による機能集積型ナノ反応場の創出」提案と検討結果を踏まえ、Roll-to-roll製膜を前提にした垂直貫通輸送チャンネルの階層化、空孔化、内壁修飾が可能な機能集積スマートメンブレンを開発しました。本手法は、リソグラフィによるトップダウン的テンプレートを基板に予め作りこむ必要がなく、また重ね塗りも不要なため、任意の基板上に三次元異方的ナノ構造を簡便に構築可能です。垂直貫通輸送チャンネル構造の変調技術を最大現に活用できる展開として、透水膜が挙げられます。そのため、入手可能な各種多孔性支持膜への塗工・搭載プロセスの開発を行い、プロトタイプとして単層膜による有為な透水特性を確認しました。以上の成果は、工学的に使えるプロセス技術を踏まえた輸送チャンネルの可視化と合理的設計を実証するものであり、未開拓のナノ流体科学や次世代の膜工学に資するものと期待できます。
また、レーザー誘起量子線発生の効率化の鍵を握る長井准教授の低密度ターゲット構想と成果をベースとして、小型高輝度レーザーを導入し、sub-10 nm解像度の極端紫外光(EUV、波長13.5 nm)リソグラフィ技術の開発環境に資する「小型EUV線源および低密度ターゲット」研究を共同展開しました。本プロジェクトが開発した種々のナノ規則構造をEUV発生ターゲットとして利用し、その発光特性(回折増強など)について検討しています。