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- 平山核スピンエレクトロニクスプロジェクト
研究総括 平山 祥郎
(東北大学 大学院理学研究科 教授)
研究期間:2007年~2012年
電荷の自由度に加えて、スピンの自由度を応用するスピントロニクスが大きな発展を遂げています。このERATOプロジェクトでは、さらにその先にある半導体を構成している核スピンを積極的に利用することを考え、核スピンを利用した量子情報処理や高感度計測に繋がる新しい科学分野の開拓に挑戦しました。ナノテクノロジーの進展で重要性を増している半導体低次元構造への応用を考え、これらの構造で核スピン偏極度が測定できる高感度抵抗検出NMRと様々な核スピン偏極手法を組み合わせることで、GaAsを中心にした半導体量子構造での核スピン偏極、制御手法を確立しました。さらに、高感度NMRを利用して低次元電子系の電子スピン状態を明らかにするとともに、電子スピン系・核スピン系の多体相互作用の可能性を示しました。また、ナノプローブを利用した核スピン制御に向けて、ナノプローブによる量子ホール状態の測定、交流電界印加による核スピン制御の研究を推進し、半導体における核磁気共鳴イメージング(MRI)につなげました。さらに、GaAs系以外の半導体量子構造に技術を応用して、I=9/2のIn核の高感度NMRを、InSb系量子構造を用いることで実現しました。
核ピン操作グループではGaAs量子構造における核スピン偏極とその制御の研究を進めた。偏極手法としては電流による動的核スピン偏極に加えて光による偏極を研究し、図1に示したように光吸収で形成される電子スピンに対応した核スピン偏極が生じることを示すとともに[1]、光による核スピン偏極の充填率依存性を明らかにした。また、コヒーレントな核スピン操作に重要な連続パルス照射について、理論的、実験的な検討を行い、十分な数のパルス照射後の信号の減衰は、パルス間隔の逆数に対応する周波数の雑音強度と関連することを示した[2]。さらに、細線構造における電子スピンの振舞いを核スピン緩和時間測定から評価し[3]、電子スピン系と核スピン系に強い相互作用が存在する条件があることを実験的に確認し[4]、量子構造における核スピンの拡散も明確にした。これらに加えて、量子構造の基礎研究を進め、核スピン操作に重要な積層量子ポイントコンタクト構造を実現し、谷分離、スピン分離が二次元系に及ぼす影響に関しても重要な成果を得た[5]。なお、核スピン偏極、制御に関しては世界をリードしており、Yoshiro Hirayama “Hyperfine Interactions in Quantum Hall Regime”, Quantum Hall Effects (Third Edition, 2013) by Zyun F. Ezawa (World Scientific) Chapter 38など、レビュー論文や著書を3件執筆した。
極低温強磁場中で動作するナノプローブを使用して、二次元量子ホール状態の実空間観察[1]、さらにはランダウ準位を反映した状態密度の空間分布[2]を測定した。また、核スピンの局所的な制御に適した交流電界による核スピン制御について、ドメインの振[3]、電界と四重極分離の相互作用[4]の二つのメカニズムの可能性を実験的に示し、さらに、ナノプローブを用いた核スピン信号の二次元マッピングに成功した。なお、図3はプロジェクトで開発した100mKで動作するナノプローブ装置の試料ホルダー部を示している。
GaAs系量子構造以外での核スピンの偏極、高感度検出を目指して、InSb系に着目して研究を進めた。InSb二次元系ではg因子が非常に大きくなることを使い、傾斜磁場下の充填率2の状態で異なるスピン状態のランダウ準位が交差することを確認し、この縮退状態を利用することで図4に示したようなIn核の高感度抵抗検出NMRに成功した[1]。InはI=9/2であり、これを反映して図4では9本のラインがNMRスペクトルに観測されている。InSb系の特徴を反映して高感度NMRは4K以上まで観測された[2]。さらに原子層堆積絶縁膜を利用することでInSb系でも良好なゲート操作が可能になることを示し[3,4]、得られた成果を利用してポンプ・プローブNMR実験を実現した。