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炎症の起こる理由(メカニズム)

Danger Signal(危険信号)に体が反応して炎症が始まる

 炎症は、異物や死んでしまった自分の細胞を排除して生体の恒常性を維持しようという反応と考えられます。例えば細菌やウイルス(一種の異物です)が体の中に侵入しようとした時に、さまざまな細胞などの生体内成分がその排除に働いた結果が炎症性反応です。それらの反応の中には、予め体の中に用意されている直ちに働く成分による反応と、やや時間をかけて一旦その異物の構成成分を解析してから強力に攻撃する時に後から作られる成分による反応があります。
 前者の反応が開始するのに重要な成分として、ヒトには存在しない細菌やウイルスの構成成分を認識するセンサーが、あらかじめ体の中に存在することが、最近になって分かってきました。
 そのセンサ-が感知する細菌やウイルスの構成成分による刺激のことをDanger Signalと呼んでいます。細菌やウイルスが体の中に侵入すると、そのセンサーが感知し防御反応が始まるのです。
 なお、細菌やウイルスの構成成分のことをPAMPs(pathogen-associated molecular patterns; 病原体関連分子パターン)、またPAMPsを認識するセンサーのことをPRRs (pattern-recognition receptors:パターン認識受容体)と総称しています。
 後者の、やや時間をかけて起こる反応は、いわゆる免疫反応(獲得免疫反応)です。この反応で異物を排除する成分としては、抗体(特に抗原特異性が高い効率的に攻撃できるタイプの抗体)などが良く知られています。なお、この獲得免疫反応は、しばしば炎症と分けて説明されることが多いかと思いますが、病気と関係する獲得免疫反応は、炎症反応の一種と考えると理解しやすいと思います。

体の中にもあったDanger Signalとなる成分

 細菌やウイルスの構成成分をDanger Signalとして感知するPRRsに関する研究が盛んに行われた結果、ごく最近になってそれらのPRRsがもともと私たちの体の中にある成分にも反応することが明らかになってきました。
 例えば、通常は細胞の中に留まっているある種の成分が、細胞が死んで細胞外に出ると、それを体内のセンサーがDanger Signalとして感知し、炎症反応を引き起こすことが分かってきました。このような炎症については、細菌やウイルスの成分が引き起こすこれまで知られていた感染性の「炎症」と区別して、非感染性の「自然炎症」と呼ぶことがあります。
 そのような炎症を引き起こす体の中にある成分をDAMPs(damage-associated molecular patterns; ダメージ(傷害)関連分子パターン)と総称しています。
 このように、体の中の成分も炎症を引き起こすのであれば、いつでも体の中で炎症が起きてしまうことになりますが、、通常はそのようなことにはなりません。しかし、種々の非感染性の慢性炎症を伴う病気では、その「自然炎症」が病気の重要な原因となっていることが予測されます。しかしながら、それらの病気と「自然炎症」との関連性については、まだ十分には明らかとなってはいません。
 以上の自然免疫系の反応を下の図に示します。

(A) 感染症のときの自然免疫系の反応

細菌やウイルスからは、PAMPsが放出され、免疫系細胞のTLRなどのPRRsに結合して、自然免疫応答を刺激し、炎症や獲得免疫系の活性化が起こり、最終的に感染症から回復して組織が修復されます。

(B) 非感染症の場合の自然免疫系の反応

細胞がストレスにさらされたり、傷害された時にも、感染した時と同じようなイベントが起こります。そのような細胞からは健常であれば細胞内に隠れていた分子(DAMPs)が放出されます。それらDAMPsは免疫細胞のPRRsや特別なDAMPs受容体に結合して、炎症性サイトカインの放出を促進したり、組織へ免疫系細胞を遊走させて、炎症を起こします(自然炎症)。その過程に関与する免疫系細胞も、樹状細胞(DC)やマクロファージ(MΦ)のような抗原提示細胞、T細胞(T)や好中球(PMN)など感染時とほぼ同様です。DAMPsは獲得免疫系も刺激し、自己免疫反応や組織修復にも関与します。

PAMPs ( pathogen-associated molecular patterns; 病原体関連分子パターン), DAMPs ( damage-associated molecular patterns; ダメージ(傷害)関連分子パターン), PRRs ( pattern-recognition receptors: パターン認識受容体), TLR ( Toll-like receptor; Toll様受容体)

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