社会科学の考え方
人間・知識・社会
水田洋
講談社現代新書 1975年
著者は、アダム・スミス研究者として知られる社会思想史家である。1975年に出版された本書では、経済社会の発展過程を追いながら、個人と社会の相互作用、社会体制のダイナミズムといった視点から、知識や知識人(職業的知識生産者)の役割が論じられる。学問の社会的意義が厳しく問われた時代に著された本書に、科学者に対する明快な処方箋はない。しかし、著者の基本的視座は明快である。環境との相互作用の中で個人の実感が抽象化と具体化を繰り返すことで生み出され蓄積される科学の過程は、個人が主体的意志をもって社会という全体をつくり、また変えてゆく媒体となる。科学の役割を考えることは、私たちの社会を考えることでもある。
(清水万由子:総合地球環境学研究所研究推進戦略センター 特任助教)